<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 世界の原子力発電
<タイトル>
世界の原子力発電の動向・西欧州(2005年) (01-07-05-07)

<概要>
 欧州各国は、1970年代の石油危機を契機に、石油代替電源として大規模な原子力発電開発を行ってきた。その結果、2005年12月末現在、西欧州全体では135基・1億2,996万5000kWの原子力発電設備が運転され、EU加盟国の電力供給の約33%を賄う。これらの国々は、国境を接するか、海に隔てて隣接しているため、国際的な送電網が発達し、電力の国際取引も盛んに行われている。1990年代に入ってエネルギー・環境面で重要課題として浮上してきた地球温暖化への対策としても、原子力発電は温室効果ガス排出ゼロの電源として、その重要性が再び注目されている。
 一方、1979年の米国でのスリーマイルアイランド原子力発電所事故、1986年のチェルノブイリ事故は、イタリア、スウェーデン、ドイツなどの国々を脱原子力政策に踏み切らせ、再生可能エネルギー発電の導入が積極的に進められてきた。しかし、エネルギーの安定供給や、地球温暖化への対策として、原子力政策の見直しも再び視野に入ってきている。
 西欧州のうち運転中の原子力発電所がある9か国(イギリス、フランス、ドイツ、スイス、スペイン、ベルギー、オランダ、スウェーデン、フィンランド)と脱原子力政策をいち早く推進したイタリアの原子力発電開発の現状および将来展望について述べる。
<更新年月>
2006年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 表1に西欧州の原子力発電開発の現状を、表2に西欧州諸国の原子力発電が総発電電力量に占める割合を示す。
1.イギリス(原子力発電所立地点;図1参照)
 2001年12月末現在、運転中の原子力発電所は23基・合計出力1,279.3万kWで、原子力発電による発電電力量は約752億kWh、総発電電力量に占める原子力の割合は19.9%。このうち、マグノックス炉(GCR)8基・合計出力266万kWは、原子廃止措置機関(NDA)が、ガス炉(AGR)14基・合計出力887.5万kWと国内唯一のPWRサイズウェルB(125.8万kW)はブリティッシュ・エナジー(BE)社がそれぞれ所有・運転している。
 マグノックス炉は、原子力開発初期段階(1950年〜1960年代)に開発された炭酸ガス冷却炉で、英国原子燃料会社(BNFL)の所有であったが、軽水炉に比べ経済性が低く、老朽化が目立つため、NDAに移管された。NDAは軍事用を除く全ての放射性廃棄物の処理、施設の汚染除去、廃止措置等の債務整理を行う公的機関で、2005年4月に発足。実際の作業はBNFL内の廃止措置部門BNGにより行われる。表3にマグノックス炉の閉鎖プログラムを示す。
 原子力発電所が段階的に閉鎖されること、および天然ガスの生産が減少する見通しであることを踏まえて、ブレア首相は2001年6月、長期エネルギー政策の検討に着手した。2003年2月にはエネルギー白書(2050年を目途にCO2の排出量を1990年との比較で60%削減する)を公表、2006年1月、英国貿易産業省(DTI)はエネルギー・レビューに着手した。2006年7月、DTIはエネルギー政策を見直した報告書を発表したが、原子力発電は地球温暖化防止とエネルギー安全保障の観点から、将来の電源構成の中で一定の役割を果たすと評価され、プラント新設の必要性が明記されている。
2.フランス(原子力発電所立地点;図2参照)
 2005年12月末現在、高速増殖炉フェニックス(FBR、25万kW)を含む59基・合計出力6,602万kWの原子力発電所が運転中である。2005年の原子力発電による発電電力量は4,309億kWh、総発電電力量の78.5%を占める。MOX燃料は全ての90万kW級PWR20基に装荷済みである。
 フランスの加圧水型軽水炉(PWR)はすべて標準化され、150万kW級の標準炉型N4シリーズ、ショーB1、B2号機(PWR、156万kW×2基)が2000年5月15日と9月29日に、シボー1、2号機(PWR、156.1万kW×2基)が2002年1月29日と4月23日に営業運転を開始した。N4シリーズはフランスの純国産炉で、単基出力は世界最大である。また、フランス電力(EDF)は2006年5月、N4シリーズに続く次世代炉として、フランスとドイツが共同開発した欧州加圧水型炉(EPR)をフラマンヴィル原子力発電所の3基目の原子炉として、2007年から着手することを正式に決定した。
 EPRは既にフィンランドに輸出され、オルキルオト3号機として建設が進められているが、フランスでは初めてのケースで、シボー2号機以来15年ぶりの建設である。2020年以降、既存の原子炉のリプレースと海外市場に向けたモデルケースとして、建設期間を5年、約8年の運転を経てEPRをシリーズ化する。フランスの現、中道保守政権は、2005年7月に制定されたエネルギー政策法に明記されているように、将来にわたる原子力発電の継続を明確に打ち出している。EDFは2040年頃から第IV世代と呼ばれる次世代原子炉を段階的に導入する方針である。
3.ドイツ(原子力発電所立地点;図3参照)
 ドイツは1998年9月の総選挙で、原子力推進派CDU(キリスト教民主同盟)が敗れ、脱原子力政策を推進するSPD(社会民主党)と緑の党の連立政権が発足した。その後、政府と電力業界等の間で、原子力発電所の段階的な閉鎖が協議され、2000年6月には合意。原子力法の改正により、原子炉の漸次閉鎖(許認可最長32年)、原子炉新規建設の禁止、使用済燃料再処理の終結が法的に規定され、2002年4月から施行された。以降、2003年11月にはシュターデ発電所(PWR、67.2万kW)が、2005年5月にはオブリッヒハイム発電所(PWR、35.7万kW)が閉鎖されている。なお、2005年解散総選挙後、10月にはアンゲラ・メルケルCDU党首が新首相に就任した。
 2005年12月末現在、運転中の原子力発電所は17基・合計出力2,137.1万kW。2005年の原子力発電電力量は1,546億kWhにのぼり、設備利用率は88%を達成した。総発電電力量に占めるシェアは31%。前政権は再生可能エネルギーの拡充と省エネに力を注いだが、再生可能エネルギーのコストは電気料金上昇の一因となった。
 現在、ドイツの電力消費量は微増傾向にあり、代替電源である天然ガス火力は、燃料の約30%をロシアから輸入している。2005年にはロシア−ウクライナ間に天然ガス問題が発生し、ドイツも大きく影響をうけている。これは、ロシアの国策企業ガスプロム社が2006年1月1日、ウクライナへのガス供給停止措置としてパイプラインへの供給量を30%削減し、ウクライナがこの措置を無視して従来量のガスを確保したことによる。パイプラインの末端にある欧州連合諸国でガス圧が低下し、大混乱を招いた。また、問題の発端は、ロシアのガスプロム社が従来の4倍の金額を契約更新時にウクライナへ要求したことであり、ロシアの天然ガスへの欧州各国の依存体質について危惧を呼び起こした。
4.スイス(原子力発電所立地点;図4参照)
 スイスは2005年12月末現在4原子力発電所、5基・337.2万kWが稼動している。2005年の原子力発電電力量は221億kWh、総発電電力量に占めるシェアは32.1%。
 スイス独特の国民投票により、1990年に新規原子力発電所の10年間凍結を採択した。しかし、2003年5月に行われた2回目の国民投票では、2つの脱原子力発電イニシアチブであるモラトリアムプラス(新規原子力発電所の建設凍結の10年延長)と、原子力発電の段階的閉鎖を退けている。これにより、改正原子力法を2005年2月に施行令とともに発効した。同改正法には、原子力オプションの維持、使用済燃料再処理の2006年以降10年間の凍結、放射性廃棄物最終処分場の立地に関する州拒否権の廃止などが盛り込まれているが、新規原子力発電所の建設計画の是非は別途国民投票に委ねられている。
5.スペイン(原子力発電所立地点;図4参照)
 2005年12月末現在、9基・788.7万kWが運転中である。2005の発電量は547万kWh、原子力発電が占める割合は19.6%。スペインの国内消費電力量は毎年5〜6%の伸びを示しており、新規原子力発電所の建設計画はないが、環境問題の観点から既存原子炉のライセンス更新や出力増強に積極的である。アスコ1号機(PWR)が2003年に5,000kW、コフレンテス(BWR)が、2002年に続き、2004年2月にも7,000kWの出力増強を行い、グロス電気出力が109.2万kWになった。
 一方、経済省は、スペイン原子力安全委員会(CNS)の勧告を受け、国内で最も古いホセカブレラ原子力発電所(PWR、16万kW)を2006年4月30日に閉鎖した。同機は、1968年に運転を開始した米国ウェスチングハウス社製で、UE−F社が所有・運転していた。
 スペイン政府(社会労働党政権)は2005年7月、同国の総発電電力量に占める原子力の割合を2011年までに現在約20%から10%〜16.5%へ削減する計画を発表した。2004年3月の選挙で国民党を破ったサパテロ首相は、原子力発電所の段階的閉鎖や再生可能エネルギーの導入促進策など、脱原子力を政策方針としている。
6.ベルギー(原子力発電所立地点;図2参照)
 2005年12月末現在、7基・605万kWの原子力発電所が運転中である。2005年の原子力発電量は453億kWhにのぼり、総発電電力量の55.6%を占めた。原子力発電のシェアは、フランス、リトアニア、スロバキアに次いで世界第4位である。
 1999年6月、社会主義系、環境保護系、自由主義系の連立内閣が発足。反原子力の立場を標榜する環境保護政党は、原子力発電所の運転期間を40年に定めるとともに、原子力発電所の新規建設を禁止するなどを盛り込んだ「脱原子力法」を2003年1月に成立させた。
 同法によると、2015年に40年目を迎えるドール1号機、2号機(PWR、41.2万kW×2基)とチアンジュ1号機(PWR、100.9万kW)を皮切りに、40年に達した発電所から順次閉鎖し、2025年には最後のチアンジュ3号機(PWR、106.5万kW)が閉鎖される。
 一方、法案は電力供給確保に支障が生じる場合には脱原子力は行わないとの例外規定を設けている。2003年5月の総選挙で環境保護党が惨敗したことから、脱原子力政策の軌道修正する動きが活発化している。
7.オランダ(原子力発電所立地点;図2参照)
 2005年12月末現在、ボルセラ原子力発電所(PWR、48.1万kW)が、オランダで唯一運転中の原子力発電所で、2005年に37億7193kWhの電力を供給した。原子力シェアは3.9%。独シーメンス社製で1973年に運転を開始し、稼働率は95.69%を記録した。発電所を所有・運転しているEPZ社は2005年2月、出力増強のためシーメンス・オランダ社と契約。2006年の停止期間中にタービン・ローター、タービン・ブレード、汽水分離機等の交換を行い、電気出力は3万kW増強される予定である。
 第2次バルケネンデ内閣(キリスト教民主勢力(CDA)、自由民主党(VVD)、民主66(D66)の3党連立政権)は、2003年5月、ボルセラ原子力発電所を2013年に閉鎖すると発表した。その後、原子力政策の見直しから、2006年1月には20年の運転期間延長が認められた。EPZ社には、再生可能エネルギー開発への資金援助、5年毎の専門家による審査、2033年12月以降、速やかな発電所の解体・撤去の条件が課せられた。
8.スウェーデン(原子力発電所立地点;図4参照)
 2005年12月末現在、10基・921.1万kWの原子力発電所が運転中である。2005年の原子力発電電力量は695億kWh、総発電電力量に占める原子力シェアは46.7%となった。
 スウェーデンは、1980年の国民投票で2010年までに原子力発電所の段階的廃止を打ち出し、1999年11月にバーセベック1号機(BWR、60万kW)を閉鎖した。同2号機(BWR、61.5万kW)については、政府と電力業界の間で協議が続き、温暖化ガス排出量の削減に見合った代替電源を確保する見通しが立たないことなどから、政府は閉鎖期限を数回にわたって延期していたが、2005年5月31日、最終調整が平行線のまま、強制閉鎖となった。一方、政府は2005年10月、リングハルス1号機(BWR、86.5万kW)の熱出力1.5%アップと3号機(BWR、96.5万kW)の熱出力13.5%アップの出力増強計画を承認している。また、オスカーシャム3号機(BWR、120.5万kW)の熱出力18%アップとフォルスマルク1−3号機の出力増強も計画されている。
9.フィンランド(原子力発電所立地点;図4参照)
 2005年12月末現在、4基・278万kWの原子力発電所が運転中である。フィンランドでは国営フォータム(Fortum)社がロビーサ1号機(PWR、51万kW)を1977年に運転開始したのを最初に、1982年までに、同2号機(同)、民間の電力会社テオリスーデン・ボイマ社(TVO)のオルキルオト1号機(BWR、87万kW)、同2号機(BWR、89万kW)が運転を開始した。
 2005年の原子力発電電力量は223億kWhで、原子力の割合は32.9%であるが、電力量の15%をスウェーデンやロシアから輸入している。また、2000年から2010年にかけて国内電力消費量は約18%伸びると予測されため、2005年2月、フィンランド政府は、TVOにオルキルオト3号機(EPR=欧州型PWR、170万kW)の建設認可を発給。2005年8月から建設を開始した。建設費は最大3,000億円程度、運転開始は2009年の予定で、フラマトムANP社が原子炉系統を、シーメンス社がタービン系統を供給する。
10.イタリア(原子力発電所立地点;図4参照)
 イタリアは、チェルノブイリ原子力発電所事故後の1987年11月、国民投票によって原子力発電開発の5年間凍結という事実上の撤退を決定し、1990年までに稼働中の原子炉をすべて閉鎖した。1975年の国家エネルギー計画では、1985年までに原子力発電設備容量を合計2,000万kWに増大し、海外依存度を減らす政策であった。1986年時点で127.3万kW、原子力による発電シェアは6%、輸入電力への依存度は約12%であったが、1987年以降、2000年までに、純輸入電力量は約2倍、純輸入電力量の割合は15%に増加した。現在、全ての原子力関連施設は、原子力発電管理会社(SOGIN)により廃止措置が進められ、バックエンド活動以外は完全に停止状態である。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 西欧州諸国の原子力発電開発の現状
表2 西欧州諸国の原子力発電が総発電電力量に占める割合
表3 英国マグノックス炉閉鎖計画
図1 イギリスの原子力発電所立地点
図2 フランス、ベネルクス三国の原子力発電所立地点
図3 ドイツの原子力発電所立地点
図4 その他西欧州諸国の原子力発電所立地点

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
ドイツの原子力発電開発 (14-05-03-03)
スウェーデンの原子力発電開発 (14-05-04-03)
フィンランドの原子力発電開発と原子力政策 (14-05-05-02)
スイスの国民投票 (14-05-09-07)
ベルギーの原子力発電開発 (14-05-10-02)
スペインの原子力発電開発 (14-05-13-02)
イタリアの原子力事情と原子力開発 (14-05-14-01)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向、2004年次報告(2005年5月)
(2)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向、2005年次報告(2006年5月)
(3)英国原子燃料会社(BNFL:British Nuclear Group)ホームページ:
(4)世界原子力協会(WNA)ホームページ:Nuclear share figures,1995−2005:http://www.world-nuclear.org/info/nshare.htm
(5)IAEA発電炉情報システム(PRIS)ホームページ:
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