<本文>
1.高温ガス炉燃料の構造
高温ガス炉の燃料は、一般に0.5〜1mm直径の被覆燃料粒子、これらを黒鉛粉と混合して成形した燃料要素(燃料コンパクト等)及びこれを黒鉛製構造物に組み込んだ燃料体から構成される。被覆燃料粒子は200から600μm直径の燃料核(
ウラン(U)、
トリウム(Th)の酸化物、炭化物)に熱分解炭素(PyC:Pyrolytic Carbon)、炭化珪素(SiC)で多重に被覆した微粒子であり、一個の寸法は外径が0.5〜1mmである。
被覆燃料粒子各種被覆層の機能は次の通りである。
1)バッファ層:燃料核表面付近から飛び出す核分裂片の運動を止め、外部の被覆層の損傷を防止するほか、ガス状核分裂生成物(
FP)等を溜める空間、燃料核
スウェリングの吸収、燃料核移動に対する緩衝帯としての機能がある。
2)内側PyC層:SiC蒸着の際に発生する不純物と燃料核との反応を防ぐほか、照射収縮によりSiC層に圧縮応力を発生させ、被覆燃料粒子を安定化させる。又、ガス状核分裂生成物に対する拡散障壁となる。
3)SiC層:ガス状FP、固体状FPに対する拡散障壁であるとともに、被覆燃料粒子全体の強度を保つ。
4)外側PyC層:照射収縮によりSiC層に圧縮応力を発生させ、照射下の被覆燃料粒子全体の強度を保つ。
被覆燃料粒子は、燃料核(UO
2,ThO
2)、低密度炭素(PyC)バッファ層、シール層(BISO被覆燃料粒子(後述)のみ;バッファ層)、高密度炭素(PyC)内層、炭化ケイ素層(SiC)および高密度炭素(PyC)外層で構成される(
図1(a)参照)。基本的構成は英国/
OECDのドラゴン炉設計の際に開発された。以下に示すように、燃料核からFP拡散の障壁の役目をする被覆層が三重であることから
TRISO型被覆燃料粒子と呼ばれている。この被覆層が二重のものは
BISO被覆燃料粒子と呼ばれるが、今は採用されていない。
燃料要素の型は、棒状燃料、
ペブルベッド型燃料およびブロック型燃料に大別される。棒状燃料は、軽水炉燃料のように燃料ペレットを黒鉛スリーブに挿入して
燃料棒とし、この燃料棒が黒鉛ブロックに装荷される。燃料棒内にはFPトラップの
プレナムを有している。米国のピーチボトム炉およびドラゴン炉の
初期炉心で採用された。
ペブルベッド型燃料(
球状燃料)では、直径60mmの黒鉛素地(黒鉛マトリックス)中の直径50mm内に被覆燃料粒子を分散させた燃料充填領域を有している(
図1(b)参照)。ドイツで開発され、ドイツおよび中国の高温ガス炉(AVR,THTR-300(ドイツ)、HTR-10、HTR-PM(中国))で採用されている。
ブロック型燃料にはマルチホール・ブロック型燃料とピンイン・ブロック型燃料とがある。マルチホール・ブロック型燃料では(
図2参照)、六角柱状黒鉛ブロック中に燃料棒用孔と原子炉冷却材(
ヘリウム)流路用孔とが別々に設けられている。米国の高温ガス炉(フォートセントブレイン炉、
MHTGR)で採用されている。フォートセントブレイン炉では、このような黒鉛ブロック(
燃料集合体)を6段積み上げて1カラムを構成し、247カラムで炉心を構成している。
ピンイン・ブロック型燃料では(
図3参照)、黒鉛ブロック中の燃料棒周辺の間隙に原子炉冷却材流路が設けられている。ドラゴン炉の後期炉心および日本の
HTTRで採用されている。HTTRでは、このような黒鉛ブロックを5段積み上げて1カラムを構成し、30の燃料カラムと7つの制御棒案内カラムで炉心を構成している。
2.高温ガス炉燃料の製造
燃料核の製造法には乾式法(溶融法)と湿式法(ゾルゲル法)とがある。被覆層は流動床中で蒸着ガスの熱分解により燃料粒子上に蒸着される。バッファー層の蒸着にはアセチレンを、PyC層の蒸着にはプロピレンやプロパンを用いる。SiC層はメチルトリクロロシランと水素の混合ガスの高温熱分解で得られる。被覆層はFPに対する主たる障壁としての機能をもっており、高温照射下でもガス状FPを被覆燃料粒子内にほぼ完全に保持できる。これまでの被覆燃料粒子の照射試験研究から明らかとなったことは、照射下で放出されるガス状FPは、燃料コンパクト中の汚染ウランや被覆層破損粒子から発生しているということである。したがって、製造時に汚染ウランおよび破損粒子をできるだけ低減し、かつ照射中に破損を起こさせない高品質の燃料を製造することが必要である。日本では蒸着条件及び燃料コンパクト製作条件の改良を行うことにより被覆層破損率の低減化に成功している。
3.高温ガス炉燃料の安全性
高温ガス炉の燃料は、セラミックス燃料核、PyC、SiC、黒鉛等の耐熱材料で構成されているので、通常運転時はもとより、事故が発生して燃料温度が上昇しても燃料溶融、被覆層破損はほとんど生じず、事故条件下においてもFPを保持する。照射済み被覆燃料粒子の事故条件模擬昇温過熱試験結果によると、約2000℃まで著しい被覆層破損は生じず、FPが大量に放出されることはない(
図4参照)。したがって、事故時の燃料最高温度を1600℃以下に抑えるように炉心の出力及び形状を選定し、動的機器に頼らずに熱伝導、輻射、自然対流などの自然現象原理により
崩壊熱除去を行うことが可能となる。
<図/表>
<関連タイトル>
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
高温ガス炉の安全性 (03-03-03-02)
海外における高温ガス炉運転実績 (03-03-03-03)
高温ガス炉燃料の事故時のFP閉じ込め機能 (06-01-04-01)
<参考文献>
(1)IAEA:STI/DOC/10/312(1990)
(2)J.Nucl.Matter. Vol.171 (1990)
(3)斉藤伸三ほか:原子力誌、32(9)、847−871(1990)
(4)O.M.Stansfield:Evolution of HTGR Coated Particle Fuel Design,Energy,16(1/2),33−45(1991)
(5)佐野川好母、斉藤伸三:原子力誌、29(7)、603−613(1987)
(6)高温工学視線研究炉開発部(編):高温工学試験研究の現状1993年、日本原子力研究所(1993年11月)
(7)高温工学試験研究炉開発部(編):高温工学試験研究の現状1996年、日本原子力研究所(1996年10月)
(8)L.Massimo:Physics of High Temperature Reactors,Pergamon Press(1976)
(9)W.Schenk. et al:Fuel Accident Performance Testing for Small HTRs, J.Nuclear Materials,171,19−30(1990)