<本文>
1.管理区域の設定
原子力発電所、放射性物質の取扱いあるいは放射線発生装置の使用をする事業所・病院等では、施設の放射線管理の一環として、放射線作業を行う区域を限定し、作業者や周辺公衆の放射線被ばくが定められた限度を超えないよう適切な管理を行えるようにするために管理区域を設けている。
管理区域の設定については、法令(例えば、文部科学省所管の「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、同施行令及び同施行規則」等)において、線量、空気中放射能濃度及び表面汚染密度について以下の基準を超えるおそれのある場所について設定するように定められている。
a)外部放射線に係る線量については、
実効線量が3月あたり1.3mSv
b)空気中の放射性物質の濃度については、3月についての平均濃度が
空気中濃度限度の10分の1
c)放射性物質によって汚染される物の表面の放射性物質の密度については、表面汚染密度(α線を放出するもの:4Bq/cm
2、α線を放出しないもの:40Bq/cm
2)の10分の1
d)外部放射線による外部被ばくと空気中の放射性物質の
吸入による
内部被ばくが複合するおそれのある場合は、線量と放射能濃度のそれぞれの基準値に対する比の和が1
実際には、管理区域は管理の容易さを考慮して、建物の壁等、区切りのよいところで大きめに区画されるので、管理区域の境界では上記基準を十分下回っている。
2.管理区域での管理
2.1 目的
管理区域内では、原子炉施設の運転や点検・保守、核原料物質の精練、
核燃料物質の加工や使用、使用済み燃料の
再処理、放射性同位元素の使用、放射性廃棄物の処理・処分、放射線発生装置の使用、等に関連する作業が行われている。また、核燃料物質、放射性同位元素、放射性廃棄物の運搬等に関連する作業も行われている。
そのため、管理区域では上記作業を安全に実施するため、主に、以下のことに着目して管理が行われている。a)関係者以外の立入りを禁止し、不用意な立入りによる放射線被ばくを防止する。
b)管理区域内では、放射線モニタリング等を含め作業管理を厳重に行い、作業者の被ばく防護対策を行う。
c)放射性汚染物等の搬出、放射性廃棄物の排出等の管理を実施し、管理区域外への放射線の漏洩、放射能汚染の拡大を防止する。
従って、管理区域入口では、関係者以外の立入りを禁止するため、また、不用意な立入りによる放射線被ばくを防止するために、その境界が標識・柵等によって明示・区画されるとともに、作業者等の出入り管理や被ばく管理が行われている。
図1に、管理区域に関連して行われる管理の概要を示す。
2.2 放射線モニタリング
管理区域内では、作業者の被ばく防護を行うため、また、放射線作業が安全に行われるようにするため、以下に述べるような放射線モニタリングが実施されている。
作業者の被ばくの有無あるいは被ばくの程度を知るために、連続的、定期的あるいは必要に応じて、個人被ばく測定器具を用いた外部被ばくモニタリング及びバイオアッセイ法等による内部被ばくモニタリングが行われる。さらに、作業場所の
線量率や放射能汚染(放射性物質の空気中への飛散による空気汚染及び床等の表面汚染)の状況把握のために、定期的あるいは必要に応じて、サーベイメータや各種モニタを用いて、作業環境モニタリングが行われる。
これらのモニタリング結果に基づいて、必要と判断されれば、
線源の移動・
遮へい、汚染源の除去、立入り制限等の措置あるいは詳細な調査等が作業者の防護のために行われる。
2.3 放射性汚染物等の搬出、
放射性気体・液体廃棄物の排出等の管理
管理区域の作業者等の出入りや物品の搬出の際には、管理区域外への汚染拡大防止のために汚染検査が行われ、定められた基準値以下であることが確認される。
作業者の管理区域からの退出時には、ハンドフットモニタや全身汚染検査計を用いて、身体表面に汚染のないことの確認がなされる。あわせて、管理区域境界では靴の履き替えが実施され、管理区域外への汚染の拡大が防止されている。同様に、物品の管理区域外への搬出の際には、表面汚染検査用サーベイメータを用いて、物品の表面に汚染のないことの確認が行われる。
また、放射性物質や放射性固体廃棄物等の管理区域外への搬出の際には、放射性物質等の輸送に関する基準に適合しているかどうかを確認するために、サーベイメータ等を用いて、線量率や表面汚染密度の測定が行われる。
施設の排気筒や排水口から排出される
放射性気体廃棄物や
放射性液体廃棄物については、周辺公衆の健康と安全を守るため、その放出源(排気筒や排水口)において放出放射性物質の管理が厳重に行われている。
2.4 その他
管理区域内に立入る作業者等に対しては、放射線防護の観点から、前に述べた各種モニタリングに加えて、定期的な健康診断、教育・訓練等が義務づけられている。それによって、管理区域内で行われる作業の安全性がさらに確保されている。
<図/表>
<関連タイトル>
限度とレベル (09-04-02-12)
放射線管理基準 (09-04-05-01)
放射線作業の計画と管理 (09-04-09-03)
モニタリングの種類 (09-04-05-02)
作業環境モニタリング (09-04-06-01)
個人モニタリング (09-04-07-01)
ハンドフットクロスモニタ (09-04-03-07)
放射性廃棄物 (09-01-02-01)
健康診断 (09-04-07-07)
放射線業務従事者の教育訓練 (09-04-09-06)
<参考文献>
(1)アイソトーブ便覧:日本アイソトープ協会、1984
(2)主任者のための放射線管理の実際:日本アイソトープ協会、1987
(3)放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律
(4)核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
(5)国際放射線防護委員会勧告(1977年1月17日採択):日本アイソトープ協会、丸善(株)、1984
(6)科学技術庁原子力安全局放射線安全課:国際放射線防護委員会の勧告(ICRP Pub.60)の取り入れ等による放射線障害防止法関係法令の改正について(通知)、平成12年10月23日(2000)