<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設に係わる放射線防護
<小項目> 放射線防護の諸量
<タイトル>
放射線被ばくに伴う損害(デトリメント) (09-04-02-08)

<概要>
 「損害デトリメント)」は、ICRP放射線被ばくに伴って生じる有害な健康影響を定量化するために導入した概念で、ICRP 1990年勧告における線量制限体系の基礎をなす主要な考え方の一つである。「損害」は、被ばくした人々の集団において、誘発されるがん及び遺伝的影響の発生確率とその重さの程度を考慮にいれた統計的な量である。すなわち、損害は、低線量放射線被ばくによる致死がん及び遺伝的影響の成分だけでなく、非致死がんに相当する成分を含んでいる。また、がんの種類で決まる平均の寿命損失期間に対する重みづけがなされ、また遺伝的影響に対する成分も考慮され、実効線量と関連づけられている。
<更新年月>
2002年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.損害の定義
 一般に損害という用語は、ある行為によって被る生命や健康の損失、経済的・精神的な不利益のことに使われているが、放射線防護の分野では、国際放射線防護委員会(ICRP)が放射線被ばくによって起きる有害な健康影響を定量化するために 1990年勧告(ICRP Publication 60)で導入した「損害(デトリメント)」という概念を指している。損害は確定的影響が起きるような高い線量では用いられず、低線量・低線量率(低線量全身被ばくで0.2グレイ以下の吸収線量、または、線量率が0.1グレイ毎時未満)で用いられる考えである。損害は、非致死がんによる健康損失の程度、発現時期による寿命損失、遺伝的影響によって損なわれる期間等の重篤度を考え、それら重篤度に関連させて決めた荷重(複数の荷重も考えられる)で重みづけした数量的な概念である。それら重みづけされた発生確率である損害を合計して、全損害を求めることもなされ、この全損害は実効線量と関連づけられている。このように損害は、被ばく集団における致死及び非致死がんの発生頻度、寿命損失の期間などの統計量をもとに導かれているので、これも一種の統計量である。
2.職業被ばくにおける線量限度と損害の属性
 ICRPは、死亡あるいは重篤な遺伝性疾病が放射線によって起こる確率は損害の主要な因子であるとした上で、損害を十分に表現するため、死亡による寿命損失と非致死性の疾病を含む他の因子も線量限度の数値を決めるために取り上げた。これらの互いに関係のある因子は、属性(attribute)と呼ばれている。死亡と関連する属性には次のようなものがある。
   放射線被ばくによる死亡(寄与死亡)の生涯期間における発生確率
   寄与死亡が起こった場合の損失期間
   平均余命の減少(上記2つの属性の組合せ)
   寄与死亡確率の年分布
   年齢別死亡率の増加、すなわち、その年齢まで生きることを条件として、
  任意の年齢で1年に死亡する確率の増加
 線量限度の根拠となりうる値として検討のために選ばれた年実効線量の試行値(10mSv、20mSv、30mSv、50mSv)に対する諸属性は 表1 のとおりである。この数値に対して、参考のために、第6欄に1977年勧告の致死がんの発生確率のデータから求められた結果が付け加えられている。
 寄与死亡の年間確率の時間にともなう変化も重要であり、これを 図1 に示す。
3.損害の数量的算定
 1990年勧告では、すべてのがんについて寿命損失の平均値(L)を15.0年と見積もっている。各がんについての平均値(λ)との比λ/Lを損害に関する補正係数とする。また、重篤な遺伝的影響に対し平均値として20年の寿命損失を割りあて、補正係数を1.33とした。非致死がんの損害への寄与を考慮するため、各種類のがんにおける致死がんの発生確率に致死割合(k)で重みづけした非致死的な成分を加えた。したがって、ある組織のがんの死亡症例がFあったとすれば、発生したがんの全数はF/kとなる。そこで、非致死がんの数は(1−k)F/kとなり、この組織の荷重損害全体は、F+k(1−k)F/k=(2−k)Fとなる。したがって、荷重された影響の確率は、対応する致死確率に(2−k)をかけることによって算出される。 表2 は、ICRPが用いた全集団に対する各組織の致死がん確率(名目致死確率係数)、致死割合及び寿命損失である。また、全損害に対し各器官臓器の相対的寄与を 表3 に示す。第1欄は致死がん確率(F)、第2欄は重篤な遺伝的影響の寄与を示す。第3欄は各致死がん及び遺伝的影響によるによる寿命損失年数の相対値を示す。第4欄は、表1のkを用い、(2−k)の推定値を、第5欄にはF・λ/L・(2−k)で定義される各組織及び合計の損害の推定値を示す。単位は、低線量放射線Svあたり、すべての年齢の人1万あたり損害発生数である。最後の欄は、全損害に対する個々の組織の相対的寄与を示している。
4.組織荷重係数の誘導
 全損害に対する各組織の相対的な寄与(表3の最後の欄)は、ICRP 1990年勧告の組織荷重係数のもととなった。数値を丸めて、4段階として次のとおり各組織に割当てた。
組織荷重係数  0.01骨表面、皮膚
0.05膀胱、乳房、肝臓、食道、甲状腺、残りの組織・臓器
0.12骨髄、結腸、肺、胃
0.20生殖腺

<図/表>
表1 作業者集団の被ばくによる損害の諸属性
表2 ICRPが用いた全集団に対する各組織の致死がん確率(名目致死確率係数)および致死割合と寿命損失
表3 全損害に対する各組織の相対的寄与
図1 18歳から65歳までの被ばくに対する年死亡確率(女性)

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<関連タイトル>
放射線の急性影響 (09-02-03-01)
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ICRPによる放射線防護の最適化の考え (09-04-01-07)
実効線量 (09-04-02-03)

<参考文献>
(1) 日本アイソトープ協会(翻訳):ICRP Publ.26、国際放射線防護委員会勧告、丸善(1977年17月)
(2) 日本アイソトープ協会(翻訳):ICRP Publ.45、統一された害の指標を作成するための定量的根拠、丸善(1985年3月)
(3) 日本アイソトープ協会(翻訳):ICRP Publ.60、国際放射線防護委員会の1990年勧告、丸善(1992年7月)
(4) Bernard Shleien(ed):The Health Physics and Radiological Health Handbook,Scinta,inc.,Silver Spring,MD,USA(1992)
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