<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線と物質の相互作用
<タイトル>
放射線の蛍光作用 (08-01-02-05)

<概要>
 物質の蛍光作用は固体理論の発展、光、材料、情報処理・計測等、各種技術分野の急速な進歩発展に伴い、その理解はますます深まっている。放射線の蛍光作用も、固体の電子状態を考慮することにより熱あるいは光ルミネセンスの領域が開拓され、これが放射線の検出や吸収線量の測定に広く応用されるようになっている。なかでも蛍光板を利用した医療診断用エックス線の放射線被ばく量低減化は、蛍光作用の画期的な応用例である。ここでは、放射線による蛍光作用の原理とその特徴を簡単に紹介し、主に放射線の検出と線量計への利用例を記す。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射線の蛍光作用
 物質に外部から何らかのエネルギーが加えられたとき、光が放出される現象をルミネセンスという。かっては外部からの励起が加えられている間だけ光が放出される場合を蛍光、励起が断たれた後も光の放出が続く場合をリン光と呼んで区別していた。一般にはルミネセンスを蛍光と呼んでいる。硫化亜鉛(ZnS)を主成分とする鉱物に光を照射したときの蛍光は肉眼で観察できる。蛍光を発する物質を蛍光物質(または蛍光体)という。蛍光体とは可視領域の光の発光効率が大きい物質をいう。蛍光体が放出する光の波長、強度や持続時間は物質に固有なものである。
 物質に入射した放射線(電離放射線)のエネルギーによって、原子・分子の電子状態は励起状態(興奮状態)に変化する。これが基になって電磁波の放出が起こる。放射線を蛍光体に入射させると、可視領域の波長の光(ルミネセンス)が放出される。この現象をシンチレーションと称しており、シンチレータとは蛍光体の別名である。シンチレータは放射線の測定やX線による医療診断の現場でしばしば利用されている(表1)。
1.シンチレーション検出器
 表2に放射線の測定に用いられている主なシンチレータを示す。放射線がシンチレータを通過するさいに発生するシンチレーション光は、発光量が小さく、減衰時間は短い。放射線測定用として求められるシンチレータは、放射線が衝撃した瞬間に可視光(300〜600nm)を放出(即発発光という)し、発光効率が高く、透明で透光性に優れていなくてはならない。少量のタリウム(Tl)を不純物として含むNaI(Tl)あるいはCsIのような無機シンチレータは、ガンマ線に対する発光効率が高いシンチレータである。これに対し、有機シンチレータは減衰時間が短いのが特長である。有機シンチレータは放射能濃度の高い試料の測定に適している。有機シンチレータにはアントラセン結晶並びにポリスチレンやポリビニルトルエンなどの有機固体(プラスチックシンチレータ)がある。ベータ線のエネルギーが低い、トリチウム(3H)や炭素の放射性同位体(14C)を含む有機物は、トルエンのような溶媒に溶解し、透明なガラスまたはプラスチック容器に詰めて測定する。これを液体シンチレータという。
 シンチレーション検出器の放射線検出部は、図1に示すようである。いずれの場合もシンチレータを光電子増倍管に密着させた状態に配置して測定する。シンチレーション光は発光量が少ない。そこで、シンチレーション光を増幅し、電子機器で計測可能となるようにした装置が光電子増倍管である。光電子増倍管の光電面に到達したシンチレーション光は、108〜1010倍程度増幅され、その出力が電子機器で計測される。
2.熱ルミネセンスもしくは熱蛍光線量計TLD
 ハロゲン化銀乳剤フィルムを装着したフィルム線量計(フィルムバッジ)は、放射線作業従事者の作業期間中の被ばく線量を記録することができ、写真は長期間の保存に耐えるため、放射線被ばく管理用として普及している(図2)。しかし、フィルムバッジは反復使用ができないほか、写真フィルムの装着、使用、現像から定着までの全操作を、遮光性の良い暗室で行わなければならないという短所がある。
 放射線で照射された物質を加熱したさいに発光する蛍光(熱ルミネセンス)物質において、その発光量が物質の放射線吸収線量に比例し、なかでも発光効率が高いものを熱ルミネセンス物質(TLD物質)という。たとえば少量の活性化物質を混入したLiFは、原子番号が人体組織に相当しており、熱ルミネセンス物質として利用できる。これを線量計の形で携帯使用したのち、定められた温度まで一定速度で加熱し、発光量を光電子増倍管を介して計測する。TLDは写真フィルムよりも広いエネルギー領域の測定が可能であり、現像の必要がなく、焼鈍処理すれば線量計の反復使用が可能である。蓄積した記録が時間とともに僅かに退化するフェーデイングがTLDの欠点であるため、退化の少ないTLD線量計の開発が行われている。
3.輝尽発光とその利用
 TLD物質を利用する際、熱の代わりに電磁波で蛍光を発生させるものを輝尽発光(Optically Stimulated Luminescence=OSL)という。
 輝尽発光は1980年代から、水晶や長石のような天然鉱物や磁器のような考古学的試料で観測されはじめ、自然放射線蓄積線量を測定することによって、それらの年代を類推・決定する技術として開発、利用されてきた。
 輝尽発光も熱ルミネセンスのように線量計として利用できる。輝尽発光物質の開発と併せて光照射による読み出しにも種々の改良が施されており、安定性に優れた方法が開発されている。読み出しにはレーザあるいは発光ダイオードが使用され、連続波あるいはパルス波で励起光を発光させる。熱ルミネセンス法に比べてフェーデイングの恐れがない輝尽発光の利用は、特にわが国で研究が薦められており、紫外線パルスを利用するガラス線量計は放射線作業従事者用の被ばく管理に使用されている。リチウム同位体(6Li)を使用すれば熱中性子を高感度で測定できる。
 TLD物質の輝尽発光読み出し法を応用して開発された、イメージングプレート(位置敏感型放射線検出器)は大型であり、医療診断用エックス線による患者の放射線被ばく量を、従来の写真フィルムと比べて著しく低減可能とした。この方法は測定範囲が写真フィルムよりも広く、反復使用も可能であるため普及している。
4.光源としての利用
 発光効率を高めるため、少量の活性化物質を混合した硫化亜鉛(ZnS)を放射性物質と混合し、蛍光塗料として用いた歴史は古い。その後、放射線防護の見地からそれらの使用は見直され、法令で定める放射能の上限値を下回る範囲で、トリチウム(3H)やプロメチウム(147Pm)を用いた夜光塗料の生産・使用が行われてきた。しかし、非放射性夜光塗料の開発に伴い、国内での生産活動は完全に停止し、その使用例も激減している。
<図/表>
表1 X線用蛍光体の諸特性と実用例
表2 主なシンチレータ
図1 NaI(Tl)シンチレーション検出器の構造
図2 積算型個人線量計の主測定器の変遷

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<関連タイトル>
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α線、β線、γ線の発見 (16-02-01-03)

<参考文献>
(1)真室哲雄ほか:やさしい放射線とアイソトープ、日本アイソトープ協会(1992)
(2)山崎文男ほか(編):アイソトープ便覧、日本アイソトープ協会(1970)
(3)小川岩男:基礎原子力講座2放射線、コロナ社(1964)
(4)南賢太郎:個人線量測定技術の変遷と現状、Isotope News、日本アイソトープ協会、pp18?24(2002年5月)
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