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<概要>
  高温ガス炉は、黒鉛減速ヘリウム冷却型熱中性子炉である。わが国では1991年3月に着工、1998年11月に初臨界に達した日本原子力研究開発機構(旧日本原子力研究所)の高温工学試験研究炉(HTTR:High Temperature Gas-cooled Test Reactor)がこの炉型である。わが国のエネルギー政策では、東京電力福島第一原子力発電所の事故以降停止している原子力発電所について、安全確保を最優先として新規制基準に対応したものから再稼働している。ここでは、その現在商用発電炉として運用中の軽水炉と高温ガス炉との相違を燃料、冷却材、減速材などの点から概略的な比較を行う。

<更新年月>
2022年06月   

<本文>

 東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生するまでは、原子力エネルギーを国産の基幹エネルギー源と位置づけ、発電用原子炉として軽水炉と高速炉の積極的な導入を目指していた。軽水炉は米国型軽水炉の国産化と改良・高度化、高速炉においては自主開発という基本路線の下に進められてきている。高温ガス炉は、試験研究炉として国産のHTTRが建設され、運転中である。第6次エネルギー基本計画(令和3年10月制定)では、「水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉を始め、安全性等に優れた炉の追求など、将来に向けた原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発や人材育成を進める」とされている。
 以下に、商用発電炉として広く導入されてきた軽水炉と実用化を目指している高温ガス炉との相違を燃料/被覆材、冷却材、減速材などの点から概観する。

(1)燃料/被覆材
 軽水炉は金属で被覆した燃料を使用するのに対し、高温ガス炉は黒鉛等のセラミックスで被覆した直径約1mmの被覆粒子燃料を用いる。これらの被覆材が核分裂によって生まれる放射性物質を閉じ込める役割を果たす。軽水炉では冷却材の温度が300〜350℃であるため、燃料の被覆金属の融点(約1800℃)に対して十分な余裕を確保している。高温ガス炉は冷却材の温度が900〜1000℃であるため、耐熱性に優れたセラミックスを使用している。この被覆粒子燃料は1000℃を超える高温で長期運転しても、また、事故時に制限温度の1600℃という超高温になっても被覆の健全性を損なわずに、確実に放射性物質を燃料被覆内に閉じ込めることができる。図1は、燃料が1600℃以下であれば、燃料破損するものはなく健全であることを示す実験データである。

(2)冷却材
 軽水炉では軽水を使用している。軽水は減速材としての役割も持ち、身近な物質で豊富に存在する。さらに、その特性は良く知られており、取扱いが容易である点などが大きな要因であるが、冷却材喪失事故等で炉心が空焚きになり大きく昇温すると水-ジルコニウム反応によりジルコニウムが酸化されて水素ガスが発生する。一方、高温ガス炉では化学的に不活性なヘリウムガスを用いている。

(3)減速材
 軽水炉では前述のように冷却材でもある軽水を兼用している。高温ガス炉では中性子の吸収が少なく、放射線に強く、耐熱性に優れ、熱伝導性の良い黒鉛を用いている。この黒鉛は減速材と炉心構造材の機能を兼ねており、さらに熱容量が大きいことから、事故時の急激な温度上昇を抑える役割も担っている。

(4)出力規模
 軽水炉は、スケールメリットを活かすため欧州加圧水型炉(EPR)のように160万kWeレベルにまで大型化している。高温ガス炉は、受動安全を確保できる熱出力30万〜60万kWt(電気出力で15〜30万kWe)の小型炉でモジュール化している。大出力を必要とする場合には、モジュール化した原子炉を複数基設置することで対応できる。なお、出力規模の相違などの参考例として、原子炉設備の主要仕様を、軽水炉では大型の沸騰水型炉(BWR)柏崎刈羽原子力発電所設備を表1に、高温ガス炉ではガスタービン発電システムを採用していたPBMR(南アフリカ共和国で開発がすすめられたペブルベッドモジュール炉)の設備を表2に示す。また、BWRの原子力発電所主要系統概要(図2)とPBMRの構成(図3)を参考として例示する。

(5)商用化
 軽水炉の沸騰水型炉(BWR)と加圧水型炉(PWR)はそれぞれ米国のGE社およびWH社が最初に開発し、1960年代以降、日本、ドイツ、フランスさらにはイギリスなどにおいても商用発電炉として導入され、今日の原子力発電システムの主流として大量に供用されている。軽水炉は低濃縮ウランの二酸化ウランペレットをジルカロイ金属被覆管に密封して燃料棒とし、それを多数本束ねて燃料集合体としている。冷却材は高圧・高圧の水であるが、水蒸気を原子炉圧力容器(RPV)内の炉心で発生させるものがBWR、RPV外の蒸気発生器において発生させるものがPWRである。この水蒸気を使ってタービンを回転させ発電するシステムを熱力学的にランキンサイクルという。このシステムの熱効率は蒸気温度により一義的に決定される。軽水炉は約300℃の飽和水蒸気をタービン駆動流体としているので熱効率は約33%である。わが国のみならず、世界の商用発電炉の大半が軽水炉であり、約100−160万kWクラスに大型化している。軽水炉では炉心が空だき状態となって損傷するシビアアクシデントの発生を防止するために、非常用炉心冷却装置(ECCS)等の工学的安全施設が設けられている。燃料は使用後に再処理施設で処理され、残存235Uは軽水炉用燃料として再利用される。この時に回収されるプルトニウム(239Pu、241Pu)は、再び原子炉の燃料として使用される。
 高温ガス炉は、ドイツで電気出力30万kWのTHTR−300が建設され、1986年に運転営業を開始したが、トラブルをきっかけに1989年に運転を終了した。米国では1979年にフォートセントブレイン(FSV)炉(電気出力34万kW)が営業運転に入ったが、稼働率の問題などから1989年に運転を終了した。その後の高温ガス炉は、TMI事故(1979年)や福島第一原子力発電所事故(2011年)など軽水炉での重大事故の影響もあり、原子炉固有の安全性を高めた小型・モジュール型の原子炉(SMR)として開発が進められている。現在、中国においてモジュール型高温ガス炉蒸気タービン発電システムの実証炉HTR-PM(High Temperature gas cooled Reactor of Pebble bed Module)の建設が進められ2022年の全出力運転を目指している。

<図/表>
表1 沸騰水型炉(BWR)柏崎刈羽原子力発電所設備の主要仕様
表1  沸騰水型炉(BWR)柏崎刈羽原子力発電所設備の主要仕様
表2 PBMR設備の主要仕様
表2  PBMR設備の主要仕様
図1 被覆燃料粒子の耐熱性
図1  被覆燃料粒子の耐熱性
図2 沸騰水型炉(BWR)原子力発電所主要系統概要
図2  沸騰水型炉(BWR)原子力発電所主要系統概要
図3 PBMRの構成
図3  PBMRの構成

<関連タイトル>
原子力発電技術の開発経緯(BWR) (02-03-01-01)
原子炉機器(BWR)の原理と構造 (02-03-01-02)
ガス冷却型原子炉の技術的進展 (03-03-01-01)
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
新型発電用高温ガス炉の開発動向 (03-03-04-01)
海外における高温ガス炉の研究開発(03-03-07-01)
ペブルベッドモジュール炉(PBMR)(03-03-07-03)
<参考文献>
(1)日本機械学会:機械工学便覧 B応用編 Cエンジニアリング編
(2)原子力ハンドブック:(株)オーム社(平成19年11月20日)
(3)東京電力:柏崎刈羽原子力発電所、http://www.tepco.co.jp/nu/kk-np/intro/outline/outline-j.html
(4)IAEA-TECDOC-1694:https://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/TE-1694_web.pdf
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