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高レベル放射性廃棄物地層処分技術については、日本原子力研究開発機構を中心とした研究開発機関が、深地層の研究施設等を活用して、深地層の科学的研究、地層処分技術の信頼性向上や安全評価手法の高度化等に向けた基盤的な研究開発や安全規制のための研究開発を行っている(
図1)。ここでは
原子力安全委員会決定の安全研究計画、地層処分技術の
セーフティケースによる知識の構造化、深地層の研究施設の概要について述べる。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として
原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
1.高レベル放射性廃棄物の処分における安全研究計画(2004年7月29日、原子力安全委員会決定)
(1)日本原子力研究開発機構(原子力機構)
高レベル放射性廃棄物の処分施設建設地については、3段階(概要調査地区選定、精密調査地区選定、最終処分施設建設地選定)に分け、段階的に選定することが法律に定められた。原子力安全委員会は、既に概要調査地区選定のための環境要件を定めた。次の段階として、精密調査地区選定のための環境要件および安全審査基本指針について検討する必要がある。そのためには以下のような研究の実施を期待する。
・環境要件を策定するための地質環境条件と地下施設等への影響や評価手法に関する研究
・安全審査基本指針の策定のための安全評価の基本的考え方(制度的管理、評価時間枠の取扱い、安全指標等)に関する研究
・安全評価手法の整備のための評価シナリオや
人工バリア・
天然バリアの性能評価手法の高度化に関する研究等
当該安全研究については、原子力機構が中核的研究機関となり、他の研究機関とも協力して実施することが望ましい。精密調査地区の選定までの段階で、地上からの調査で推定される地質環境条件と処分システムの設計や安全性との関係を評価することが重要となるので、深地層の研究施設等における地質環境に関する様々なデータをもとに、処分システムの設計や安全性と関連づけた評価の考え方や手法を整備することを期待する。なお、原子力研究開発機構の中期目標策定に資する成果をどのように活用するか、いつまでに必要とするかに関する原子力安全委員会の期待は、
表1の通りである。
(2)原子力安全基盤機構
高レベル放射性廃棄物の処分施設建設地については、3段階(概要調査地区選定、精密調査地区選定、最終処分施設建設地選定)に分け、段階的に選定することが法律に定められた。今後、規制行政庁における安全評価手法の整備、安全基準の策定等に当たって、以下のような研究を行う必要がある。
・サイト周辺の地層における地震・断層および火山活動等の活動の将来予測を可能にするための予測手法
・天然事象の長期変動とその影響の範囲を予測する手法
・セーフティケースの構成要素、評価時間枠の取扱い、安全指標等に関する研究
原子力安全基盤機構は、当該研究に当たって規制行政庁のニーズに基づき必要な対応を行うことが望ましい。また、原子力機構等の各研究機関の知見も活用し、幅広い検討を行うことを期待する。
2.地層処分のセーフティケースによる知識の構造化
地層処分の長期安全性確保のための科学技術的基盤は、事業全体に対する信頼を長期間にわたって支える上で必須なものであり、最新の研究開発成果を取り込みつつ知識として統合し、これを継続的に管理するための枠組みを整えることが重要である。このような地層処分技術に関する知識は、実施主体や規制機関などのステークホルダー(意思決定プロセスにおいて何らかの役割を有する行為者、機関、団体あるいは個人)が、安全性を示す様々な論拠や地層処分計画の種々な時期に行う意思決定に用いられる。
このため、知識の構造化の視点としてセーフティケース(safety case:安全性を保証するための論拠、
図2)の概念を用いる。地層処分に関連するデータや情報、知識を、セーフセーフティケースの構成要素である「目的と文脈(purpose and context)」、「安全戦略(safety strategy)」、「安全評価基盤(assessment basis)」、「証拠、解析および論拠(evidence, analyses and arguments)」に沿って整理し、これらの関係の構造化を行ったものを
図3、
図4、
図5、
図6に示す。また、これらを用いた「セーフティケースへの統合(synthesis)」を行うための知識について、セーフティケースの論証構造(テンプレート)の例を
図7および
図8に示す。なお、実際にセーフティケースを作成する実施主体やこれを評価する規制機関においては、種々な意思決定に対する要件管理システム(requirement management system)が不可欠であり、科学技術基盤としての知識ベースの開発にあたっては、要件管理と相互補完的に機能するように進めることが肝要である。
高レベル放射性廃棄物対策に関しては、技術的な観点から地層処分(
図9参照)が現在最も理にかなったものであることが国際的に認められており、これまでの研究開発から技術的に可能であると考えられている。一方、地層処分は、通常のシステムとは異なり、これまでに経験のない長期間を対象とした受動的な安全系に基づくシステムであることから、その安全性について感覚的にとらえることが困難という側面も有している。このためには、意思決定に関与する様々なステークホルダーに対し、セーフティケースの内容を分かりやすく説明することが極めて重要なテーマとなる。また、理解しやすいセーフティケースの構造を与えるような処分場概念の構築、安全評価の方法論に関する科学的基礎の例示などにも取り組んでいく必要がある。
3.深地層の研究施設の概要
国内で地層処分を行うためには、わが国の深地層に関するデータや知見を得ることが重要である。このため、深地層の研究施設を実際に国内に設けて、深部地質環境を調査するための技術や深地層における工学技術の開発を行い、研究の成果を原環機構が行う処分事業や国が行う安全規制に反映していくこととしている。
この研究は、処分事業とは明確に区別して進められ、原環機構とは別の機関である原子力機構が、岐阜県瑞浪市(結晶質岩)、北海道幌延町(堆積岩)の2カ所で研究を行うこととしている。2003年7月には岐阜県瑞浪市の瑞浪超深地層研究所において、地下施設の掘削が開始された(
図10参照)。また、2005年11月には北海道幌延町の幌延深地層研究所でも地下施設の掘削(500m掘削予定)が開始されている(
図11参照)。深地層の研究施設は、広く内外の研究者に開放し、学術研究の国際拠点として整備するとともに、国民各層に深部地質環境を実際に体験し、理解促進を図っていく場としても利用していくこととしている。
<図/表>
<関連タイトル>
再処理施設からの放射性廃棄物の処理 (05-01-02-03)
高レベル廃液ガラス固化処理の研究開発 (05-01-02-04)
高レベル廃液の代替固化処理 (05-01-02-05)
幌延深地層研究計画 (06-01-05-12)
瑞浪超深地層研究所計画 (06-01-05-13)
<参考文献>
(1)日本原子力研究開発機構ホームページ:地層処分研究開発部門、
http://www.jaea.go.jp/04/tisou/toppage/top.html
(2)高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する知識基盤の構築−平成17年取りまとめ−、−地層処分技術の知識化と管理−、核燃料サイクル開発機構(2005年9月22日)
(3)原子力委員会ホームページ:平成17年度原子力白書、
(4)原子力安全委員会ホームページ:「原子力の重点安全研究計画」の策定について(平成16年7月29日、原子力安全委員会決定)、日本原子力研究開発機構に期待する安全研究(平成17年6月、原子力安全委員会)、
(5)原子力安全委員会ホームページ:原子力安全・保安院5年間の発展と今後の課題(原子力安全関係)(平成18年3月、第19回原子力安全委員会資料第2号)、
(6) 日本原子力研究開発機構ホームページ:東濃地科学センター、超深地層研究所計画、幌延深地層研究センター、幌延深地層研究計画 平成18年度調査研究計画(平成18年3月)、