<本文>
1.原子力安全委員会の主な任務等
原子力安全委員会の任務は、「
原子力基本法」と「原子力委員会及び原子力安全委員会設置法」に基づき、次の事項に関し、企画、審議及び決定することである。
○原子力利用に関する政策のうち、安全の確保のための規制に関する政策
○核燃料物質及び
原子炉に関する規制のうち、安全の確保のための規制
○原子力利用に伴う障害防止の基本
○放射性降下物による障害の防止に関する対策の基本
〇原子力利用に関する重要事項のうち、安全の確保のための規制
原子力安全委員会では、上記の任務を遂行するため本会議を原則週2回開催しているほか、専門部会等を含めた会議開催回数は年間300回を超える活動を行っている。原子力の「推進機能」と「規制機能」の分離及び責任の明確化、原子力の安全性に係る規制の統一的評価、ダブルチェックなどは、このような原子力安全委員会の任務に基づくものである。
日本の原子力安全規制は、
原子力施設の設置段階においては、規制当局である文部科学省、経済産業省などの行政庁が
安全審査(1次審査)を行い、原子力安全委員会がその妥当性を審査(2次審査)するというダブルチェック体制になっている。原子力安全委員会は、原子力安全行政の「かなめ」として規制機関としての行政庁から独立した委員会である(5名の委員は国会の同意を得て内閣総理大臣が任命)。原子力安全委員会が所掌事務について必要があると認めるときは、内閣総理大臣を通じて関係行政機関の長に勧告することができるなど極めて強い権限を持っている。
原子力安全委員会の組織を
図1に示す。
2.「原子力安全委員会の当面の施策の基本方針」の実施状況
ウラン加工工場
臨界事故調査委員会報告(平成11年12月24日)において、多くの厳しい指摘と問題提起とともに、多くの提言がなされた。原子力安全委員会では、これら提言等に基づき平成12年(2000年)1月17日に、安全確保体制、安全目標、事故・緊急時対応や情報公開等を内容とする「原子力安全委員会の当面の施策の基本について」を決定し、これを踏まえた対応を実施してきた。この委員会決定に沿った平成13年の原子力安全委員会の活動項目等は次のとおりである。
○ 安全確保体制について
・
安全審査指針類の整備:重要指針類の総合的見直し、安全審査のあり方、設置許可等
の後の安全規制に対する対応、安全研究の推進
○ 安全目標等について
・平成12年9月に安全目標専門部会を設置、平成13年度は約1年の審議結果を中間報告書にとりまとめ
・原子力に係る安全社会システムの構築
・安全文化の向上に向けた事業者自らの取組みへの支援、関係者への積極的な働きかけ・対話を通じて、我が国における安全文化の一層の醸成・定着
○ 事故・緊急時対応等について
平成11年9月に発生した茨城県東海村の(株)ジェー・シー・オーウラン加工工場臨界事故(JCO事故)を契機に、
・
原子力災害対策特別措置法の制定
・「
原子力発電所等周辺の
防災対策について」(防災指針)を、「原子力施設等の防災対策について」に変更
・臨界事故における被ばく医療の経験を踏まえ、緊急被ばく医療体制の構築などを柱とするものに改訂、緊急事態応急対策調査委員39名を任命、緊急技術助言組織の体制を強化
・実効性ある原子力防災訓練の実施
○ 情報公開について
・原子力安全意見・質問箱を原子力安全委員会に設置
・地方原子力安全委員会を開催し、原子力安全に関する地域の声を把握
○ 専門部会の再編と事務局の移管について
・総合的・効果的な調査審議体制を構築し、あわせて新たな課題に適切に対応することを目的とした専門部会の再編と適宜見直し、
原子力安全委員会専門部会の再編の概要を
図2に示す。
・総理府(現内閣府)原子力安全室へ移管し外部の幅広い専門家を技術参与として配置するなど独立性と機能を強化、平成13年1月の中央省庁再編成に伴う原子力安全委員会の内閣府への再編、独立の事務局設置、職員の増員、独立性と機能を強化
○ 自己点検と報告のフォローアップ等について
・国民へのアカウンタビリティ(説明責任)を徹底し、より良い政策を実現することを目指して「原子力安全委員会政策評価会議」を開催、評価結果を対外公表
・JCO事故調査委員会報告のフォローアップとして、「原子力安全委員会の当面の基本方針について」の安全委員会の進捗状況について取りまとめ、平成11年版原子力安全白書においてJCO事故を特集、地方原子力安全委員会を開催
3.原子力安全委員会の活動状況について
(1)原子力安全委員会本会議における決定報告等の状況
原子力安全委員会は、毎週月曜日に定例会、ほぼ毎週木曜日に臨時会を開催している。平成13年1月から12月末までの開催数は91回で、平成13年(1月〜12月)の原子力安全委員会本会議における決定等を、
表1−1、
表1−2及び
表1−3に示す。
(2)主な安全基準、指針類について
日本では、原子力の安全を確保するため国による安全規制が厳しく行われているとともに、原子力の研究開発利用の状況を踏まえ、常に最新の科学技術的知見に基づいた適切な安全規制を行うべく、次の1)〜14)に示す安全基準、指針類の整備等の様々な取組みが行われた。
原子力安全委員会による安全基準、指針類の整備の内容を、
表2−1、
表2−2、
表2−3、
表2−4、
表2−5及び
表2−6に示す。
1)「原子力施設等の防災対策について」の改訂、2)重水炉、高速炉等におけるクリアランスレベルについて、3)原子炉施設におけるクリアランスレベル検認のあり方について、4)
核燃料施設におけるクリアランスレベルについて、5)ITERの安全確保について、6)原子炉施設の
解体に係る安全確保の基本的考え方の改訂、7)
放射性廃棄物の処分に係る安全規制の基本的な考え方について、8)技術的能力の指針化について、9)MOX加工施設に係る安全審査指針、10)中間貯蔵施設に係る安全審査指針、11)耐震指針検討分科会について、12)原子力安全研究の成果の評価及び計画取りまとめについて、13)「指針類へのICRP勧告(Publication 60)の取入れ」について、14)安全審査指針の体系化について
(3)規制調査について
JCO事故を踏まえ、原子力安全委員会では、このダブルチェックに加え、設置許可等の後の建設段階及び運転段階の行政庁による安全規制を把握及び確認することを目的とした調査活動(規制調査)を行うこととした。
このため、平成11年度中に、規制調査に
着手するに当たっての実施方針を検討していくために必要な基本データの取得を目的として、現地調査を中心に試行的な調査を実施した。その結果を踏まえて、平成12年6月19日に「原子力安全委員会の当面の規制調査の実施方針について」を委員会決定とした。この方針に基づき、建設段階の規制調査においては、安全審査の際の基本設計ないし基本的設計方針に係る考え方が適確に実現されていることを確認することとしている。規制調査の実施方針の要旨を
図3に示す。
規制調査は、行政庁から最初の定期的な報告を受けた平成12年9月から平成13年12月まで、建設・運転段階を合わせて計1177件の報告を受け、それぞれの段階の進捗状況、実施状況等の把握及び確認を行った。その結果、
○事業者と規制行政庁、規制行政庁と原子力安全委員会の間で適切な緊張感と意思疎通を保つ
○調査により把握・確認した事項を踏まえ、的確な安全確保施策を企画、決定するとともに、必要に応じ規制行政庁に対して意見を示すことにより、全体として日本独自の多重補完的な安全規制体制をより有効に機能させ、原子力の安全確保の向上を図るとの規制調査の趣旨に沿った調査ができた。
原子力安全委員会では、平成14年以降の調査の充実を図っていくため、
○技術的能力の維持に関する体系的調査方法の取り入れの検討
○品質保証に関する活動への規制についての留意
○原子力施設の高経年化に着目した調査手法の検討
○効果的かつ効率的に調査を行うための、原子力施設に係わる設置許可等の段階から建設及び運転段階までの安全規制の全体像の詳細な整理、分析
○画一的な調査に陥らないための調査手法等の工夫
を行っていくこととしている。
(4)各審査会、専門部会等の活動
原子力安全委員会は、総合的かつ効果的な調査審議体制を構築し、あわせて新たな課題に適切に対応するため、平成12年9月28日付け原子力安全委員会決定(専門部会の再編成について)により、専門部会の再編成を行った。したがって、各審査会、専門部会等の活動については、再編成前及び再編成後に分けて示す。なお、平成13年1月から12月末までに開催された審査会と専門部会の回数は、小委員会、分科会等の開催を含め129回である。
原子力安全委員会の審査会・専門部会等の活動を、
表3−1、
表3−2及び
表3−3に示す。
(5)平成13年度原子力安全委員会の政策評価について
原子力安全委員会は、「原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について」(平成12年1月17日原子力安全委員会決定)に基づき、常に自己点検することはもとより、当委員会の安全確保活動に幅広い立場の有識者や国民の声を反映し、評価する機関(「原子力安全委員会活動評価委員会(仮称)」)を速やかに設置することを検討することとした。
これを踏まえ、原子力安全委員会では、国民へのアカウンタビリティー(説明責任)を徹底するとともに、より良い政策を実現することを目指して、平成13年度から自らの行う政策について自己評価を行うこととした。その際、政策評価の中立性・客観性を担保する観点から、学識経験者の出席を求めて、「原子力安全委員会政策評価会議」を開催し、政策評価について同会議の意見を聴くこととした(平成13年6月14日原子力安全委員会決定)。
平成13年7月10日、原子力安全委員会は、第1回原子力安全委員会政策評価会議を開催した。今後の政策評価については、平成14年度から「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が施行され、政府全体として政策評価の本格的実施と自己評価の機運が高まっており、また、原子力安全に関しての国民に対する説明責任と国民の理解の促進の重要性が高まることを鑑み、ますます政策評価への重要性が高まるものと思われる。原子力安全委員会としても、政策評価を適切に行うよう、鋭意検討、努力する。
(6)その他
平成13年9月11日に米国で起きた同時多発テロ事件を踏まえ、日本でもテロに関しての対策を講じた。政府は、平成13年9月12日に安全保障会議を開催し、今後、邦人の安否確認等情勢の的確な把握に全力を挙げること、国内の米国施設等の警戒警備を強化すること等6項目からなる「政府対処方針」を決定した。また、米国等のアフガニスタンにおける攻撃を受けて、緊急に対策を強力に推進することを目的として、米軍等が行うテロリズムとの戦いに対する日本としての協力、邦人の安全の確保、国内重要施設の警備強化、入国管理の強化等、国の安全を守るための諸施策について議論を行い、対応するために内閣に総理大臣を本部長とする緊急テロ対策本部を設置した。
さらに、国内の原子力発電所をはじめとする原子力施設においても、経済産業省及び文部科学省が原子力事業者に対して警備強化を指示するほか、既に公安当局と連携し警備強化が行われている。
また、原子力安全委員会においても、平成13年10月8日、臨時の原子力安全委員会を開催し、原子力発電所等に関し関係省庁における取組み状況を聴取し、今後の対応について調査審議を実施するなどの措置をした。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について(2000年1月) (10-03-02-09)
原子力安全委員会の当面の規制調査の実施方針について(2000年6月) (10-03-02-10)
原子力安全委員会 (10-04-03-01)
原子力災害対策特別措置法(原災法:2012年改定以前) (10-07-01-09)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
安全審査指針体系図 (11-03-01-01)
指針の整備 (11-03-01-02)
<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編集):原子力安全白書(平成13年版)、財務省印刷局(2002年5月13日)p.60-84,p.182,p.184-189,p.194-197
(2)原子力安全委員会:平成13年版原子力安全白書
(3)経済産業省原子力安全・保安院原子力保安管理課:平成14年版(平成13年度実績)原子力施設運転管理年報、(社)火力原子力発電技術協会(平成14年9月)775-783