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高速増殖炉(FBR)2次冷却系のナトリウム安全対策は、系統内のナトリウムが放射化されていないので、機器・配管からのナトリウム漏えいによる燃焼防止対策に重点が置かれる。また、蒸気発生器の伝熱管部において漏えいが発生した場合、1次側のナトリウムと2次側の水との接触によるナトリウム−水反応が発生するのでこちらの対策も重要である。
1.ナトリウムの漏えいと燃焼の防止及び影響緩和対策
FBRにおいては、炉心で発生する熱を外部に取り出すための熱輸送媒体(冷却材)として液体金属ナトリウムが通常約200℃以上の温度で使用されている。このような温度のナトリウムが空気中にさらされた場合、自然発火し燃焼する(ATOMICA「ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム)03-01-03-04」の4.ナトリウムの燃焼を参照)。したがってナトリウムと空気とは完全に遮断する設計が行われている。すなわち冷却材は合金鋼の機器あるいは配管内に収納され、これら機器内のナトリウムの自由液面は
カバーガスとしてアルゴンガス等の不活性ガスで覆っている。また、冷却材ナトリウムを内包している機器や配管は高品質で設計・製作され、ナトリウムが漏えいすることを防止している。さらに、機器や配管からの万一の漏えいを想定し、早期に漏えいを検出するナトリウム漏えい検出設備(ATOMICA「ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム)03-01-03-04」の2.ナトリウム漏えい検出設備を参照)を設置している。また、2次冷却系のナトリウムを内包する機器や配管の置かれている部屋のガスは一般的には空気のままであるので、漏えいしたナトリウムの燃焼の防止と抑制を行うため、ナトリウム消火剤の常備、漏えいナトリウムの表面を鋼製のふた(ナトリウム燃焼抑制板)で覆い、部屋の空気がナトリウムと接触することを抑制する対策などがとられる。
「もんじゅ」においても、これと同様の考え方の対策が施されており、2次冷却系の多くの部屋の最下階に、ナトリウム燃焼抑制板をかぶせた鋼製の箱が置かれている。ある部屋で万一ナトリウムが漏えいした場合には、その部屋の漏えいナトリウムをすみやかに収集、移送して、前述の箱に貯留し、燃焼を抑制する設計としている。この漏えいナトリウムの収集、移送のため、各部屋に設けた漏えいナトリウムを受ける鋼板には勾配がつけられており、その低いところに排出口と排出管(ナトリウム連通管)を設け、その管で漏えいナトリウムを最下階の箱に導き、貯留し、窒息消火を図る対策がとられている。また、前述の箱には、窒息消火を促進するよう、箱内に窒素を吹き込むための配管も付設されている。
ナトリウムの漏えいに伴う火災による施設への影響緩和機能は、平成7年12月8日に起きた「もんじゅ」2次冷却系からのナトリウム漏えい事故を受けて、見直しが行われ、充実・強化が図られた(
図1参照)。その主な内容は以下のとおり。
(1)ナトリウム漏えいの早期検出と監視を行うためセルモニタ(煙感知器、熱感知器)と監視カメラを設置
(2)緊急にナトリウムをドレンして漏えい量を抑制するナトリウムドレン機能の強化(
図2参照)
(3)ナトリウム漏えい発生時に空気の供給をしゃ断して燃焼を抑制し、エアロゾルの拡散を抑制するするための換気空調設備の自動停止機能と逆止ダンパなどの設置(
図3参照)
(4)ナトリウム燃焼の抑制と再燃焼防止のため、窒素ガス注入設備の設置と建物内の区画化(
図4参照)
2.蒸気発生器におけるナトリウム−水反応
FBRの蒸気発生器は、高温のナトリウムによって水を加熱して高温高圧の蒸気を発生させる
熱交換器であり、伝熱管の内側を高圧の水・蒸気が、胴側を常圧のナトリウムが流れている。ナトリウムは極めて活性が強く、特に水とは激しく化学反応を起こすため、万一伝熱管に欠陥があって水とナトリウムが接触すると、水素ガスなどの反応生成物と熱及び圧力を発生する。この現象を「ナトリウム−水反応」と呼んでいる。
万一、この伝熱管破損事故が生じた場合には、事故の拡大を防止するため伝熱管内のブローダウン(水・蒸気の放出)が行われる。このブローダウン機能についても、「もんじゅ」2次冷却系からのナトリウム漏えい事故を受けて見直しが行われ、水漏えいを確実に検出し、伝熱管内のブローダウン(水・蒸気の放出)をより早期に完了するための改善が図られた(
図5参照)。
「ナトリウム−水反応」の規模は、蒸気発生器に与える影響の程度を考えて、水の漏えい率、即ち時間あたりのリーク水量により「微小リーク」、「小リーク」、「中リーク」、「大リーク」の4つに分類される。
「小リーク」は、伝熱管に小さな穴があいて少量の水がナトリウム中にジェット状に噴出する場合を言う。ナトリウム中に噴出すると水は
減圧沸騰によって蒸気となるが、蒸気はナトリウムと反応して水素ガスや液体または固体状のカセイソーダ(NaOH)や酸化ナトリウム(Na
2O)の反応生成物を生成する。これらの混合物がジェット状となって高速で隣接した伝熱管にぶつかり、その壁を腐蝕させて伝熱管を薄くさせるウェステージと言う現象を起こす(
図6参照)。「小リーク」を放置しておくとウェステージによって次々と穴が開き、リーク規模が拡大していく可能性がある。隣接伝熱管がウェステージで穴があくまでの時間を伝熱管許容損耗時間と言うが、この時間内にリークを検出してプラントをいかに早く停止するかが重要となる。「ナトリウム−水反応」が起こると水素などの反応生成物が発生してナトリウム中になんらかの変化が生じるため、この変化を検知する水漏えい検出器を設置して、「ナトリウム−水反応」を小規模のうちに検出する対策をとっている。水漏えい検出器としては、水素を検出する水素計、酸素を検出する酸素計、反応時に発生する音響を検知する音響計などが開発されている。
「微小リーク」は、水の漏えい率が「小リーク」よりも小さいため、リークジェットが隣接伝熱管に達せず、隣接伝熱管にウェステージを起こさない場合である。
伝熱管にあいた穴がさらに大きくなると、リークジェットが隣接伝熱管だけでなく2列目や3列目の伝熱管にも達し、多数の伝熱管に同時にウェステージを起こす。この規模のリークを「中リーク」と呼ぶ。
「大リーク」は伝熱管が完全に破断して大量の水が噴出する場合を言う。「大リーク」が起こると瞬間的に(ミリ秒の時間オーダ)初期スパイク圧と呼ばれる大きなパルス状の圧力が発生し、蒸気発生器内部やポンプ、
中間熱交換器などに音響波動的に伝わる。この初期スパイク圧が減衰すると、引き続き比較的穏やかな(10〜数10秒の時間オーダ)圧力変化が見られる。これは発生する水素ガスの蓄積と流動に伴って生ずるもので準定常圧と呼ばれる。蒸気発生器にはこれらの圧力及び反応生成物を安全に解放、放出するナトリウム・水反応生成物収納設備と呼ばれる設備がついている。「大リーク」で発生する熱と圧力は蒸気発生器や配管などに影響を与えるため、設計上どの程度の水リークを考えるかが問題となる。
「もんじゅ」では実験や解析による検討を行い、最初に1本が切れ、その影響で3本が同時に切れるという充分大きなリークを設計基準リークにとり、その場合にも配管などの健全性がそこなわれないように設計されている。
3.蒸気発生器のナトリウム・水反応生成物収納設備
蒸気発生器の伝熱管が万一破断して大量の水が噴出すると、「大リーク」の「ナトリウム−水反応」が起こり、ほぼ瞬間的に大量の水素ガスが発生して蒸気発生器内の圧力が上昇する。蒸気発生器にはその設計圧力より低い圧力で破れる圧力開放板が設けられており、水素ガスなどの反応生成物を安全に回収するナトリウム・水反応生成物収納設備と呼ばれる設備がついている。
「もんじゅ」のナトリウム・水反応生成物収納設備系統の説明図を
図7に示す。ナトリウム・水反応生成物収納設備は、
図7及び
図8に示すように、蒸気発生器を構成する蒸発器と加熱器の圧力開放板、反応生成物収納容器、配管などから構成されており、蒸気発生器内の圧力が上昇すると圧力開放板が破れ、水素ガスと一緒にナトリウムや固体ないし液体状の反応生成物が反応生成物収納容器に回収される。
反応生成物収納容器内での反応生成物の分離は次のように行われる。(1)反応生成物が入口ノズルから収納容器に流入すると、本体胴と分離シュラウドの間を旋回しながら下降し、重い液体成分や固体成分は、遠心力で分離されて容器の底部に落下して捕集される。(2)軽い水素ガスは方向転換して分離シュラウドの内側を上昇する。(3)水素ガスと一緒に運ばれる微細なナトリウムは、上部のミストセパレータによって捕集され、水素ガスだけが収納容器から出て点火器で燃焼処理され大気中に放出される。従って、大気中に放出されるのは水蒸気だけである。
1次冷却系のナトリウムと異なり、2次冷却系のナトリウムは放射化されていないので、反応生成物も
放射能を有しておらず、たとえ水蒸気を放出したとしても放射能は含まれていない。
<図/表>
<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
ナトリウム冷却システム (03-01-02-09)
ナトリウム取扱い技術 (03-01-02-10)
高速増殖炉の蒸気発生器 (03-01-02-11)
ナトリウムの安全性(1次系ナトリウム) (03-01-03-04)
高速増殖炉の安全対策 (03-01-03-06)
高速増殖炉「もんじゅ」2次冷却系からのナトリウム漏洩事故 (03-01-03-09)
蒸気発生器(ナトリウム−水)に関する研究 (06-01-02-04)
<参考文献>
(1)科学技術庁(監修):FBR広報素材資料集(第2版)、日本原子力文化振興財団(1990年3月)
(2)動力炉・核燃料開発事業団 動力炉開発部門編:動き出した高速増殖原型炉−もんじゅ−その歩み、現状と今後の展開、原子力工業、Vol.40、No.6(1994)
(3)姫野嘉昭:高速増殖炉工学基礎講座 安全工学、原子力工業、Vol.36、No.2(1990)(4)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社(1993年10月)
(5)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉もんじゅ発電所 原子炉設置許可申請書(昭和55年12月)
(6)(独)日本原子力研究開発機構ホームページ:高速増殖原型炉もんじゅのナトリウム漏えい対策等に係る工事について
(7)経済産業省:改造工事の内容と安全性確保対策、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子炉安全小委員会もんじゅ安全性検討会(第1回)配布資料1-7、(独)日本原子力研究開発機構(平成17年11月)
(8)原子力安全・保安院:高速増殖原型炉「もんじゅ」について(独立行政法人日本原子力研究開発機構作成資料)平成19年8月