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<概要>
 工業用の材料、機器・構造物等は、規定された規格もしくは仕様に基づいて製造あるいは製作され、かつ、製品が定められた使用条件のもとで、使用期間中に、破損することなしに、所期の性能を満たすことが必要である。そのため、素材から製品に至るまでの製造工程中並びに供用期間中における品質の管理に、ラジオグラフィ(放射線透過試験)は利用されている。
 放射線透過試験は、X線およびγ線が物質を透過し、その透過の程度が物質の密度により異なるという性質を利用して、検査対象物体の内部構造や欠陥の有無を非破壊的に調べる方法である。
<更新年月>
2000年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 放射線透過試験(Radiography,または RT:Radiographic Testing)は、X線、γ線、中性子線などの放射線の物質透過強度の差を利用して、物質の内部構造を調べる非破壊検査法の一つである。放射線としては、X線(150〜400kVp)や〜15 MeVのベータトロンあるいは1〜10MeVのライナックを用いて発生したX線、RI(60Co,192Ir線源)からのγ線を用い、中性子線は特殊な例として利用される。
1.放射線透過試験による欠陥の検出
1.1 放射線透過試験
 放射線透過試験は内部欠陥の検出に適した非破壊試験方法の一つで、内在する欠陥の二次元的な形、大きさ、分布などが一目でわかり、欠陥の種類も推定しやすい。ブローホール(溶融金属中に発生した気泡が球状又はほぼ球状の空洞の状態で溶接部に残留したもの)、スラグ巻込み(溶着金属中又は母材との融合部にスラグが残ること)および介在物、並びに溶込み不良などの欠陥は、放射線の透過する方向に対してそれらの厚さと健全部の厚さに差がある場合に比較的検出が容易である。しかし、割れなどの面状欠陥の検出に対しては、平行に放射線が入射するように、照射方向を変えるなど撮影方法を考慮して欠陥を検出する必要がある。一般に面状欠陥の検出は困難な場合が少なくない。
 現在用いられている放射線透過試験の方法を分類すると 図1に示す3種類があり、その概要を次に示す。
(1)直接撮影法
 放射線の写真作用を利用して透過像を直接X線フィルムに撮影する方法で、試験体を透過した放射線の強さの変化をX線フィルムに黒化度の変化として記録する。この撮影方法は現在最も一般的である。
(2)間接撮影法
 放射線の蛍光作用を利用して透過像を蛍光板で可視像に変え、カメラでフィルム上に撮影する方法である。工業分野での利用は少ない。
(3)透視法
 蛍光増倍管を使用して可視像をテレビカメラで撮影し、モニターテレビで観察する手法が透視法の中でも一般的である。この方式はリアルタイムでの検査が可能であるため、オンラインでの製品検査に利用されている。
1.2 透過写真による欠陥の識別
 透過写真上で欠陥を明瞭に識別するには、欠陥像の示す濃度差、すなわち、欠陥に対応する透過写真のコントラストが大きく影響する。
 透過写真のコントラストは、試験体の材質、厚さ、放射線の線質、線源寸法(X線については焦点寸法)、散乱線の大小、X線フィルムの特性などが関係する。これらの関係について、 図2 に示す厚さTの試験体の内部に厚さΔTの欠陥が存在する場合について考えると、次のようになる。
 試験体に入射するX線の強さをIoとし、健全部を透過した後のX線の強さをIとすれば、IとIoの関係は次式で表される。
        I/Io=exp(−μT)             (1)
 ここで、       μ:吸収係数
  次に、欠陥部の透過X線の強さをI’とすると(1) 式から次のようになる。
        I’/Io=exp(−μ(T−ΔT))       (2)
 (1)式と(2)式を比較すれば、I<I’である。このことから、健全部の写真濃度をD、欠陥部の写真濃度をD’とすると、D<D’となることがわかる。すなわち、欠陥部の濃度が健全部の濃度より高くなり、欠陥を識別することができる。健全部と欠陥部の濃度差(透過写真のコントラスト)ΔDは、次式で表すことができる。
     ΔD=−0.434・γ・μ・δ・ΔT/(1+n)        (3)
 ここで、  γ:フィルムコントラスト
       μ:吸収係数
       δ:幾何学的補正係数
       n:散乱比
 このことから、欠陥を容易に識別するためには、ΔDをできるだけ大きくするような試験条件の設定が必要である。そのためには、X線の焦点の大きさによる像のボケが小さくなるように焦点寸法の小さい装置を用い、フィルムコントラストの大きなX線フィルムと増感紙の組み合せおよび吸収係数が大きくなるような線質を選定し、散乱線をできるだけ低減するための撮影配置が必要となる。
2.直接撮影方法および透過写真の観察
2.1 撮影用機材
(1)X線フィルム
 工業用X線フィルムを性能上の特徴から分類すると、次のようになる。
イ.金属箔増感紙用フィルム
  a)低感度フィルム(超微粒子フィルム)
  b)中感度フィルム(微粒子フィルム)
  c)高感度フィルム(粗粒子フィルム)
 ロ.蛍光増感紙用フィルム
(2)増感紙
 放射線透過写真を撮影する場合、露出時間の短縮および像質の改善を図るために、通常X線フィルムと増感紙を併用する。増感紙には、X線が照射されると二次電子を放射する鉛箔増感紙と発光する蛍光増感紙がある。工業用放射線透過試験では主として鉛箔増感紙を用いて撮影している。
(3)透過度計および階調計
 撮影透過写真の像質を評価するために用いるもので、透過試験の際、試験体の上に置いて試験体と同時に撮影する。
2.2 直接撮影法
(1)撮影配置
  図3は平板の突合わせ溶接部を撮影する場合の線源、透過度計、階調計およびフィルムの関係位置を示したものである(文献3)。一般にその撮影配置は試験体に対して十分離れた距離にある線源、試験体およびX線フィルムからなっており、透過写真の像質は使用するフィルムの種類および撮影条件によって異なる。ここで、鮮明な透過写真を撮影するために、X線管の焦点寸法の影響を考慮する必要がある。焦点の大きさが決れば、L2(透過度計とフィルム間距離)をなるべく小さく、L1(線源と透過度計間距離)をなるべく大きくすれば良いことになる。JISではL1とL2との間およびL1とL3(試験部の有効長さ)との間に制限を設けており、実用的には、L1+L2は600mm程度にとるのが普通である。 図4 は透過写真に写し出される試験体の実像と幾何学的ボケの関係を示す(文献4)。
(2)露出条件
 使用するX線装置、X線フィルム、増感紙、撮影配置および現像条件等をあらかじめ決めておき、透過写真の濃度が一定となるための試験体の厚さと管電圧、管電流および露出時間の関係(露出線図*)を求める。露出条件を決定するための基準として、一般に用いられている。
(3)写真処理
 一般的な写真処理の工程は、現像(約20℃、5分)、現像停止(約20℃、30〜45秒)、定着(約20℃、約10分)、水洗(30〜60分)、乾燥(15分)の順となっている。
(4)透過写真の観察( 図5 参照)
 透過写真は十分明るいフィルム観察器(医療関係ではシャーカステンと呼ばれている)を用いて、暗所において観察することが必要である。フィルム観察器の明るさが一定の場合、濃度の高いフィルムほど透過する光量が少なく細かいものが見えにくいため、できるだけ明るいフィルム観察器を使用することが望ましい。また、透過光以外の光が観察者の目に入らないように、暗室などの室内で、フィルム寸法に合わせたマスクを使用するなどの考慮が必要である。
2.3 透視法
 試験体を透過したX線を蛍光増倍管(イメージインテンシファイヤ: 図6 参照)で可視化し、テレビカメラで撮影してモニターテレビにて観察する方法が普及してきている。
  図7 にX線テレビシステムの一例を示す(文献5)。X線管球から放射されたX線は、試験体を透過しイメージインテンシファイヤ(I.I)の一次蛍光面でX線の強弱に応じて発光する。そこで発生した光電子を電子レンズで二次蛍光面に結像させ、輝度を増倍した可視像として出力する。この像をテレビカメラにて撮像し、モニターテレビ(CRT)に映しだす。さらに、画像処理装置を併用することによって、画質は改善される。
 蛍光増倍管の代わりに、イメージングプレートを用いた透過試験法も実用化されつつある。イメージングプレートの原理説明図を 図8に示す。なお、中性子線を利用する場合は、X線・γ線では難しい水素成分を含む対象物の時有効であるので、工業用では少なくここでは省略する。
3.用語解説
*露出線図
透過写真を得るための撮影条件を決定する目的で使用するグラフ(線図)。
露出線図は、試験体の材質、使用するX線装置またはガンマ線透過試験装置、X線フィルム、増感紙、線源・フィルム間距離および現像条件を一定として、材厚に対する露出時間(露出量)の関係を示す図である。さまざまの管電圧(γ線の場合は核種)に対応する線図が載せてある。露出因子=γ線の強さx露出時間/(線源・フィルム間距離の2乗)から撮影距離、厚さ、時間を決める。(図9参照)
<図/表>
図1 透過試験の種類
図1  透過試験の種類
図2 欠陥検出の原理図
図2  欠陥検出の原理図
図3 直接撮影法における撮影配置の例
図3  直接撮影法における撮影配置の例
図4 撮影配置と幾何学的不鮮鋭度の関係
図4  撮影配置と幾何学的不鮮鋭度の関係
図5 ラジオグラフィ透過写真の例(融合不足)
図5  ラジオグラフィ透過写真の例(融合不足)
図6 イメージインテンシファイアの構造例
図6  イメージインテンシファイアの構造例
図7 透視法における撮影配置の例
図7  透視法における撮影配置の例
図8 イメージングプレートの原理説明図
図8  イメージングプレートの原理説明図
図9 γ線ラジオグラフィの露出線図の例
図9  γ線ラジオグラフィの露出線図の例

<関連タイトル>
エックス線発生装置の原理 (08-01-03-01)
非破壊検査用の線源 (08-01-03-11)
X線フィルムの構成と応用 (08-02-04-02)
中性子イメージングプレートとその応用 (08-04-01-02)

<参考文献>
(1)(社)日本非破壊検査協会:放射線透過試験I(1989)
(2)仙田:東京大学生産技術研究所報告11(1962)
(3)JIS Z 3104、鋼溶接部の放射線透過試験方法及び透過写真の等級分類方法(1968)
(4)ASTM E94・89、STANDARD GUIDE FOR RADIOGRAPHIC TESTING(1992)
(5)大岡紀一:非破壊計測技術の最近の話題−VI、X線ラジオグラフィー、日本原子力学会誌 Vol.33, No.7,p648?652(1991)
(6)石榑顕吉ほか(編):放射線応用技術ハンドブック、朝倉書店(1990)
(7)日本非破壊検査協会(編):非破壊検査用語辞典、養賢堂(1990)
(8)吉岡靖夫、大谷真一、新開 毅:イメージングプレートの細則X線解析への適用、非破壊検査、39(8),666-671
(9)(社)日本非破壊検査協会(発行):溶接部の放射線透過試料写真集(1988)
(10)富士 岳:放射線による検査技術の基礎、非破壊検査、39(9) 711-723(1990)
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