<本文>
1. 高速増殖炉燃料の構造の特徴
高速増殖炉(FBR)は、
239 Puの高エネルギー中性子による
核分裂 の際の中性子再生率(η)が2を大きく上回ることから、放出される余剰の中性子を
238 U等に吸収させて
239 Pu等の核分裂性物質に変換させることにより、核分裂性物質量を燃焼した量以上に増殖する
原子炉 である。ウラン資源を有効に且つ長期に亘って利用できる可能性を有している。この増殖性能を高めるためには、除熱、構造安定性が許容する限り燃料体積率を高くする必要があり、燃料を稠密に装荷できる構造として燃料棒を正三角格子に配列した六角断面形状を有する燃料集合体が採用されている。また、原子炉冷却材には、熱伝達特性に優れ、中性子
減速能 が小さい液体金属ナトリウムを用いている。このことは、エネルギーの低い
熱中性子 による核分裂を利用するため軽水(H
2 O)を減速材とし、これと燃料との比率を最適化するため燃料棒間ピッチを大きくとった構造を有する軽水炉と対照的である。
FBR燃料集合体の構造例(
原型炉 「もんじゅ」用)を
図1 に示す。また、FBR燃料仕様及び使用条件を軽水炉(BWR,PWR)燃料の代表例のそれらと比較したものを
表1 に示す。FBR燃料集合体は、PuO
2 とUO
2 との混合酸化物(MOX)を焼結したペレットを被覆管に充填してこれを燃料棒として、これにスペーサワイヤを螺旋状に巻き付け、さらに、これらを六角形状のラッパ管に束ねて収納した構造となっている。この燃料集合体には、原子炉冷却材を導入するエントランスノズル、
燃料交換機 との嵌合構造を有するハンドリングヘッドが上下に設置されている。エントランスノズルにはオリフィス孔が設けられており、燃料集合体毎に適切な冷却材流量配分が行われる。また、この集合体には上下方向3カ所に設けられたスペーサパッド部で隣接集合体と接触するようになっており、表面融着の防止、炉心形状のを維持が図られている。このように、FBR燃料集合体は、軽水炉燃料集合体に比べて簡単な構造を有しており、高速中性子照射下での構造寸法変化に対して柔軟に対応できる設計になっている。
また、燃料棒の比較的短い炉心領域の上下には減損ウランで構成される軸方向ブランケット領域が設けられ、炉心領域から漏れ出る中性子を減損ウランに吸収させている。さらに、燃料棒には核分裂により発生する
FP ガスによる内圧の上昇を抑制するために空間(プレナム)領域を設けているが、このプレナム長さは、燃焼度が高いこと、ペレットからのFPガス放出率が高いことから、軽水炉燃料に比べて長く設定されている。燃料の中心温度制限の中で高い出力密度を採るために、燃料棒外径(被覆管外径)は軽水炉燃料のそれに比べ細くなっている。ただし、長期運転サイクルを目指す場合には、出力密度を下げて燃焼欠損反応度を低減化することが有利となるため、径の太い燃料棒が指向される。また、FBR燃料の被覆管には、高温での機械的強度、ナトリウムとの共存性に優れたステンレス鋼が使用される。軽水炉燃料では、熱中性子吸収が少ないジルカロイが使用されているが、主に高速中性子での核分裂を期待しているFBRでは熱中性子吸収の点での制約は少ない。
燃料ペレットには、30wt%程度までの高いPu富化度の
MOX燃料 が使用される(Puのうち
239 Pu+
241 Puの割合は通常65〜80wt%程度であるから
核分裂性核種 濃度としては、24wt%程度までとなる)。これは、高速中性子に対する核分裂断面積が熱中性子のそれに比べ約1/300と小さく、臨界性を確保するために核分裂性核種の濃度(個数密度)を高くする必要があるためである。
FBR燃料は高い燃焼度まで照射されるため、FPの蓄積に伴うペレットの体積膨張(スエリング)が大きくなり、ペレットと被覆管の機械的相互作用(PCMI)がより顕著に発生する可能性がある。このため、ペレット密度としては低いものが用いられる傾向がある。なお、ペレットと被覆管内面とのギャップの大きさは、この間の熱伝達を良好に保つために軽水炉燃料と同様に挿入性の許す範囲で狭く設定されている。
2.高速増殖炉燃料の照射挙動の特徴
FBR燃料は、高速中性子照射量が大きいこと、高温で使用されること、高燃焼度まで照射されること等の厳しい条件で使用され、燃料健全性の観点から幾つかの特徴的な照射挙動に注意する必要がある。被覆管については、高速中性子照射に伴うスエリング及びクリープ挙動等、燃料ペレットについては、組織変化、FPガス放出等が挙げられる。また、燃料集合体では、ラッパ管(ダクト)とラッパ管との相互作用であるDDI挙動、燃料棒束(バンドル)とラッパ管との相互作用であるBDI挙動が挙げられる。以下にそれぞれについて概略を紹介する。
(1)被覆管のスエリング挙動
中性子のエネルギーが0.1MeVを超えると中性子との衝突により金属結晶格子上の原子がはじき出されて格子間原子(結晶格子間に留まった原子)及び原子空孔(はじき出された後に残る空格子点)等の格子欠陥が形成される。これらの格子欠陥は、結晶中に存在する転位(結晶中に存在する格子の線状の乱れ)に吸収されて消滅するが、格子間原子の方がより吸収されやすいために原子空孔が過剰に存在するようになる。この原子空孔が、核変換により生成されたHeにより安定化し、また、これらが集積してボイド(空隙)に成長する。このボイドにより被覆管は、体積的な膨れ(スエリング)を起こすことになる。
図2 に国産SUS316鋼被覆管スエリングの照射量依存性を示す。被覆管のスエリングは燃料棒外径の増加をもたらし、後述するBDI挙動に影響を与え、FBR燃料の寿命を制限する主要な要因となっており、燃料の高燃焼度化に向けて耐スエリング特性に優れた材料の開発が進められている。
(2)被覆管のクリープ特性
燃料棒内に放出されたFPガスにより燃料棒内圧は増加し、また、この内圧による応力により被覆管はクリープ変形し、外径は徐々に増加する。このクリープには、高温下で加速される熱クリープと中性子照射下で加速される照射クリープとに分割されて評価されるが、FBRでは照射クリープによる歪みがより重要となる。クリープが過度に進行するといわゆるクリープ破損を起こす可能性があるため、被覆管には高温でのクリープ強度が優れた材料が選択され、また、クリープによる累積損傷和(CDF)に制限を設けている。
(3)被覆管の腐食
被覆管の外面ではナトリウム中の酸素との結合により、被覆管肉厚が減少する腐食が発生するが、ナトリウム中の酸素濃度を適切に管理することにより僅かな減肉量に留まり、軽水炉でのジルカロイ製被覆管の外面腐食のように寿命延長への重要な課題となることはない。また、高燃焼度まで使用されることから、核分裂によりペレット内の酸素ポテンシャルが増加し、ヨウ素、セシウム等のFPの影響を受けて被覆管内面の腐食が起こる。これらの腐食の効果は、設計上、被覆管肉厚の減少として適切に考慮される。
(4)ペレットの組織変化
FBR燃料においては、比較的高温であること、径方向の温度勾配が大きいことから軽水炉燃料に比べ著しい組織変化を起こす。
図3 にペレット密度が異なった場合の金相写真の例を示す。この照射後のペレット組織は、ペレットの外周部(1200℃以下)での製造時の組織が残った領域(未変化領域)、結晶粒が等方的に成長した領域(等軸晶領域;1200〜1700℃)、温度勾配によりポア(ペレット内の微小な空隙)が移動して形成された柱状晶領域、さらに、ポアが集積されて形成した中心空孔から構成されている。この組織変化は、中心空孔の形成、ペレットの高密度化による熱伝導度の改善により燃料最高温度の低減効果を持つ。なお、この熱的特性の改善効果を期待して製造時に中空部を設けた中空ペレットがフランスのスーパーフェニックス等において採用されている。
(5)FPガスの放出挙動
FBR燃料では温度が比較的高く、ペレットの組織変化が大きいことから、FPガスの放出率が、軽水炉燃料に比べ格段に高くなっている。
図4 にFPガス放出率の燃焼度変化の例を示す。組織変化領域では最高100%近い放出率となっている。
(6)ラッパ管とラッパ管との相互作用(DDI)
ラッパ管材料においても被覆管と同様に高速中性子の照射に伴うスエリングが発生し、ラッパ管の外郭形状の増大を招く。また、ラッパ管内外面の圧力差によるクリープ変形により六角の各辺での外対面距離はさらに増加する。このような変形が進行して隣接集合体との隙間を埋めて接触することがないように、ラッパ管にも耐スエリング特性等が優れた材料が用られる。
(7)燃料棒バンドルとラッパ管の相互作用(BDI)
燃料棒及びラッパ管共に照射に伴ってスエリング、クリープによりそれぞれ変形が進行するが、温度、圧力条件等の違いにより燃料棒外径の変化割合の方が大きくなる場合には、燃料棒バンドルとラッパ管が干渉する可能性がある。干渉量が大きくなると冷却材流路変形に伴う被覆管温度の上昇、機械的接触による応力等が問題となるため、この干渉量が過大とならないように設計上配慮される。
<図/表>
表1 高速増殖炉燃料と軽水炉燃料の比較
図1 高速増殖炉用燃料集合体「もんじゅ」の構造図
図2 国産SUS316燃料被覆管スエリングの照射量依存性
図3 高速増殖炉用燃料ペレットの組織変化
図4 高速増殖炉燃料のFPガス放出挙動
<関連タイトル>
プルトニウム混合転換技術 (04-09-01-03)
高速増殖炉燃料の実例(原型炉「もんじゅ」用燃料) (04-09-02-05)
<参考文献>
(1)堀雅夫(監修):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993)
(2)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉もんじゅ発電所原子炉設置許可申請書(1980年申請、1990年変更)
(3)鹿倉栄ほか:「常陽」Mk-2炉心燃料の照射挙動、動燃技報、No.86(1993.6)
(4)Kashihara et al.:Dimensional stability of FBR fuel pins with modified type 316 stainless steel cladding at high burn-up,Proceedings of the international conference on fast reactor core and fuel structural behaviour, Inverness, UK,June 1990
(5)中江延男ほか:高速炉燃料の研究開発状況と今後の展望、核燃料工学−現状と展望−日本原子力学会(1993年11月)、p.195-240