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放射性ヨウ素は
原子炉の中ではウラン燃料の
核分裂によって生成されるが、生成量が比較的多く、揮発性であること、および体内に摂取した場合には選択的に
甲状腺に濃縮されることから、放射線管理上の主要な対象
核種となっている。また、発電用軽水型原子炉施設周辺の
線量目標値に対する評価指針(文献1)においても放射性ヨウ素ガスと
希ガスが主要な評価対象核種となっている。
1.空気中放射性ヨウ素の性状
空気中に浮遊する放射性ヨウ素は、種々の原因によって物理化学形態の異なった形で存在し、4種類のヨウ素種で代表されることが多い。それらは、元素状ヨウ素(I
2)、次亜ヨウ素酸(HOI)、ヨウ化メチル(CH
3I)および粉塵にヨウ素が吸着した粒子状ヨウ素である。例えば、1979年の米国スリーマイルアイランド2号原子炉TMI-2事故時に、補助建屋の排気フィルタ上流側で分析された排気中のヨウ素種の構成は次のようであった(文献2)。
ヨウ素種 | 濃度(mBq/cm3) | 非粒子状の割合(%) |
I2 | 2.5 | 35 |
HOI | 1.8 | 25 |
CH3I | 2.9 | 40 |
粒子状ヨウ素 | 2.7 | − |
このようなデータは平常時および事故時について多く報告されており、いずれの場合にも代表的な4種類のヨウ素種が異なった割合で含まれている。ヨウ素モニタは、これらのヨウ素種の全てを捕集し計測する必要がある。
2.ヨウ素モニタの構成
ヨウ素モニタは、
沸騰水型原子炉における気体状放出放射性物質試料採取系統概略図(
図1-1 )、加圧水型原子炉における気体状放出放射性物質試料採取系統概略図(
図1-2 )に示すように気体状放出放射性物質試料捕集部、放射線検出器、増幅器、記録部(レコーダ)および空気吸引部等から構成される。捕集部はヨウ素モニタ特有のものであるが、その他の部分は通常の放射線計測装置と基本的に変わらない。
捕集部の例を
図2 と
図3 に示す(文献3)。
図2は、捕集部分に粒子捕集用ろ紙、活性炭ろ紙および活性炭カートリッジが充填されている。最初のろ紙では粒子状ヨウ素およびヨウ素以外のものを含めた全ての粒子状物質が、後段の活性炭ろ紙および活性炭カートリッジではヨウ素ガス類が捕集される。検出器は、粒子捕集用ろ紙または活性炭ろ紙に捕集されたヨウ素を含めた全放射能を連続測定(モニタ)する。検出器には必要に応じてベータ線用あるいは
ガンマ線用のものが用いられる。活性炭カートリッジは捕集部から取り外したのち、
Ge(Li)半導体検出器などによるガンマ線波高分析によって放射性ヨウ素の放出するガンマ線(ヨウ素131では364KeV、ヨウ素133では530keV)に注目して精密な定量が行われる(文献4)。大気中放射性ヨウ素濃度の測定には、「緊急時における放射性ヨウ素測定法」(科学技術庁放射能測定法シリーズ)に準じて行う。
図3には、粒子状物質(放射性塵埃)とヨウ素の分離捕集型モニタの例を示す。連続測定は粒子捕集用ろ紙に対してと後段の活性炭ろ紙あるいは活性炭カートリッジに対して別々に行われる。
これらのヨウ素モニタは化学分析等と比較して測定が容易であるが、P、S、Hg、Cl、Brなど比較的揮発性の核種は粒子捕集用ろ紙を通り抜けて活性炭に捕集されることがある。活性炭に捕集された放射性の核種を波高分析によらないで連続測定する場合には、これらのヨウ素以外の核種の存在にも留意する必要がある。
3.ヨウ素捕集材の特性
揮発性物質の捕集には、固体捕集材の他に、アルカリ溶液等、対象放射性物質の化学形状に応じて適当な捕集溶液体を用いて捕集すること(
液体捕集法)も可能であるが、空気汚染モニタリングのためには、
固体捕集法を用いるほうが一般に実用的である。
多種類の化学形の低濃度ヨウ素をある期間(数時間〜数週間)効率よく捕集できること、捕集した放射性物質を定量するための測定が容易であることなどの要求によって、現在では活性炭捕集材が最も多く用いられている。活性炭ろ紙およびカートリッジの仕様を
表1 に示す(文献3)。
活性炭含浸ろ紙は繊維と活性炭細粒を混ぜてろ紙にしたもの、活性炭繊維ろ紙は活性炭繊維をろ紙状に編んだもので比較的最近開発され実用化されている(文献5)。また、活性炭カートリッジは円筒状カートリッジに活性炭の粉を充填したものである。有機ヨウ素成分(CH
3I、C
2H
5Iなど)の捕集効率を向上させるために、活性炭にトリエチレン・ジアミン(TEDA)などの薬品を添着したもの(添着炭)が広く用いられている。活性炭含浸ろ紙は、カートリッジに比べると捕集効率は一般に劣るが、β線計測が適用できるなどの利点もあり広く用いられている。
活性炭のほか、銀ゼオライトや銀アルミナを充填したカートリッジが用いられることもある。特に後者は放射性希ガスであるXeの吸着が極めて少ないために、事故時における希ガス(放射性Xe、Kr)とヨウ素ガスの混合空気中からヨウ素ガスを選択的にモニタするために有用である(文献6)。
活性炭捕集材の放射性ヨウ素に対する捕集効率は、活性炭層の厚さ、流速などの捕集条件、温度、相対湿度や不純物ガスなどの雰囲気条件、およびヨウ素の物理化学性状に大きく依存する。
活性炭含浸ろ紙とカートリッジの放射性ヨウ素に対する捕集効率の例を
表2 に示す(文献7)。対象となる放射性ヨウ素に対する捕集効率が測定されていない場合には、捕集条件に対して捕集効率を安全側に仮定して効率を求める。例えば、活性炭含浸ろ紙の捕集効率は、条件により変化するので、通常は捕集効率を有機ヨウ素成分の少ない場合には50%、有機成分の多い場合には10%と仮定して濃度を算出し、それが
調査レベルを超える時に活性炭カートリッジを用いて再度測定し、全ヨウ素濃度を測定するなどの方法をとることができる。
発電用軽水型原子力施設から放出される気体放射性物質の放出状況、物理的・化学的性状および放出管理の方法等を勘案して、排気系における必要なヨウ素131の測定下限濃度は7.0E−9 Bq/cm
3とされている(文献4)。活性炭カートリッジを用いて毎分50リットルで1週間連続サンプリングを行い、Ge半導体(有効体積60cm
3)
スペクトロメータで4000秒の測定を行うことによって、検出限界濃度を3.0E−9 Bq/cm
3まで下げることができる(文献4)。
<図/表>
<関連タイトル>
放射性気体廃棄物 (09-01-02-02)
空気汚染モニタリング (09-04-06-03)
スペクトロメトリ(α線、β線、γ線、中性子) (09-04-03-19)
モニタリングの種類 (09-04-05-02)
作業環境モニタリング (09-04-06-01)
放射性排出物の放出前モニタリング (09-04-06-05)
緊急時環境放射線モニタリング (09-04-08-04)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局原子力調査室監修:原子力安全委員会安全審査指針集(改訂9版)、発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針について、p379(1998)
(2)R.P. Bellamy,Investigations into the air cleaning aspects of the Three Mile Island accident,16th Air cleaning Conference,CONF-801038,Vol.2,1427(1981)
(3)日本アイソトープ協会:作業環境の放射線モニタリング −計画立案から評価まで− p57-67(1981)
(4)科学技術庁原子力安全局原子力調査室監修:原子力安全委員会安全審査指針集(改訂9版)、発電用軽水型原子炉施設における放射性物質の測定に関する指針、p442,p453 (1998)
(5)加藤、箕輪、村田、原田、石崎:活性炭素繊維を用いた空気中放射性ヨウ素モニタリング用フィルタの開発、保健物理、21,p9-15 (1986)
(6)加藤、野口、村田、今井、松井、国分:原子炉事故時の放射性希ガス雰囲気中からの有機ヨウ素の分離捕集、保健物理、17,p427-436 (1982)
(7)労働省安全衛生部労働衛生課:作業環境測定ハンドブック(4)−電離放射線関係− 59(1976)