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<概要>
 放射線障害防止法において規制量以下である微量の放射能を利用した放射性日用品(放射性物質を含む日用品)が、消費生活物質として市民生活に広く行きわたっている。代表的な放射性日用品として夜光時計、蛍光灯点灯管、イオン化式煙感知器などがある。また、この他にウラントリウムなどの天然の放射性物質を加えた健康用品を謳う放射性日用品なども使用されているが、わが国での使用数はあまり多くない。
<更新年月>
2007年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 今日、流通している放射性日用品は、法規制対象外ではあっても放射性同位元素が含まれることから、その流通実態や安全性などについて過去に幾度かの調査が実施されてきている(参考文献1、2、3、4)。過去の調査報告では、その有用性に疑問な製品もいくつか散見されたものの、全体としてとらえると放射性同位元素(RI)利用の便益・有効性とその安全性評価が確立されてきた。科学技術の進歩にともない放射性日用品の実態も少しずつではあるが変化している。以下に一般消費者が入手可能な代表的な放射性日用品について示す。
2.夜光時計
 夜光時計は、全世界に広く普及している放射性日用品である。夜光時計には硫化亜鉛を主成分とする蛍光体に励起源として放射性同位元素を添加した夜光塗料が使用されている。20世紀の初めから世界各国で夜光時計に使用されてきた放射性同位元素は、当初は226Ra(α線放出の放射性核種)である。その後、1960年頃より放射線安全性の高い147Pmや3H(β線放出の放射性核種)を用いた夜光塗料が開発され、現在でも世界中で利用されている。表1に示したように、夜光時計には国際規格(ISO-3157)が制定されており、世界の主要国がその規格に準拠している。一方、輸入される外国製の夜光時計の大半が3.7MBq以上の3Hを含む夜光時計であり、実状に合わせて1998年(平成10年)3月26日付けで科学技術庁長官(現文部科学大臣)から諮問のあったトリチウムを用いた夜光時計の規制免除について、放射線審議会アイソトープ部会で審議を行った。審議の結果、諮問の内容は妥当であるとの結論に達し、国際標準機構の規格(ISO-3157)を満たす夜光時計に関する規制免除が認められた。1998年10月30日に放射線障害防止法の告示(放射線を放出する同位元素の数量等を定める件)の一部が改正され、ISO規格を満たす時計の完成品に用いられているトリチウムについての定義・数量が見直された。それによると、携帯時計に対しては277MBq、置掛時計に対しては370MBq、特殊目的のための時計に対しては925MBqである。また、使用による年間実効被ばく線量は腕時計で2.2μSv、置掛時計で3.0μSvであると評価されている(参考文献5)。
 かつて、日本の産業の一翼を担った時計産業は、その最盛期の1970年代後半〜1980年代前半には、年間2,000万個を超える夜光時計を国内で生産していた。近年は生産拠点の海外シフトに伴い、国内生産量は急激に減少している。さらに1993年には、放射性同位元素を含まなくても一度光を吸収すると長時間にわたり高い残光輝度を維持する長残光性夜光塗料がわが国で開発されたため、国内における放射性夜光塗料を用いた夜光時計の生産は激減し、1998年以降、国内の生産は皆無となり、すべて放射能を含まない長残光性夜光塗料を使用したものとなった(図1参照)。スイスにおいても約95%以上は日本製の長残光性夜光塗料の使用に切り替わったと報告されている。今後は、海外においてもこの長残光性夜光塗料への置き換えが進み、最終的には放射性夜光塗料を使用するものは特殊時計に限定されるものと考えられる。100年近い歴史を持ち放射性同位元素の工業利用の草分けともいえる夜光時計の普及も大きく変わった。
3.蛍光灯点灯管
 蛍光灯点灯管や、ネオングローランプのようなグロー放電管やメタルハライド・ランプ、アレスターなどの一部には、放電開始特性の改善などのために放射性同位元素が利用されている。改善の仕組みを図2に示す。2002年頃までは蛍光灯点灯管のほぼ100%、ネオングローランプの約70%に用いられ、蛍光灯やさまざまな電子、電気機器に部品の一部としても組み込まれていた。放射性同位元素としては、主に147Pm、63Ni、85Krなどのβ線(ベータ線)放射性核種が利用され、それぞれの放射能は放電管一個当たり、147Pmで0.7〜15kBq、63Niで0.7〜6kBq、85Krで2kBq程度である。使用形態は、147Pmおよび63Niは電極線の一部に密封メッキして放電管に組み込まれているものが多く、その密封性能は、密封線源のJIS-Z-4821に規定される等級2の試験基準(*1)に合格している。一方、気体である85Krはアルゴンガスに混入して管内に封入されている。いずれもガラス管により覆われており、年平均実効線量は2×10−4μSv程度と報告されている(参考文献6)。
 各種放電管に用いられる放射性同位元素を含む電極線の生産量の推移を図3に示した。1995年をピークに年々減少傾向にあったが、2002年に激減し、2003年以降の生産はゼロとなった。これは点灯管メーカーが点灯管に放射性同位元素を含む電極線を用いない方針を打ち出し、放射性同位元素を使用しない点灯管の開発が進んだことによる。現状では、85Krガスを封入した点灯管以外には、この分野での放射性同位元素の利用は無くなった。
4.イオン化式煙感知器
 煙感知器にはイオン化式と光電式があり、それぞれ特徴がある。放射性同位元素を利用するのはイオン化式であり、一般に銀フィルムベース上に241Amを塗布し、その表面を金あるいはパラジウムなどで被覆した密封線源が電極の一部として利用されている。その放射能は、OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)の勧告により、工業用用途で0.74MBq以下、家庭用では37kBq以下と定められており、煙感知器に関するNEAによる線量評価から実効線量としては年間0.1μSv以下であるとされている(参考文献7)。
 イオン化式は241Amのα線(アルファ線)により生ずるイオン電流が、煙粒子密度に依存して減少することを利用したもので、構造および作動原理を図4に示す。煙の種類や色などによる影響が少なく微細粒子の煙にも感度の高いことなどの利点を持つ。したがって、火災初期時に発生する煙にも高感度に応答する反面、目にあまり感じない燃焼生成物にも応答しやすいことから、非火災警報が多いことが欠点である。最近では、使用するRIの量を出来るだけ少なくすることが望まれているのを受けて、1線源2イオン室のものが開発され、従来の方式に比べて使用する放射能を半減する事ができて241Am線源18kBq、あるいはそれ以下の量でも性能良く実用的なものが生産されるようになった。
 日本国内では放射線を利用するイオン化方式の家庭用煙感知器の市場はほとんどなく、法規制で設置が義務付けられている建造物を対象とした産業用用途が主流である。アイソトープ等流通統計によれば、2006年度の国内における煙感知器用241Am線源の供給量は、放射能で約1,950MBq、数量で約42,929個である。現在では、放射性同位元素を使用しない光電式が主流となっている。一方、世界的には、特に米国などを中心に家庭用煙感知器の市場が大きく、産業用とあわせた市場規模は推定で約4,000万個を上回るものと考えられている。図5には、世界の全生産量に対するイオン化式と光電式の比率について工業用と家庭用に分けて示した。この図から日本の現状とは大きく異なり、イオン化式が全市場の85%以上を占めていることがわかる。今後は、世界的にも光電式がそのシェアを延ばしていくことが想定されるが、一方ではイオン化式の原理的な特徴に由来する性能面での有用性も高く、一部では光電式とイオン化式を併用した警報システムも開発され、使用されている。価格的な優位性もありイオン化式煙感知器は今後も当分利用され続けていくものと予想されている。
5.その他の放射性物質含有日用品
 ウラン、トリウム等の自然放射性物質を含んでいる一般消費財の一部には、国際原子力機関(IAEA)の安全シリーズNo.115「電離放射線に対する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準」(BSS)で定められている免除レベルを上回るものも見られる。
(1)マントル
 キャンプなどで使用されるランタンのマントル(炎にかぶせるあみ形の筒)には、酸化トリウムなどトリウム系列の物質を含浸させている。そのほとんどは輸入品であり、ランタン一個当たりに含まれるトリウムの量は0.5g以下であるとされている。ガラス製の風防があり実際の使用に当たってその実効線量は無視できる程度である。マントルの装着時などは直接手に触れる場合もあり注意が必要との報告がある(参考文献8)。
(2)ラドン温泉器など
 トリウム系列やウラン系列の天然鉱石を使用したラドン温泉器などの商品がある。ヨーロッパや日本で盛んなラジウム温泉治療の概念を取り入れた商品であり、鉱石をプラスチックやセラミックスなどに混練した成形体を浴槽中に浸漬して使用するものや、容器内に格納した鉱石から発生するラドンガスを循環装置などにより浴槽内に導入するものなどさまざまである。通常、密閉されない浴槽中ではそのラドン濃度は数100Bq/リットル以下であり、地下水や水道水と同程度かそれ以下のものが多い。また、被ばく評価の結果、ラドン温泉浴素で110μSv/年、肌着で220μSv/年、布団で90μSv/年となり、これらを同時に使用すると年間数100μSvの線量を受けることも考えられる。これ以外にも天然鉱石を利用した健康を謳う商品が時々散見される。サポーター、腹巻、ブレスレット、陶製枕、飲料水の改質剤などがあるが、その効果のほども不明であり有用性に疑問なものも少なくなく、生産や流通の実態も不明で継続性のない商品が多い(参考文献9)。
6.国際基本安全基準(BSS-9)の免除レベルの取り入れ
 国際原子力機関(IAEA)、世界保健機構(WHO)等の定めた国際標準値(規制対象下限値:規制免除レベル)の導入に伴い、数量および濃度の小さい放射性同位元素の規制を合理化する等のために、放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律が2004年(平成16年)6月2日に公布された。国際標準(規制免除レベル)の取り入れに向けての放射線障害防止法改正に伴う検討の経緯を図6に示す。
 IAEAによる国際基本安全基準(BSS:Basic Safety Standard)では、核種ごとにその規制免除レベル(濃度および数量)が示されている(参考文献10)。この規制免除レベルは、非密封状態での使用を前提に種々の被ばくシナリオを想定し、年実効線量として10μSvを超えないよう合理的に評価して算出されている。また、規制値を超える密封線源などについては、各国の規制機関が規定する条件下で個別に免除してもよいとしている。わが国におけるこれまでの放射線障害防止法に規定する密封線源の免除レベル(3.7MBq)と比較すると、当然のことながら多くの核種についてより厳しい規制値となっており、利用されている多くのRI利用工業機器(厚み計、レベル計など)は、このBSS規制値の導入によりそのほとんどが規制対象となっている。
 表2には放射性日用品として夜光時計、放電管、煙感知器に用いられている主な核種とその放射能をBSS規制免除レベルと比較して示している。夜光時計やグロー放電管などに多く用いられている3H、147Pm、63Ni、85Krなどの核種については、いずれもBSSによる規制免除数量以下のため規制対象外であるが、煙感知器については、現状の放射能では241AmのBSS規制免除数量を超えるため規制対象となるが、法令改正によって、このイオン化式煙感知器については、製造者が型式承認を受けるので、利用者には届出義務を課さないこととなっている。なお、規制対象とならないBSS規制免除数量(10kBq)以下の放射能による241Am線源を用いたイオン化式煙感知器が開発されている。
[用語説明]
(*1)等級2試験基準
密封線源の等級2の試験条件は、
 イ.温度試験は、−40℃に20分、80℃に1時間浸す。
 ロ.圧力試験は、25kPaから大気圧に戻す。
 ハ.衝撃試験は、1mから50gのハンマで衝撃を加える。
 ニ.振動試験は、25〜500Hzの振動を10分間3回与える。
 ホ.パンク試験は、1mから1gのハンマを落下する。
である。
(前回更新:2004年1月)
<図/表>
表1 夜光時計の許容放射能基準
表1  夜光時計の許容放射能基準
表2 放射性物質含有日用品とBSS規制免除レベル
表2  放射性物質含有日用品とBSS規制免除レベル
図1 放射性夜光塗料用
図1  放射性夜光塗料用
図2 RI利用による蛍光灯点灯管の放電開始特性改善の仕組み
図2  RI利用による蛍光灯点灯管の放電開始特性改善の仕組み
図3 点灯管用放射性同位元素を含む電極部品生産量の推移
図3  点灯管用放射性同位元素を含む電極部品生産量の推移
図4 イオン化式煙センサの構造(2線源2イオン室)および作動原理
図4  イオン化式煙センサの構造(2線源2イオン室)および作動原理
図5 世界における煙感知器の種類と用途
図5  世界における煙感知器の種類と用途
図6 放射線障害防止法改正 検討の経緯
図6  放射線障害防止法改正 検討の経緯

<関連タイトル>
放射線の電離作用 (08-01-02-02)
放射線の蛍光作用 (08-01-02-05)
ラドン(自然環境中の放射線源) (08-01-03-12)
RIの物理的作用・効果を利用した製品 (08-04-03-05)
放射能泉と健康 (09-02-07-10)
放射線障害防止法 (10-07-01-06)

<参考文献>
(1)原子力安全研究協会:放射性廃棄物の範囲の明確化のための調査研究報告(1978)、p.130-186
(2)日本ビジネスオートメーション(株):コンシューマー・グッズ等の流通実態等に関する調査報告(1979)、p.1-63
(3)原子力安全技術センター、コンシューマー・グッズ等の流通実態等に関する調査報告(1988)、p.1-108
(4)東京都生活文化局:放射性物質を含む消費生活物資に関する調査報告(1993)、p.1-16
(5)放射線審議会アイソトープ部会:トリチウムを用いた夜光時計の規制免除について(報告)、放射線障害防止中央協議会(1998.7)
(6)Ionizing Radiation Exposure of the population of the United State,NCRP Rep.,93(1987)
(7)NEA OECD:Recommendations for ionization chamber smoke detectors in implementation of radiation protection standards(1977)
(8)旧 日本原子力研究所国際原子力総合技術センター:ラドン線源(2004年1月)
(9)松沢隆嗣:「放射性日用品」(煙感知器、自然放射性物質利用製品を含む)、第33回理工学における同位元素研究発表会要旨集(パネル討論)(1996年7月)
(10)IAEA Safety Series No.115,”International Basic Safety Standards for Protection against Ionizing Radiation and for the Safety of Radiation Sources”,81-89,Vienna(1996)
(11)根本特殊化学(株):http://www.nemoto.co.jp/index_j.html
(12)放射線安全規制検討会:国際免除レベルの法令への取り入れの基本的考え方について?中間報告書、科学技術・学術政策局(2003.8)
(13)文部科学省:放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案(概要)第14回原子力安全委員会定例会議(配布資料)(2004.3.1)
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