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<概要>
 高温ガス炉は、黒鉛減速ヘリウム冷却型中性子炉である。わが国ではこの型の原子炉は1991年3月に着工、1998年11月に初臨界に達した原研の高温工学試験研究炉(HTTR:High Temperature Gas−cooled Test Reactor)が最初である。わが国の動力炉開発計画によれば、発電用原子炉としては、軽水炉を基軸としてナトリウム冷却高速増殖炉を導入していく計画になっている。ここでは、現在商用発電炉として活躍している軽水炉と高温ガス炉との相違を燃料、冷却材減速材などの点から概略的な比較を行う。併せて、発電プラントの主要仕様の例として、軽水炉では沸騰水型炉(BWR)の柏崎刈羽原子力発電所設備を、高温ガス炉ではペブルベッドモジュール型炉(PBMR)の設備を示す。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 原子力エネルギ−の平和利用の主流は、今日のところ電力の生産である。わが国では国の原子力開発利用政策において、発電用原子炉としては軽水炉と高速炉を基幹としている。これらの動力炉開発は、軽水炉においては米国型軽水炉の国産化と改良、高度化、高速炉においては自主開発という基本路線の下に進められてきている。高温ガス炉においては、試験研究炉として国産のHTTRが製作され、運転されている。その後、高温ガス炉の国および民間を含めたナショナルプロジェクトとしての位置づけは、平成17年10月に策定された「原子力政策大綱」で初めて、「4−1−2.革新的な技術概念に基づく技術システムの実現可能性を探索する研究開発」の項で「高温の熱源や経済性に優れた発電手段となり得る高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発等については、今後とも技術概念や基盤技術の成熟度等を考慮しつつ長期的視野に立って必要な取組を決め、推進していくことが重要である。」とうたわれた。
 以下に、商用発電炉として活躍している軽水炉と実用化を目指している高温ガス炉との相違を燃料/被覆材、冷却材、減速材などの点から概観する。
(1)燃料/被覆材
 軽水炉は金属で被覆した燃料を使用するのに対し、高温ガス炉はセラミックスで被覆した直径約1mmの被覆粒子燃料を用いる。これらの被覆材が核分裂によって生まれる放射能を閉じ込める役割を果たす。軽水炉では、金属被覆にしても冷却材の温度が300〜350℃であるために金属の溶融点に対し尤度を十分に取ることができる。高温ガス炉の場合には冷却材の温度が900〜1000℃であるため、耐熱性に優れたセラミックスを使用している。この被覆粒子燃料は、金属製被覆燃料では保持できない1000℃を超える高温で長期運転しても、また、事故時に制限温度の1600℃という超高温になっても被覆の健全性を損なわずに、確実に放射能を燃料内に閉じ込めることができる。図1は、燃料が1600℃以下であれば、燃料破損するものはなく健全であることを示す実験データである。
(2)冷却材
 冷却材は、軽水炉では軽水を使用している。これは、軽水は減速材としての特性も持っており、また身近な物質で豊富に存在し、その特性については良く分かっており、取扱いが容易である点などが大きな要因である。高温ガス炉では化学的に不活性なヘリウムガスを用いている。900〜1000℃の高温の熱を取り出すためには、軽水では取り出すことが困難なために、ヘリウムを使用している。ヘリウムは高温でも燃料や構造材と化学反応を起こすことはない。
(3)減速材
 減速材は、軽水炉では上記に示す冷却材でもある軽水を兼用している。高温ガス炉では中性子の吸収が少なく、放射線に強く、耐熱性に優れ、熱伝導性の良い黒鉛を用いている。ところで、この黒鉛は減速材と炉心構造材の機能を兼ねており、また、熱容量が大きいことから、事故時の急激な温度上昇を抑える役割も担っている。
(4)出力規模
 軽水炉は、スケールメリットをねらって150万kWeレベルにまで大型化している。高温ガス炉は、システムをシンプルにしても安全を確保できる熱出力30万〜60万kWt(電気出力だと、15〜30万kWe弱)の小型にし、モジュール化している。そして、大出力を必要とする場合には、モジュール化した原子炉を複数基、同じ区域に設置することで対応できるようになっている。すなわち、必要な規模に見合った取り組みを可能にしている。なお、出力規模の相違などの参考例として、原子炉設備の主要仕様を、軽水炉では大型の沸騰水型炉(BWR)柏崎刈羽原子力発電所設備を表1に、高温ガス炉ではPBMR設備を表2に示す。また、沸騰水型炉(BWR)原子力発電所主要系統概要(図2)とPBMRの構成(図3)を参考として例示する。
 続いて、軽水炉の商業化の経緯を概説する。軽水炉のBWRおよび加圧水型炉(PWR)はそれぞれ米国のGE社およびWH社が最初に開発し、1960年代以降、日本、ドイツ、フランスさらにはイギリスなどにおいても商用発電炉として、上記に示したように今日の原子力発電システムの主流として、大量に供用されているものである。軽水炉は微濃縮ウランの二酸化ウランペレットをジルカロイ金属被覆管に密封した燃料棒として、それを多数本束ねて燃料要素としている。冷却材は高温、高圧の水であるが、水蒸気を原子炉圧力容器(RPV)内の炉心で発生させているものがBWR、高温水をRPV外に導き蒸気発生器において発生させるものがPWRである。この水蒸気によってタービンを回転させ発電するシステムを熱力学的にカルノーサイクルという。このシステムの熱効率は蒸気温度により一義的に決定される。両軽水炉ともに、約300℃の飽和水蒸気をタービン駆動流体としているので熱効率は約30%である。わが国のみならず、現在の商用発電炉の大半が軽水炉であり、今日では約100−150万kWクラスの商用炉へと大型化している。製作実績、運転経験を考えると、150万kWクラスの大容量発電所の需要に対しては、わが国、米国、およびフランスが、100万kWクラスレベルでは、それらの国々に加え、ロシアが建設可能な国であり、軽水炉の安全設計、運転技術については世界的に豊富な経験をそれらの国々で蓄積している。ところが、米国は、1979年のスリーマイルアイランド(TMI)事故以来、原子力発電の発注が滞ったために、米国ではその製造能力に陰りが出てしまい、わが国などの支援がなければ製造できない状況になっている。大型軽水炉ではシビアアクシデントの発生を最終的に防止するために、緊急炉心冷却装置(ECCS)および気密型鋼製原子炉格納容器等の工学的安全施設が設けられている。軽水炉の使用燃料は最終的には再処理施設で処理され、残存235Uは軽水炉用燃料として再利用される。この時に回収されるプルトニウム(239Pu、241Pu)が、主として高速炉の燃料として使用される。
 高温ガス炉の商業化の経緯は、ドイツで電気出力30万kWのTHTR−300が建設され、1986年に運転営業を開始したが、トラブルをきっかけに1989年に運転を終了した。米国においては1979年にフォートセントブレイン(FSV)炉(電気出力34万kW)が営業運転に入ったが、稼働率の問題などから1989年に運転を終了した。その後の高温ガス炉に関する設計方針は、TMI事故やチェルノブィル事故などの影響で、原子炉固有の安全性を高めた小型のモジュール型炉の開発に進み、現在、南アフリカ共和国が小型のモジュール型炉で最初の商業炉PBMRの建設に向けて、2010年の着工を目指して取組んでいる。
<図/表>
表1 沸騰水型炉(BWR)柏崎刈羽原子力発電所設備の主要仕様
表1  沸騰水型炉(BWR)柏崎刈羽原子力発電所設備の主要仕様
表2 PBMR設備の主要仕様
表2  PBMR設備の主要仕様
図1 被覆燃料粒子の耐熱性
図1  被覆燃料粒子の耐熱性
図2 沸騰水型炉(BWR)原子力発電所主要系統概要
図2  沸騰水型炉(BWR)原子力発電所主要系統概要
図3 PBMRの構成
図3  PBMRの構成

<関連タイトル>
原子力発電技術の開発経緯(BWR) (02-03-01-01)
原子炉機器(BWR)の原理と構造 (02-03-01-02)
ガス冷却型原子炉の技術的進展 (03-03-01-01)
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
新型発電用高温ガス炉の開発動向 (03-03-04-01)
海外における高温ガス炉開発の経過と計画 (03-03-07-02)

<参考文献>
(1)日本機械学会:機械工学便覧 B応用編 Cエンジニアリング編
(2)原子力ハンドブック:(株)オーム社(平成19年11月20日)
(3)東京電力:柏崎刈羽原子力発電所、http://www.tepco.co.jp/nu/kk-np/intro/outline/outline-j.html
(4)PBMR:
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