<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線の医学利用
<小項目> 診断
<タイトル>
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)

<概要>
 現在、医療の分野でX線ラジオアイソトープ(RI)は病気の診断、治療に欠かすことができないものとなっている。特に、がん(癌、ガン)の放射線治療法は外科的な手術による方法、抗がん剤による化学療法とともにがん治療に重要な地位を占めている。免疫力を高める免疫療法も注目されている。それぞれ特長があり、最近はこれらの方法を組み合わせた治療(集学的治療)が行われている。
 ここではラジオアイソトープを用いたがん治療に重点をおき、さまざまな疾病の診断、治療における放射線の利用について概観する。
<更新年月>
2013年02月   

<本文>
1.放射線による診断
 放射線のもつ物質透過力や写真作用は、病院において病気の診断に日常的に利用されている。たとえば体にX線を照射して、体を通り抜けたX線を写真撮影して体の中の様子を調べることができる。一般によく知られているのが胸部の健康診断でおなじみのX線撮影である。以前は集団検診で結核の発見が主な目的であったが、装置及び技術の発展が進み、現在では肺がんの早期発見に重点が移っている。胃のX線検診も胃がんなどの胃の疾病の発見に役立っている。X線を一方向から照射し、胸の中の空気を利用してその反対側にあるフィルム上に患部を濃淡で写しだすもので単純X線撮影といわれている。骨折の検査のような時にもごく普通に使われている。蛍光増感紙を用いれば感度が上がりクリアな画像を得ることができる。しかし、小さい患部やX線の透過がほとんど変わらない患部は、フィルムの濃淡では捉えられないことがある。このような場合には造影剤を使うとX線の吸収の差を強調することができるので患部が明瞭となり診断が容易になる。造影剤にはバリウム(硫酸バリウム)が主に用いられるが、胆道系や血管の検査にはヨウ素剤(ヨウ化カリウム)が用いられる。バリウムはX線を透過しにくいので胃の内壁に付着し、コントラストがついた胃の形や動きを検査することができる(これを「X線造影検査」という(図1参照))。また、ヨウ素剤もX線を透過しにくいので血管内に注射すると血管そのものを写しだすことができる(これを「血管造影検査」という)。ほかに、気管支、関節、脊髄、胆のうなどの患部の造影検査も有効である。バリウムやヨウ素剤のような造影剤を陽性造影剤、空気、酸素、二酸化炭素のような造影剤を陰性造影剤という。
 これらのX線撮影で得られたものは二次元の画像であるため、重なり合った各臓器を一枚のフィルムでは識別できない。そこで、X線CT検査と呼ばれるさまざまな方向からX線を照射して体の横断画像をブラウン管に画きだす方法が開発された。これにより、臓器の重なりがなくなり、より小さな異常を捉えることができるようになり、X線診断に大きな進歩をもたらした。考案者のハウンズフィールド(Godfrey N.Hounsfield)はその功績によりコーマック(Allan M.Cormack)とともに1979年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
 最近では、体の軟組織の間の密度差をフィルムに写しだす方法に代わるものとしてコンピュータラジオグラフィ(CR)が開発され、フィルムでは見つからなかった異常を見つけだすこともできるようになった。さらに、連続回転型管球と移動する寝台を組み合わせ、広い範囲を一時に走査できるようにしたヘリカルCT、スパイラルCTが開発され、肝臓や肺などの大きな臓器も瞬時に撮影できるようになり診断が一段と進歩した。体の正面から輪切りにした像と体の側面から輪切りにした像とを組み合わせて三次元画像を得ることもできるようになった。
 ラジオアイソトープ(RI)から出る放射線を使って病気を体内または体外から診断する方法がある。これを“核医学検査”あるいは“RI検査”と呼ぶ。体内診断の場合、特定の臓器に集まり易い医薬品にRIで印をつけた(標識した)いわゆる“放射性医薬品”を用いる。放射性医薬品が検査したい特定の組織や臓器に取り込まれるとその部位から放射線が放出されるので、これをガンマカメラまたはシンチレーションカメラと呼ばれる特殊なカメラで撮影し、臓器の形を画像としてフィルムの上に写しだすことができる。このような方法をシンチグラフィと呼ぶ。患部があれば放射性医薬品は正常な場合と異なる分布を示す。断層撮影を行ったり、コンピュータを使って動画にして診ることもできるので、脳の血流や臓器の動きや働きを詳しく知ることができる。放射性医薬品に用いられるRIには、特定の臓器や疾患に親和性が大きく半減期の短いこと、さらに排泄の速いことが必要である。
 また、透過力の大きいガンマ線を出すことも画像診断を行うのに適している。たとえば、テクネチウム99m(99mTc、半減期:6時間)、ガリウム67(67Ga、半減期:3.2日)、タリウム201(201Tl、半減期:72.9日)のようなRIが、がんの骨転移、脳、心筋の血流状態のほか、甲状腺や肺、腎臓など多岐にわたる疾患の診断に使われている。その中でも99mTcで標識した放射性医薬品を利用した検査は最も多く実施されている(図2参照)。2007年に行われた核医学検査を実施している全国1,309施設を対象としたアンケート調査の結果、PET検査を除く年間のインビボ検査(体内検査)件数は約140万件で、その内64%にあたる約90万件が99mTcによる検査である。99mTcを用いた検査が多いのは、物理、化学的特性が優れている(半減期が6時間と短い、ガンマ線エネルギー141keVが検出に適している、様々な放射性医薬品を作りやすい)ためである。さらに、気体状にした酸素15(15O、半減期:2分)、炭素11(11C、半減期:20分)、窒素13(13N、半減期:9.9分)のRIを診断に用いて、気道、気管支、肺胞などの異常を探すことも可能である。これらの診断技術に画像処理技術を取り入れたのが、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)である(図3参照)。
 放射性医薬品について、最近ではポジトロン(陽電子)を放出するRI(15O、11C、13N)の化合物が注目されている。普通は電子がマイナスの電荷を持つのに対し、ポジトロンはプラスの電荷を持った電子で、エネルギーを失うとただちに普通の電子と結合して、この2個の電子は消滅するが、その時、互いに反対方向に一対のガンマ線(511keV)を放出する性質がある。この性質を利用したのがポジトロン断層画像である。CTと同じように断層面内にあるRIを描きだす方法で、PETと呼ばれる。たとえば、11Cで標識した放射性医薬品を注射後、PETを用いることで脳の中の病態がわかる。最近注目されているアルツハイマー病では脳内の代謝物質であるアセチルコリンの活性が低下していることが、PETを使用することにより画像でわかるようになった(図4参照)。また、フッ素18(18F、半減期:109分)で標識したブドウ糖の集積像から脳におけるブドウ糖の消費量の変化が診断できる。ポジトロンを放出するRIは一般に半減期が短いので患者の被ばく量も少なくてすむ。
 一方、体外診断は、患者から採取した血液や尿などに含まれているホルモンやがんに関連する微量な成分を調べて病気の診断を行う方法で、ラジオイムノアッセイ(放射免疫測定法:RIA)という。
2.放射線による治療
 放射線の医療への利用で最も効果的なのががんの治療である。放射線療法は表1に示すように外科手術による方法、抗がん剤による化学療法とともにがん治療に重要な地位を占めている。がん細胞のように細胞分裂の盛んな細胞は、放射線感受性が高いので放射線療法の効果が大きい。放射線によるがんの治療の中で最も一般的なのは体外照射装置で行う“体外照射法”である。この場合、普通、透過力の強いX線やコバルト6060Co、半減期:5.27年)、イリジウム192(192Ir、半減期:73.8日)などから放出される強力なガンマ線が用いられる。ガンマ線照射装置で注目されているのが“ガンマナイフ”である。周辺の正常細胞を壊さずにガンマ線を患部に集中的に照射できるのが特長である。その原理は、凸レンズで光を一点に集めるように60Co線源から放出されるガンマ線を集めて患部に照射するもので、その鋭利さからナイフにたとえられている(ラジオサージャリー(ガンマナイフ、リニアックナイフなど)<08-02-02-10>参照)。
 X線やガンマ線のほかにサイクロトロンから発生させる速中性子線や陽子線、さらに最近ではシンクロトロンから発生する重粒子線のような放射線が利用されている。速中性子線はX線やガンマ線よりもがん細胞を殺す力が強いといわれているが、ガンマ線や速中性子線は体の皮膚表面近くのがんには効果があるが深い部分には適さない。一方、陽子線はある深さでの作用は強いがその前後での作用は弱いので、患部に集中的に照射することが可能であり正常組織への障害を小さくすることができる。ヘリウム、炭素、ネオン、アルゴンなどの重粒子(重イオン)線はがん細胞を殺す力も強く、陽子線と同様に患部に集中して照射もできるので、がんの新しい放射線治療法として注目されている。臨床試行も行われ好結果が得られている。
 2012年2月現在、国内の陽子線治療は、国立がん研究センター東病院、筑波大学附属病院陽子線医学利用研究センター、兵庫県立粒子線医療センター、静岡県立静岡がんセンター、南東北がん陽子線治療センター、福井県立病院陽子線がん治療センター及びメディポリス医学研究財団がん粒子線治療研究センターの7施設で行われている。炭素イオン線治療は(独)放射線医学総合研究所、兵庫県立粒子線医療センター及び群馬大学医学部附属病院重粒子線医学センターの3施設で稼働しており、現在計画中のものもある。(重粒子線照射によるがんの治療 <08-02-02-01>参照)
 ガンマ線をだすRIを密封線源とし患部に埋め込んで治療する方法もある。線源に、粒状あるいはワイヤー状の192Irや金198(198Au、半減期:2.69日)を用いるので、小線源治療ともいわれ、舌がん、食道がん、子宮がんなどに適用されている。密封線源を数時間から数日間、患部に置いておくことにより集中的に放射線の照射ができ、ほかの組織、臓器への影響が小さいのが利点である。
 さらに、主にベータ線を放出する特定のRIをがんに集めて治療する方法(内用療法)もある。たとえば、ヨウ素131(131I、半減期:8日)が甲状腺に集まる性質を利用して甲状腺がんやバセドウ(Basedow)病を治療するものである。骨に転移したがんによる疼痛を和らげるためにストロンチウム89(89Sr、半減期:50日)なども用いられている。
 子宮や食道などのがんにRALS線源をできるだけ近づけて行う“腔内照射”、手術の際に行う“術中照射”などの方法も有効な手段として用いられている。
 このほか、悪性リンパ腫にイットリウム90(90Y、半減期:64時間)、多血症にリン32(32P、半減期:14日)が用いられたこともある。
 最近、肉類や乳脂肪分が多い欧米並みの食生活になったため、年間14,000人以上が前立腺がんと診断されている。これにはヨウ素125(125I、半減期:59日)の密封線源による放射線治療が行われている。(米国では、年間数万件程度放射線治療が行われている。)
 “中性子(捕捉)療法”あるいは“原子炉療法”と呼ばれている脳腫瘍の治療法も注目されている。脳腫瘍に集まる性質のあるホウ素(B)化合物を患者に投与したのち、脳の部位に原子炉からの中性子線をあてると10B(n,α)の核反応によりα粒子(ヘリウム原子核)とLi反跳核(リチウム原子核)が放出される。これらの荷電粒子は、組織内でそれぞれ約9μm及び約5μmの飛程を有しており、この飛程は腫瘍細胞の1個分の大きさに相当する。このため理論的には、正常な脳神経細胞などをほとんど傷つけることなく腫瘍細胞のみを細胞レベルで選択的に破壊することが可能となる(中性子を用いたがんの治療(中性子捕捉療法)<08-02-02-05>参照)。現在では原子炉に代わって加速器による中性子源の開発を進める流れにあり、わが国でも複数のプロジェクトが進められている。
3.放射線利用の経済規模
 これまでみてきたように、医学・医療における放射線利用は放射線診断ならびに放射線治療に有効であり、急速に進展している。それにともない経済規模は確実に拡大傾向を示している。平成17年度の国民医療費は33兆1,289億円であり、放射線による医学・医療行為の経済規模は1兆5,061億円である。今後、がん検診の普及・高齢化社会などの社会的背景によりさらに経済規模は増大することが予想される。
(前回更新:2005年2月)
<図/表>
表1 がんの治療法の種類
図1 ディジタル透視X線撮影システム
図2 99mTcを用いた骨シンチグラフィによる骨の診断
図3 カメラ回転型SPECT装置
図4 アルツハイマー患者の診断

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
放射線利用の経済的規模 (08-01-04-06)
X線診断 (08-02-01-01)
重粒子線照射によるがんの治療 (08-02-02-01)
放射線によるがんの治療(特徴と利点) (08-02-02-03)
中性子を用いたがんの治療(中性子捕捉療法) (08-02-02-05)
ラジオサージャリー(ガンマナイフ、リニアックナイフなど) (08-02-02-10)

<参考文献>
(1)渡利 一夫、稲葉 次郎(編):放射能と人体、研成社(1999年6月)
(2)河内 清光:医療での放射線利用、放医研ニュース、No.40(2000年)
(3)中村 佳代子:医療と放射線、放射線教育フォーラムニュースレター、No.11(1998年)
(4)久保田 進:放射線治療ハンドブック、ERC出版(1999年)
(5)森田 晧三(編):がんに克つ驚異のHIMAC、「難治がん」に効く重粒子線治療、ミリオン出版(1996年)
(6)入江 俊章:ポジトロンCTによるアルツハイマー型痴呆患者の脳内アセチルコリン・エステラーゼ活性の測定、放医研NEWS、No.10(1997年7月号)
(7)有水 昇(監修):標準放射線医学、第5版、医学書院、1999年12月
(8)村上昌雄:粒子線がん治療の現状と将来、エネルギーレビュー、2012.5、p.15-18
(9)山本和高:粒子線がん治療の現状と将来、エネルギーレビュー、2012.5、p.19-22
(10)日本原子力研究開発機構:17年度(2006年)研究炉加速器管理部年報、JAEA-Review 2006-036
(11)井上登美夫:最新調査による放射線利用の経済規模、III 医学・医療利用分野、放射線と産業、No.122 (2009)
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