<本文>
非侵襲的な(メスで開創しない)外科的治療法としてラジオサージャリー(Stereostaic Radiosurgery:定位放射線手術)がある。病巣を正確に位置決めして(「定位」という)放射線を三次元方向から集中させて照射する治療法であり、
60Coのγ線を用いるガンマナイフと、リニアック(LINAC:Linear Accelerator,ライナック:直線型電子加速器)X線を用いるリニアックナイフ(ライナックナイフ、Xナイフ)およびサイバーナイフとがある。ガンマナイフはスウェーデン(カロリンスカヤ大学、ノーベル賞の生理学・医学賞の選定者)で開発したものであり、X線を用いる方法は米国で開発したものである。両方法の治療成果はほぼ似たようなものである。なお放射線療法の治療成果がわかるまでは照射後数ヶ月から二、三年かかる。
1.ガンマナイフ
1.1 ガンマナイフの歴史と現状
ガンマナイフ(Gamma Knife)はスウェーデンの脳外科医ラース・レクセル(Lars Leksell)が1951年に考案した。1987年に世界で5台目の装置が米国に導入されてから急速に世界に広まった。日本では1990年に東京大学に導入以来2002年6月の時点で37台が稼動している。世界では156台である。治療症例数は2002年6月現在、日本で48,734例、世界で180,222例(2001.12.31)に達している(
表1参照)。
1.2 ガンマナイフの構造と線量分布
ガンマナイフは、頭部の周囲に201個のコバルト60のガンマ
線源ペレット(1個あたり1.11TBq、30Ci)を半球面状に5列配置し,線源
コリメータと患者のヘルメットコリメータとによって、201個の線源から出る細いビーム状ガンマ線が頭蓋内の一点に集中するようにしたものである。誤差が0.3mmという正確さで大量照射ができる。
図1にガンマナイフの構造(横断面図)、
図2にガンマナイフの断面図を示す。ヘルメットコリメータ(孔)の直径は4、5、14、18mmの4種類あり、病巣の大きさにあわせて選択する。装置構成上一回照射が原則(数分から10数分)。
1.3 ガンマナイフ治療の特徴
(1) 長所
a.手術(メスで開創)ができないような脳深部の病変や、手術後に重篤な神経学的後遺症を生ずる可能性の高い運動野や言語野などの部位の病変の治療が可能である。
b.全身麻酔の必要もなく出血も伴わないので、高年齢者や全身状態が悪く、開頭手術ができない症例にも行える。
c.手術による場合のような合併症の危険がない。
d.放射線抵抗性で分割照射法による通常の放射線治療では制御できないような疾患でも効果が期待できる。
e.治療は通常2泊3日の入院で済み、他の方法に比べて入院期間や治療期間が短い。
(2) 短所
a.治療適応の病変に大きさなどの点で制限がある(通常径25mm以下)。
b.治療直後に病変が消失あるいは縮小するわけではない。
c.一回大線量照射であるので正常組織の回復効果が少ない。
d.一回大線量照射であるので従来の分割照射で蓄積されたデータが利用できない
e.長期観察例が少ないので長期的な治療効果や後遺症などの評価ができていない。
f.装置が高価であり、線源(コバルト60)の維持に経費がかかる。
1.4 ガンマナイフ治療の適応疾患と治療成績
ガンマナイフ治療の最も良い適応疾患は以下のような条件と考えられている。
a.径25mm以下、容積10cm3以下の小さい病変であること。
b.周囲の正常組織との境界が明瞭で画像診断で確認できる病変であること。
c.病変がコリメータヘルメットの中心に位置できるような、なるべく脳表面の病巣でないこと。
具体的には、脳動静脈奇形、聴神経鞘腫、髄膜腫、下垂体腫瘍、小さい転移性脳腫瘍などであり、現時点では大きな病変や
悪性腫瘍への適応は確立されていない。1968年から1995年までの世界統計によると適応症例は血管障害(脳動静脈奇形)28.1%、良性腫瘍38.4%、悪性腫瘍31.0%、機能的疾患(三叉神経痛など)2.5%となっている。一般的に手術とほぼ同等の効果が得られている。ガンマナイフの治療例を
図3に示す。
2.リニアックを用いたラジオサージャリー(リニアックナイフ、サイバーナイフ)
2.1 リニアックナイフ(ライナックナイフ、XKnife)
ガンマナイフのガンマ線源(
60Co)をX線(リニアック)に換えたものに相当する。ヘッドフレームで患者の頭蓋をピンでベッドに固定した後、CTスキャンと
MRIの撮影画像からの情報がXKnife(エックスナイフ)のコンピュータ(ワークステーション)に送られ、照射位置(病変部位)の正確な3次元位置情報と、精度の高いXKnife自動操作手順が計算される。いろいろな径のコリメータを持っているXKnifeが病変ターゲットの周りを旋回しながら三次的な多方面からX線ビームを病変ターゲットに照射する。
図4にXKnife装置の写真を、
図5にXKnife照射と通常照射との線量分布の比較を示す。ガンマナイフと違って多数回照射(分割照射と呼ばれる)ができるので(入院期間はガンマナイフより長くなるが)、病変部位周辺の健常部位の放射線被ばくを低く抑えることができる。またガンマナイフより大きな病変(約4cm径)を治療できる。治療成績はガンマナイフ程度といわれている。XKnifeはRadionics社の製品名であるが一般的に通用している。
2.2 サイバーナイフ(CyberKnife)
米国スタンフォード大学で開発された精密な放射線治療を行う放射線治療ロボットである。メーカーはAcuuray社で、サイバーナイフとは人工頭脳をもったナイフの意味。
図6に放射線治療ロボット−サイバーナイフを示す。6軸制御ロボットアーム(Fanac社製)の先端に超小型ライナック(小型X線発生装置)を取り付けた定位照射専用の放射線治療器である。さらに2台のX線透視用カメラが患者の動きをモニターし、患者のセットアップ時のずれや治療中の微妙な動きを自動的に検出する。これを受けてロボットアーム(自動(病巣)追跡システム、巡航ミサイル誘導技術を応用)がX線ビームの方向を補正する。病変部位置確認のため画像検査時と放射線照射時には患者の顔に合わせたメッシュ状のネットマスク(シェル:プラスチック製)をつける。小型ライナックを取り付けたロボットアームは136kgもあるので、リアルタイムに病巣を追跡して一定時間照射する点が難しいが将来性はある。ロボットアームはさまざまな方向・角度に自在な動きができるので、複雑な形状の病巣も治療でき、照射精度も高く±0.5〜1.mm程度と言われている。現在治療の対象は頭部・頸部であるが、近い将来には
肺がん、前立腺がん、肝臓がんなど頭部以外の治療も開始される(Accuracy社HP)。治療(入院)期間も3日〜2週間程度と短い。日本では1998年に初めて導入され、現在まで28病院に導入(あるいは導入予定)とのことである。
最近日本でも導入が始まったアキュナイフ(AccuKnife)はマイクロマルチリーフ・コリメータ(Micro-Multileaf Collimator)を用いるので、複雑な病変部位の形状でも治療できる。サイバーナイフの発展型である。
3.リニアックナイフとガンマナイフの特徴の比較
表2にリニアックナイフ(XKnife)とガンマナイフの特徴の比較の特徴の比較を示す。
<図/表>
<関連タイトル>
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)
重粒子線照射によるがんの治療 (08-02-02-01)
放射線によるがんの治療(特徴と利点) (08-02-02-03)
<参考文献>
(1)多胡 正夫、青木 幸昌、中川 恵一、栗田 浩樹:ガンマナイフ、放射線と産業 No.71, p.4-11(1996年9月)
(2)秋根 康之:Radiosurgery、大川智彦(編)「癌放射線療法−95」、篠原出版(1995)、p.360?368
(3)日本ガンマナイフサポート協会:ガンマナイフの治療例
(4)Radionics社:Xnife Overview,
(5)京都大学医学部放射線医学教室:リニアックを用いたラジオサージャリーとは
(6)京都大学医学部放射線医学教室:特徴−ガンマナイフとの比較
(7)東京逓信病院:ラジオサージャリーシステム、
http://www.tth-japanpost.jp/radio.htm
(8)Accuray社:CyberKnife,
http://www.accuracy.com/
(9)済生会今治病院サイバーナイフセンター:CyberKnife(サイバーナイフ)
(10)Direx社:AccuKnife,