<本文>
PWRプラントの開発経緯を
図1に示す。日本では、PWRユーザーの電力とPWRメーカーの三菱重工業が中心となって、APWR(1538MWe)後の開発方針として、経済性と安全性の向上を図った次世代PWR「APWR+」の開発を進めてきた。一方米国市場では、APWRの開発開始時点(1982年頃)と社会情勢が大きく変わり、安全性確保に加えて、とくに経済性向上のニーズが高まってきた。また欧州で開発されたEPR(欧州加圧水型炉、1600MWe)も参入してきた。このような情勢から、米国市場向けの大型炉「US-APWR」(1700MWe)の実用化を目指すことになった。一方三菱重工業と提携していたWH社は受動安全採用のAP600(610MWe)を大型化したAP1000(1117MWe)の開発を進めていた。ところが2006年になってWH社が東芝の傘下に入ったことにより、三菱重工業はAREVA社〔フランス〕と提携しEPRを開発・建造することとなった。以下では、APWR発展炉という観点から、「APWR+」と「US-APWR」を主に解説し、最後にAP1000についてふれる。APWRについてはATOMICAデータを参照のこと。
1.APWR発展炉「APWR+」への取り組み
1991年6月に総合エネルギー調査会(現総合資源エネルギー調査会)は、これまでの軽水炉改良標準化の評価および今後の軽水炉高度化のあり方に関する報告書をまとめた。内容は、(1)これまでの経験を積極的に活用して技術基盤を固め、安全性確保の原則を再確認しながら、新しい技術や知見を取り入れていく、(2)安全性確保は
多重防護の考え方を基本とし、発電システムとしての信頼性向上を図る、(3)技術者、熟練工等の人材確保を配慮する、(4)今後ともウラン資源の有効利用を推進する、(5)今後の様々な展開に対して、柔軟に対応できるよう技術開発を進めるなど基本的なあり方が示されている。
これらの考えに基づき、2010年代における実用化(運転開始)を目指して、電力会社とメーカーはAPWR後の次世代PWR「APWR+」としての基本概念構築のための共同研究を行った。
2.「APWR+」基本概念のプラント構築と要素技術の検討
この検討の目的は、次世代PWRとしての総括的な要求事項をまとめ、最適なプラント基本概念を構築することである。総括的な要求事項の基本的な項目として、電気出力は1000MWe級と1500MWe級とし、プラント設備利用率は90%以上、定検時のピーク人員は在来炉より低減し、プラント運転期間は60年とすることなどが決められた。
以下に検討事項をまとめる。
2.1 原子炉、炉心
(イ)
燃料集合体大型化
燃料棒の寸法を変更せず、燃料集合体の配列を現行の17×17から20×20などに増やすことで、定検時の燃料取扱体数を削減し定検期間を短縮させる。
(ロ)上部挿入方式炉内核計装
炉内核計装を上部から挿入することによって、原子炉容器の下部管台を削除し、原子炉容器の信頼性向上および
原子炉格納容器配置の簡素化を図る。
(ハ)
制御棒駆動機構
制御棒駆動機構の小型化を図り、原子炉容器蓋上部のスペースを有効利用する。
2.2
一次冷却系
(イ)
蒸気発生器
縦置U字管式(現行)と自然循環上有利な横置U字管式(新型)の比較を行う。
(ロ)一次冷却材ポンプ
シャフトシール型(現行)とキャンドモータ型(新型)の比較を行う。キャンドポンプは従来のようなシール部を持たないためシール部からの漏洩はなく、シール冷却設備も不要で設備を簡素化できるものと期待されている。
2.3 安全系
「APWR+」基本概念における一次冷却材喪失事故(LOCA)時の炉心冷却および
崩壊熱除去に関する要素技術を
表1に示す。現行炉での動的安全系をベースとして、受動安全系を組み合わせたものを検討する。
(イ)炉心冷却(重力落下注入系による注入、低圧/中圧注入ポンプによる注入)
LOCA時重力落下炉心冷却系を
図2に示す。原子炉格納容器内に設置された重力落下水用タンクから重力落下で炉心に非常用冷却水を注入する。一次系を強制的に減圧することで非常用冷却水の炉心への注入を可能にし、減圧方法は
加圧器および一次系配管に設置した大口径減圧弁を開放して行う。
(ロ)
崩壊熱除去(原子炉格納容器壁面使用方式、蒸気発生器使用方式)
LOCA時原子炉格納容器からの崩壊熱除去を
図3に、蒸気発生器からの崩壊熱除去を
図4に示す。事故後原子炉容器や一次冷却系を水没させた後、原子炉格納容器内では炉心での沸騰と原子炉格納容器壁面での凝縮によって自然対流での冷却を成立させる。その際、外部に原子炉格納容器外壁冷却用水スプレイを設けることによって、原子炉格納容器外面の熱伝達特性を向上させて冷却する。もう一つの方法は、原子炉容器や一次冷却系を水没させた後、蒸気発生器二次側に冷却水供給タンクから冷却水を重力落下で供給し、沸騰させて蒸気を二次系自動減圧弁から大気に放出させて、原子炉格納容器内の崩壊熱を除去する。
(ハ)アニュラス浄化系
外部遮蔽に鋼板コンクリート構造(鉄板の間にコンクリートをサンドイッチした構造)を採用してアニュラス部の気密性を確保し、大気に放出する前に原子炉格納容器から漏洩してきた空気中に含まれる
放射性物質を
チャコールフィルタで除去する。
2.4 その他
(イ)耐震設計
今後の新規プラントに対する技術開発の一部として、第4紀層地盤へのプラント立地、塑性設計、免震設計、および制振設計の導入を検討する。
(ロ)シビアアクシデント対応
既設プラントで実施しているシビアアクシデント対策の基になるPSA(確率論的安全評価)を整備し、これを次期プラントの設備設計に活用し信頼性の向上を図る。
2.5 「APWR+」基本概念のプラント構成
以上検討した「APWR+」基本概念のプラント構成(例)を
図5に示す。
3.「APWR+」からUS-APWRへ
3.1 「APWR+」の炉概念構築
「APWR+」に対する設計要求を
表2に示す。1980年代のAPWRの開発時点に比べ、その後電力市場自由化による各電源間の競争激化など社会情勢が大きく変わった。また欧州で開発したEPR(欧州加圧水型炉、1600MWe)が米国や中国など世界市場に参入してきた。このような世界情勢から、「APWR+」に対して、APWR技術の連続性を維持しつつ、1700〜1800MWe級への大出力化、APWRより低い炉停止中炉心溶融確率などAPWRと同等以上の安全性向上、最大24か月・プラント寿命60年・運転中保守など運転・保守性の改善、およびAPWRより低い建設コスト・稼働率95%などの経済性向上について、設計要求がなされ、「APWR+」の炉概念が構築された。
APWRと「APWR+」の主要設計仕様の比較を
表3に示す。「APWR+」の炉概念では、電気出力を1538MWeから1750MWeとしたことで燃料有効長を3.7mから4.3mとしたが、上部挿入方式炉内核計装の採用によって原子炉容器高さを13.6mから13.3mに抑えることができた。また安全性概念では、設計想定事象に対しては安全系の4トレン化、
非常用電源の多様化、およびLOCA時の受動炉心冷却系により安全性向上を図った。また事故時炉心冷却における蒸気発生器の有効活用、破断口水没による安全設備の簡素化を行った。設計想定外事象に対しては、燃料取替用水ピットの運転床上設置によって重力落下注入を可能とし、運転員の操作時間余裕の確保、原子炉容器の外部冷却の適用を実現した。また格納容器内圧上昇を防止するため、格納容器再循環クーラへの冷却水パスを多様化した。これら安全系構築の結果、
図6に示すように、「APWR+」では格納容器除熱失敗の確率が2桁低減できた。
3.2 US-APWR(米国型APWR)として実用化
米国では長らく原子力発電所の新設が無かったが、地球温暖化防止、原油価格の高騰、原油供給国の政情不安定などから原子力発電への要望が高まり、2030年頃に数10基の新設が見込まれている。そこで三菱重工業は、AREVA社の米国参入(US-EPR)に対抗し、米国市場に向けて、「APWR+」炉概念構築における検討を参考にして、APWRをベースに経済性と安全性の向上を図った大型のUS-APWR(米国仕様APWR、1700MWe)を設計した。
APWRとUS-APWRの主要設計仕様の比較を
表4に、US-APWRの炉心設計の特徴を
図7に示す。APWR(1538MWe)と同じ炉心熱出力であるが、電気出力を1700MWeと増加させている。炉内核計装を原子炉容器上部からの挿入方式に変更して(電力会社からの要望)下部炉内構造物を簡素化し、原子炉容器寸法(高さと直径)を変更しないで長尺化(12ftから14ft:3.66mから4.27m)燃料を採用した。その結果、
出力密度を低くでき、経済的な24か月サイクル運転が可能になった。蒸気発生器では伝熱管を三角格子配列にして伝熱面積を増やし、タービン設計では低圧タービンの長翼化などの採用で、性能向上を図った。非常用電源は米国電力網事情を考慮して4系列にし、安全系設備の完全4系列化を図った。建屋設計では米国の低地震条件適用により建屋容積を低減した。NRCの形式認証取得活動を2006年9月から行っており、テキサス電力(TXU)での採用が決定している。
4.受動安全を採用したAP1000の実用化
日本でAPWRの発展型を検討していた頃、米国WH社では受動安全を大幅に採用した「AP600」(600MWe、ATOMICAデータ参照)を開発し1998年9月にNRCの最終設計承認(FDA)を取得したが、電力会社からの受注は無かった。その後、国家エネルギー政策「原子力2010年計画」が始まり、これを受けて大型化を図った「AP1000」を設計して、2006年1月にはFDAを取得した。AP1000では、とくにLOCA時対策として、AP600と同様の受動安全設計を採用しており、その結果、系統も簡素化され機器類の物量も低減され(
図8参照)コスト低減にも寄与し、炉心損傷確率も現行炉より2桁低い値となった。AP1000は米国では4サイトでCOL(建設・運転一括申請)を申請中であり、エクセロン電力がアラバマ州ベルフォントで2014年に運転開始予定である。中国から4基受注を受けており、そのうち浙江省三門原子力発電所では2013年11月に運転開始予定である。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
原子力発電技術の開発経緯(PWR) (02-04-01-01)
改良型加圧水型原子炉(APWR) (02-08-02-04)
AP600及びAP1000 (02-08-03-04)
第4世代原子炉の概念 (07-02-01-11)
原子力発電拡大を目指す米国の動き (14-04-01-36)
米国エネルギー省と原子力産業界の軽水炉開発共同計画 (14-04-01-39)
<参考文献>
(1)牧野義明、碓井修二:次世代PWR(APWR+)の概念、日本原子力学会誌、1(4)、404-411(2002)
(2)山内澄、岡田敬三:世界的原子力リーディング総合カンパニーとしての技術開発の現状と今後の取り組み、三菱重工技報、43(4)、2-9(2006)
(3)三菱重工業(株)原子力事業部:米国原子力発電所の許認可体制とUS-APWRの米国での審査状況について(平成19年7月5日)
(4)Mitsubishi Heavy Industries Ltd.:4.(2)Activities on the Large Strategic Reactor US-APWR,Nuclear Energy Systems Business Presentation Meeting(Document 1),(2007年11月)
(5)USNRC:Design Certification Pre-Application Review-US-APWR,(2007年11月)
(6)久木田豊ほか:次世代PWRの研究開発、原子力誌、37(9)、775-784(1995)
(7)三菱重工業(株)原子力事業部:原子力事業説明会(資料1)(2007年7月23日)(2007年9月)
(8)R.A.Matzie:The AP1000 Reactor Nuclear Renaissance Option(September 26, 2003),(2007年9月)
(9)東京電力(株):米国における原子炉新設計画(2007年9月)
(10)東芝(株)(プレスリリース):ウェスチングハウス社の中国での原子力発電プラント建設に関する契約の締結について(2007年7月24日)、
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2007_07/pr_j2403.htm(2007年9月)