<本文>
1.
軽水炉開発の経緯
エネルギー資源に乏しいベルギーのエネルギー政策は、エネルギーの多様化と供給源の分散化が重点的に行われてきた(
図1および
図2参照)。原子力発電の開発に関しては、1957年に重電メーカーACEC社(後にCOCKRRILL社と合併し、ACECO社と変更)が米国ウェスチングハウス(WH)社から加圧水型軽水炉(
PWR)のライセンスを取得したことから始まっている。
第1段階は、ベルギー原子力研究所(SCK・CEN)にあるBR3(PWR、
ネット電気出力1万kW)である。同炉は欧州初のPWRとして1962年に運転を開始し、運転員の研修や燃料材料の試験などに供され、1987年に閉鎖された。
第2段階は、フランスとの共同開発であったショーA(C.N.A SENA:PWR、32万kW)で、両国の国境に近いフランス側に立地する。同機は1965年に運転開始し、1991年10月に閉鎖された。建設には、ベルギーのACECO社が参加した。
第3段階はドール(Doel)1、2号機、チアンジュ(Tihange)1号機で、本格的な商業炉開発が始まった。3基とも1968年に発注され、1975年に運転を開始した。100万kW級のチアンジュはショーAに続いてフランスとの共同開発だったが、ドール1、2号機はエンジニアリング、機器製造および建設など、すべてベルギー企業が行った。ドールはアントワープ近郊、チアンジュはリェジュからムース川をさかのぼった地点に立地している(
図3参照)。
第4段階はドール3、4号機、チアンジュ2、3号機で、100万kW級の建設が本格化した。この4基は1974、1975年に発注され、1982〜1985年に運転を開始した。国産化率は90%以上だった。
2.原子力発電所の現状と政策
2010年1月1日現在、ドール原子力発電所1〜4号機、チアンジュ原子力発電所1〜3号機の合計7基623.4万kWの原子力発電所が運転されている(
表1参照)。運転中の7基による2009年の原子力発電量は450億kWh、総発電電力量に占める原子力の割合は前年比より2.1%減の51.7%であった。ベルギーの原子力シェアはフランス、リトアニア、スロバキアに次いで世界第4位を記録している。また、2009年の稼働率(
設備利用率)は前年の85.1%を0.4ポイント下回る84.7%と比較的安定している。ベルギーには法的定期検査はないが、12ヶ月〜18ヶ月の燃料交換が運転サイクルになっている。
7基の原子力発電所は、いずれもベルギーの電力会社であるエレクトラベル(Electrabel)社が所有、運転している。同社はオランダとベルギーを活動拠点とした天然ガスと電力を販売する大手電気事業者で、ベルギー国内では天然ガスで第2位、電力で第1位の販売実績があるが、主要株主であるSGB(ソシエテ・ジェネラル・ド・ベルジック・グループ)を通じてフランスのスエズ・リヨネーズ・デゾー社が100%所有し、エレクトラベルの親会社スエズ社が2008年フランスの国営ガス会社GDFと合併してGDFスエズ社となったため、エレクトラベル社もGDFスエズ社の完全子会社となっている。
なお、1980年代には8基めの原子力発電所としてドール5号機を建設する計画も浮上したが、チェルノブイリ事故等の影響を受けて1988年12月に放棄された。それ以来、新規発電所の建設計画はなく、既存の発電所は
蒸気発生器(SG)の交換等により、出力増強を図っている。1993年のドール3号機、1995年にチアンジュ1号機、1996年にドール4号機、1998年にチアンジュ3号機、2001年にチアンジュ2号機、2004年にドール2号機、2009年にドール1号機でSG交換が行われている。
ベルギーでは1999年6月の総選挙で自由党、社会党、緑の党の連立政権が発足した結果、2002年3月に原子力発電所の運転期間を一律40年間に制限し、段階的な閉鎖を推し進める”脱原子力法案”が閣議で了解。議会上院は2003年1月に”脱原子力法案”を賛成34、反対16、棄権2で可決した。それまでは原子力発電所の運転に期間を定めず、10年ごとに安全検査を行っていたが、この脱原子力法「商業原子力発電からの段階的撤退に関する法律」により、運転中の7基は2015年から2025年にかけて閉鎖されることになった。また、原子力発電所の新規建設も禁じられ、2025年にはすべての原子力発電所が姿を消す。しかし、脱原子力後の電力の安定供給への懸念、京都議定書による地球温暖化ガス削減目標(90年比7.5%)の達成や代替エネルギー確保に伴う電気料金の高騰など、環境、経済、技術のあらゆる分野に影響が及ぶことから、将来のエネルギー・ミックスを検討する専門家グループGEMIXが検討を行い、最終報告書を提出した。これを受けて2009年10月、政府は2015年に閉鎖予定であったドール1、2号機とチアンジュ1号機の運転を、原子力事業者による再生可能エネルギー研究・開発への資金提供等を条件に、10年間延長することを発表した。なお、脱原子力法では電力供給確保に支障が生じた場合、原子力発電所を早期閉鎖しないとする例外措置を設けている。
3.研究炉等
研究炉と試験炉は、オランダとの国境に近いベルギー東北部のモルにあるベルギー原子力研究所(SCK・CEN)内に設置されている(
図4参照)。初代の研究炉であるBR1(Belgian Reactor-1)は、4MWtの定格熱出力をもつ天然ウラン黒鉛冷却型空気冷却炉で1956年5月に初臨界に達し、放射化試験やラジオグラフィ用中性子源として利用されている。BR2(Belgian Reactor-2)は
材料試験炉で、定格熱出力は80MWtだが、106MWtを達成したこともある。同炉は1963年から
照射その他の実験目的に利用され、
EUの核融合材料研究、MOX燃料の燃焼試験、放射性廃棄物の地層処分研究等が行なわれている。PWRプロトタイプ炉であるBR3(Belgian Reactor-3)は熱出力10MWt。運転員のトレーニング、原子炉燃料や材料の照射を行った。同炉は1962年に運転を開始、1987年に閉鎖された。同炉の廃炉は1989年に
欧州委員会(EC)のパイロット・プロジェクトとなり、1999年には1次系ループの
除染や
炉内構造物の撤去、圧力容器の撤去などを経て、2011年までに廃炉が完了する見通しである。
同研究所は主に核燃料サイクル研究を行ってきたが、1991年からは特に燃料サイクルの安全性に重点を移して研究を行っている。また、施設周辺には、
EURATOMの欧州共同研究所、燃料製造加工施設、旧ユーロケミック再処理工場等があり、モル・デッセル地区と総称される。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
ベルギーの原子力政策・計画 (14-05-10-01)
ベルギーの放射性廃棄物管理 (14-05-10-03)
ベルギーの核燃料サイクル (14-05-10-04)
<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編 2000年(2000年3月)、p.9-27
(2)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編 2010年(2010年3月)、ベルギー、p.134-148
(3)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2010年次報告(2010年4月)
(4)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向2002年次報告(2003年5月)
(5)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑2010年版(2009年10月)、ベルギー、p.246-249
(6)世界原子力協会(WNA):ベルギー、
http://www.world-nuclear.org/info/inf94.html
(7)ベルギー原子力研究センター(SCK/CEN):
http://www.sckcen.be/en/Our-Research/Research-facilities
(8)European website on Decommissioning of Nuclear Installations:
(9)国際エネルギー機関(IEA):Belgium:Statistics,
(10)米国エネルギー情報局(EIA):International Energy Statistics,