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<概要>
 原子炉物理の理解のための前提条件として原子と原子核についての基本的な知識と、原子核から放出される放射線と物質の相互作用について知ることが必要である。この分野を原子核物理と呼んでいるが、本タイトルは原子核物理の基礎としての「原子核の構造」<03-06-03-01>に始まる一連の内容についてシリーズ形式で記述したものであり、シリーズ物が総合されてサブタイトルの「原子核の物理」編として完結する。
<更新年月>
2006年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.素粒子
 物質を構成する単位は原子であるが、原子は電子と原子核により構成されている。さらに原子核は陽子中性子により構成され、それらはかつては、これ以上細かく分けられないものという意味で素粒子と呼ばれた。しかし、加速器の発達とともに、「奇妙な粒子」や素粒子と考えられるものの励起状態が発見され、これ以上分けられないと定義がはっきりしなくなり、後述のメソンやバリオンのように、素粒子が複合してできたと考えられるものも歴史上の理由から素粒子と呼ばれている。
 素粒子には電子のように物質を構成するものと、力(相互作用)を媒介するものが存在する。後者はゲージボゾンと呼ばれる。表1に現在知られているゲージボゾンを示す。なお、素粒子には全てそれに対応する反粒子(質量、寿命、スピンが同じで逆符号の電荷を持つものが存在する。
 電子の仲間を総称してレプトンという。レプトンには電荷が−1(1.602x10-19Cを単位として)の荷電レプトンと電気的に中性なニュートリノのグループがある。電子のグループには電子とミュー(μ)粒子、タウ(τ)粒子の3つ、ニュートリノのグループには電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3つがある。
 原子核を構成する陽子と中性子は、実はそれぞれクオークと呼ばれる物質3個から構成されている。クオークには+2/3の電荷を持つアップ(u)、チャーム(c)、トップ(t)の3種類と−1/3の電荷を持つダウン(d)、ストレンジ(s)、ボトム(b)の3種類がある。陽子は2個のuと1個のd、中性子は1個のuと2個のdからできている。表2にレプトンとクオークの性質を示す。これらの12種類が現在物質の究極の構成粒子であり、基本的な粒子と考えられている。このうち自然界の物質を構成しているのは電子とアップ、ダウンクオークの3種であり、他のクオークや電子の仲間はこれらの粒子がくっついたり、分かれたりする反応において一瞬だけ現れる。
 クオークは単独では存在できず、クオークと反クオークの複合体であるメソン(中間子)、または3個の複合体であるバリオン(重粒子)としてのみ存在できると考えられている。メソンとバリオンを合わせてハドロンという。主なハドロンの性質を表3に示す。
2.加速器
 加速器は真空の中で電気力によって、イオンや電子のエネルギーを大きくする装置で、当初は原子核の間に働くクーロン力に打ち勝って原子核反応を起こさせる目的で開発された。今日では、工業用、医療用などにその用途は拡がっている。加速器にはいくつかの種類があるが、それらについて簡単に説明する。
2.1 静電型加速器
 電極に高電圧を作り、電極と大地(アース)間で粒子を加速する装置で、(a)コッククロフト・ワルトン型と、(b)ヴァン・デ・グラフ型に大別される。
(a) コッククロフト・ワルトン型加速器
交流を整流して作った直流電圧によって高電圧を電極に与え、イオンを加速するもので、コンデンサーと整流器を何段か重ねれば大気中で1MV程度まで電圧を得ることができる。さらにこれを高気圧の絶縁性ガスを詰めた鋼製タンクに入れることにより、数MVまでの電圧を得ることができる。
(b) ヴァン・デ・グラーフ型加速器
 図1のように、滑車をつけた絶縁性ベルトを動かして電荷を電極に運んで高電圧を得る方法の加速器である。大気中では1MVまでであるが、鋼製タンクに入れて絶縁性ガスを高気圧にすると7MV程度までの高電圧が得られる。この装置の変形として、絶縁ベルトの代わりに金属片を絶縁物で連結した鎖を用いるペレトロン加速器がある。また普通の方法では作った電圧以上にイオンを加速することはできないが、電極が正のとき、まず、大地側で負のイオンを作り高電圧電極に向かって加速し、電極内でイオンを気体もしくは薄膜に衝突させることにより正イオンとして、今度は大地に向かって加速することにより電極電圧の2倍の加速エネルギーを得る型のものをタンデムヴァン・デ・グラフという。
2.2 線形加速器(ライナック)
 静電型加速器では電極電圧に数MVという限界があるが、図2のように、電場の中に金属円筒を置き、これに高周波をかけて円筒の間隙でイオンを加速する。イオンが次の間隙にきたときに、電波の位相が2πだけ進んで再び加速するという動作を繰り返して粒子を加速する。主に大型陽子シンクロトロンの入射器として使われ、20〜200MeVまでのものがある。電子を加速するものでは、数MeVのものから数10GeVのものまでがある。
2.3 円形加速器
(a)サイクロトロン
 以上は直線型の加速器であるが、これに対し円形加速器といわれるものがある。その基本はサイクロトロンで、図3のように一様な磁場の中で、中空のD字型の電極を向かい合わせ、中央から荷電粒子を出すと、粒子は加速され、外側をまわるようになる。この粒子が電極の間隙を通過するときに粒子が加速されるよう電圧をかけると、粒子は加速されさらに外側を回るようになる。このとき小さな円を描いても、大きな円を描いても1回転に要する時間は同じになるので、電極間に一定の周波数をかけてやれば粒子は渦巻状に半径を大きくしながら加速されていく。ただしこれで得られる最大エネルギーは陽子で最大20MeVで、それ以上になると、イオンに相対論的変化が起こる(質量が重くなる)ためと磁場による集束作用を用いるために、磁場を半径rとともに小さくする必要があるので、加速ができなくなる。このときサイクロトロンの電磁石の電極に山と谷を作ってイオンが円運動のときとは違う道筋を通るようにし、磁場の平均値が半径rとともに一定か増大するように集束作用を十分にすることができる。これをSF(sector focus)サイクロトロンまたはAVF(azimuthally varying focus)サイクロトロンという。
(b)シンクロサイクロトロン
 サイクロトロンで、エネルギーが大きくなり、粒子の回転と電極間の周波数が一致しなるのを避けるために、イオンの半径が大きくなるとともに電波の周波数を小さくする、すなわち周波数変調を加える。この形のものをシンクロサイクロトロンという。ただし陽子の場合、高エネルギーを得るには、低いエネルギーから加速したのでは周波数変調の幅が大きくなりすぎてしまうので、あらかじめ入射用加速器で加速したイオンを入射させる。エネルギーの高いものでは数100GeVのものが作られている。
2.4 ベータトロン
 ベータトロンでは電波を用いず、磁束の変化を利用するので、加速する粒子は電子に限られる。図4のように軸対称であるが一様でない磁束密度Bの分布があり、時間変化をするとする。このとき、磁束と磁場、電子の半径の間にある条件があると、電子が一定の半径Rに止まりながら加速され続ける。30〜200MeVのものが作られている。
<図/表>
表1 ゲージボゾンの性質
表1  ゲージボゾンの性質
表2 レプトンとクオークの性質
表2  レプトンとクオークの性質
表3 主なメソンとハドロンの性質
表3  主なメソンとハドロンの性質
図1 ヴァン・デ・グラーフの概念図
図1  ヴァン・デ・グラーフの概念図
図2 陽子線形加速器(ライナック)の概念図
図2  陽子線形加速器(ライナック)の概念図
図3 サイクロトロンの概念図
図3  サイクロトロンの概念図
図4 ベータトロンの概念図
図4  ベータトロンの概念図

<関連タイトル>
原子核物理の基礎(1)原子核の構造 (03-06-03-01)
原子核物理の基礎(2)原子核の壊変 (03-06-03-02)
原子核物理の基礎(3)核反応 (03-06-03-03)
原子核物理の基礎(4)核分裂反応 (03-06-03-04)
原子核物理の基礎(5)断面積 (03-06-03-05)
原子核物理の基礎(6)放射線と物質の相互作用 (03-06-03-06)

<参考文献>
平川直弘、岩崎智彦:「原子炉物理入門」、東北大学出版会(2003年10月)
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