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<概要>
 高速増殖炉の1次冷却材のナトリウムには放射性物質が含まれているので、このナトリウムが漏れないよう、機器・配管などはステンレス鋼などの耐熱耐食合金鋼を用いた気密構造としている。しかし、万一漏洩が発生しても絶対に環境を汚染しないように、原子炉容器及び1次冷却系機器・配管などはガードベッセル等を備えると共に、漏洩の状況の迅速な検出のために各種の漏洩検出設備が設置されている。さらに、1次冷却系機器・配管などが設置されている部屋は窒素ガス雰囲気にしてナトリウム火災を防止している。
<更新年月>
2010年10月   

<本文>
 高速増殖炉では冷却材にナトリウムを使用しているので、ナトリウムの漏洩に対して特別な安全対策を必要とする。特に、1次冷却材のナトリウムは微量ではあるが放射性物質を含んでいるので、ナトリウムの漏えいに伴う燃焼から放射性物質の放散を防止する必要がある。
 ナトリウムの漏洩に対する安全性確保の基本的な考え方は、次の通りである。
 (1)ナトリウムが漏れないようにすること。
 (2)漏れの有無及び漏れ量をできるだけ迅速に検出すること。
 (3)万一、漏れた場合でも、絶対に環境に影響をおよぼさないこと。
 (4)漏れたナトリウムの火災を防止するため最適な方策をとること。
 以下、漏えいに対する安全性確保の具体的方策について述べる。
1.機器・配管の漏えい防止に関する健全性の確保
 設計上の観点から、機器・配管などは主要部材料にステンレス鋼などの耐熱耐食合金鋼を用い気密構造にするとともに、コールドトラップを用いたナトリウム中の不純物管理を厳重に行い、機器・配管内のナトリウム自由液面はすべてアルゴンガス等の不活性ガスで覆って水分を近接させない設計としている。
2.ナトリウム漏えい検出設備
 ナトリウム漏えい検出設備は、冷却系の機器・配管などからのナトリウム冷却材の漏えいを早期に検出する設備である。ナトリウム漏えい検出設備には、漏えいしたナトリウムを検出するためにナトリウムの特徴を利用した種々のものがあり、それらを以下に示す。
(1)ガスサンプリング型ナトリウム漏えい検出設備
 ナトリウムを内蔵する機器・配管と保温層間の雰囲気ガスや、それらの機器が設置されている部屋の中のガス(雰囲気ガス)を、サンプリング配管によって検出器に導き、サンプリングガス中にナトリウムエアロゾル(粒子状の酸化ナトリウム)が含まれている場合に、これを検出するものである。
 ガスサンプリング型ナトリウム漏えい検出設備には、その用途、検出方法により以下の検出器がある。
 (a)ナトリウムイオン化式検出器
  サンプリングガス中に含まれるナトリウムエアロゾルが高温に保たれたフィラメントによりイオン化され、フィラメントとコレクタ間に電流が流れることを利用した検出器である(図1参照)。
 (b)差圧式検出器
  ナトリウムエアロゾルがサンプリングラインの途中に設置したフィルタに付着することによってフィルタ前後の差圧が増加することを利用した検出器である(図2参照)。
 (c)放射線イオン化式検出器
  ナトリウムエアロゾルがイオン化されたガスに付着することにより、イオン移動速度が減少し、イオン電流が減少する。この電流変化が標準イオン室でのイオン移動速度に基づいたイオン電流と比較されて、電位差として検出できるようにした検出器である(図3 参照)。
(2)接触型ナトリウム漏えい検出設備
 検出器の電極間あるいは電極とアース間に漏えいナトリウムが付着すると電気的に短絡し導通することを利用した設備である。(図4参照)
 この他に、保温材の外側に漏えいするナトリウムを監視する設備として空気雰囲気セルモニタ(熱感知器、煙感知器)、ナトリウム漏えい確認が可能な設備としてナトリウム液面計、温度計などがある。
 「もんじゅ」では、ナトリウム漏えい時に、その漏えいを速やかに、かつ、確実に検出することを基本とし、漏えい率の大小などに応じて、前述のナトリウム漏えい検出設備を適宜設置している。
 ガスサンプリング型ナトリウム漏えい検出設備、接触型ナトリウム漏えい検出設備などは微小漏えいを検出し、大漏えいを未然に防止する措置が採られる。ナトリウム液面計、温度計などの異常信号は安全保護系に送られ、冷却材漏えい事故時に原子炉を停止させるなどの安全保護系を作動させる。
3.ガードベッセル(安全容器)
 ガードベッセルは、原子炉容器、1次主冷却系循環ポンプ及び中間熱交換器にそれぞれ独立して設置する安全上きわめて重要な機器である。
 「もんじゅ」の1次主冷却系設備液位関係説明図を図5に示す。ガードベッセルは、1次主冷却系配管等から冷却材である液体ナトリウムが漏えいしたことを想定しても、安全に原子炉炉心の冷却を行うために必要な液位(エマージェンシ液位)を確保できるようにすることを目的として設置される容器であり、保護容器とも呼ばれる。
 原子炉運転中の原子炉容器内液位は、エマージェンシ液位より上方に保持される必要がある。そのためには1次主冷却系の機器・配管を原則としてエマージェンシ液位より上方に、さらにポンプの吐出圧等を考慮して設定した液位(システム液位)以上に配置する必要がある。このように、1次主冷却系の機器・配管の配置は、ポンプの吐出圧等の効果を考慮して決められるが、やむを得ずシステムレベル以下に配置する機器あるいは配管については、ガードベッセルを設置してその中に配置することとしている。
 ガードベッセルの構造は、その上端をシステム液位以上とするとともに、空間容積、つまりガードベッセルとその内にある機器や配管などとの間の空間のうち、システム液位以下の部分の容積が適切となるように設計されている。さらに、ガードベッセルと内包機器・配管との間の空間寸法は、前述の空間容積を先ず第一に考慮し、これに供用期間中の検査機器が走行できる空間を設けるように定めている。
 ガードベッセルの機能としては、安全性関連以外に原子炉容器の予熱、保温が挙げられる。原子炉容器内にナトリウムを充てんするためには、ナトリウムの凝固を防ぐために、原子炉容器、炉内構造物、1次冷却系配管等を約200℃に予熱する必要がある。このためガードベッセル外表面に予熱用電気ヒータ及び保温材を設置することによって、原子炉容器等の予熱及び保温を適切に行うことができるようになっている。
 「もんじゅ」では、原子炉容器、1次主冷却系ポンプ及び中間熱交換器にそれぞれ独立したガードベッセルを設置している(図5参照)。
4.ナトリウムの燃焼
 ナトリウムは化学的に活性であり、固体であってもその表面は常温の空気中で容易に酸化し、そのためすみやかに表面が変色する。ナトリウムの酸化反応式は
(1)通常
  2Na+1/2 O2→Na2O+104kcal/mol
(2) 酸素が充分存在する場合
  2Na+O2→Na2O2+124kcal/mol
である。冷却材のナトリウムは約200℃以上の温度で使用するので通常は液体である(ナトリウムの融点:常圧で約98℃)。このような高温でナトリウムが空気中にさらされると自然発火し、燃焼する。事故・故障などによって漏えいしたナトリウムが空気と接触し燃焼する現象をナトリウム火災と呼ぶ。液体ナトリウムが受け皿等に静止して置かれた状態で燃焼した場合には、その燃焼は液面に限定されるが、加圧されたノズル等から噴霧状で空気中に流出された場合には液体ナトリウムの液滴と空気との接触面積が増加するため、燃焼は一段と激しいものとなる。燃焼の激しさの違いの観点から、前者の燃焼をプール(状)火災、後者の燃焼をスプレー(状)火災と呼んで区別している。なお、両者の中間の形態として、水道の蛇口から流下するような形態での燃焼も有り得るが、それを特にコラム(状)火災と呼ぶ場合もある。
 以上のように、液体ナトリウムは空気中で火災を生じる可能性があるが、その燃焼は一般の化石燃料の燃焼程厳しいものではない。ナトリウムの燃焼熱は、ナトリウム1kg当り約2,700kcalであり、例えば灯油1kg当たりの燃焼熱約12,000kcalの1/4程度にすぎない。逆に、ナトリウムの気化熱は、化石燃料より数倍大きいため、燃焼時の炎の長さはきわめて短く、表面のごく近傍で燃焼するのみである。このようにナトリウムの燃焼は、化石燃料の燃焼よりずっと穏やかなものであり、大きな炎を挙げて多量の熱を放出する油火災の様相とは大きく異なるものである。
5.ナトリウム火災の予防対策
 ナトリウム火災は油火災程激しいものではないが、自然発火し、燃焼熱を放出すること、また高速増殖炉では多量の液体ナトリウムを使用していることから、冷却材のナトリウムを完全に空気と遮断する設計がとられている。すなわち、ナトリウムは気密構造の耐熱耐食合金鋼製機器や配管内に収納され、機器内ナトリウムの自由液面は不活性のアルゴンガスで覆っている(このガスをカバーガスと称している)。従って、通常運転状態では冷却材ナトリウムが空気と接して燃焼することのないような設計となっている。
 しかし、仮に上述の冷却材配管の一部や弁などのシール部が破損したとすると、液体ナトリウムが部屋内に漏えいし、発火、燃焼する恐れがある。このような事態の発生を防止するため、ナトリウムを内包している機器や配管は特に高品質材料で設計・製作して冷却材の漏えいを防止すると共に、それら機器・配管が置かれている部屋のガスの酸素濃度を十分低くして、万一漏えいした場合でもナトリウムが燃焼しないようになっている。
 「もんじゅ」においても1次主冷却系の機器・配管などが置かれている部屋(原子炉格納容器)の空気は窒素によって置換され、通常運転時にそれらの部屋のガスの酸素濃度が3%以下に維持されているので、万一の漏えい時にもナトリウムが燃焼する恐れはない。なお、部屋内のガス中の少量の酸素によるナトリウムの酸化で、少量のナトリウムエアロゾルが発生する可能性があるが、これに対しては、それら部屋の内周を鋼で内張りし(この内張りをライニングと称する)、放射性物質の環境への放出がないよう、十分な気密性を持たせている。
<図/表>
図1 イオン化式ナトリウム検出器
図1  イオン化式ナトリウム検出器
図2 差圧式ナトリウム検出器
図2  差圧式ナトリウム検出器
図3 放射線イオン化式ナトリウム検出器
図3  放射線イオン化式ナトリウム検出器
図4 接触型ナトリウム検出器
図4  接触型ナトリウム検出器
図5 「もんじゅ」の1次冷却系設備液位関係説明図
図5  「もんじゅ」の1次冷却系設備液位関係説明図

<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
ナトリウム冷却システム (03-01-02-09)
ナトリウム取扱い技術 (03-01-02-10)
高速増殖炉の蒸気発生器 (03-01-02-11)
ナトリウムの安全性(蒸気発生器および2次系ナトリウム) (03-01-03-05)
高速増殖炉の安全対策 (03-01-03-06)

<参考文献>
(1)科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版)、日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(2)姫野嘉昭:高速増殖炉工学基礎講座 安全工学、原子力工業、Vol.36、No.2(1990)
(3)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(4)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉「もんじゅ」発電所 原子炉設置許可申請書(昭和55年12月)
(5)経済産業省 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会:もんじゅ安全性確認検討会(第18回)、平成21年4月22日

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