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<概要>
 高速増殖原型炉発電所「もんじゅ」をわが国に初めて建設するに当り、当時既に原子力安全委員会によって決められていた「新型転換炉実証炉の安全性の評価の考え方」に準じて、「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」を昭和55年11月6日に「もんじゅ」の安全審査に先立って策定した。高速増殖炉は、高速中性子の利用、プルトニウム富化度の高い混合酸化物燃料の使用、液体金属ナトリウム冷却材の使用等により、軽水炉とはまったく異なる原子炉特性を持っている。したがって、高速実験炉「常陽」の運転経験を十分に反映するとともに、国際協力を通して海外炉の知見を取り入れ、また、安全設計思想に基づきながら高速炉の特徴を踏まえて、安全性の評価の考え方が定められている。
<更新年月>
2010年03月   

<本文>
 現在、原子力発電所の安全性の評価の考え方としては、わが国の原子力発電の主流をなしている軽水炉発電所に対して国が定めたものがある。新型転換炉「ふげん」を建設する時には、軽水炉(BWR)と同じ沸騰軽水冷却型原子炉なので、これを参考にして原子力安全委員会は昭和63年6月6日に「新型転換炉実証炉の安全性の考え方」を定めた。
 標題の「高速増殖炉の安全性の考え方」は、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の建設に当たり、昭和52年4月24日に臨界となったわが国初の高速増殖実験炉の「常陽」の経験と世界各国の高速増殖炉特有の技術的課題を斟酌して、昭和55年11月6日に原子力安全委員会によって決定されたものである。その後、平成元年、2年、12年、13年に一部改訂が行われてきた。
 高速増殖炉は開発段階の原子炉であり、冷却材、燃料形態等に各種の候補概念があるが、この安全性評価の考え方では「もんじゅ」を始め、これまで世界的に開発の主流となってきた液体金属ナトリウム冷却炉を対象としている。液体金属ナトリウム冷却炉は軽水炉と違って以下のような特徴を有しており、安全性を確保するためにはこれらを勘案した十分な検討が必要である。
(1)原子炉冷却系は低圧、高温の使用条件で設計されている。ナトリウムの沸点は常圧で883℃、運転温度は500数十度以上である。
(2)燃料はプルトニウム−ウラン混合酸化物(プルトニウム富化度は高く約20数%)を使用する。高速中性子による核分裂が主体で増殖が可能であり、出力密度および燃焼度が高い。
(3)原子炉冷却材にナトリウムを使用しているために、冷却系には1次系と2次系(ともにナトリウム)の熱交換を行う中間熱交換器が設けられており、燃料交換も遠隔操作で行われるなど軽水炉プラントとは違った特徴を有している。
 したがって、安全性評価に当たっては、これらの特徴を十分踏まえて原子炉施設の安全を期さねばならない。このためには、「常陽」の運転経験や動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)の大洗工学センターで実施された広範囲の研究開発成果を反映させ、国際協力によって得られた海外高速炉の経験や情報を的確に取り入れる事が重要である。
 また、既存の各種安全審査基準や指針類を適用または準用して、厳しい審査と品質管理に基づいた原子炉機器設備を設計製作し、管理しなければならない。
 高速増殖炉の安全設計については、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」、「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」及び「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について」を参考とし、高速増殖炉特有の設計上の特徴について十分検討を行い、系統機器設備の故障の発生を極力小さくするとともに、万一の事故の発生に際して、その拡大を防止し放射性物質の放出を抑制することに十分な配慮が必要である。
 高速増殖炉は冒頭に述べた高速中性子の利用、プルトニウム酸化物燃料の使用、液体金属ナトリウム冷却という特徴から、炉心のボイド反応度係数は大型炉心では中心で正となり得る。燃料要素は燃焼度が高く、高速中性子なのでクリープ効果及びスエリング効果による燃料・材料の損傷が軽水炉に較べて大きい。ナトリウムは化学的に活性で、材料との共存性、凝固、不透明性など冷却系設計上考慮すべき点が多い。この他、設計上留意すべき点には原子炉停止系、冷却材バウンダリ、崩壊熱の除去、高温構造設計、耐震性設計などがある。
 特に、以下の「運転時の異常な過度変化」、及び「事故事象」についての安全性評価の判断基準は重要である。
(1)運転時の異常な過度変化
 想定した過度変化において、過渡現象が炉心が損傷する前に収束し、通常運転に復帰できる状態が維持されねばならない。このことを判断する基準は、燃料被覆管は機械的に破損しない、冷却材は沸騰しない、燃料最高温度が燃料溶融温度を下回ることである。
(2)事故
 想定事故事象による外乱が原子力施設に加わっても、炉心溶融のないこと、敷地周辺への核分裂性生成物の拡散を防止する障壁の設計が妥当であることの確認が必要である。このことを判断する基準は、炉心に大きな損傷が発生せず十分に冷却可能なこと、格納容器の漏洩率の設計値以下の維持、周辺公衆に対して著しい放射線被ばくのリスクを与えないことである。
 この他、解析に当っての核的因子、熱流力的因子、機械的因子、化学的因子の内容について考慮すべき事項が述べられている。
 さらに、平成7年12月に発生した高速増殖炉もんじゅにおける2次冷却材漏えい事故の経験を踏まえ、安全性の評価において考慮すべき化学的因子として、空気雰囲気下でナトリウムが漏洩した場合には、鉄、ナトリウム及び酸素が関与する界面反応による鋼材の腐食についても十分考慮し、漏えいナトリウムによる影響を緩和する対策が適切に講じられている設計となっていることを確認することが重要であるとの解説が付加された。
(前回更新:1996年3月)
<関連タイトル>
高速増殖炉の安全設計の考え方 (03-01-03-01)
高速増殖炉想定事故の安全評価 (03-01-03-07)
原子力安全委員会の安全規制に関する活動(2001年) (11-01-01-02)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局安全調査室(監修):改定8版 原子力安全委員会  安全審査指針集、大成(1994)
(2)原子力安全委員会:高速増殖炉の安全性の評価の考え方(昭和55年11月6日原子力安全委員会決定)
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