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<概要>
 わが国における高速増殖炉サイクルの研究開発は、「原子力政策大綱」に基づき2050年頃からの商業ベースでの導入を目指して進められている。2006年3月には日本原子力研究開発機構で関係機関の協力を得て実施されていた、「高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究(フェーズII)」の成果が纏まり、その内容に基づき同年11月には、国の高速増殖炉サイクルに関する今後の研究開発方針が示された。今後は、主概念として選定された「ナトリウム冷却炉(MOX燃料)、先進湿式法再処理、簡素化ペレット法燃料製造」を対象に重点的な研究開発を進めることとなる。2015年頃には高速増殖炉サイクルの技術体系を整備して、実用化像および実用化までの研究開発計画を提示し、その後は同技術の実証段階、商業ベースでの本格導入と進めていく予定である。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力政策の転換が行われつつあり、高速増殖炉サイクル(高速増殖炉およびその燃料サイクル)の研究開発に関する動向は不透明な状況にある。
<更新年月>
2007年01月   

<本文>
 高速増殖炉サイクル(高速増殖炉およびその燃料サイクル)の研究開発については、世界的にも実用化に向けての動きが加速されている状況にある。わが国では、2005年10月に原子力政策大綱が策定されるとともに、原子力研究開発機構の実用化戦略調査研究フェーズIIが2006年3月に終了し、その研究成果に基づき国としての今後の研究開発の方針が同年11月に提示された。これらの動向に基づき、高速増殖炉サイクルシステムの実用化に向けた取組みについて、その概略を示す。
1.高速増殖炉サイクル開発に関わる国内外の動向
 高速増殖炉システムは燃料中に含まれるウラン238U)に中性子を捕獲させ、プルトニウム239Pu)に変換させる割合が軽水炉より大きいため、消費した燃料以上の燃料を生産すること(燃料の増殖)が可能である。一方、高速増殖炉は軽水炉では燃えにくいマイナーアクチニド(MA;アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)およびネプツニウム(Np)の総称)を核分裂させることができMAを燃料として用いることにより、高レベル放射性廃棄物中に長期に残留する放射能量を少なくし、単位発生エネルギー当たりの環境負荷を有意に低減できる可能性がある。
 わが国では、2005年10月の「原子力政策大綱」で、『高速増殖炉サイクルが実用化すれば資源の利用効率を飛躍的に向上できること等から、長期にわたってエネルギー安定供給と地球温暖化対策に貢献する有力な手段として期待できる。ウラン需給の動向等を勘案し、経済性等の諸条件が整うことを前提に、2050年頃から商業ベースでの導入を目指す』としている。さらに、その後、2006年3月の第3期科学技術基本計画において、高速増殖炉サイクル技術が国家基幹技術として位置付けられるとともに、自由民主党の「総合エネルギー戦略」や経済産業省原子力部会の「原子力立国計画」でも、高速増殖炉サイクル技術の研究開発を加速すべきことが結論付けられている。
 海外では、フランスでは2006年1月にシラク大統領が第4世代原子炉のプロトタイプを2020年に運転開始すると発表した。またアメリカも、2006年2月にグローバル原子力パートナーシップ(GNEP計画)を提唱し、核拡散抵抗性を高める先進的技術を活用して核燃料リサイクルを行い、より多くのエネルギーを再生産するとともに廃棄物を低減する方針を打ち出している。一方、今後、エネルギー需要の大幅な増加が見込まれる中国やインドでも高速増殖炉の開発に力を注いでいる。このように現在、世界で高速増殖炉サイクルの導入、実用化に向けての動きが加速されている。
2.わが国における実用化戦略調査研究の経緯
 1997年12月に原子力委員会の高速増殖炉懇談会において、『将来の非化石エネルギー源の有力な一つの選択肢として高速増殖炉の実用化の可能性を追求するため、その研究開発を進めることが妥当』との報告が示された。これを受けて(旧)核燃料サイクル開発機構(現在は日本原子力研究開発機構)は、電気事業者とともに、電力中央研究所、(旧)日本原子力研究所(現在は日本原子力研究開発機構)、メーカ各社、大学等の協力を得て1999年7月から実用化戦略調査研究を開始した。同研究は、炉型、再処理法、燃料製造法等の高速増殖炉サイクル技術に関する多様な選択肢を幅広く検討し、「もんじゅ」等の成果も踏まえ、『高速増殖炉サイクル技術として適切な実用化像とそこに至るための研究開発計画を2015年頃に提示する』ことを目的として実施されており、2006年3月に実用化戦略調査研究フェーズIIの成果報告書が纏められた。この中では候補概念の成立性確認のための技術開発、実用化候補概念の明確化、更に2015年までの研究開発計画と2015年以降の実用化に向けた課題の摘出が行われている(図1)。
 一方、2005年10月の「原子力政策大綱」では、『国は実用化戦略調査研究フェーズIIの成果を速やかに評価して、その後の研究開発の方針を提示する』とされている。これを受け、文部科学省の原子力分野の研究開発に関する委員会は2006年10月に「高速増殖炉サイクルの研究開発方針について」を作成し、高速増殖炉サイクルの実用化に向けて今後重点的に開発を行っていく概念(主概念)の選択、実用化に向けて想定されるロードマップ、2015年までの研究開発の進め方等を取り纏めた。更に原子力委員会は同年12月に、これまでに国の関係各機関が示した検討結果に基づき今後10年程度の間におけるわが国の研究開発の基本方針を決定した。
3.今後重点的に開発を進める主概念の選択
 実用化戦略調査研究では、革新的な技術の研究開発や候補概念の設計検討を行うにあたり、実用段階で要求される特性等を考慮し、安全性、経済性、環境負荷低減性、資源有効利用性、核不拡散抵抗性の5つの視点からの開発目標を設定した(表1)。これは、高速増殖炉サイクルシステムが将来の主要なエネルギーを担うためには、安全性、経済性はもちろん、環境負荷の低減を図りつつ、持続的なエネルギー供給が可能であるとともに、国際的な観点から核拡散に対する抵抗性を有することが求められると考えたからである。このような次世代原子力システムに係る目標設定は世界に先駆けて実施されたものであり、実用化戦略調査研究開始後に始まった第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)においても、概ね同一の目標が設定されている。また、開発目標を実際の設計検討作業における具体的指標に展開するために、定量的な設計要求を設定した。
 開発目標および設計要求に基づき、複数の高速増殖炉システム概念(ナトリウム冷却炉、ヘリウムガス冷却炉、鉛ビスマス冷却炉、水冷却炉)および、燃料サイクルシステム概念(再処理;先進湿式法、酸化物電解法、金属電解法燃料製造;簡素化ペレット法、振動充填法、射出鋳造法)について、概念設計研究と関連する要素技術の研究開発を行なった。これらの研究開発成果に基づき、高速増殖炉システムと燃料サイクルシステムを組み合わせた高速増殖炉サイクルシステムについて比較評価を行ない、今後の開発の重点化の方針をまとめた。この比較評価においては、開発目標および設計要求に対して各概念の持つ潜在的な適合可能性を評価するとともに、技術的課題の難易度だけでなく国際的な開発環境も考慮した技術的実現性を評価している。その結果、開発目標への適合可能性や技術的実現性の観点から総合的に最も優れた概念として、「ナトリウム冷却炉(MOX燃料)、先進湿式法再処理、簡素化ペレット法燃料製造」を選定し、主概念として今後の研究開発を重点的に行っていくこととした。
 ナトリウム冷却炉については、開発目標を満足させるべく多数の革新的技術を取り入れており、従来のナトリウム冷却炉とは異なる新しい概念の炉となっている。ナトリウム冷却炉の概念検討にあたっては、高い安全要求を満たしつつ、いかにして経済性を向上するかがポイントとなる。そこで、出力増加によるスケールメリットを追求するため電気出力150万kWeの大型炉とするとともに、革新技術を採用することにより物量および建屋容積の大幅な削減を図った。具体的には、本概念では冷却系1系統あたりの容量を増加させ、冷却系を2ループとすることにより物量の低減を図っている。炉心燃料については、燃料被覆管にODS鋼(酸化物分散強化型フェライト鋼)を採用し燃焼度を向上させ、大幅な燃料費の低減を図っている。また熱膨張の小さい高クロム鋼構造材料を使うことにより冷却系配管の短縮を図っている(図2)。これらの対策によりプラント物量や建屋容積を大幅に削減し、建設費を将来の軽水炉建設単価に比肩する設計要求(20万円/kWe)以下に低減できる見通しを得ている。
 先進湿式法再処理は従来の湿式法をベースに、経済性向上等を目指し革新的技術を取り入れた概念である。高速増殖炉ではMAを核分裂させることができることや、燃料中に核分裂生成物(FP)が混入することを許容でき、再処理工程でのFP除染係数を低くできるという特徴がある。これらの特徴を考慮し先進湿式法再処理は、Uを粗取りする晶析工程やU、Pu、Npを低除染で一括回収する単サイクル共抽出工程の導入、UおよびPuの精製工程の削除等で設備の合理化を図るとともに、MAの回収を組み入れた概念である。また、簡素化ペレット法燃料製造は、「常陽」、「もんじゅ」の燃料製造で実績がある従来のペレット法をベースに工程の簡素化を図っている。具体的には、硝酸溶液段階でPu富化度調整を行うことにより粉末混合工程を削除している。また、金型(ダイ)内面に潤滑剤を直接塗布するダイ潤滑成型法の導入により、粉末への潤滑剤の添加・混合を不要としている(図3)。これらの革新的技術の取り入れにより先進湿式法再処理では、施設の建設費を従来技術の場合と比べ半減できる可能性があるとの結果を得ている。
4.実用化を目指して想定されるロードマップ
 今後の高速増殖炉サイクル実用化に向けた研究開発の進め方については、2050年頃の商業ベースでの本格導入開始を見据え、ステップアップを図りながら進めることが適切と考えられる。第一段階は研究開発段階で、高速増殖炉サイクルの技術体系を整備する。具体的には要素技術規模で革新的技術の成立性を見通し、高速増殖炉サイクルの実用化像を提示するとともに、実用化に至るまでの開発計画を提示する。その後は実証・実用化段階に進み、実証段階では実用化を見通せる規模での実証施設を用いて、経済性を含めシステム概念の総合的な実証を行うこととしており、実証炉の運転開始は2025年頃を想定している。これらの成果を実用炉および燃料サイクル実用施設の設計に反映させ、2045年頃に実用炉を運転開始できるよう技術的な知見を整えることとしている(図4)。なお、このロードマップは研究開発の進捗等を踏まえ、2010年および2015年に予定されている国の評価において再検討されることとなっている。
5.2015年頃の技術体系整備までの研究開発計画
 4項で述べたように、第一段階の2015年頃には、高速増殖炉サイクルの技術体系を整備して提示することとなっている。この第一段階は、更に約5年単位に分けて考えられ、最初の5年間では革新的技術の成立性を評価するための研究開発を進め、2010年頃には革新技術の採用の可否を判断し実用施設の概念を構築する。その成果をもとに更に技術開発や実用施設概念の検討を進め、2015年頃までに高速増殖炉サイクルの実用化像および実用化までの研究開発計画を提示することとしている(図5)。高速増殖炉開発を進めていくにあたり、国際的にわが国の技術的優位性を維持していくためにも、2010年までの5年間の革新技術に関する研究開発は非常に重要である。なお、2006年以降は幅広い戦略的な調査研究のフェーズから、実用化に向けた革新的技術の集中的研究開発のフェーズに移行するため、研究開発の名称を「高速増殖炉サイクル実用化研究開発」としている。
 国家基幹技術としての高速増殖炉サイクル技術に係る研究開発推進体制については、国や研究開発機関だけでなく将来、本技術の開発成果を利用する民間企業も加え、官民一体の推進体制とすることとしている。文部科学省が経済産業省と連携協力して、プロジェクトを推進統括し、原子力機構は開発主体として、電気事業者等と連携協力しながら研究開発を進めていくこととしている。また上述の研究開発の推進と平行して、高速増殖炉サイクル技術の研究開発を円滑に実用化につなげていくために、文部科学省、経済産業省、電気事業者、メーカー、原子力機構による五者協議会が設けられ、実証・実用化に向けた検討が行われている(図6)。
<図/表>
表1 実用化戦略調査研究の開発目標
表1  実用化戦略調査研究の開発目標
図1 実用化戦略調査研究の経緯
図1  実用化戦略調査研究の経緯
図2 ナトリウム冷却炉の概念
図2  ナトリウム冷却炉の概念
図3 先進湿式法再処理、簡素化ペレット法燃料製造の概念
図3  先進湿式法再処理、簡素化ペレット法燃料製造の概念
図4 高速増殖炉サイクルの実用化を目指した研究開発ロードマップ
図4  高速増殖炉サイクルの実用化を目指した研究開発ロードマップ
図5 高速増殖炉サイクルの技術体系整備
図5  高速増殖炉サイクルの技術体系整備
図6 高速増殖炉サイクル技術の研究開発推進体制
図6  高速増殖炉サイクル技術の研究開発推進体制

<関連タイトル>
高速増殖炉の核燃料サイクル (03-01-02-01)
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)
高速実験炉「常陽」における研究開発 (03-01-06-03)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その1) (03-01-06-04)
わが国の高速増殖炉実証炉計画 (03-01-06-05)
高速増殖炉燃料の特徴 (04-09-02-04)

<参考文献>
(1)原子力委員会:原子力政策大綱(2005年10月11日)
(2)内閣府 総合科学技術会議:第3期科学技術基本計画(2006年3月28日)
(3)日本原子力研究開発機構、日本原子力発電株式会社:「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究 フェーズII最終報告書」、JAEA-Evaluation 2006-002(2006)
(4)自由民主党:総合エネルギー戦略 中間報告(2006年5月23日)
(5)向和夫:FBRサイクルシステムの実用化に向けて、第1回原子力機構報告会(2006年6月20日)
(6)経済産業省 総合資源エネルギー調査会 電気事業分科会 原子力部会:原子力立国計画(2006年8月8日)
(7)日本原子力研究開発機構:未来を拓く原子力、原子力機構の研究開発成果 創刊号(2006)
(8)文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 原子力分野の研究開発に関する委員会:高速増殖炉サイクルの研究開発方針について−「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズII最終報告書」を受けて(2006年10月31日)
(9)文部科学省 研究開発局:高速増殖炉サイクルの研究開発方針について(2006年11月2日)
(10)原子力委員会:高速増殖炉サイクル技術の今後10年程度の間における研究開発に関する基本方針(2006年12月26日)
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