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<概要>
 高速増殖炉に関する日本の研究開発は、実験炉「常陽」、原型炉もんじゅ」の開発を経て実証炉の設計段階に入り、高速増殖炉の性能向上と経済性に主眼をおいた技術の多様化に向けられた。そのうち動燃(現日本原子力研究開発機構)以外の機関で進められている研究開発は、性能向上に関する要素技術として構造強度、伝熱流動、免震システムなどが進んでいる。また、多様化に関しては新型燃料、金属燃料炉心、二次系削除プラントなど多くの新しい研究開発が行われている。電気事業者とサイクル機構(現日本原子力研究開発機構)は、平成11年度(1999年度)から実用化戦略調査研究を開始し、原研(現日本原子力研究開発機構)、電中研等もこれに協力して進めている。
<更新年月>
2000年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 1960年代に日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)を中心に始まった日本の高速増殖炉開発は、1967年の動力炉・核燃料開発事業団(動燃(現日本原子力研究開発機構))設立によって本格化し、産・官・学共同の自主技術開発と国際協力によるナショナルプロジェクトとして進められてきた。
 実験炉、原型炉、実証炉を経て実用炉に向かうプラント開発を柱とし、それぞれの段階でプラントレベルあるいは要素技術ごとに設計研究、基礎研究、試作研究を繰り返しながら、高速増殖炉技術の向上を図ってきた。既に、実験炉「常陽」は20年余の運転経験をもち、高速増殖炉による発電を実証する原型炉「もんじゅ」は1994年4月5日初臨界を達成し、高速増殖炉の経済性を実証する電気事業者主体の実証炉計画も2000年代初頭の着工を目標に進められてきた( 図1図2 参照)。そこでは、高速増殖炉技術開発を 表1 に示す長期的な展望から 表2 のように分類され、一方、建設コストの推移は 図3 のように考えられた。
 しかしながら近年、世界的にエネルギー需給は緩和してウラン需給も軟化し、その結果、高速増殖炉の開発には時間的な余裕が生じている。一方、電気事業を取り巻く情勢は、電力自由化の進展等により厳しさを増しており、高速増殖炉についてもサイクルコストを含めた経済性の向上が不可欠となっている。そこで、電気事業者としては、より経済性がある高速増殖炉システム確立のため、今後10年程度の期間をかけて、新たなコンセプトを検討し開発シナリオを再構築し、有望な技術の絞り込みを行うこととしている。こうした観点から、サイクル機構(現日本原子力研究開発機構)内に設置された高速増殖炉開発推進組織に要員を派遣し、実用化戦略調査研究( 図4 参照)を共同で実施することとした。この検討においては、安全性および経済性目標達成に加え、資源の有効利用、環境負荷低減および核不拡散の目標達成のため、幅広い選択肢を対象とする。例えば、プラント技術については、ナトリウム、鉛、ガス、水などの冷却材や中小型炉、モジュール炉、サイクル施設(再処理工場、燃料製造工場等)と一体化した炉(Integrated Fast Reactor:IFR)など、再処理技術については、簡素化湿式、乾式など、燃料技術については、MOX燃料、金属燃料、窒化物燃料など、また、燃料加工については、ペレット、振動充填、射出成形などの要素技術を対象としている。
 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)では、高速増殖炉関連技術分野の研究として、
(1) 4群分離および加速器駆動未臨界炉による消滅処理技術( 図5 参照)、
(2) 核データの整備、臨界実験、窒化物燃料、乾式再処理(溶融塩電解法、超ウラン元素の特性確認)等の基礎基盤研究( 表3 参照)、
(3) プルトニウム多重リサイクルが可能な低減速スペクトル炉の研究開発
が進められている。(1)は直接的には高レベル廃棄物処分に関わるものであるが、核データ、炉物理、分離技術、窒化物燃料・ターゲット技術、照射試験などの要素技術は、(2)とともに高速増殖炉システムと共通のものであることから、実用化戦略調査研究にも協力していくことを協議しているところである。なお、(3)は基本的には軽水炉技術に立脚したものであるが、プルトニウム利用戦略において高速増殖炉と補完関係にあるとの位置付けをしている。
 電力中央研究所では、材料・構造設計研究、耐震設計研究、熱流動研究などの研究開発を進めつつ、昭和60年頃から「金属燃料FBR・乾式リサイクル技術」の開発を行っている( 図6 参照)。これは、溶融した金属燃料成分を用いて射出成形法で燃料製造を行い、使用済みの金属燃料を陽極として溶融塩(LiCl-KCl)中で電解精製を行ってウラン、プルトニウムと一部のマイナーアクチナイド元素を回収して燃料のリサイクルを行うもので、経済性、環境負荷の低減、核拡散抵抗性に優れたものとしており、共通性の多いことから上述の実用化戦略調査研究を協力して進めている。
 原子力供給産業(メーカー)では、革新的な要素技術とともにプラント設計技術の研究開発を進めてきたが、実用化のための開発計画が長期化した現在、自らの資金を捻出して開発に参加して行くことが可能な状況ではなくなってきた。一方、外部資金についても最近は大きく減少しており、従来規模の研究の継続が難しい状況にあり、長期的には研究者の散逸は避けられないとしている。こうした状況においては、国を挙げた開発体制が重要と考え、実用化戦略調査研究はその第一歩とみており、この研究の全体の約10%の人員がメーカーからの参加である。
 以下では、電気事業者(原電および九電力会社)、原研(現日本原子力研究開発機構)、電中研とメーカーで行われてきた研究開発の主なテーマについて記す。
A.要素技術の研究開発
 要素技術についての研究を、技術の枠を広げる性能向上に関するものと多様化に関するものに分けて整理すると下記のようになる(図1参照)。
(1) 性能向上に関するもの
1) 高温構造設計技術の研究
  ・新規構造材の長時間.時効効果データ等の取得 ・クリープ疲労強度の向上
  ・高温構造設計法の改良 ・非弾性解析適用ガイドラインの策定
2) 信頼性評価技術の研究
  ・非線形破壊力学パラメータ評価法の高精度化 ・欠陥許容評価基準案の策定
  ・LBB評価手法の高度化、安全設計手法の高度化
3) 地震時限界耐力評価技術の高度化
4) 伝熱流動に関する研究
  ・原子炉容器内流動適性化研究 ・自然循環除熱試験 ・ガス中燃料除熱試験
5) 免震システムについての研究
  ・免震要素試験(基本特性、極限特性、鉛入り積層ゴム、高減衰積層ゴム)
  ・免震要素長期信頼性試験 ・システム模型振動試験、システム限界試験
6) 燃料の破損限界と破損影響に関する研究
  ・使用済み燃料の破損限界の評価 ・NSRR炉内試験
7) 新型炉停止機構に関する研究
  ・自己作動型炉停止機構(SASS)信頼性確認
  ・ガス膨張機構GEMの開発、臨界試験 ・受動的固有安全機能検討
8) シビアアクシデントに関する研究
  ・炉心損傷許認可シナリオの構築 ・炉心損傷時の耐衝撃評価法の確立
  ・FP−構造材反応に関する試験
9)プラント補修、管理技術の開発
  ・ナトリウム中補修技術の開発 ・セレクターバルブ方式FFDLの最適化
(2) 多様化に関するもの
1) 窒化物燃料の開発研究
  ・物性研究 ・過渡出力条件下における燃料挙動の研究
2) 金属燃料炉心の炉物理特性についての研究
  ・金属燃料の開発 ・金属燃料破損モデルの開発 ・金属燃料炉心の設計検討
3) 金属燃料サイクル技術についての研究
  ・乾式再処理(電解法)性能試験
4) 大容量ナトリウム浸漬型電磁ポンプの開発
  ・絶縁材料劣化診断技術の開発 ・大容量試験体開発、性能評価
  ・ダブルステータ型電磁ポンプの開発 ・ポンプ性能評価、解析
5) 2重管蒸気発生器の開発
  ・小型の試作およびナトリウム中試験
  ・大型化に向けた要素試験、実規模長期実証確認
6) 超ウラン元素(TRU)の廃棄物中からの分離についての研究
  ・湿式法の試験 ・乾式法の試験(脱硝法、塩素化法、高温冶金分離法)
7) 超ウラン元素(TRU)含有燃料についての研究
  ・マイナーアクチノイド窒化物燃料照射試験
  ・マイナーアクチノイド消滅金属燃料製造、照射試験
B.プラント概念検討
 新しい高速増殖炉技術の概念検討は数多く行われているが、ここではその一部を紹介する。
1) 負の即発性温度係数をもつ炉心の検討
  ・炉心中央部に大きなドップラー係数、負のボイド係数をもつ炉心
2) 受動的停止能力をもつ炉心プラントについての研究
  ・大型プラント自然循環炉心冷却システムの構築
  ・自己作動型反応度制御装置(LEM,LIM)の開発
3) チューブインシェル型金属燃料の検討
  ・炉心特性、集合体構造、FPガスパージ機構、製造法等
4) 金属燃料2重タンク小型モジュール炉の設計研究
5) 超小型安全高速炉の設計研究
6) 直接発電用熱電対変換システムの開発
  ・FGM熱電対変換素子モジュールの製作・新材料開発による変換効率向上
7) 超ウラン元素(TRU)消滅についての研究
  ・マイナーアクチニド燃焼窒化物燃料炉心の研究
  ・マイナーアクチニド装荷金属燃料炉心の研究
8) 二次系削除プラントについての研究
  ・プラントシステム、2重管蒸気発生器の開発
  ・直接接触伝熱型高信頼性SGの開発
9) 超寿命炉心についての検討
  ・高性能制御棒の開発
10) トップエントリー型ループ炉の技術評価試験
  ・スロッシング抑制、自然循環解析、ガス巻き込み防止、炉壁保護構造自励振動/伝熱評価
11) 物量低減のための革新技術の検討
  ・機器合体型炉概念 ・炉上部機構と燃料取扱機構の簡素化 ・3次元免震の開発
12) 高経済性統合型プラントの設計研究
  ・窒化物燃料炉心の研究開発 ・乾式再処理施設一体型プラント概念の構築
13) 鉛冷却高速炉の設計研究
14) 革新的炉心の研究
  ・高度Pu利用炉心の研究 ・各種燃料を適用した炉心の研究
<図/表>
表1 高速増殖炉技術開発の長期展望
表1  高速増殖炉技術開発の長期展望
表2 高速炉に関する主な最近の研究開発
表2  高速炉に関する主な最近の研究開発
表3 高速炉および加速器駆動炉開発に係わる基礎基盤研究
表3  高速炉および加速器駆動炉開発に係わる基礎基盤研究
図1 日本の高速増殖炉開発スケジュール
図1  日本の高速増殖炉開発スケジュール
図2 トップエントリー型高速増殖実証炉
図2  トップエントリー型高速増殖実証炉
図3 FBR実用化に向けた経済性向上の見通し
図3  FBR実用化に向けた経済性向上の見通し
図4 実用化戦略調査研究
図4  実用化戦略調査研究
図5 加速器駆動消滅処理システムの概念
図5  加速器駆動消滅処理システムの概念
図6 金属燃料FBR・乾式リサイクル技術の概念
図6  金属燃料FBR・乾式リサイクル技術の概念

<関連タイトル>
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)
わが国の高速増殖炉実証炉計画 (03-01-06-05)
動燃/サイクル機構における高速増殖炉研究開発 (03-01-06-06)

<参考文献>
(1)「高速増殖炉工学」研究専門委員会:高速増殖炉技術の現状と将来の展望、日本原子力学会(1987年)
(2)三浦 正憲ほか:高速増殖実証炉開発の現状と実用化の見通し、原子力誌、Vol.37,No.2(1995)
(3)J.Nedderman:Japan's No.1 Demonstration FBR,Nucl.Eng.Int’,1.,23,May 1995
(4)日本原子力産業会議(編):原子力ポケットブック1998/99年版、日本原子力産業会議(1999年2月)
(5)科学技術庁:第1回高速増殖炉懇談会配付資料1-6、高速増殖実証炉の開発について、日本原子力発電(株)(1997年)
(6)原子力委員会:長期計画策定会議第3分科会(第3回)資料第2号、原電(1999年)
(7)原子力委員会:長期計画策定会議第3分科会(第3回)資料第3-1号、原研(1999年)
(8)原子力委員会:長期計画策定会議第3分科会(第2回)資料第4-1号、電中研(1999年)
(9)原子力委員会:長期計画策定会議第3分科会(第3回)資料第4号、東芝(1999年)
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