<本文>
1.「がん」とは何か
かな書きの「がん」は
悪性新生物一般を示す総称である。また、
腫瘍(tumor)という語は原因を問わず「腫れ」一般を示すこともあるので、最近は厳密さを示すときには新生物(neoplasm)を用いる傾向にある。新生物とは生体内に発生し、過剰に発育した組織であり、生体から制御されることなく発育を続ける性質を具えた組織である。新生物の組織構造は増殖を続けている新生物細胞とこの細胞を支える毛細血管と結合組織からなる基質の2成分から構成されている。
増殖する新生物細胞の性質によって上皮性と非上皮性とに大別される。上皮性とは細胞と細胞とが細胞結合装置を介して細胞・細胞結合をする細胞の性質と、これらの細胞群が基底膜上に位置する細胞の性質の二つの性質を指している。この性質を欠いた細胞を非上皮性であるという。上皮性組織は正常では体表を被っている
扁平上皮組織(
図1 )や消化管や腺組織等にみられる腺上皮組織(
図2 )に大別される。上皮性の性質を具えた新生物、すなわち上皮性新生物は上記の上皮性組織から発生することが多い(
表1 )。一方、非上皮性組織に含まれる細胞は線維芽細胞をはじめとして体幹をなしている骨細胞などがある。
新生物の性質は大きく良性と悪性の2つに分かれる。良性の新生物は膨張性の発育、すなわち、その周囲の既存の組織を壊すことなく押し退けて、圧排するような発育をする。一方悪性新生物(がん)はその周囲の既存の組織を壊して、組織間内に入り込んで発育をする破壊性浸潤性発育をし、血管やリンパ管を壊して浸潤し、新生物の一部は、血液やリンパに乗って他臓器に到達してそこで発育をする(転移)。
新生物は発生母地の組織に大なり小なり類似性を持っているが、正常の構造などの
形質からの隔たりを異型性といい、悪性では異型性が高度となる傾向を有する。すなわち、正常と異なって組織構造が歪み乱れているとか(構造異型性)、組織を構成する細胞が大小あり不揃いである(細胞異型性)等の所見が悪性新生物には認められる。
上記の悪性の性質を具えた上皮性新生物をがん(腫)(carcinoma)といい、非上皮性新生物を
肉腫(sarcoma)と呼んでいる(
表1参照)。「がん」とはこの二種類の悪性新生物の総称である。
2.がんの性質による分類
がんはがん細胞の性質から三種類に大別される。すなわち、
扁平上皮癌、
腺癌、未分化がんで、扁平上皮癌は
図1に見られるようにがん細胞巣の外側から内方に向かって扁平上皮組織構造に類似した細胞の配列がなされており、がん細胞巣の中心には角化物質が見られ、がん真珠と呼ばれている。腺癌は
図2に示されているように正常の腺管構造と相違した構造(異型性)をしている。上記2種のがん腫に類似性を認められないような構造をしたがん腫を未分化がんと名付けている。一方、肉腫はがん腫のように細胞巣を形成することなく発育するが、肉腫細胞の細胞質内か、細胞外に肉腫細胞特有の物質を正常より多いか、少ないか異常量を産生する。例えば骨肉腫では骨質を肉腫細胞の周囲に産生する。また、脂肪肉腫では一部の肉腫細胞内に脂肪滴が産生される。よってこれら肉腫は骨形成性肉腫、脂肪形成性肉腫とも言われ、肉腫細胞は大なり小なり物質産生能を具えている。
3.がんの統計、がんの原因
悪性新生物により死亡した頻度の臓器別分布を厚生省(現厚生労働省)の統計からみると、肺、胃、子宮、乳腺のがん死亡が高い(
表2 )。
新生物の発生原因には、ヒト成人T細胞性リンパ腫におけるウイルス、原爆被爆生存者の慢性骨髄性白血病における
放射線、そして煙突掃除人の皮膚がんのタール等の物質がある。これらの物質が細胞や遺伝子のどの部分にどのような作用をして発がんがおこるのかは次第に明らかになりつつある。
特にがんと放射線被ばくの関連については晩発性の身体影響の項を参照。
<図/表>
<関連タイトル>
晩発性の身体的影響 (09-02-05-01)
白血病 (09-02-05-02)
白内障 (09-02-05-04)
放射線が寿命に与える影響 (09-02-05-05)
ICRP1977年勧告によるリスク評価 (09-02-08-01)
国連科学委員会(UNSCEAR)によるリスク評価 (09-02-08-02)
<参考文献>
(1) 厚生統計協会:国民衛生の動向、「厚生の指標」臨時増刊(1990年)
(2) 飯島 宗一ほか(編):「現代病理学大系9A」(1985年12月)