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<概要>
 平成17(2005)年10月の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構との統合による日本原子力研究開発機構の設立や、平成15(2003)年10月の原子力安全基盤機構の設立等、安全研究の実施を担う機関の体制も変化し、また原子炉等規制法の改正をはじめとする安全規制に係る状況も大きく変化した。原子力安全委員会はこれらの変化に対応するため、新たな安全研究の計画の策定に当たり、わが国の原子力安全に関する研究活動の現状を国、民間を問わず広く俯瞰・把握しつつ、調査、審議し、平成16(2004)年7月に「原子力の重点安全研究計画」を新たに決定した。重点安全研究計画の概略を示す。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている新たな原子力の重点安全研究計画の策定および具体的な安全審査指針類や必要な関連データ等についても見直しや追加が行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会および原子力安全・保安院は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2007年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力の安全研究は、わが国の原子力の利用と開発の新たな進展に安全規制の面から的確な対応を図っていく上で重要な役割を果たしている。具体的には、安全審査指針類や安全審査等の判断に必要なデータ等の整備に、常に最新の科学的知見を反映させること、また安全性の基礎となる知見を蓄積することでなどにより、高いレベルの安全規制体系の実現・維持に貢献することである。安全研究に関し、原子力安全委員会は、国の研究機関等で実施すべき研究課題を示した「安全研究年次計画」を策定し、原子力安全研究専門部会において、5か年ごとに国として実施すべき安全研究課題について、その必要性、研究内容および実施機関等について取りまとめてきた。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 平成13(2001)年から17(2005)年までの計画の下では、災害時対策を含む原子力施設の安全確保のための諸課題への対応と技術レベルの維持・向上および人材等の確保によるわが国の原子力安全の維持を基盤として、各研究機関で鋭意研究が行われてきた。
 近年、原子力安全の確保や安全規制に係る状況が変化し、また、平成13(2001)年度の放射線医学総合研究所の独立行政法人化、平成15(2003)年度の原子力安全基盤機構の設立、さらには、平成17(2005)年度の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構との統合による新法人・日本原子力研究開発機構の設立等、安全研究の実施機関の体制も変化している。これらの変化に対応するため、原子力安全委員会は、わが国の原子力安全に関する研究活動の現状を国、民間を問わず広く俯瞰・把握しつつ、調査、審議し、平成17(2005)年度から5年程度を見通した「原子力の重点安全研究計画」を平成16(2004)年7月に決定した。
1.重点安全研究の内容
 原子力安全委員会は、安全規制の向上に向けて、平成17(2005)年度からの約5年間に重点的に実施すべき安全研究(重点安全研究)を以下に示す7分野12項目にわたって提案した(表1および表2参照)。なお、わが国で実施されている安全研究を俯瞰的に整理し、図1に示す。また、従来、原子力安全に係る安全性実証、信頼性実証に関する事業や安全技術の調査等における研究(実証研究)については、安全研究年次計画には含まれていなかったが、近年の実証研究の内容を見ると、単に安全性・信頼性を実証するだけでなく、安全規制の整備に資するものとなっていることから、安全研究の範囲に含める。
1)規制システム分野
 ○リスク情報の活用
 安全目標やリスク情報を活用した安全規制を今後の安全規制の枠組みに加えていくこととしており、リスクの定量化を可能にする確率論的安全評価手法の高度化等。
 ○事故・故障要因等の解析評価技術
 原子力施設の安全性を向上させるために、これまでの運転経験に基づく情報を分析・活用していく必要があり、事故・故障に関する情報の収集・分析整備、トラブル事象等に係る人間・組織要因の知見・教訓の蓄積等。
2)軽水炉分野
 ○安全評価技術
 今後想定される軽水炉利用の高度化に対して、規制行政庁が行う行政判断の妥当性を確認する必要があり、軽水炉利用の高度化に対応した安全基準の適合性判断のための評価手法の開発等。
 ○材料劣化・高経年化対策技術
 軽水炉では、運転実績が約30年を経過し、その間、使用材料や環境の改善がなされてきているものの、材料に起因するトラブルは様々な形で起きており、その現象の把握と原因の解明、予測と対応技術の開発・実証等。
 ○耐震安全技術
 原子力施設の地震時の安全性確保に向けて、最新の科学的知見を踏まえた地震時安全性評価技術を整備する必要があり、耐震安全解析コードの改良や耐震信頼性の実証に関する研究等。
3)核燃料サイクル施設分野
 ○安全評価(臨界安全、火災・爆発、閉じ込め、中間貯蔵、輸送、データベース等)技術
 再処理施設およびMOX加工施設の安全対策の実験的、実証的な研究の知見に加えて、核燃料サイクル施設の安全規制、運転管理の実績等や得られた技術的知見を取り入れた安全評価を行うための研究。
4)放射性廃棄物廃止措置分野
 ○高レベル放射性廃棄物の処分
 高レベル放射性廃棄物の処分施設建設地の選定に当たり、精密調査地区の選定等に向けた環境要件や基本指針についての検討を進めるための研究。
 ○高βγ廃棄物、TRU廃棄物、ウラン廃棄物等の処理・処分
 原子力安全委員会では、それぞれの廃棄物の特性および処分方法に応じて安全に処理・処分を行うための基本的考え方を策定する必要があり、そのための検討を進める研究。
 ○廃止措置技術
 原子力施設の廃止措置計画の進捗に伴い、環境負荷を低減しつつ、安全に廃止措置を行うことが必要となっており、原子力施設の放射能特性の評価のあり方や廃止措置終了後の敷地(建屋)解放のあり方に関する研究。
5)新型炉分野
 ○高速増殖炉の安全評価技術
 高速増殖炉の安全確保の考え方や安全基準に関する基本的事項を高度化していくための判断資料の整備が必要であり、ナトリウム漏えい燃焼およびナトリウム−水反応に関する知見や試験研究等で検証された評価手法の整備・高度化等。
6)放射線影響分野
 ○放射線リスク・影響評価技術
 放射線の健康影響の判断が安全規制において適切な安全裕度をもってなされているかの確認や被ばく線量と健康影響との定量的な関係やその機構を明らかにすること等。
7)原子力防災分野
 ○原子力防災技術
 原子力施設に係る災害時に国民の安全確保の実効性を高めるため、緊急時に適切な対応がとれるようにするとともに防災対策を一層充実する必要があり、緊急時における情報収集システムの充実や緊急時における判断等を的確に行うための技術的指標の整備等に関する研究。
 また、このような重点安全研究を支える技術基盤として、基礎・基盤的な安全研究は重要であり、炉物理・炉工学、燃料・材料工学、放射線生体影響・環境影響科学等を幅広く体系的に実施してくことの重要性を指摘している。

2.重点安全研究の推進体制の構築
 重点安全研究の実施により得られた成果を原子力安全委員会や規制行政庁の業務に的確に反映していくため、機能的な重点安全研究の推進体制を構築する必要がある。図2に、重点安全研究の推進体制を示す。重点安全研究の成果により得られた最新の技術的知見を安全規制に反映し、その向上を図るためには、規制行政庁と研究機関の間で十分な意思疎通を図り、規制行政庁は研究機関に対し求める安全規制に必要な安全研究の成果を提示し安全研究の結果をどのように活用するのかを明らかにするように努めるとともに、研究機関は規制行政庁の求めに応える安全研究の課題とその結果を適宜取りまとめて提示していく。さらに、原子力安全委員会では、材料劣化・高経年化対策をテーマとして安全研究成果報告会を開催するなど、安全研究の円滑な推進に資するように努める。

3.重点安全研究計画の評価
 今後、計画開始後3年目を目途に中間評価、計画終了後に総合評価を行うこととし、重点安全研究計画については、評価の結果や安全研究に対する状況変化による新たなニーズを踏まえ、適宜、その内容を見直していく。

4.各研究機関等に期待する役割
 重点安全研究計画では、研究機関等において客観的かつ効果的・効率的な安全規制の実施、安全性の維持・向上、国民の信頼醸成に資するよう、協力して重点安全研究に取り組むことが期待されることから、主な研究機関等に期待する役割をまとめている。
 日本原子力研究開発機構には、安全研究の実施に必要な施設を多数保有するとともに、幅広い専門分野にまたがる人材を有していることから、安全研究を実施する中核的な役割を期待している。さらに、その総合的な安全研究の技術的能力等を活かし、原子力安全委員会が行う基本的考え方や指針の策定や重点安全研究の推進活動を技術的に支援する役割等を期待している(表3参照)。
 原子力安全基盤機構には、原子力安全・保安院の技術的基盤を支える専門機関として、原子力施設等に係る安全規制に必要な規格・安全基準や安全規制制度の整備等、安全規制に反映されるべき科学的な根拠を幅広く提供するために必要な安全研究を推進すること等を期待している(表4参照)。
 放射線医学総合研究所には、放射線の環境や生体への影響に関する研究並びに被ばく医療研究に関し、社会的・行政的ニーズに応える安全規制・安全基準の科学的基礎を提供する安全研究を実施するとともに、その成果を社会に還元すること、これらに関連したシーズ探索型の先導的・先進的な研究を実施することなどを期待している(表5参照)。
<図/表>
表1 原子力の重点安全研究計画で取り上げられた研究分野
表1  原子力の重点安全研究計画で取り上げられた研究分野
表2 重点研究計画の概要
表2  重点研究計画の概要
表3 日本原子力研究開発機構に期待する重点安全研究の内容
表3  日本原子力研究開発機構に期待する重点安全研究の内容
表4 原子力安全基盤機構に期待する重点安全研究の内容
表4  原子力安全基盤機構に期待する重点安全研究の内容
表5 放射線医学総合研究所に期待する重点安全研究の内容
表5  放射線医学総合研究所に期待する重点安全研究の内容
図1 わが国の原子力安全に関する研究分野と課題
図1  わが国の原子力安全に関する研究分野と課題
図2 重点安全研究の推進体制
図2  重点安全研究の推進体制

<関連タイトル>
高レベル放射性廃棄物地層処分技術の研究開発 (10-02-02-16)
放射性廃棄物安全研究年次計画(平成13年度〜平成17年度) (10-03-01-18)
環境放射能安全研究年次計画(平成13年度〜平成17年度) (10-03-01-19)
原子力施設等安全研究年次計画(平成13年度〜平成17年度) (10-03-01-20)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会・原子力安全研究専門部会:原子力の重点安全研究計画(平成16年7月)
(2)原子力安全委員会ホームページ:原子力安全白書 平成16年版、第3編 原子力安全確保のための諸活動、第3章 原子力安全研究の推進
(3)原子力安全委員会ホームページ:原子力安全白書 平成17年版、第3編 原子力安全確保のための諸活動、第3章 原子力安全研究の推進
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