<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線と物質の相互作用
<タイトル>
放射線の写真作用 (08-01-02-04)

<概要>
 放射線の写真作用は、発見当初から放射線検出法として利用されてきた。これは、その当時、すでに写真技術が一般にも利用されるほど普及していたためである。放射線の写真作用の特長は、記録・保存が可能な、放射線の可視化にある。その後、この特長を利用して、医療の分野では診療用エックス線写真をはじめとする放射線診断が、原子力の分野では写真フィルムを用いたフィルムバッジが不可欠なものとなった。放射線の写真作用は、オートラジオグラフィやラジオグラフィなど基礎から産業分野まで、広範に利用されており、写真像のイメージを増幅させる蛍光作用の併用によって、さらに用途が広まっている。ここでは、放射線の写真作用の利用方法と主な利用例を紹介し、利用上の課題にも言及する。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.写真作用による放射線の検出と写真技術
 ウランの放射能の発見(フランスのベクレル、1896年)に用いられたのは写真乾板であった。写真技術はすでに18世紀から19世紀にかけて発展していたため、可視光線下での写真撮影は、当時、わが国でも一般用としての普及が始まっていた。写真乳剤の感度、露出時間、現像・定着用試薬の性能などを現在のそれらと比較すれば、初歩的なものであったとしても、感光性物質中で光が潜像を生成し、これを視覚的に判別可能な状態にまで増幅する現像処理、現像後に乳剤中に残留する不要な感光性物質を除去する定着処理は、当時すでに実用可能な域にまで整っていたわけである。
 写真乳剤としてふさわしい化合物は数多く試されたが、現在使用されている写真乳剤は、少量の沃化銀を含む臭化銀固体粒子をゼラチン膜に均一に分散したものが主体であり、現像主薬としては、メトール、ハイドロキノンあるいはフェニドンなどが、定着液にはチオ硫酸ナトリウムが多く用いられており、これらの多くが放射線の写真撮影に利用できる。
2.放射線による写真作用とその特長
 放射線はハロゲン化銀を含む写真乳剤中の原子・分子に電離作用を及ぼして、自由電子、イオンや励起種を生成させる。これらが銀イオンを還元して潜像を生ずる。潜像は安定で、これを現像、定着すると放射線の写真ができる。その原理は光の写真作用と大きな相違はない。光の濃淡に相当する放射線の詳細な平面像が得られること、白色印画紙上の黒化像である写真そのものの記録・保存が可能といった、写真本来の特長はいずれも利用できる。しかし、放射線は可視光と違って視覚的には全く捉えられないため、未知の被写体中の放射線の強度は、写真法による場合は予備試験で、もしも電離作用や蛍光作用のようなその他の放射線測定法が利用できれば、それらを利用して別途測定する必要がある。また、放射線の種類は多様で、そのエネルギーも通常極めて大きい。放射線の写真撮影には、放射線の種類に応じて、写真乳剤やフィルム・乾板のなかから最適なものを選定すると同時に、併せて現像条件を念頭においた最適露出条件の決定という念入りな準備作業が必要である。被写体試料中の放射能分布や放射能量を求めるオートラジオグラフィ、放射線の透過性を利用するエックス線診断やラジオグラフィなどは、放射線の特徴を生かした写真撮影法である。
3.オートラジオグラフィとラジオグラフィ
 生体試料あるいは金属材料自体に放射能がある被写体の場合は、写真乳剤を塗布したフィルムまたは乾板と被写体との間に物体を置かずに撮影する。これをオートラジオグラフィという。これにたいして人体の一部や航空機エンジンのような被写体を、放射線源と写真乳剤との間に空けた空間の適当な位置に配置して、放射線の透過像を撮影する方法をラジオグラフィと呼んでいる。特殊な場合を除いて、これらの目的に使用される写真乾板やフィルム、現像液、定着剤などは多種類のものが市販され、容易に入手可能である。
 被写体は多種多様であり、撮影技術も個々に工夫を要するから、ここでは代表例を2,3紹介するに止める。
3.1 オートラジオグラフィ
 操作はすべて遮光性の優れた暗室で行う。フィルムの取り扱いは“かぶり”を生じないように汚したり(化学的影響)、折り曲げたり(機械的影響)せず注意深く行う。また、被写体が発する蛍光を遮へいし、フィルムの放射能汚染を防止するため、試料を黒い紙のような薄膜で覆ってフィルムを装着する。露出時間は現像条件を考慮して別途、目的に応じた最適時間をあらかじめ求めておき、適正な像が得られるまでの一定時間暗室内に静置する。その後、フィルムを被写体から取り外し、現像、定着すると白黒写真の黒化像が得られる。
 被写体試料ごとに撮影、処理条件を選ぶ。一例として高エネルギー粒子線を挙げると、ハロゲン化銀微粒子を高濃度に分散させた厚い乳剤を選ぶ。現像には特別の習練が必要である。
 オートラジオグラフィの利用目的に応じて、次のような三種類の方法で放射線写真(オートラジオグラフ)を観察・評価する。すなわち、(1)巨視的な黒化度を黒化度計を用いて求める方法(マクロオートラジオグラフィ)、(2)微視的な黒化度を顕微鏡で調べる方法(ミクロオートラジオグラフィ)および(3)飛跡を顕微鏡で調べる方法(飛跡オートラジオグラフィ)である。いずれの方法によるとしても、放射線による乳剤の黒化が放射線の強度に比例する領域を選定しておけば、露出時間中に乳剤が被ばくした放射線の積分量、すなわち、写真の黒化度から放射線被ばく線量が求められる(図1)。マクロオートラジオグラフ法によれば、試料中の放射能の面分布が概略的に判別できる。ミクロオートラジオグラフでは、その平面像をさらに詳細に観察できる。そこで、後者は特に、動植物の薄片を用いた細胞内外の放射性同位元素(RI)の分布や諸種の材料中のRIの精細な分布を調査するのに用いられている。(3)の飛跡を調べる方法は、厚い乳剤膜を用いる宇宙線の測定とか、放射能の種類を同定する(図2)といった、試料中の放射能の判別に適している。
 放射線作業従事者が携帯する放射線管理用のフィルム線量計(フィルムバッジ)は、汎用的なオートラジオグラフィの応用例である。フィルムバッジは作業従事者の放射線被ばく管理にとって極めて有用であり、放射線の種類に応じて、それぞれの飛程(放射線の物質中の到達距離)を考慮して、放射線吸収用の厚さおよび組成が異なるフィルタを用いるなどして、種々の放射線を対象にした線量測定が行われる。
3.2 非破壊検査用ラジオグラフィ
 非破壊検査用ラジオグラフィの主な目的は、被写体の欠陥検査である。この目的にはコントラストの良い露出・現像条件の選定が重要である。ラジオグラフィ用の放射線源は主としてガンマ線源であり、固定式と可搬式とがある。放射線の特性は個々のRIに特有のものであり、一般に、半減期の長いRIのなかからコントラストが最大となるような放射性核種を選択して放射線源とする。汎用的なガンマ線源の例を表1に示す。エックス線源には市販のエックス線発生装置が利用できる。必要な露出時間は、放射線源の種類、強度、試料の厚さと種類、写真乳剤の感度、現像条件、線源と乳剤間の距離等を勘案して決める。撮影のさいは、写真フィルムを鉛カセットに収めて光を遮断し、増感紙を使用して露出時間を短縮する。ラジオグラフィは航空機エンジン、産業用では金属溶接部等の欠陥検査用に数多く用いられている。
3.3 医療分野における利用
 医療分野におけるラジオグラフィの代表例は、診断に利用されているエックス線写真である。核医学の分野では、患者に投与するインビボ放射性医薬品を用いて、シンチグラフ(シンチレーションカメラにより撮影される写真)を診断に利用している。
 医療分野における利用では、コントラストの鮮明化に加えて、生体への放射線被ばく量の低減化が重要である。コントラストの鮮明化については、非破壊検査用ラジオグラフィと同様の対策が必要である。コントラストの鮮明化の実例は、CT(コンピューテッド・トモグラフィ)のようなイメージ増幅技術の応用である。被ばく線量の低減化にはフィルム感度の向上が有効な対策である。写真乳剤としてはハロゲン化銀粒子径の増大が一策であり、そのほか乳剤のフィルム両面への塗布(二重膜フィルム)、増感紙(図3参照)の利用などがある。
4.写真作用利用上の課題
 放射線による写真作用を利用するさいの課題は、暗室操作が不可欠なことである。一例としてフィルムバッジ線量計を例に挙げれば、従来の写真フィルムに代わって暗室操作が回避でき、広い放射線エネルギー領域において吸収線量の測定感度が良い熱ルミネッセンス線量計(TLD)あるいはTLDと比べてより安定度が高く、しかも反復使用が可能な紫外線パルス励起の輝尽性蛍光物質から成るガラス線量計(Radiophotoluminescence)が利用されるようになっている。さらに、医療診断用のエックス線フィルムに変わって、わが国で開発された輝尽性蛍光物質を用いるイメージングプレートが出現し、増感紙を用いたエックス線写真に比べて、さらに2桁程度の被ばく量低減化が実現している。
<図/表>
表1 ラジオグラフィ用線源
図1 フィルムの黒化度と照射線量
図2 写真乳剤中の荷電粒子の飛跡の模型図
図3 エックス線の直接撮影

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<関連タイトル>
放射線の電離作用 (08-01-02-02)
放射線と物質の相互作用 (08-01-02-03)
放射線の蛍光作用 (08-01-02-05)
X線診断 (08-02-01-01)
X線フィルムの構成と応用 (08-02-04-02)
工業用ラジオグラフィ(放射線透過試験) (08-04-02-03)
個人線量計 (09-04-03-03)

<参考文献>
(1)鎌田弥寿治:写真発達史、共立出版(昭和31年4月)
(2)石川友清(編):放射線概論、通商産業研究社(平成3年4月)
(3)江藤秀雄ほか:放射線の防護、丸善(昭和57年12月)
(4)山崎文男(編):アイソトープ便覧、日本アイソトープ協会(1970)
(5)真室哲雄ほか:やさしい放射線とアイソトープ、日本アイソトープ協会(1986)
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