<本文>
1.本年次計画策定の経緯
放射性廃棄物の処分に係る安全研究は、低レベル放射性廃棄物については、昭和59年度以来、原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会(当初は原子力安全委員会放射性廃棄物安全技術専門部会)が策定した「低レベル放射性廃棄物安全研究年次計画」に基づき、高レベル放射性廃棄物については、昭和61年度以来、原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会が策定した「高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画」に基づき推進されてきた。その後、両計画で共通的事項があることなどを踏まえ、平成8年度に、これらは「放射性廃棄物安全研究年次計画」として一本化された。なお、放射性廃棄物安全規制専門部会は、平成12年9月の専門部会再編により「原子力安全研究専門部会」に再編された。
近年、高レベル放射性廃棄物を始め、放射性廃棄物分野全般にわたって処分の事業化や制度化の検討が急速に進んでおり、放射性廃棄物の処分に係る今後の安全研究については、処分事業の具体的進展を踏まえつつ、長期的視点に立って計画的、かつ総合的に推進する必要がある。当専門部会において、放射性廃棄物の処分に係る各種基準等の整備、
安全評価における安全裕度の定量的把握等を目的として、今後、国として実施すべき安全研究課題につき、長期的視点に立ちその必要性、研究内容、実施機関等について審議し、そのうち平成13年度以降の5ヵ年計画を「放射性廃棄物安全研究年次計画(平成13年度〜平成17年度)」としてとりまとめた。
2.本年次計画の要点
本年次計画に基づく安全研究課題を
表1-1 、
表1-2 に示す。
本安全研究年次計画は、安全確保の観点から処分方法によって「浅地中処分」、「地層処分」、「クリアランス」に分類し、放射性廃棄物の処分に係る基準等の策定状況を踏まえ、それぞれ以下に示す内容について取り組むことにしている。
また、放射性廃棄物の処分の安全性については、今後、環境との調和(環境安全)など広い安全確保の視点に立った検討が必要になると考えられる。特に、放射性廃棄物の処分の影響を、化学物質等も含めた環境安全全般の観点から評価するためには、
リスクを基準とする安全の評価が重要になると考えられる。従って、本安全研究年次計画においては、このような内容について、「他分野との協力」として取り組むこととした。
各分野における研究テーマの内容は、以下のとおりである。
(1)浅地中処分(この分野では、「素堀り
トレンチ処分」、「
ピット処分」地表から50m〜100m程度における一般的な地下利用に十分余裕を持った深度への処分である「やや深い浅地中処分」を含んでいる。)
発電所廃棄物については、均質又は均一に
固型化した廃棄物及び
雑固体廃棄物の「ピット処分」、非固型化コンクリート廃棄物の「素堀りトレンチ処分」に係る基準等は既に整備されている。しかし、これらの処分について、さらにより合理的な処分方法が採用された場合に対応した安全評価手法を整備するため、今後とも最新の知見に基づく研究が必要である。また、放射能レベルの比較的高い廃棄物を対象にした「やや深い浅地中処分」についての安全評価は、今後の課題である。
RI‐研究所等廃棄物は、発電所廃棄物と異なり、多くの
放射性核種を含み、その中には短半減期
核種や難測定核種も含まれるという特徴を有する。また、
TRU核種を含む放射性廃棄物や
ウラン廃棄物は、α核種のような長半減期の放射性核種を含むという特徴を有する。従って、発電所廃棄物との類似点、相違点に考慮しつつ、安全基準・指針類の策定に関する研究、その特徴に着目した安全確保に関する研究、安全評価の実施のための研究などを進める必要がある。
(2)地層処分
高レベル放射性廃棄物の地層処分については、処分事業のスケジュールの概要が示され、平成12年10月には実施主体として
原子力発電環境整備機構が設立されることから、今後の安全規制に係る基準・指針類の処分事業の進展に応じた段階的な整備や、安全評価手法の確立に資するための研究が最優先課題である。具体的には、地質環境の長期安定性や
天然バリアとしての特性等の処分地に要求される地質環境要件に関する研究、具体的な地質環境を想定した評価シナリオの作成や、評価モデル・パラメータに係る情報の整備等の地層処分の安全評価手法の確立と信頼性向上に関する研究、
人工バリアの性能保証等の処分場の設計要件に関する研究が必要である。
また、これらの研究においては、高レベル放射性廃棄物の地層処分のみならず、TRU核種を含む放射性廃棄物の地層処分をも念頭においたものとする必要がある。
(3)クリアランス
原子炉施設等から発生する
放射能濃度の極めて低い放射性核種を含む廃棄物等について、クリアランスレベル以下であれば、「
放射性物質として扱う必要のない物」として再利用、或いは産業廃棄物と同様に処分することが可能となることから、クリアランスレベル以下であることの検認が非常に重要である。
従って、放射能濃度の極めて低い放射性核種を含む廃棄物等を検認するためのより信頼性の高い測定技術に関する研究が必要である。
(4)他分野との協力
放射性廃棄物の処分の影響について、化学物質等も含めた環境安全全般から評価するためには、他分野と共通の指標であるリスクを基準とする安全の評価が必要である。従って、今後放射性廃棄物の処分の安全評価におけるリスクの考え方について、「他分野との協力」を図りながら検討を行っていくことが必要である。
本年次計画に基づく安全研究課題を紙面の都合で総てを紹介できないので、詳しくは参考文献1を参照されたい。
<図/表>
表1-1 放射性廃棄物安全研究年次計画に基づく安全研究課題(1/2)
表1-2 放射性廃棄物安全研究年次計画に基づく安全研究課題(2/2)
<関連タイトル>
放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度) (10-03-01-11)
<参考文献>
(1) 原子力安全委員会・放射性廃棄物安全研究専門部会:放射性廃棄物安全研究年次計画(平成12年4月21日)
(2) 原子力安全委員会(編集):原子力安全白書 平成12年版、財務省印刷局(2001年4月),p.165-169