<本文>
高速増殖炉は安全を確保するために、
(1)故障の発生を防止する
(2)故障が発生しても事故への拡大を防止する
(3)万一事故が発生しても事故の影響を緩和する
という3段構えのいわゆる
深層防護(Defence in Depth)という考え方で設計されていることは他の
原子炉と同じである。しかし、万一異常や事故が起きたらどんな結果になり、周辺公衆にどんな影響を与えることになるだろうか。
安全評価は、安全装置などの設計が適切で、万一の事故時にも安全が確保されることを確認するための評価(安全解析または狭義の安全評価)と、立地条件が適切であることを確認するための評価(立地評価)とに分けて行われる。その制度上の審査指針の体系は、高速増殖炉の場合、昭和55年原子力安全委員会で決定された「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」を中心にして、既存の各種の
安全審査指針を適用あるいは参考として
図1 のように構成されている。
図2 に安全評価の考え方を示す。
「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」は、高速増殖原型炉「もんじゅ」の
安全審査に適用されるとともに、今後の高速増殖炉の安全審査指針等の策定に資することとされている。この「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」では高速増殖炉の特徴のうち次の3点を踏まえて評価すべきとしている。
(1)原子炉冷却系は低圧高温の使用条件で設計されているが、
冷却材ナトリウムの沸点が高いので、冷却材の最高使用温度が沸騰温度より十分低い。
(2)燃料に
ウラン・プルトニウム混合酸化物を用い、
高速中性子による反応が主である増殖可能な炉心であり、出力密度や
燃焼度が高い。
(3)プラントは原子炉冷却系と蒸気系の間に中間冷却系を有し、またナトリウム液面上にはカバーガス系を有している。
また、評価に用いるデータや解析方法には適切な余裕を持たせるとともに、次の2点の実績と経験を十分に考慮することとしている。
(1)高速実験炉「常陽」の建設・運転を通じて得られている経験、データ、解析手法の使用経験など。
(2)わが国の自主技術によるプロジェクトとして、国際協力も含めて進められてきた広範な関連研究開発で培われたデータ、解析手法の使用経験など。
高速増殖炉の安全評価に当たっては、軽水炉の安全評価指針を参考とし、これに高速増殖炉の特徴を加えて評価を行う。安全評価の対象とする事象については、
設計基準事象として次の事象を規定している。
(1)運転時の異常な過渡変化
(2)事故
加えて、高速増殖炉の運転実績が僅少であることに鑑み、「事故」より更に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される以下の事象について評価を行う。
(3)技術的には起こるとは考えられない事象
「もんじゅ」の場合の具体的な事象を
図3 に示す。これらの事象に対して、定められた判断基準に従い、安全評価を行う。
(1)は、プラント寿命中に予想される機器の故障などによって発生し得る事象であり、そのような事象が起きても、燃料が破損したり外部に
放射性物質が放出されず、故障箇所の修復後に原子炉が再起動できる状態に維持されなければならないという基本的な考え方のもとに、たとえば冷却材温度は沸騰温度以下であること、あるいは原子炉冷却材バウンダリの温度は600℃以下であること、などの具体的判断基準を設けている。
(2)は、発生頻度は小さいが、発生した場合には施設からの放射能の放出の可能性があり、施設の安全性を評価する観点から想定する事象である。このような事象に対しては、炉心は重大な損傷を受けず、また
放射線による敷地周辺への影響が大きくならないという考え方のもとに、例えば炉心は大きな損傷に到ることなくかつ十分な冷却が可能であること、
格納容器バウンダリの温度と圧力はそれぞれ150℃、0.5kg/cm2G以下であることなどの具体的判断基準を設けている。
図4 および
図5 に、1次冷却材漏洩事故の場合を例にとり、事故発生後の1次冷却材温度変化と、炉心部温度変化をそれぞれ示す。
図4の解析結果から原子炉容器の出口ナトリウムは、ほとんど上昇しないことが分かる。また
図5の結果より事故後ナトリウム最高温度は沸点に達せず燃料と被覆管の中心温度から、破損限界温度以下で十分余裕のあることが分かる。
(3)は、前述のとおり事故より更に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象であり、その起因となる事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において十分に評価を行い、放射性物質の放出が適切に抑制されることを確認することとしている。(3)の事象のひとつである反応度制御機能喪失事象の代表的な例として、電源喪失時に原子炉停止系不作動(主、後備2系統とも)を仮定した場合が挙げられる。この場合、炉心の反応度係数等を保守的な値を採用して評価すると、その解析の経過では炉心の破損溶融・核的逸走が生じる。そこで、これを
仮想的炉心崩壊事故(HCDA)ということもある。この場合でも、後述する仮想事故で求められた線量がめやす線量の範囲内におさまっていることを確認している。
立地評価では重大事故と仮想事故を想定し評価している(
図6参照)。重大事故としては
図3の事故の中から放射性物質の放出の拡大の可能性のある事故を選定する。「もんじゅ」の場合には、1次冷却材漏えい事故と1次アルゴンガス漏えい事故につき、より保守的な条件を設定して、非居住区域(通常は敷地)の外で被ばく線量がめやす線量より十分小さいことを確認している。
仮想事故は、重大事故を超えるような、技術的見地からは起こるとは考えられない事故である。「もんじゅ」の場合には、とくに事故の原因や経過を問わずに、炉心に内蔵されている
核分裂生成物の一部が格納容器床上に放出されると仮想し、評価の結果、非居住区域の外の被ばく線量も、敷地外のある広範な地域での人口と線量の積算値もめやす線量を十分に下まわっていることを確認している。
<図/表>
<関連タイトル>
高速増殖炉の安全設計の考え方 (03-01-03-01)
高速増殖炉の工学的安全防護システム (03-01-03-03)
ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム) (03-01-03-04)
ナトリウムの安全性(蒸気発生器および2次系ナトリウム) (03-01-03-05)
高速増殖炉の安全対策 (03-01-03-06)
<参考文献>
(1)科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版)、日本原子力文化振興財団 (1990年3月)
(2)青木成文、能沢正雄監修:高速増殖炉(FBR)開発実用化データ集、(株)NIC(1984)
(3)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1994年10月)
(4)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉もんじゅ発電所設置許可書(昭和55年12月)