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<概要>
 ドイツの原子力産業は民間企業を中心に活発な活動を続けていたが、1980年代後半になると原子力反対運動の高まりによる発電所建設の停滞から、ウラン採掘、転換および商用再処理の活動が撤退あるいは放棄を余儀なくされている。使用済燃料処分の方式として、それまで電力会社には再処理が義務づけられ、1989年に連邦政府が国内再処理工場は建設せず、海外委託する方針を発表して以来、イギリス原子燃料会社(BNFL)およびフランス核燃料公社(COGEMA)の2社に再処理を委託していた。しかし、1994年5月の原子力法改正により、直接処分もオプションとして認められるようになった。1998年の政権交代以降、脱原子力政策として、新規発電所建設および操業の禁止、既存原子炉の段階的な撤退、2005年7月以降の再処理の禁止、使用済燃料の発電所サイト内貯蔵義務付け等が改正原子力法として2002年4月に施行された。なお、ドイツでは世界に先駆けて1970年代にゴアレーベンが地層処分のサイト候補地として選定され、地上調査および地下探査を含めたサイト適合性調査を行ってきた。しかし、2000年10月以降、新たな探査活動は3〜10年の間凍結された。非発熱性原子力廃棄物の処分地に関しては、2007年6月のコンラッド訴訟の結果、ニーダーザクセン州コンラッドが適地とされ、地層処分の情報公開、透明性を確保しながら、2013年から埋設を始める予定である。
<更新年月>
2010年02月   

<本文>
1.ドイツの核燃料サイクル
 ドイツの原子力産業は民間企業を中心に活発な活動を続けていたが、1980年代後半になると原子力反対運動の高まりによる発電所建設の停滞の中で、撤退あるいは放棄を余儀なくされた部門が多い。特に、1998年9月に社会民主党と緑の党による連立政権が発足した際に原子力政策の大幅な見直しが行われ、新規発電所建設および操業の禁止、総発電規制値を達成した後(許可後最長32年)の既存原子炉の操業停止などの原子力からの段階的撤退、2005年7月以降の再処理の禁止、使用済燃料の発電所サイト内貯蔵義務付け等が政府と電力会社の間で合意された。この方針は、改正原子力法として2002年4月に施行され、影響はドイツの核燃料サイクル全般に及んでいる。
 かつて、ドイツの原子力産業は核燃料サイクルのほぼ全般に関与していたが、現在ではウラン採掘、転換、商業規模の再処理は存在しない。表1にドイツの核燃料サイクル施設の概要を、図1に配置図を示す。また、1994年に可決されたエネルギー関連一括法により、使用済燃料についてはそれまで義務付けられていた再処理と同等のオプションとして直接処分が認められることとなったが、従来ドイツでは再処理を含む閉じた核燃料サイクルが採用されてきた(図2参照)。1960年代よりMOX燃料を試験的に軽水炉に装荷し、1980年代からは本格的に加圧水型炉を中心にプルサーマルが進められてきたが、1995年以降、ハナウ(Hanau)のMOX燃料製造工場は閉鎖され、燃料をフランスやベルギーから輸入している(図3参照)。
2.核燃料サイクル事業の現状
2.1 ウランの採掘
 旧ドイツ民主共和国(GDR、東ドイツ)では、国営会社ヴィスムート(WISMUT)社がザクセン州とチェコとの国境近くで、約22万tU(U3O8換算26万t)のウランを生産し、ロシアを含む欧州最大規模の鉱山として運営されていた。しかし、ドイツ統一後は安全面とコスト面から1991年に1207tU、1992年に232tUと生産量が減少して鉱山は閉鎖された。また、旧西独ではエルヴァイラー(Ellweiler)ウラン鉱山でも採掘が行われていたが、1989年に閉鎖されている。1990年以降ウラン探鉱事業への政府の助成は中止された。ドイツ統一後1991年から1992年には、ドイツの3つの鉱山企業UG、Uranerz、Interuranが主にカナダなどの国外でのウラン探鉱を継続したが、Interuran(1989年)とUG(1992年)はフランスCOGEMAに、Uranerz(1998年)はカナダCAMECOに買収された。現在、カナダ、オーストラリア、ロシアから年間3800tUを輸入している。なお、WISMUTは1992年からKonigstein鉱山の環境浄化作業に伴い、ウランを回収している。2004年の回収量は150tUであった。ウラン鉱山の露天採掘場跡等は溶出防止措置や脱水処理が行われ、埋戻し、覆土、植栽を、製錬所は解体、選別、露天掘り跡への埋設、覆土、植栽などの環境回復措置が行われた。
2.2 濃縮
 濃縮事業は、オランダ、英国との共同会社ウレンコ社(URENCO)に、ドイツ・ウラニート社(Uranit、E.ON社、NUKEM社など出資)が参加している。グロナウ工場(Gronau、1800tSWU/年、遠心分離法)がドイツの年間需要量2200tSWUの大部分を供給する。2005年に認可が下り4500tSWUに拡張した。なお、ウレンコは2003年に組織改革を行い、濃縮ウランの生産、販売等を担当するUEC(URENCO Enrichment Company Limited)と遠心分離機の開発、製造、プラントエンジニアリング等を担当するETC(Enrichment Technology Company Limited)の二つの子会社で運営している。
2.3 転換
 ウレンコ社グロナウ工場のUF6をフランスAREVA NC社のピエールラット工場でU3O8へ転換する。2009年末までに1700トン分のUF6が処理されている。
2.4 燃料加工
 燃料の成型加工では、シーメンス(Siemens)社がカールシュタインのウラン燃料加工工場(40tHM/年)とハナウのウラン燃料加工工場(750tHM/年)を運転してきたが、1995年までに運転を停止した。また、ハナウのMOX燃料加工工場(30tHM/年)も1992年に運転を停止し、現在廃止措置が実施されている。さらに、シーメンス社は1992年運転開始予定でハナウMOX工場(120tHM/年)の建設計画を進めていたが、脱原子力政策を進めていたヘッセン州政府の認可拒否からスケジュールは大幅に遅れ、1995年に計画を断念した(10億マルク、約726億円投入し進捗率95%)。ドイツ国内ではフランスAREVA NP社傘下アドヴァンスト・ニュークリア・フューエル社(ANF:Advanced Nuclear Fuels GmbH)のリンゲン工場(650tHM/年)のみが運転している。
2.5 再処理
 ドイツも1971年から1990年にかけて、ドイツ核燃料再処理施設運転会社(DWK)がカールスルーエ(Karlsruhe)で使用済燃料再処理試験施設(WAK、35t/年)を操業した経験を持つ。1986年にはより大型のバッカースドルフ再処理工場(WAW、350t/年)が着工されたが、原子力反対運動の高まりなどから、電力業界が計画を放棄し、英仏への再処理委託に政策転換したため、1989年に建設工事は中断された。英仏との再処理契約は合計約8500tUであり、フランスUP3再処理契約の約半分、英国THORP再処理契約の約15%を占めていたが、改正原子力法の施行により、2005年7月以降は再処理禁止となり、国外への再処理委託契約の更新が不可能となった。
2.6 放射性廃棄物の管理
 2009年末時点で、ドイツの原子力発電は、設備容量2146万kW、発電電力量約1276億kWhであり、総発電電力量の約26%を占めている。原子力発電所は、12のサイトで7社の電力会社により運転されている。加圧水型原子炉(PWR)が11基、沸騰水型原子炉(BWR)が6基の合計17基が運転中であり、他に既に閉鎖されたものが18基ある。連邦放射線防護庁(BfS)の1999年の年報によると、19基の原子炉が発生する使用済燃料は年間約400〜500重金属トン(tHM)、原子力発電を継続した場合の処分量は、2080年末時点で27,000〜48,000m3と予測されていたが、2002年の改正原子力法で定められた運転期間を前提とすると処分量は24,000m3と見積もられている。ドイツでは、放射性廃棄物の区分として、発熱性放射性廃棄物と非発熱性放射性廃棄物が定義されており、使用済燃料、ガラス固化体、TRU廃棄物等の高レベル放射性廃棄物は発熱性放射性廃棄物に分類される。使用済燃料は発電所サイト内貯蔵施設(AR)で一時貯蔵され、アハウス(Ahaus)やゴアレーベン(Gorleben)集中中間貯蔵施設で長期保管された後に、英仏再処理工場から返還されたガラス固化体とともに直接処分されることになる。表2に放射性廃棄物管理施設の概要を示す。
 なお、発熱性放射性廃棄物の処分に関しては、1970年代からニーダーザクセン州のゴアレーベンの岩塩ドームにおいてサイト特性調査が行われていたが、全ての放射性廃棄物処分場を1ヶ所に統一しようとする緑の党の政策で、2000年10月以降、ゴアレーベンにおける新たな探査活動は3〜10年の間凍結されることとなった。2002年末にはサイト選定手続委員会(AkEnd)による最終報告書が公表されている。また、非発熱性原子力廃棄物処分地に関しては、2007年6月の司法庁のコンラッド訴訟を経てニーダーザクセン州コンラッドが適地として選定されている。地層処分の情報公開・透明性を確保しながら、2007年から最終処分地としての準備・建設を進め、2013年から実際に埋設を始める予定である。
 ドイツでの高レベル放射性廃棄物処分場の設置責任は連邦政府にあり、連邦環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)が管轄官庁で、連邦放射線防護庁(BfS)が実施主体、ドイツ廃棄物処分施設建設・運転会社(DBE社)が具体的作業を行う(図4参照)。なお、処分場設置の許認可官庁は州当局である。
 また、研究開発は探査活動を行うDBE社により実施されるほか、地層処分の研究は、連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)を中心に国立の3研究所(ユーリッヒ、カールスルーエ、ロッセンドルフ)、原子炉安全協会(GRS)、大学研究室等で進められている。
 安全基準に関しては、従来1983年4月に原子炉安全委員会(RSK)の勧告で内務省が制定した「鉱山における放射性廃棄物の最終処分に関する安全基準」の放射線防護令で規定された安全基準である0.3mSv/年が適用されていたが、欧州原子力共同体(EURATOM)の基本安全基準等に基づいた2001年の改定放射線防護令等を参考としてBMUを中心に改訂作業を進めている。なお、RSKは1988年に約10,000年にわたる処分場の長期安全評価の定量的な検討行う特別勧告を出している。
(前回更新:2001年2月)
<図/表>
表1 ドイツの主な核燃料サイクル施設
表1  ドイツの主な核燃料サイクル施設
表2 ドイツにおける放射性廃棄物管理施設の概要
表2  ドイツにおける放射性廃棄物管理施設の概要
図1 ドイツの核燃料サイクル施設配置図
図1  ドイツの核燃料サイクル施設配置図
図2 ドイツの核燃料サイクルの流れ
図2  ドイツの核燃料サイクルの流れ
図3 ドイツのMOX燃料利用の状況
図3  ドイツのMOX燃料利用の状況
図4 ドイツの放射性廃棄物管理機関
図4  ドイツの放射性廃棄物管理機関

<関連タイトル>
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(4)−独、スウェーデン、フィンランド編− (05-01-03-17)
ドイツハナウMOX燃料加工工場の廃止措置 (05-02-05-08)
ドイツWAK再処理施設の解体 (05-02-05-06)
ドイツの原子力発電開発 (14-05-03-03)
ドイツの原子力開発体制 (14-05-03-04)
バッカースドルフ再処理工場建設計画の放棄 (14-05-03-10)
高速増殖炉SNR-300の中止決定 (14-05-03-11)
グライフスバルト(通称ノルト)原子力発電所をめぐる動き (14-05-03-12)
ドイツの1998年総選挙後の脱原子力政策 (14-05-03-13)

<参考文献>
(1)(社)海外動力調査会(編):海外諸国の電気事業 第1編 1998年版(1998年3月)p.143-146、2008年版(2008年10月)、p.153-155
(2)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 平成8年版(1996年10月)p.299-303、原子力年鑑 2000-2001年版(2000年10月)p.341-345、原子力年鑑 1998-1999年版(1998年12月)p.388−399など
(3)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2010年版(2009年11月)、p.228-232
(4)(社)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2009年版(2009年8月)p.214-256、p.546-551
(5)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2009年2月)、p.14-15、p.99-116およびp.166-171
(6)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における放射性廃棄物関連の施設:サイトについて(ドイツ)(2009年3月)
(7)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2009年版(2009年4月)
(8)電気事業連合会:原子力2010[コンセンサス]、p.10
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