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<概要>
 白血病は「血液のがん」であり、急性と慢性、および骨髄性とリンパ性に大別される。白血病は遺伝的素因に重なって、ウィルス、化学物質、放射線などの環境因子が作用することによって誘発されると考えられている。日本での発生率は全体として10万人当り4人程度で、男女差は殆どない。発生頻度の最も高いのは急性骨髄性白血病(60%)であり、次は急性リンパ性白血病(25%)である。小児に多いのは急性リンパ性白血病である。放射線によって誘発されるのは慢性リンパ性白血病を除くその他の白血病である。
<更新年月>
2002年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.白血病とは何か
 白血病は簡単にいうと「血液のがん」であり、より学問的にいうと白血球生成組織(造血細胞)のがん性の増加である。一般的な病変としてはがん化した造血細胞(異常型赤血球、白血球、巨核球)が骨髄、リンパ節および末梢血中に異常に増加し、かつ、臓器内に侵入しそこで増殖する。白血病は経過の緩急から(1)急性白血病、(2)慢性白血病、に分類される。関与する造血細胞系の種類からは(1)骨髄性白血病、(2)リンパ性白血病、(3)単球性白血病、(4)赤白血病(あるいは赤血病、または多血症ともいう)、(5)血小板血症(巨核球性白血病)に分類される。FAVB(French American・British)研究協力グループによる分類が一般的であるが、臨床面からの詳細な検討が不断に続けられている( 表1 )。
 症状としては急性白血病の場合は発熱、貧血、出血(鼻、歯肉)があり、白血球の増加、白血病細胞の出現、リンパ節、肝臓、脾臓のはれ(腫大)が認められることが多い。慢性白血病では激しい症状はなく腹部の膨満やリンパ節の腫れなどで白血病を疑うことになる場合が多い。
2.白血病の発生の状況
 白血病は日本では年間10万人に対して4人ぐらいの頻度で発症しており、男女差はほとんどないとされている。発生頻度は急性骨髄性白血病が最も多くて60%、次いで急性リンパ球性白血病で25%、そして慢性骨髄性白血病が15%で慢性リンパ球性白血病は稀とされている。発症年齢からみると骨髄性白血病は加齢とともに増加する傾向をとるが、リンパ性白血病では5〜19歳にかけて中等度ピークがあり、小児期の急性リンパ球性白血病の発症を特徴づけている。次いで20〜34歳で発症が減って谷をなし、次いで70歳代に高いピークを示す2峰性の発症を示している。細胞型別性年齢別白血病死亡率について男性を 図1 に、女性を 図2 に示す。
3.放射線による白血病
 白血病の原因は殆ど解明されていない。ごく一部だが電離放射線、ベンゼンやアルキル化剤などの化学薬剤、ヒトT細胞白血病ウィルスなどのウィルスによって、白血病の発症率が増加することが報告されている。現在のところ白血病は「遺伝的素因のうえにウィルス、化学物質、放射線などの環境因子が重なりあって誘発される」と推定されている。
 白血病と放射線被ばくとの相関性について次に述べる。放射線および放射性物質の管理が行き届かなかった時期にはかなりの発症があったと推定されており、放射性同位元素ラジウムの発見者であったキュリー夫人も白血病で亡くなったのではないかと言われている。白血病と放射線との相関性はヒトでは被ばく者集団における疫学的調査において、線量・反応関係が樹立された場合のみ関連ありとする。その中で、広島、長崎の原爆被ばく生存者の調査研究が最も大規模であり、その他に強直性脊椎炎 X線 治療患者、胸腺肥大X線治療児などの調査研究がある。原爆被爆者を対象にした研究結果では推定全身被ばく線量が0〜20cGy(センチ・グレイ)のほぼ8500人では発症は非被ばく者発症予測値の1.1倍、21〜80cGyでは、ほぼ13000人のうち発症は同予測値の2倍、81〜320cGyでは、ほぼ8600人のうち発症は同予測値の12倍と、被ばく線量に応じて発症が予測値より増加していることが認められる。
 国際放射線防護委員会ICRP、1977)では上記の調査研究などを基にして白血病が誘発されて死亡する確率を2.0E−5/人年/Gyとしている。放射線全身被ばくによってがん(白血病を除く)になって死亡する確率は1E−4/人年/Gyである。
4.放射線により誘発される白血病の病型
 原爆被爆者でみると放射線非誘発と言われる慢性リンパ性白血病以外のすべての型の白血病が認められている。また、発症の経時的変化については、被ばく後2年から増加が始まり5〜8年後に発症ピークがあり、20年後にはほぼ全国平均レベルまで下降している。他の被ばく集団においても、予測値より高い値が認められており、放射線被ばくによる白血病の誘発は疑いのないことと言える。白血病の誘発は被ばく線量に依存しているが、被ばく線量がある値以下であれば誘発が認められないという線量が存在するかといった、しきい値の存在に関しては議論があり結論が得られていない。
 放射線誘発白血病のリスク推定のために、動物を用いた放射線誘発実験にする検討が続けられている。
5.白血病の病態
 正常人の血液の中には見られない未熟な白血球様の腫瘍細胞、即ちがん化した血球系由来のがん細胞が血管内を流れている病的な状態が白血病である。血管内に流れている血球は健康人であれば、造血臓器である骨質に囲まれた内腔にある骨髄とリンパ節で主に作られて、血液の内に送り出されている。骨髄には、造血幹細胞と言われる血球のおおもとの細胞があり、未成熟であるが自身が分裂して増える能力があり、この細胞が分化して血球などに成熟する過程でがん化して、分化能が停止し増殖した異常細胞が、白血病の本体であり、白血病が血液のがんと呼ばれる所以である。
 したがってがん病巣は最初は骨髄内に発育し、次第に全身の骨髄におよび、次いで肝臓、脾臓その他諸臓器の細胞と細胞との間の間質内で浸潤増殖し、白血病細胞に隣接した正常の組織構造を破壊する。骨髄の内にあっては白血球、赤血球、血小板のもととなる幹細胞からの増殖や、それぞれの血球がその機能を持つように発達していく過程(分化)にある細胞の増殖・分化の阻害からそれらの細胞数の減少、次いで、それぞれの機能を具えた成熟した血球が血液内に供給され難くなる(造血器官への影響の項参照)。その結果は血液内の血球の減少となって表れてくる。
 好中性白血球や単球の減少はこれらの細胞による感染症の防御の役割が果たされず、肺炎などの感染症になり易くなる。赤血球の減少は貧血で、酸素運搬機能が障害され組織の呼吸代謝の低下(内窒息)が惹き起こされる。血液凝固作用を持った血小板の減少は出血傾向をもたらして、出血し易くなり、傷口の血が止まらない現象となる。よって、白血病の末期は感染症か、内窒息か、出血による死がもたらされる。以上が白血病の3大死因で、出血死が30%、感染症死が20%、内窒息がほぼ15%で、他はこれらの混合とみられている。
<図/表>
表1 白血病の分類
表1  白血病の分類
図1 細胞型別性年齢別白血病死亡率、男性(1987)
図1  細胞型別性年齢別白血病死亡率、男性(1987)
図2 細胞型別性年齢別白血病死亡率、女性(1987)
図2  細胞型別性年齢別白血病死亡率、女性(1987)

<関連タイトル>
放射線の身体的影響 (09-02-03-03)
放射線の造血器官への影響 (09-02-04-02)
晩発性の身体的影響 (09-02-05-01)
がん(癌) (09-02-05-03)
国連科学委員会(UNSCEAR)によるリスク評価 (09-02-08-02)
ICRP1990年勧告によるリスク評価 (09-02-08-04)
英国における原子力施設周辺の小児白血病 (09-03-01-01)

<参考文献>
(1) 佐々木隆一郎、青木國雄:白血病頻度分布の最近の動向、医学の歩み、152(13)、p.800(1990年)
(2) 大西義久、根本啓一:白血病の病理、現代病理学大系、18A,p.187(1989年)
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