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<概要>
 中国の原子力開発は、1955年、中ソ原子力協定の締結を機に開始され、1959年、中ソ対立を契機に旧ソ連は原子力関係技術者を引き上げたが、中国は軍事利用を中心に独力で核開発を進め、プルトニウム生産炉で生産したプルトニウムを抽出するため、甘粛省の酒泉に軍事用再処理パイロットプラントを建設し、1968年から運転を開始した。ここで抽出したプルトニウムで、1968年には水爆実験を行った。この経験をもとに、軍事用再処理プラント(酒泉再処理プラント)を建設し、1970年から操業している。一方、甘粛省蘭州に年間再処理能力50tUの商業用多目的パイロットプラント(RPP)を建設しており、2000年3月に建家が完成し、2007年には運転開始を予定している。また、中国核工業公司によると、フランスの協力で年間再処理能力400〜800トンウランの商業用再処理プラントの建設を計画しており、2020年頃に操業を開始する予定である。
<更新年月>
2004年09月   

<本文>
1.原子力開発の経緯
 中国の原子力開発は、1955年、中ソ原子力協力協定の締結をもって着手されたが、1959年の中ソ対立(フルシチョフと毛沢東の対立)を契機に、旧ソ連は中国から原子力関係技術者をすべて引き上げた。その後中国は、軍事を中心に独力で核開発を進めた。1960年代にウランの採鉱、精錬、濃縮から原爆実験、水爆実験まで行い、原子力の軍事利用技術を確立したが、原子力発電その他の平和利用には着手していなかった。1982年、全国人民大会で原子力発電計画を発表し、中国の原子力開発を掌握する組織として、中国核工業総公司(CNNC)を設置した。また、国務院に所属する独立組織の国家核安全局は、原子力の安全性を監督している。
 1998年4月から、中国核工業総公司の行政部門は、中国国家原子能機構(CAEA)の原子力外交部門を含め、新たに設置された科学・技術・国防産業委員会(COSTIND)に移管された。
 1999年7月、中国核工業総公司は中国核工業集団公司(中核集団公司)と中国核工業建設集団公司(建設集団公司)に分割・改組し、民営化された。中核集団公司は国務院により管理され、主にCNNCの「発電部門」、「燃料部門」、「貿易部門」、「ウラン採鉱部門」等を引き継ぎ、原子力発電所、熱供給原子炉、研究炉、放射線発生装置など原子力施設および関連分野の研究開発等を運営する。建設集団公司は、CNNCの「建設部門」および「原子力以外の部門」を引き継ぎ、原子力発電所の建設および原子力発電所周辺の基盤工事(トンネル、橋梁、道路、パイプライン等)などを行う。
 中国の総発電設備容量は2002年末時点で3億5,600万kWに達しており、年間の発電電力量、設備容量ともに米国に次いで世界第2位であるが、国民一人あたりの発電設備容量は0.27kWと先進国の10分の1以下の水準にある。
 1994年に広東省大亜湾に2基、秦山に1基の合計3基の原子力発電所が完成し、中国の総発電量の約1%を賄ってきたが、2002〜2003年に掛けて、秦山で3基、広東省嶺澳で2基の合計5基の発電所が新たに運転を開始している(表1参照)。2003年末時点で運転中の原子力発電所は8基・629万kWとなっている。2002年時点では、中国の総発電電力量(1兆6542億kWh)のうち81.47%を火力発電が占め、残りは水力が16.6%で、原子力発電はわずか1.6%に過ぎないことから、環境保護と持続可能な開発のためにも、エネルギー・ミックスの最適化が重要な課題となっている。
 中国の国内総生産(GNP)は2020年までに現在の2倍に増加するとみられ、これにともない電力需要も大幅に伸び、総発電設備容量が2020年までに8億kWを上回ると予測されている。原子力発電設備容量も2020年までに合計3,200万kWに達し、総発電設備容量の4%を占めるとみられている。
2.中国の再処理施設関連技術開発の経緯
 中国では、1956年に原子力担当の政府機関が誕生した(1958年の名称第2機械部)。1982年に原子力産業部となり、1988年に核工業総公司となった。再処理の技術開発は科学技術部の管轄で、北京核工程研究設計院、中国原子力研究所(CIAE)の他、北京、上海の各大学付設の原子力研究所が参加している。中国科学アカデミー系の研究所も一部関与している。
 1950年中頃よりプルトニウム生産を企画し、北京大学、清華大学で要員教育を行い、旧ソ連からの専門家を招聘していた。当時のプルトニウム回収についての旧ソ連の技術はウラニル酢酸塩沈澱法が主体だったが、中国では抽出法の優位に気付いて自主研究を開始した。1960年前半にCIAEで4kg/日のホットセル試験を行う一方、コールド試験用のパイロット・プラントが設けられた。この施設で1966年末には200gの二酸化プルトニウムを得ている。これらのプロセス、装置、機器の効率を実証し、運転員の訓練を行い、プルトニウム製品を早期に得るために、最初のパイロットプラント(軍事用再処理パイロットプラント)が建設され、1968年に完成、運転を開始した。さらに1960年代初めの政治的状況により強力な防衛力を持つための再処理工場建設要求が高まり、軍事用再処理パイロットプラントと平行する形で工業規模プラント(軍事用再処理プラント)の設計、建設が行われた。本プラントは可能な範囲で軍事用再処理パイロットプラントにおける経験を反映し1970年に完成、同年運転を開始している。
 図1に中国における主要原子力施設の所在地を示した。
 当初再処理技術は軍事利用のために研究開発、実用化が進められていたが、1980年代には使用済燃料を再処理し利用するように方針転換を行い、軍事目的以外にも原子力発電などの平和利用も図るようになった。
 中国が再処理を重視しているのは、1)ウラン資源の有効利用と自給自足態勢を確立して、再処理工程でウラン、プルトニウムを分離後、核分裂生成物をガラス固化して処分するほうが安全であること、2)ウラン採鉱、精錬、濃縮のコストは、中国では再処理リサイクルより高価につくこと等の理由があり、かつプルトニウム生産の経験が再処理技術の開発に役立つと判断したからである。
 中国では、各種の研究炉、潜水艦用動力炉および発電炉に対応する再処理技術開発の研究も引き続き行われている。
 低濃縮ウラン燃料の再処理については、機械的前処理とピューレックス溶媒抽出法の組み合せを考えている。1973年以来剪断機(250トン水平型)、回分式溶解槽、遠心清澄機等の主要機器のコールド試験を実施中であり、脱よう素プロセスも研究中である。化学分離工程では、溶融塩を用いないプロセス、電解還元プロセス、光化学的プロセスの研究、よう素・ネプツニウムの挙動研究、および溶媒稀釈剤の検討を行っている。機器類では、パルスカラムに注目しており、遠心抽出器についても検討している。テールエンド工程では、流動床ウラン脱硝還元、マイクロウェーブ脱硝、プルトニウム連続シュウ酸沈澱等が研究課題である。高濃縮ウラン燃料の再処理については、ウラン・アルミニウム合金の半連続溶解(水銀触媒・硝酸)、5%TBPプロセス等の研究開発を行っている。
3.中国の再処理施設
3.1 酒泉再処理プラント
 酒泉再処理プラントは、ガス炉の使用済燃料からプルトニウムを抽出する施設で、甘粛省の玉門(Yumen)の北西約45kmで酒泉(Jiuquan)の北西約115kmに位置する蘭州核燃料複合体(Lanzhou Nuclear Fuel Complex,LNFC)内にある。
(1) 軍事用再処理パイロットプラント
 軍事用再処理パイロットプラントが酒泉(Jiuquan)に建設され、1968年8月、試験運転に成功し、1968年9月から操業を開始した。このパイロットプラントは、400kgウラン/日のラインを2系列持ち、プルトニウム生産炉で照射したアルミ被覆金属ウラン燃料を化学脱被覆・溶解し、溶媒抽出第1サイクルでウラン、プルトニウムを分離、ウランはそのまま貯蔵、プルトニウムは第2サイクル溶媒抽出精製を行った後、陰イオン交換、シュウ酸沈澱、仮焼を行っている。このパイロットプラントで抽出したプルトニウムは、1968年の水爆実験に使用された。なお、このパイロットプラントは軍事用再処理工場の運転開始後に閉鎖された。このプラントは、汚染除去を徹底的にしなかったため残留放射能が高く、この生産ラインの改造や再利用は難しい。
(2) 軍事用再処理プラント
 軍事用パイロットプラントの経験をもとに、本格的な軍事用再処理施設を酒泉再処理プラント内に建設し、1970年4月から操業している。ウラン、プルトニウムともに3サイクルの溶媒抽出を行い、プルトニウムは第3サイクルの含プルトニウム有機相に直接蓚酸を加えて沈澱させ連続的に回収するプロセスを採用していたが、諸種の不具合があり、プルトニウムの抽出は第2サイクル逆抽出液からの回分式沈澱法に改良された。その後も、酸回収、還元剤・溶媒回収、パルスカラムの導入等、各種の改良が行われている。
 1980年代には、軍事用製品の供給を前提としながらも、余剰の生産能力を用いて民生品を生産するといった方針もとられている。
 図2に、軍事用再処理プラントの全景、図3に軍事用再処理プラントの内部、図4に使用済燃料集合体、図5に軍事用再処理プラントの制御室を示した。
3.2 蘭州再処理プラント
 甘粛省蘭州に年間再処理能力50tUの商業用多目的パイロットプラント(RPP)を建設しており、2000年3月に建家が完成した。大亜湾原子力発電所の使用済燃料の再処理契約を締結し、使用済燃料を2002年から2004年に輸送し、2007年には運転開始予定である。
 また、中国核工業公司によると、フランスの協力で年間再処理能力400〜800tUの商業用再処理プラント(MRF)の建設を計画しており、2020年頃に操業を開始する予定である。
4.動力炉用燃料の再処理研究
 中国はかなり以前から原子力潜水艦用原子炉や、高中性子束材料試験炉、研究炉から使用済燃料が取り出されており、1990年代初期から原子力発電所の使用済燃料も発生している。これらの使用済燃料は、ウラン−235の濃縮度によって低濃縮度燃料と高濃縮度燃料の2種類に分類される。低濃縮度燃料は、原子力発電所用軽水炉、原子力潜水艦用原子炉および研究炉で使用する燃料で、濃縮度は5%以下である。高濃縮度燃料は、濃縮度が90%以上の燃料で、材料試験炉で使用している。
4.1 低濃縮ウラン使用済燃料の特徴
(1) 燃料棒の被覆は、溶解しにくいジルコニウム合金なので、取扱いが困難な廃液の発生を避け、機械法と化学法、すなわち剪断−溶解法を採用する。
(2) 発電用燃料は、高燃焼度のため使用済燃料の放射能が強く、溶媒の放射線による損傷を軽減させるために使用済燃料の冷却期間を長くし、また溶媒との接触時間が短いパルスカラムを主要な溶媒抽出装置として採用する。
(3) プルトニウム濃度も高いので、臨界安全を確保するために、装置の形状寸法、可溶性中性子毒物、固定中性子毒物、および核分裂物質の質量と濃度などを制御する必要がある。また、放射能が強いため、ウランとプルトニウムの分離、およびプルトニウム化学工程も難しい。
4.2 高濃縮ウラン使用済燃料の特徴
 高濃縮ウラン使用済燃料に対する非常に重要な留意点は臨界に関する安全性であり、希釈されたTBPによる抽出法を採用する。
5.使用済燃料の貯蔵
 秦山1号の使用済燃料貯蔵プールは、発電所を全出力で運転した場合の15年間の使用済燃料を貯蔵できる。この発電所および他の発電所の使用済燃料は、サイト外貯蔵プール(AFR:Away From Reactor)まで輸送し、再処理を実施するまでここに貯蔵する。
 甘粛省蘭州商業用多目的パイロットプラント(RPP)貯蔵施設は550Mtの貯蔵能力があり、使用済燃料を2002年頃から受け入れる予定である。
6.使用済燃料の発生予想
 2004年5月末時点で運転中の原子力発電所は9基・670万kWとなっており、2005年にはPWRからの年間使用済燃料発生量は急増して168tUとなる予定であり、累積発生量も940tUに達する見とおしである。これに加えてCANDU炉からも年間176tUが発生し、累積発生量も440tUとなる。そのほか、2001年からスタートする第10次5カ年計画では、2015年までに6基の100万kW級PWRが稼動する予定であり、使用済燃料の発生が急増するものと予想される。一方、沿岸部に位置する原子力発電所から、甘粛省蘭州核燃料サイクル施設にある再処理工場までの使用済燃料の輸送には、海上輸送と鉄道輸送を合せたフィジビリティ・スタディーが実施検討中である。
<図/表>
表1 中国の原子力発電所
表1  中国の原子力発電所
図1 中国の原子力関連施設所在地
図1  中国の原子力関連施設所在地
図2 酒泉軍事用再処理プラントの全景
図2  酒泉軍事用再処理プラントの全景
図3 酒泉軍事用再処理プラントの内部
図3  酒泉軍事用再処理プラントの内部
図4 PWRの核燃料集合体
図4  PWRの核燃料集合体
図5 酒泉軍事用再処理プラントの制御室
図5  酒泉軍事用再処理プラントの制御室

<関連タイトル>
中国の電力事情と発電計画 (14-02-03-02)
中国の原子力発電開発 (14-02-03-03)
中国の核燃料サイクル (14-02-03-04)

<参考文献>
(1)館盛 勝一:中国における使用済み核燃料再処理技術開発の経緯、JAERI−Review 97−018、日本原子力研究所、p.1−23 (1998年1月)
(2)(社)海外電力調査会:海外電力誌「藤井 晴雄:中国の原子力開発と原子燃料サイクル」、1999年12月号、p.60−65
(3)(社)日本原子力産業会議:原産年鑑1997年版、各国の原子力動向、中国、p.284−285
(4)(社)日本原子力産業会議:原産年鑑1998/99年版、各国の原子力動向、中国、p.304−307
(5)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向2003(2004年5月)p.29−31
(6)原子力委員会編:平成15年版原子力白書(2003年12月)、p.75
(7)大田垣 隆夫 他:海外再処理技術の現状調査 成果報告書、JNC TJ8420 2000−014 、核燃料サイクル開発機構、p9−1 − 9−20 (2000年3月)
(8)(社)日本原子力産業会議:アジア協力センター インフォメーション サービス グループ、中国の原子力の動向、10/32−11/32
(9)(社)日本原子力産業会議:原産マンスリーNo.37、「中国の燃料サイクル・バックエンド戦略と今後の見通し」、1998年12月25日、p.13−17
(10)Nuclear Engineering International:Datafile: China(1993年10月)、p.16−22
(11)Nuclear Engineering International:World Nuclear Industry Handbook 1999、Fuel Cycle Facilities、p.264−268
(12)Nuclear Engineering International:World Nuclear Industry Handbook 2000、Fuel Cycle Facilities p.203−211
(13)Tracking Nuclear Proliferation 1998、Rodney W.、Jones and Mark G.、McDonough with Toby F.Dalton and Gregory D.Koblents、Carnegie Endowment for International Peace(1999年8月)、p.62−66
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