<概要> 高温ガス炉は、黒鉛減速ヘリウム冷却型熱中性子炉である。わが国では1991年3月に着工、1998年11月に初臨界に達した日本原子力研究開発機構(旧日本原子力研究所)の高温工学試験研究炉(HTTR:High Temperature Gas-cooled Test Reactor)がこの炉型である。わが国のエネルギー政策では、東京電力福島第一原子力発電所の事故以降停止している原子力発電所について、安全確保を最優先として新規制基準に対応したものから再稼働している。ここでは、その現在商用発電炉として運用中の軽水炉と高温ガス炉との相違を燃料、冷却材、減速材などの点から概略的な比較を行う。 <更新年月>
2022年06月
(5)商用化
軽水炉の沸騰水型炉(BWR)と加圧水型炉(PWR)はそれぞれ米国のGE社およびWH社が最初に開発し、1960年代以降、日本、ドイツ、フランスさらにはイギリスなどにおいても商用発電炉として導入され、今日の原子力発電システムの主流として大量に供用されている。軽水炉は低濃縮ウランの二酸化ウランペレットをジルカロイ金属被覆管に密封して燃料棒とし、それを多数本束ねて燃料集合体としている。冷却材は高圧・高圧の水であるが、水蒸気を原子炉圧力容器(RPV)内の炉心で発生させるものがBWR、RPV外の蒸気発生器において発生させるものがPWRである。この水蒸気を使ってタービンを回転させ発電するシステムを熱力学的にランキンサイクルという。このシステムの熱効率は蒸気温度により一義的に決定される。軽水炉は約300℃の飽和水蒸気をタービン駆動流体としているので熱効率は約33%である。わが国のみならず、世界の商用発電炉の大半が軽水炉であり、約100−160万kWクラスに大型化している。軽水炉では炉心が空だき状態となって損傷するシビアアクシデントの発生を防止するために、非常用炉心冷却装置(ECCS)等の工学的安全施設が設けられている。燃料は使用後に再処理施設で処理され、残存235Uは軽水炉用燃料として再利用される。この時に回収されるプルトニウム(239Pu、241Pu)は、再び原子炉の燃料として使用される。
高温ガス炉は、ドイツで電気出力30万kWのTHTR−300が建設され、1986年に運転営業を開始したが、トラブルをきっかけに1989年に運転を終了した。米国では1979年にフォートセントブレイン(FSV)炉(電気出力34万kW)が営業運転に入ったが、稼働率の問題などから1989年に運転を終了した。その後の高温ガス炉は、TMI事故(1979年)や福島第一原子力発電所事故(2011年)など軽水炉での重大事故の影響もあり、原子炉固有の安全性を高めた小型・モジュール型の原子炉(SMR)として開発が進められている。現在、中国においてモジュール型高温ガス炉蒸気タービン発電システムの実証炉HTR-PM(High Temperature gas cooled Reactor of Pebble bed Module)の建設が進められ2022年の全出力運転を目指している。 <図/表>