<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)は、旧ソ連邦を構成していた15共和国のうち、バルト3国をのぞく、12か国によってつくられている国家連合で、運転中の原子力発電所は、2005年12月末現在46基・合計出力3,678万2,000kWで、基数・出力とも世界全体の約1割を占める。
 ロシアでは、原子力発電開発が活力を取り戻しつつあり、2001年12月には、ソ連崩壊後初のCIS諸国内の新規発電所となるボルゴドンスク1号機が営業運転を開始した。2030年までに原子力シェアを25%まで高めることを目標に、新規発電所、40基の建設を検討している。なお、2005年には、海上浮遊型原子力発電所が計画入りしている。
 1986年にチェルノブイリ4号機が事故を起こしたウクライナでは、2000年12月にチェルノブイリ発電所を閉鎖。代替電源とした「K2R4」プロジェクトは、2005年9月にフメルニツキ2号機が営業運転を、2004年10月にロブノ4号機が送電を開始した。
 また、ウラン資源が豊富なカザフスタンでは、国営原子力会社のカザトムプロムが、今後30年間で世界一のウラン生産者になることを目標に、増産に力を入れている。
<更新年月>
2006年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)は旧ソ連邦(USSR)を構成していた15共和国のうち、バルト3国(エストニア・ラトビア・リトアニア)を除く、12か国(ロシア連邦・ベラルーシ・ウクライナ・モルドバ・アルメニア・アゼルバイジャン・グルジア・トルクメニスタン・ウズベキスタン・タジキスタン・キルギス・カザフスタン)によってつくられている国家連合で、1991年12月に発足した。
 CIS諸国で運転中の原子力発電所は、2005年12月末現在46基・合計出力3,678万2,000kWで、基数・出力とも世界全体の約1割を占めている。国別の内訳は、ロシアが31基、ウクライナが14基、アルメニアが1基。また、炉型別ではVVER(旧ソ連型PWR)が30基、LWGR(軽水冷却・黒鉛減速炉)が14基、BWRと高速炉がそれぞれ1基ずつとなっている。図1にCIS諸国の原子力発電所立地点、表1にCIS諸国の原子力発電開発の現状を示す。
1.ロシア
 ロシアでは2005年12月末現在、31基・合計出力2,355万6,000kWの原子力発電所が運転中で、設備容量は世界第4位である。内訳はVVER(旧ソ連型PWR)が15基、LWGR(軽水冷却・黒鉛減速炉)が14基、BWRおよび高速炉(BN−600)がそれぞれ1基ずつとなっている。旧ソ連型のLWGRには、発電炉のRBMK(黒鉛チャネル型炉、11基)と、現在は電熱併給炉として使用されている元軍事用プルトニウム生産炉(3基)がある。またこれら以外にも、EGP−6と呼ばれる小型の電熱併給の軽水冷却・黒鉛減速圧力管型炉が4基、ビリビノ原子力発電・地域熱供給プラントに設置されており、周辺地域に電力と熱を供給している。
 2005年の原子力発電電力量は、前年より3.2%増の1,476億kWh、全発電電力量に占める原子力の割合は15.5%で、前年より0.1ポイント減少した。平均設備利用率は73.4%で、前年より0.2%高く、RBMK型炉の利用率は、前年より3.6%高い、73.4%であった。
 ロシア原子力省(MINATOM)は2000年5月に「21世紀前半におけるロシアの原子力発電開発の戦略」と題した報告書を発表している(表2参照)。2006年2月、ロシア連邦原子力庁のキリエンコ長官は、2011年〜2012年頃に新規原子力発電所を2基建設すること、エネルギー・セキュリティの観点から、2030年までに原子力シェアを25%まで高めるため、原子力発電所を40基新設する必要があることを述べ、エンジニアリング部門を強化する意向を示した。
 なお、2000年以降ロシアで営業運転を開始した原子力発電所は、ボルゴドンスク(旧名:ロストフ)1号機(VVER−1000、営業運転開始:2001年12月)と、カリーニン3号機(VVER−1000、営業運転開始:2005年11月)で、ボルゴドンスク1号機はソ連崩壊後初めてのCIS諸国内の新規発電所となった。
 2006年8月現在、バラコボ5号機(VVER−1000)、クルスク5号機(RBMK−1000)とボルゴドンスク2号機(VVER−1000)の3基が建設中で、カリーニン4号機(VVER−1000)と海上浮遊型原子力発電所(半一体型PWR、出力7万kW)が計画中である。海上浮遊型原子力発電所は原子力砕氷船用の舶用炉KLT−40Sを2基搭載したバージ型(タグボートで曳航・繋留)で、総工費は約2億ドル、設計寿命は40年、運転サイクル36ヶ月で、12年ごとにドック入りして大規模改修が行われる。2010年〜11年の完成を目指している。
 ロシアでは、現在運転中の31基の原子力発電所のうち6割が老朽化しているといわれており、既存原子炉のリプレースが緊急の課題となっている。なお、2001年7月には、ノボボロネジ3、4号機(各VVER−440、41万7,000 kW)の運転期間が15年延長された。両機はVVER−440型原子炉のプロトタイプで、同型炉では初めての運転期間延長となった。今後、原子力発電企業体ロスエネルゴアトムは、ノボボロネジ3、4号機以外にも、同5号機(VVER−1000)、コラ1〜4号機(各VVER−440)、レニングラード1〜4号機(各RBMK−1000)、クルスク1〜4号機(各RBMK−1000)、ビリビノ1〜4号機(各LWGR電熱供給炉、1.2万kW)、ベロヤルスク3号機(BN−600:FBR、60万kW)の運転期間延長に着手する計画である。
2.ウクライナ
 ウクライナにおける2005年の原子力発電電力量は、832億8,700万kWhで、総発電電力量に占める原子力の割合は48.5%、平均設備利用率は81%であった。
 ウクライナでは、1986年4月26日に発生したチェルノブイリ4号機(RBMK−1000)の事故を受け、2号機(RBMK−1000)が1991年10月、1号機(RBMK−800)が1998年11月に停止した。3号機(RBMK−1000)は電力供給確保のため運転を続けたが、安全性を懸念する主要先進7か国(G7)の代替電源資金援助の合意成立により、2000年12月に停止した。同発電所は完全に閉鎖された。G7はその代替電源として、建設中のフメルニツキ2号機(KHMELNITSKI−2、VVER−1000、100万kW)とロブノ4号機(ROVNO−4、VVER−1000(V−320)、100万kW)を完成させるプロジェクト「K2R4プロジェクト」に対し、欧州復興開発銀行(EBRD)と欧州原子力共同体(EURATOM)は融資を行うことを2004年7月に決定した。フメルニツキ2号機は2005年9月7日に営業運転を開始、ロブノ4号機は2004年10月に送電を開始している。2005年9月には、K2R4安全性改善のための借款協定が、ウクライナ、EBRD、EURATOMの間で成立しており、2007年に作業は終了する予定である。
 ウクライナは、ベースロード電源として、原子力の設備容量を現在の約1,200万kWから2030年までに2,000万kWに拡大する計画で、今後も原子力シェアを45%前後に維持したい意向である。燃料・エネルギー省のI. プラチコフ大臣によれば、最初の2基はフメルニツキ・サイトが有力で、2015年までに運転開始。3基以降はロブノ、または南ウクライナを候補サイトとして2020年までに運転開始を目指すとしている。
 また、エネルゴアトムは2001年10月下旬、ロシアとの共同作業により、国内で稼動中のVVER−1000型炉の運転期間を10〜15年延長する計画を公表した。運転期間延長の対象とされるのは1983年から1996年にかけて営業運転を開始したVVER−1000・11基で、設計上の運転期間は30年、運転延長期間、安全性は2010年までに解決すべき課題になっている。
 チェルノブイリ4号機に関しては、1997年4月にウクライナと欧州連合(EU)、G7間で、石棺の安定化と石棺内部の燃料含有物質の除去を進めることで合意。各国から拠出してチェルノブイリ石棺基金(CSF:Chernobyl Shelter Fund)を設立、EBRDが管理することになった。2005年末に行われた新規石棺建設の入札に、米国をトップとする企業と、フランスをトップとする欧州企業の2つのコンソーシアムが応札している。石棺完成は2010年を予定している。
 なお、ウクライナでは、ウクライナ国家原子力規制委員会(SNRCU)が2000年12月に新設され、独立機関として、原子力の規制、放射線防護、チェルノブイリ1〜3号機の廃止措置の認可発給(2002年)、使用済燃料貯蔵施設関連業務の監督を行っている。
3.ベラルーシ
 ベラルーシは、国内的にはエネルギー資源に乏しく、また1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故による影響が大きかった国である。ベラルーシのエネルギーの対外依存度は電力消費量の約25%を占め、隣国リトアニアのイグナリア原子力発電所やロシアのスモレンスク原子力発電所から電力の供給を受けている。
 ベラルーシには運転中の原子力発電所はないが、エネルギーセキュリティの面から、原子力発電所建設の可能性は指摘されてきた。1980年代、ミンスクで原子力発電所2基・100万kWの建設計画が浮上し、準備工事が一部開始したものの、1986年のチェルノブイリ事故により計画はキャンセルされた。政府は法体系を整備した後、1996年5月、政府命令により原子力発電所の建設サイトのフィジビィティ・スタディーを開始した。その結果、ミンスク北東のヴィデブスク地方と東部のモギレフ地方など有力サイトが3か所と予備サイト8か所に絞られた。政府命令により設置された調査委員会は1999年1月、原子力発電は将来のオプションとして残しておくものの、代替エネルギーの開発状況、公衆世論、資金問題等から、今後10年以内に国内に原子力発電所を建設するのは得策ではないとした。
 2002年5月、ベラルーシはロシアの原子力発電所を共同建設する方針で、スモレンスク(RBMK−1000×3基)、クルスク(RBMK−1000×4基)、またはカリーニン(VVER−1000×2基)のサイト候補に新設される原子力発電所の建設資金を分担する予定で、代わりに分担比率に応じた電力が供給される。
4.アルメニア
 アルメニアの2005年の原子力発電電力量は25億400万kWh、前年より2億kWh増加した。総発電電力量に占める原子力の割合は42.7%であった。また、平均稼働率は76%で、前年より約10ポイント増であった。
 アルメニア唯一の原子力発電所であるアルメニア2号機(VVER−440、40万8,000kW)は、西側諸国から安全性に問題があるとされる旧ソ連製の原子炉である。1999年9月に定期検査のため運転を停止した同機は、西側諸国の資金援助を受け、この期間中に加圧器安全弁の交換、新しい火災警報システムや各種測定装置の導入などが行われた。EUとアルメニア政府との1999年末の合意では、2004年までに同機を閉鎖することが資金援助の条件となっていたが、その後改定され、代替電源が確保されるまでの運転が認められている。アルメニアとしては、同機を2010年まで運転する計画で、それまでに新規の原子力発電所を建設することを検討している。
 2003年7月、モブシシャン・エネルギー相はアルメニア2号機の運転管理を5年間ロシアに委託する協定を締結したと発表した。ロシアへの運転管理委託の目的は、アルメニアがロシアに対して抱えている同発電所向け燃料代の清算への道筋をつけ(4,000万ドル)、エネルギー供給に重要な役割を果たしているアルメニア2号機の継続的な運転を確保するためとしている。
 アルメニア発電所は1号機(VVER−440、40万8,000kW)が1979年に、2号機が1980年に運転開始、全電力需要の3〜4割を供給した。採用されている原子炉は、耐震性を向上させたVVER−440の改良型だが、格納容器がなく地震地帯に立地しているため、住民の反対が強く、1988年のアルメニア大地震を契機に、1989年には2基とも運転が停止された。しかし、1991年旧ソ連の崩壊、および隣国アゼルバイジャンとの領土紛争の影響による化石燃料不足から深刻な電力不足に陥った。運転再開の要望が高まり、ロシアの協力により耐震性向上等の一部の施設改善が行われた上で、2号機は1995年に運転を再開した。
5.カザフスタン
 カザフスタンは旧ソ連時代にセミパラチンスク核実験場がおかれるなど、原子力開発の重要拠点として、研究炉4基など、原子力施設が集中的に配置されている。また、カスピ海沿岸アクタウにあるシェフチェンコ発電所では、高速増殖炉原型炉「BN−350」(出力15万kW)が1973年から運転され、発電に加えて海水脱塩にも利用されていた。同炉は設計寿命(30年)に達する2003年に閉鎖される予定になっていたが、出力が小さく経済性に劣っていたことに加えソ連の崩壊により技術的な支援を受けられなくなったことなどから、政府は早期閉鎖を決定。1999年4月22日にバルギンバエフ首相が政府決定に署名し、同機は閉鎖された。
 1997年9月に政府は、バルハシ原子力発電所建設計画、化学工場・石炭処理施設向け熱電併給原子力プラント計画、地域暖房用原子力計画等、2030年までに少なくとも5か所に原子力発電所を建設する計画を発表した。この計画の第一段階として、バルハシ原子力発電所建設計画は、首都アルマトイから北400kmのバルハシ湖岸のウルケンにVVER−640型炉(64万kW)3基を建設する計画で、1999年着工、運転開始は2005年、2007年、2010年の予定で、2000年にロシアによるフィジビリィティ・スタディー完了した。2000年9月、政府は建設費や運転維持費が高いこと、公衆の理解が得られないこと等を理由に着工を見送った。しかし、2003年2月、ロシアとの首脳会談で、ロシアの参加により建設することが確認された。運転開始は2008年以降となる見通しである。
 カザフスタンはカナダ(年産10,000トン)、オーストラリア(年産9,000トン)につぐ世界第3位のウラン産出国であり、既知埋蔵量は約86万トン。世界全体の約19%を占め、海外企業の投資も活発である。国営原子力会社のカザトムプロム(KazAtomProm)は、今後30年間で同社を世界一のウラン生産者にすることを目標に増産に力を入れている。計画では、ウラン生産量を2004年の約4,000トンから、2010年までに年産量15,000トンまで拡大させる。現在、カザトムプロム(65%)、住友商事(25%)、関西電力(10%)の合弁会社により、南部にあるムインクドゥック鉱山の西鉱区(可採埋蔵量:1万8,000トン)を開発中で、2007年から試験生産を開始、2010年頃に年1000トンの本格生産に入る。なお、天然ウランは、中国、インドなどの新規建設計画が相次いだことで、2000年頃から価格が上昇している。
<図/表>
表1 CIS諸国の原子力発電開発の現状
表1  CIS諸国の原子力発電開発の現状
表2 ロシアの新規原子力発電戦略の成長シナリオ
表2  ロシアの新規原子力発電戦略の成長シナリオ
図1 CIS諸国の原子力発電所立地点
図1  CIS諸国の原子力発電所立地点

<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 (02-07-04-11)
ロシアの原子力発電開発 (14-06-01-02)
ウクライナの原子力発電開発 (14-06-02-03)
ベラルーシの原子力事情 (14-06-13-01)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2005年次報告(2006年5)、p.2−5、p.7−8、p.52−56、p.81、p.96−97、p.108−109、p.110−115、p.116−119
(2)日本原子力産業会議:原子力年鑑2005年版(2004年10月)、p.141 −151
(3)日本原子力産業会議:原産マンスリー(2002年8月号ほか)
(4)日本原子力産業協会:原子力産業新聞(2006年2月2日)、(2006年2月9日)
(5) IAEA発電炉情報システム:PRIS HOME PAGE
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ