<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> スイス
<タイトル>
スイスの国民投票 (14-05-09-07)

<概要>
 直接民主主義をとるスイスでは、原子力政策など重要事項は国民(住民)投票によって決定される。原子力政策は1990年の国民投票の結果を受けて、2000年末まで新規建設が凍結された。しかし、2003年3月に成立した改正原子力法では、これまで凍結されていた新規の原子力発電所の建設は国民投票に委ねられることが明記された。2003年5月に実施された国民投票では、2つの反原子力イニシアチブは否決された。スイスでは原子力発電所の利用を図ろうとする動きが徐々に進展している。原子力を必ずしも歓迎する動きではないものの、現行の社会情勢、経済状況、環境問題を考慮すると原子力発電の利用を無視できない。
<更新年月>
2004年09月   

<本文>
1.国民(住民)投票について
 直接民主主義制度をとるスイスは、人口が約720万人で、連邦、州(カントン;26州、うち3州は2つの半州からなる)、自治体(全国に3000)の3行政区において国民投票(または住民投票)が実施される。それぞれの投票は、憲法改正のための「義務的国民投票」、法律や15年以上にわたり効力をもつ外国との条約のための「任意的国民投票」、憲法の追加、削除、修正を問うことができる「国民発議(イニシアチブ)」の3つに分類される。なお、イニシアチブによる国民投票の実施には、10万人以上の市民の署名が必要となる。
2.スイスの原子力利用に関する国民投票
2.1 2003年の国民投票
 2003年5月18日、スイス国民は2つの脱原子力発電イニシアチブである (1)「モラトリアムプラスー原子力発電所建設禁止の延長と原子力リスクの制限のために」(現行の原子力発電所の新規建設凍結(モラトリアム)をさらに10年間延長する)および、(2)「原子力なしの電力−エネルギーの方向転換と原子力発電の段階的閉鎖のために」(運転中の5基の原子力発電所を2014年までに順次閉鎖する)を国民投票で退けた。
 第一のイニシアチブは、原子炉の運転期間が40年を超える場合には国民投票が必要となることを目指したもので、第二のイニシアチブはスイスにおける原子力利用の段階的廃止と使用済燃料再処理の中止を求めるものであった。後者のイニシアチブでは、医療用以外の原子力研究も禁止するとされていた。「モラトリアムプラス」の投票率は48.9%で、その58.4%が反対であった。「原子力なしの電力」の投票率は49%で、そのうち66.3%が反対にまわった。この国民投票は1990年の国民投票により凍結された原子力発電所建設の再開を問うものであった。
2.2 過去の国民投票の例
 スイスの国民投票は1970年代の原子力発電所冷却塔建設問題に端を発した、原子力発電所建設反対運動である。原子力反対派の発議による国民投票は1979年2月18日と1984年9月23日にそれぞれ実施され、いずれも否決された。
 1979年の国民投票は、「原子力施設の建設、運転における国民の権利と安全を保障するための提案」について賛否を問い、賛成48.8%、反対51.2%の僅差で否決された。
 一方、連邦政府は原子力法の改正を提案し、1979年5月に国民投票を実施。この提案は(1)原子力施設の建設許可は連邦議会の同意だけで承認される、(2)新規原子力発電所はその必要性が承認され、廃棄物の処理処分が確保された場合は許可される、などを内容としたもので、69%の多数を得て承認された(投票率36.9%)。
 1984年の国民投票は、新規原子力発電所の建設禁止や既存の原子力発電所の運転寿命終了後の廃止などを求める原子力発議と原子力発電の開発禁止を求めるエネルギー発議(電力節約の強化、代替エネルギー開発のためのエネルギー税の新設など)の2つで、前者は賛成45%、反対55%、後者は賛成45.8%、反対54.2%でいずれも否決された(投票率41.3%)。
 さらに1986年のチェルノブイル発電所の事故を受けて、1990年9月23日に原子力発電に関連した3回目の国民発議に基づく国民投票が実施された。この国民投票では、(1)稼動中の原子力発電所を可能な限り早急に廃止することを求める「脱原子力案」、(2)今後10年間新規原子力発電所および熱供給炉の許認可を禁止するための連邦憲法を修正する「原子力凍結案」、(3)原子力発電所は存続させるが、連邦政府に効率的なエネルギー政策を推進できるよう、より強い権限を与えるために連邦憲法を修正する「エネルギー条項案」——の3つについて賛否が問われた。(1)の「脱原子力案」と(2)の「原子力凍結案」は国民による発議、(3)の「エネルギー条項案」は国民議会(下院)が出した対抗案だった。投票の結果、(1)は賛成47.1%、反対52.9%で否決、(2)は賛成54.6%、反対45.4%で可決、(3)は賛成71.0%、反対29.0%で圧倒的多数の支持のもとに可決された。ただし、投票率は39.2%と低かったが、この国民投票は、原子力発電政策に大きな影響を与えた。
 スイス国民投票の変遷を表1に示す。
2.3 スイスのエネルギー情勢
 表2に1990年から2002年までのスイスの発電電力量の推移を示す。発電の大部分は水力発電と原子力発電により賄われている。ちなみに2002年の発電電力量は650.11億kWhで、うち水力発電は365.13億kWh(56%)、原子力発電は256.92億kWh(40%)、火力発電は28.06億kWh(4%)となっている。また、図1にスイスの総発電電力量の推移を示す。一方、スイス国内の電力需要量は605.03億kWhで、電力輸入量471.12億kWhを含めた総電力供給量の半分以上となる516.20億kWhを輸出している。電力輸入の94%はフランスからで、輸出の87%はイタリアである。また、スイス国内への電力供給量は1992年の530.59億kWhから2002年の605.03億kWhとこの10年間で約12%の増加である。スイスの電力輸出は1992年の260.46億kWhから2002年の516.20億kWhへと198%の増加し、この10年でスイスが電力輸出国として成長していることが窺える。
 一方、スイスは合計5基、322万kWの原子力発電が運転されているが、これを全部廃止した場合、国内の発電設備では国内の電力需要を賄えなくなること、貿易立国であるスイスの主要輸出産業である電力産業が失われることが予想される。なお、原子力発電所は一部熱併給を実施している。表3にスイスの原子力発電所を示す。
3.最近の住民投票
 ベルン州でミューレベルク原子力発電所(BWR、37万2000kW)の早期閉鎖の是非を問う住民投票が2000年9月24日に実施され、3分の2が同機の運転継続を支持する結果となった。この住民投票は、スイス政府が1998年にミューレベルク発電所の運転ライセンスを2012年まで更新したことを受けて、2002年の早期閉鎖を求める反対派の発議により実施された。早期閉鎖に対して反対が64%、賛成が36%という投票結果となった。また、同時に再生可能エネルギー源の推進として電気料金に1kWhあたり0.5サンチーム(約0.32円)を課税する新エネルギー税案に対しても68%の反対で否決している。
 この住民投票は、欧州で初めて、原子力発電所の早期閉鎖について住民が直接投票したケースである。この結果について、同機の所有・運転者であるBKWエネルギー社をはじめスイス原子力協会(SVA)、欧州原子力産業会議(FORATOM)などが住民の冷静な判断を歓迎するコメントを発表し、同機の早期閉鎖は一部の反対派による極論との見方を示した。
4.低中レベル放射性廃棄物処分場の建設計画をめぐる動き
 スイス放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、1993年ニドバルデン準州のウェレンベルク町近郊のウォルフェンシーセンを廃棄物処分場に選定した。この建設をめぐって地方自治体対象の住民投票が1995年6月に、州民対象の住民投票が1996年6月にそれぞれ行われた。最初に行われたウォルフェンシーセンの住民投票では、建設に伴う補償契約受け入れに322対189で賛成票が多かったが、翌年の州民投票では、サイト特性調査の継続については8562対9460、最終処分場の建設については8679対9356といずれも反対票が僅差で上回ったため、建設計画は中断した。
 その後、連邦政府は当面の建設は研究施設のみとし、段階的な意思決定プロセスを通じて最終処分場の開設をめざす方針に改めた。さらに、中立的な専門委員会(EKRA)が提案する「監視付き回収可能な深地層処分」という新しい方法を採用する意向を固めた。その結果、ニドバルデン州議会は2001年10月、ウェレンベルクでの地下研究所建設を承認。これに続くステップとして、2002年9月22日、地下研究所建設に伴うウェレンベルグ放射性廃棄物管理共同組合(GNW)による探査ボーリングの認可をめぐり住民投票がおこなわれた。賛成8204票(42.5%)、反対11112票(57.5%)となり、反対が前回よりさらに票を伸ばす結果となった。低中レベル放射性廃棄物処分場に関しては、今後新たに候補地探しに取り組む姿勢であるが、立地活動はかなり難航している。
5.国民投票の意義
 2003年の国民投票では、産業界、労働組合、また主要4政党のうち3政党がイニシアチブに対して反対を表明した。これは原子力発電所撤退の直接的コストのみならず、その波及効果も懸念されたと見られる。原子力発電を廃止した場合の代替エネルギーの選択、電力輸出産業を放棄した場合の雇用喪失など問題は大きい。具体的には、(1)スイスは観光立国としてアルプス山系環境保護のため水力の更なる開発は望めない (冬期はダムが凍結するため、10月〜3月は原子力シェアが約45%)、(2)京都議定書でのスイスの炭酸ガス削減目標は2010年で1990年比の10%減であるが、現時点では0.8%増え、今後は11%減らす必要がある、(3)スイスは風力に向いた海岸を持たない、などが挙げられる。また、電力業界の委託を受けたドイツ・ブレーメン大エネルギー研究所の2001年1月の試算によると、原子力発電の早期廃止は廃炉費用と新発電所建設、炭酸ガス削減対策などによって大きな負担を伴うため、その費用は既存の原子炉5基を50〜60年間運転した場合と比べ、30年では約621億スイスフラン(約4兆4000億円)、40年運転では約462億フラン(約3兆円)余計にかかるという。
 スイスでは原子力発電所の利用を図ろうとする動きが徐々に進展している。原子力を必ずしも歓迎する動きではないものの、現行の社会情勢、経済状況、環境問題を考慮すると原子力発電の利用を無視できない。
<図/表>
表1 スイス国民投票の変遷
表2 スイスの電源別発電電力量とその割合(2002年)
表3 スイスの原子力発電所一覧
図1 スイスの発電電力量の推移

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<関連タイトル>
スイスのエネルギー政策と原子力政策・計画 (14-05-09-01)
スイスの原子力発電開発と開発体制 (14-05-09-02)
スイスの原子力安全規制体制 (14-05-09-03)
スイスの核燃料サイクル (14-05-09-04)
スイスの電気事業および原子力産業 (14-05-09-05)
スイスのPA動向 (14-05-09-06)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑2003年版(2002年11月)、p.396−398
(2)(社)海外電力調査会:海外電気事業統計2003年版(2003年9月)、p.388−390
(3)(社)日本原子力産業会議:原産マンスリー2003年7月号(2003年7月)
(4)(株)エネルギーレビューセンター:エネルギーレビュー 2003−9(2003年9月)、 p.44−47
(5)NAGRA:(2002年1月31日)
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