<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設に係わる放射線防護
<小項目> 放射線防護用の測定
<タイトル>
トリチウムの液体シンチレーション法による測定 (09-04-03-25)

<概要>
 トリチウム3H)は水素の同位体で、環境中には水や水蒸気状のトリチウム水、水素ガス状のトリチウムガス等の化学形で存在している。環境中トリチウムには宇宙線の作用によって生成された天然起源のものと核実験や原子力エネルギー利用に伴って放出された人工起源のものがある。わが国では原子力施設立地県などにおいて環境中トリチウムの濃度が測定されている。トリチウムは非常にエネルギーの低いβ線を放出する核種であるため、試料を検出器の内部に入れて測定しなければならない。その代表的な方法として液体シンチレーション法がある。トリチウム測定試料は水としての形が多いため、最近は液体シンチレータとして保水量の多い乳化シンチレータが広く用いられている。
<更新年月>
1998年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.環境中のトリチウムおよびその濃度
 トリチウム(3H)は水素の同位体であり、環境中には水や水蒸気状のトリチウム水、水素ガス状のトリチウムガス、あるいは有機形のトリチウムメタン等の化学形で存在している。環境中トリチウムには天然起源のものと人工起源のものがある。天然起源のトリチウムの大部分は上層大気中における宇宙線の作用によって生成されたものである。宇宙線起源のトリチウムの大気中に存在している放射能量は約1.0〜1.3EBq(エクサベクレル)(1EBq=1018Bq)と推定されている。
 一方、人工起源のトリチウムには、核実験起源のもの、原子力エネルギー利用に伴うもの、医療、産業、研究等に伴うものがある。これまでに核実験によって環境中に放出されたトリチウムの合計放射能量は約240EBqと評価されているが、大気核実験の停止後、放射性崩壊により減少しており、1990年現在の存在量は約52EBqと推定されている。世界中の原子力施設から環境中へ放出されたトリチウムの合計量は、1989年の1年間で約24PBq(ペタベクレル)/年(1PBq=1015Bq)であった。このうち、最大の放出源は重水減速型発電炉(例えば、カナダのCANDU炉)であり、カナダでは1989年に約2PBq/年の気体状トリチウムを放出したサイトもあった。国内の原子力発電所からの大気中トリチウム放出量は報告されていないが、国内全原子力発電所からの液体状トリチウムの合計放出量は1994年の1年間で約0.27PBqであった。また、青森県六ヶ所村に建設中の再処理施設では、事前の安全評価上、気体状トリチウムの放出量は約2PBq/年、液体状トリチウムが約18PBq/年と仮定されている。将来は核融合炉の燃料としてトリチウムの重要性が増すため、取扱量の増加が予想される。トリチウムを燃料として使用する核融合実験炉で今後最も実現性の高いものは国際熱核融合実験炉ITER)である。ITERではサイト内のトリチウムの総量は1〜2EBqと推定されているが、平常運転時の環境への放出量は約0.11PBq/年と評価されている。
 原子力施設から放出されるトリチウムの放射能量は希ガスに次いで大きいため、環境中トリチウム濃度は環境モニタリング項目の一つとされている。このため、環境中のトリチウム濃度は、わが国では原子力施設の立地県などにおいて環境モニタリングの一環として測定されている。例えば、茨城県の環境放射線監視計画では、飲料水、海水、河川・湖沼水中のトリチウム濃度を測定することになっている。茨城県公害技術センターが測定した河川水・湖水中トリチウム濃度の経年変化を 図1 に示す。
2.測定法の特徴
 トリチウムは、最大エネルギー18keVの低エネルギーβ線放出核種であり、このβ線の物質透過力が極めて弱いため、測定試料を放射線検出器の外側に置く方法ではほとんど検出できない。試料を検出器の内部に入れて測定する代表的な方法としては、試料を気体状にし、電離箱や比例計数管内で測定する方法と、液体シンチレータに溶かし込んで測定する液体シンチレーション法がある。前者は主に室内モニタや排気中トリチウム濃度測定などに使用される。環境試料中トリチウムの濃度測定には後者が広く用いられている。
 液体シンチレータはキシレンやトルエンなどの有機溶媒に、溶質(蛍光体)および添加剤を加えたものであり、測定する試料によって適切なものを選択する必要がある。環境試料は水の形が多いが、水は液体シンチレータの標準的な溶媒として用いられるトルエンやキシレンには混じらないので、最近は界面活性剤を添加した乳化シンチレータが広く使用されている。
 放射能濃度の低い環境試料の測定では、試料水量を多くするとともに、低バックグラウンド液体シンチレーションカウンタを使用する必要がある。このような方法で、現在では水の形のトリチウムが1Bq/リットル程度まで検出できる。さらに、より低い濃度のトリチウムを測定したい場合は、電解濃縮により、トリチウム濃度を高めた上で測定することも可能である。環境試料中トリチウム濃度の標準的測定法は科学技術庁の「トリチウム分析法」に記述されている。
3.試料調製法
 水試料の場合には前処理として一般に蒸留を行う。また、有機不純物が含まれている場合は湿式分解等により不純物を除去してから蒸留する。水以外の試料の場合、直接液体シンチレータに溶解できるものはそのままシンチレータに混ぜることができる。しかし、溶解しない植物、動物試料中の組織結合型トリチウムの場合には、これらの試料を乾燥した後、酸素気流中で燃焼し、その生成水を前処理後、使用する。試料を液体シンチレータに混ぜ合わせるには、次の方法がある。
 脂質、ステロイド等の疎水性試料中のトリチウム濃度を測定する場合には、溶媒としてキシレンやトルエンを使用したシンチレータが適している。生物組織などで溶解しにくい場合は組織可溶化剤を使用する。
 一方、水溶性試料の場合は最近は乳化シンチレータが広く用いられている。乳化シンチレータはキシレンやプソイドクメン等の溶媒に、溶質、非イオン性界面活性剤(中性洗剤の一種、化学構造式の例は( 図2 参照)等を混合したものである。乳化シンチレータに水を混ぜると、コロイド粒子が形成され、分散する。混合後、ゲル状のシンチレータとなる場合もある。乳化シンチレータは保水量が多く、40〜50%の水が保持でき、シンチレーション機構を妨害する作用(クエンチング)も小さいという利点がある。その反面、完全な均一系ではないため、わずかながらβ線の自己吸収が生ずるほか、混合割合によっては、ゲルが2層分離する場合もある。現在、シンチレータ用溶媒と界面活性剤等を混合した乳化シンチレータが、Ultima Gold、Aquasol-2等の名で市販されている。
4.低バックグラウンド液体シンチレーションカウンタ
 液体シンチレータは蛍光効率が低いので、低エネルギーのトリチウムβ線などを測定する場合には、光電子増倍管の光電面から放出される熱電子がバックグラウンド計数の最大の原因となる。これを除去するため、試料(シンチレータ)をはさんで2本の光電子増倍管を対向させ、2つの出力を同時計数することによって、熱雑音を除去する。液体シンチレーションカウンタの構成図を 図3 に示す。さらに、宇宙線など外部からの高エネルギー放射線による計数を除去するため、厚い遮蔽を設けたり、もう一台の検出器を設けて反同時計数することによりバックグラウンドを低下させる形式のカウンタもある。
5.試料容器(バイアル)
 標準品としては、低カリガラス(ホウケイ酸ガラス)製で容量約20mlのものが用いられるが、高密度ポリエチレン、テフロン等の容器も、低バックグラウンド容器として有用である。環境試料のような低放射能試料の測定には、検出限界を上げるため、100ml程度のバイアルが用いられる。100ml用の専用容器は市販されていないため、一般のテフロン製試薬瓶から、肉厚にむらのないものを選別して使用する。
<図/表>
図1 河川水・湖水中トリチウム濃度の経年変化の例
図2 非イオン性界面活性剤の化学構造式(TRITON-100の例)
図3 液体シンチレーションカウンタの構造図

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<関連タイトル>
環境放射能測定による地下水年代の推定 (08-04-01-12)
天然の放射性核種 (09-01-01-02)
文部科学省分析マニュアル (09-04-03-24)
再処理施設から環境へのヨウ素とトリチウムの放出低減化 (06-03-05-04)
核融合炉工学の研究開発課題(8)トリチウム工学 (07-05-02-08)
国際熱核融合実験炉(ITER)の概要 (07-05-03-01)
ITER計画の経緯−工学設計活動における詳細設計− (07-05-03-04)

<参考文献>
(1)トリチウムの影響と安全管理、日本原子力学会誌、39(11),914-942(1997)
(2)茨城県東海地区環境放射線監視委員会:茨城県環境放射線監視計画(1996年3月改訂)、p5
(3)茨城県公害技術センター:茨城県における放射能調査(第40報)(1997年3月)、p32
(4)石河寛昭:最新液体シンチレーション測定法、南山堂(1992)
(5)T. Iwakura,Y. Kashida,Y. Inoue,N. Tokunaga:A Low-Background Liquid Scintillation Counter for Measuring Low-Level Tritium, Proceedings of a Symposium ”Behavior of Tritium in the Environment”,IAEA-SM-232/32(1979) p163-171
(6)岩倉哲男、樫田義彦:液体シンチレーション計数技術(9)低放射能試料の測定、Radioisotopes、24(8),668-678(1975)
(7)科学技術庁:トリチウム分析法、日本分析センター(1977)
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