<本文>
1.ナトリウム冷却型高速増殖炉の構造設計上の特徴
第1は、運転温度が高温(
原子炉出口温度で通常500〜550℃)なので、材料のクリープ特性(物体に一定の応力が働いているときの歪みの時間的変化のことで、増加する場合は亀裂が入る現象)を考慮しなければならないことである。
第2は炉心出入口の温度差が大きいこと。またナトリウムの熱的特性(熱伝導率が水の約100倍と大きいこと、密度×比熱が小さいこと)により、プラントの運転状態の変動時に生じる
冷却材の過渡的温度変化が構造材に伝えられ易く、構造材に熱応力が発生すること。
第3はナトリウムの沸点が高い(蒸気圧が低い)ので、容器配管にかかる内圧が高圧部でもせいぜい10気圧程度(主としてポンプの吐出圧)と低く、内圧による応力は低いこと。
第4は熱応力を低減するためには一般に薄肉構造が望ましいが、そうすると剛性が低くなるので耐震設計上は支持方法等に特別な配慮が必要となるなど、高温耐熱応力設計と耐震設計を調和させなければならないことである。
2.高速増殖炉での熱応力の例と耐熱応力設計
プラントの定常的または過渡的温度条件に応じて、構造物にはさまざまな熱応力が発生する。その典型的な例を
図1 に示す。なお、
図2 に
原型炉「
もんじゅ」の原子炉本体構造図を参考のために示す。
このうち
図1の(c)は、容器内にナトリウムの自由液面がある場合に容器壁の軸方向温度勾配によって発生する熱応力であり、過渡的状態だけでなく定常状態でも生じる。この種の熱応力を避けるため、原子炉の起動、停止に当って出力をゆっくり立ち上げ、また徐々に下げるなど昇温、降温速度を制限する。また緊急炉停止など急激な温度変化に対して炉容器内壁に熱的緩衝部材を取付け、温度変化を吸収するよう設計する。
図1中の(d)は、高温ナトリウム領域に下方から低温ナトリウムが低速で流入するとき起こり得る現象であり、温度成層化(Thermal Stratification)と呼ばれる。高低温ナトリウムの密度差に基づく浮力と慣性力のバランスにより、ある条件下では高低温ナトリウムが容易には混合せず、ある期間高さ方向に温度勾配を形成し、接する容器壁(c)と同じように軸方向温度勾配による熱応力が生じる。この種の熱応力を低減するためには、冷却材流路の工夫や、原子炉容器の内側に沿って熱遮蔽板(
サーマルライナー)を張るなどの設計を採用する。
図1(a)で、熱膨張反力とあるのは、構造材の一部をなしている配管が熱膨張係数の大きい不銹鋼であるため、容器A(原子炉容器)から容器B(例えばポンプや
中間熱交換器)に対して、起動時高温となって膨張し、停止時収縮するためにA、Bの容器ノズル部に反力が形成されることを示しており、このため
FBRでは1次系配管を上、下方向に引廻しこの影響を避けた対策がなされている。タンク型は、ポンプや中間熱交換器を炉容器内に持ち込んで一体化し、1次系配管を削除した構造である。
3.耐震設計
FBRプラントでは運転圧力が低く原子炉容器を薄肉(5〜6cm程度)とし得る。このことは運転温度が高く、かつナトリウムを用いるために生ずる過渡的熱応力を避けるためにも有利であり、FBRの原子炉容器は薄肉構造が設計上の基本となった。薄肉構造物の耐震性を増すため、特別の工夫が払われている。
すなわち地震入力を軽減するために炉容器の支持構造を工夫したり、内容器と外容器を独立して分散支持したり、地震の時ナトリウム液面の振動による構造物への効果を緩和するなど設計上の配慮がなされている。
さらに、原子炉の基盤であるベースマット下部に免震構造を施して、原子炉の耐震設計条件を緩和し、同時に重量軽減による経済効果を狙った改良案も検討されている。
4.設計基準
なお、以上の構造設計に当たっては、機械荷重と熱荷重の整合性をはかって耐震設計基準を、耐熱応力設計は高温構造設計基準をそれぞれガイドに行なわれる。
<図/表>
<関連タイトル>
核燃料増殖のしくみ (03-01-01-04)
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
高速増殖炉と軽水炉の相違 (03-01-02-03)
高速増殖炉の炉心設計 (03-01-02-04)
高速増殖炉の燃料設計 (03-01-02-06)
<参考文献>
(1)堀雅夫(監修)基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学、日刊工業新聞社 (1993年10月)
(2)今津彰:日本機械学会誌、Vol.89,No.810,542-548(1986)
(3)日本原子力学会(編):高速増殖炉技術の現状と将来の展望、1987年12月