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ウランは自然界に存在する
核燃料物質として重要な元素である。そのため、ウランは鉱山、精錬工場、原子炉燃料加工工場および核燃料再処理施設等で天然ウランあるいは濃縮ウランなどの形で大量に取り扱われている。しかし、ウランは重金属であるので化学的な毒性を有し、また、ウランの全ての
同位体は放射性壊変するので、ウランを体内に摂取すると放射線による
内部被ばくを生じることになる。したがって、ウランを取り扱う作業者について、放射線防護のための
環境モニタリングが必要である。
微量のウランを放射能測定器によって測定する場合、ウランの同位体は
比放射能が低く、すべてα放射体であるので、微弱で
飛程の短いα線を効率的に測定する必要がある。このためには、ウランを不純物及び他の放射性元素から完全に分離して測定しなければならないので、放射化学的分離とα線の計数とに多くの労力と時間を必要とする。
蛍光分析によるウラン測定は、ウランを含む試料をフッ化ナトリウムを主成分とする溶融剤を用いて溶融した後、溶融体から発せられる蛍光強度を
蛍光光度計によって測定することによって行われる。この測定法は、ウランを分離することなく、比較的簡単な操作と装置でもって短時間のうちに極めて感度良く測定することができる。このため、作業環境モニタリングでの空気中ウラン濃度の測定、内部被ばくモニタリングにおける尿中ウランの測定、その他微量のウランを測定する場合などに幅広く用いられている。そのため、文部科学省の放射能測定法シリーズのウラン分析法でも、河川水、大気浮遊じんなどの極微量のウラン濃度の測定に適している、と採用されている。ただし、ウランの同位体組成に関する情報が必要な場合は、α線スペクトロメトリを組み入れた放射化学分析法によらなければならない。
なお、蛍光分析法で検出できるウラン量よりもさらに微量のウランを定量する必要がある場合には、さらに感度の良い放射化分析法が用いられることもある。また、最近では
レーザー技術の進歩により、紫外線を光源とする蛍光光度計の代わりにレーザーによる誘導蛍光を利用して、溶液状態でウランを測定する方法が確立されている。この方法によれば、5.0×10
−12g のウランが検出可能であるとされている。微量ウラン測定法の検出限界を、
表1 に示す。文部科学省の放射能測定法シリーズのウラン分析法にも陸水と大気浮遊じんの試料分析には、蛍光分析法が最も一般的であるとしている(
表2 、
表3 参照)。
(1) 測定法開発の経緯
ウランの化合物である
ウラニル塩が蛍光を発生することは古くから知られていたが、ウラニル塩をフッ化ナトリウムと溶融すると、紫外線によって強い蛍光を発することをNicholsとSlatteryが発見した。HerneggerとKarlikは、この現象をウランの微量分析に応用して、極めて微量のウランの定量に成功した。以来、この蛍光分析法は感度が高い(1.0×10
−10gのウランが検出可能)こと、妨害元素の少ないこと、短時間で多くの試料を処理できること、また定量範囲が1.0×10
−10gから1.0×10
−5gと広いことなどから微量のウランの定量分析法として広く用いられている。この蛍光分析法は、固体状の溶融体から発せられる蛍光を測定することにより行われるので、固体蛍光法または固体蛍光分析法と呼ばれることもある。
(2) 測定手順
蛍光分析によるウランの測定法としては種々の方法が報告されているが、基本的には次の4つのステップ、(a) 試料の調製、(b) 溶融剤の選定、(c) 溶融および(d) 溶融試料の測定から成り立っている。
(2.1) 試料の調製
試料の調製は、ろ紙上に捕集されたウランなどの固体試料の場合には、硝酸等の酸化性を有する酸を用いて溶液状とする。妨害元素の存在が疑われウランを分離する必要がある場合には、リン酸トリブチル(
TBP)、酢酸エチルなどの有機溶媒あるいは
キレート樹脂などを用いてウランを分離する。試料が尿である場合には、塩酸を加えて酸性とするかあるいはそのままで白金皿に一定量を取り蒸発乾固する。また有機物が多い場合には、必要に応じガスバーナーで赤熱状態まで加熱し酸化する。
(2.2) 溶融剤の選定
溶融剤には、(a) 純粋なフッ化ナトリウム、(b) フッ化リチウムを含むフッ化ナトリウム、(c) 炭酸カリウムと炭酸ナトリウムを含むフッ化ナトリウムがある。純粋なフッ化ナトリウムは測定時の蛍光放出感度は高いけれども融点(993 ℃)が高いので白金皿を侵す難点がある。 2%のフッ化リチウムを含むフッ化ナトリウムは蛍光放出感度が高く、また溶融物を白金皿から簡単に取り外すことが出来る優れた溶融剤である。また、50%程度の炭酸塩を含むフッ化ナトリウムは融点が600 ℃前後と低いため白金を侵さず、白金皿から溶融物を取り外すこともできるなどの利点があるため一般的に用いられる。
(2.3) 溶融
溶融にはガスバーナーまたは電気炉が用いられる。炭酸塩を含むフッ化ナトリウムは、白金皿を用いて電気炉中で650 ℃で10分間程度溶融することが多い。作成された溶融体の蛍光強度は、ウランの含有量が同一であっても溶融温度、溶融時間、冷却時間などの条件によって変動するので、再現性のよい良好な分析結果を得るためには溶融条件を一定にすることが必要である。
(2.4) 溶融試料の測定
蛍光強度の測定には、透過型あるいは反射型の蛍光光度計が使用される。蛍光光度計の原理は、一般的には水銀灯を光源とし、励起光フィルタを用い 365nmの波長の紫外線を溶融体に
照射する。発生する蛍光は 555nmの波長のものが最も強いので、この波長の蛍光透過フィルタと紫外線遮断フィルタに透過させたのち
光電子増倍管で受光して電流の強度に変換して読み取る。透過型の蛍光光度計では、溶融体を白金皿から取り外して測定する必要があるが、反射型では皿に入ったままで測定できる利点がある。純粋なフッ化ナトリウムを溶融剤とした場合には、溶融体が白金皿から取り外しにくい。一般には反射型の蛍光光度計が使用される。透過型、反射型の蛍光光度計とも、性能的には大差が無い。
(2.5) 尿中ウランの測定例
新鮮な尿試料1mlを白金皿に取り、赤外線ランプの下で蒸発乾固する。等量のフッ化ナトリウムと炭酸カリウムナトリウムから成る溶融剤 0.8gを加えて、ガスバーナーまたは電気炉を用いて溶融する。デシケーター中で放冷したのち反射型蛍光光度計により蛍光強度を測定する。ウランの標準溶液、例えばウランを 3.0×10
−8g/mlの濃度で含む溶液(硝酸ウラニルまたは八酸化三ウランを硝酸に溶解して調製する)の0.1ml、0.2ml、0.4ml、0.7mlおよび1mlをそれぞれ別の白金皿に取り、赤外線ランプを用いて乾燥したのち尿試料と同様に溶融して標準試料を作成し、それぞれの蛍光強度を測定する。ウラン量と蛍光強度の関係を方眼紙上にプロットして検量線を作成し、尿試料の蛍光強度をこの検量線にあてはめてウラン量を求める。この方法により 1.0×10
−9gオーダのウランの測定が可能である。尿中ウランの測定法を
図1 に示す。
(3)
消光(クエンチング)
蛍光分析法によるウランの測定においては、消光物質(クエンチャーとも呼ばれる)による妨害がある。消光物質としては、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、マグネシウム、鉄などが知られている。消光を補正する方法として、希釈法とスパイク法がある。このうち、希釈法はウランを含む試料を水で希釈して、蛍光強度が試料の量に比例しているかを確認することにより行われる。また、スパイク法は試料に既知量のウランを添加して、添加したウラン量に対する蛍光の増加量からその試料中のウラン含有量を求める。もし、消光物質による妨害を除く必要がある場合には、試料の調製で述べたようにウランを分離してから蛍光分析を行う。
(4) レーザ励起蛍光分析法
この新しい方法によれば、従来の蛍光分析法に比べて感度は1000倍(検出限界は1/1000)に改良される。
<図/表>
<関連タイトル>
核燃料 (08-01-03-07)
バイオアッセイ(排泄物等分析による体内放射能評価) (09-04-03-13)
スペクトロメトリ(α線、β線、γ線、中性子) (09-04-03-19)
放射化分析 (09-04-03-20)
文部科学省分析マニュアル (09-04-03-24)
内部被ばくの評価 (09-04-04-04)
作業環境モニタリング (09-04-06-01)
内部被ばくモニタリング (09-04-07-05)
<参考文献>
(1) 科学技術庁(編):放射能測定シリーズ14 ウラン分析法(1982年、1996年改訂) p1-2
(2) 労働省編:作業環境測定ガイドブック(4)−電離放射線関係− (1976).
(3) Harley,J.H.;HASL Procedures Manual-Fluorimetric Determination of Uranium in Urine,HASL-300,E-U-01-01 (1972).
(4) 武蔵工業大学原子力研究所報:「半導体材料中のU,Thおよびα放射体の分析法」に関する研究会論文,MITR-872 (1987).
(5) Robbins,J.C.;Analytical Procedures for UA-3 Uranium Analysis,Sintrex, Concord,Canada (1979).