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<概要>
 旧西ドイツと旧東ドイツの統一とともに、旧東ドイツの原子力発電所に対して旧西ドイツの厳しい原子力安全基準が適用された。旧東ドイツ最大の原子力発電所であるグライフスバルト原子力発電所(KGR、4基×440MWe)とラインスベルグ原子力発電所(KKR、80MWe)は、旧西ドイツ原子炉安全協会(GRS)と旧東ドイツ原子力安全放射線防護庁(SAAS)の共同調査により安全性に多くの問題を指摘され、両発電所は1990年に運転を停止した。両発電所の解体は1995年から開始した。ドイツで発生した放射性廃棄物の最終処分場問題が未解決であるため、原子力発電所の廃止措置で発生すると予想される大量の放射性廃棄物の中間貯蔵施設が必要となった。このため、ノルト原子力発電所に近接して、放射性廃棄物と使用済燃料を貯蔵する中間貯蔵施設(ZLN)を建設し、1999年12月から使用済燃料の搬入を開始した。
<更新年月>
2001年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1. グライフスバルト(通称:ノルト)原子力発電所
1.1 運転経緯
 グライフスバルト(通称ノルト)原子力発電所(KGR)は、ベルリンの北約180kmに位置しており、旧ソ連の第1世代炉 VVER-440/V230が4基、同改良型炉のVVER−440/V213が2基で、旧東ドイツ最大の原子力発電所であった。1989年現在、1〜4号炉はすでに完成し、5号炉は試運転中、6〜8号炉は建設中であった。しかし、ノルト原子力発電所は、東西ドイツの統一後に、安全性について多くの問題点を指摘されて1990年に閉鎖され、6〜8号機の建設も中止した。旧東ドイツの原子炉VVER−440(旧ソ連製)の主要コンポーネント配置図を 図1 に示した。
 ノルト原子力発電所は、ソ連・東欧諸国と同様に同発電所から南南西約18kmにあるグライフスバルト市の工場および住宅に高温水を供給(熱供給)するため、1号炉から熱供給をしていた。
1.2 ケーブル火災事故
 ノルト原子力発電所1号炉(VVER-440/V230)は、1975年12月にケーブル火災事故を起こした。この火災事故は、作業研修中に炉内の計装系で電気ショートを起こしたことが発端となり、電気ショートを防ぐ安全装置の電子部品が欠陥によって作動せず、原子炉の電気系統の大半に高圧電流(6,000ボルト)が流れてケーブルが焼損し、火災がタービン建屋に拡大した。
 事故発生後、原子炉は緊急停止したが、停電により給水ポンプが使用不能となったため、蒸気発生器のなかの残留水による自然対流によって炉を冷却する事態となった。しかし、数時間で特設ケーブルの工事が完了してポンプを稼動し、大事故には至らなかった。
 この事故で放射能の放出はなかったが、ケーブル交換など復旧作業のために原子炉は4カ月間停止した。
1.3 ソ連製原子炉の安全性問題
 1989年11月のベルリンの壁崩壊を発端として、1990年10月に西ドイツ(ドイツ連邦共和国)が東ドイツを編入する形で東西ドイツの統一が実現した。その後、ソ連製原子炉の安全性について疑問の声が上がり、「ノルト原子力発電所では1〜4号炉の安全性に問題がある」と住民からの停止要求が高まっていた。1990年2月に西独GRS・東独SAASの合同委員会が調査を行い、中間報告書を提出した。その報告書は、西側の原子炉と比較した場合の同炉の問題点を次のように指摘した。
(1)圧力容器が小型のため、高速中性子による材料の脆化が速い(約10数年で脆化が現れる)。これに対処するため圧力容器の焼きなまし技術によって寿命の延長を図っている。
(2)安全システムの独立性が十分でなく、かつ個々の安全システムの能力が不足している。
(3)安全系と運転系とが交錯している部分が多い。
(4)リダンダンシイシステム(多重安全システム)が独立しておらず、バックアップ系に問題がある。
(5)西側の軽水炉のような非常用炉心冷却系(ECCS:Emergency Core Cooling System)がなく、大口径の破断に対処できない。
(6)原子炉全体を完全に覆うような格納容器がない。
 この報告後、2号炉は燃料交換のために停止、3号炉は圧力容器の中性子脆化のために停止した。4号炉は、1990年6月に安全委員会の指示によって運転を停止した。
 さらに、1990年7月1日、両ドイツの政治的統合を控えて旧東ドイツは、旧西ドイツの「原子力法」と「放射線防護基準」を適用した。それとともに、環境保全・浄化を目的とした「環境保護政策法」も適用した。これにより、旧西ドイツ基準では不合格となるソ連型VVERをめぐって旧東ドイツの原子力界はその対策を進めなくてはならなくなった。
1.4 原子力発電所の停止
 東ドイツのシュタインベルク環境・エネルギー大臣は、1990年6月、旧西ドイツ原子炉安全協会(GRS)と旧東ドイツ原子力安全放射線防護庁(SAAS)が共同でまとめた同発電所の安全調査報告に従って、ノルト原子力発電所の停止を命令した。同発電所では、すでに1号炉を除いて停止中であったが、地域暖房用に使われている1号炉もそれに代わる石油ボイラ完成後の1990年12月に停止した。
2. ノルト中間貯蔵施設
2.1 ノルト中間貯蔵施設が建設された経緯
 政治体制の変化という特殊事情の下で、予想されていなかった原子炉の廃止措置が決定された。廃止措置に向けた最初の作業は、原子炉の運転により発生した使用済燃料と放射性廃棄物の除去に焦点が当てられた。この廃止措置を任されたノルト・エネルギー社(EWN)は、廃止措置の技術コンセプトと従業員の雇用計画を作成した。また、廃止措置に必要な資金調達は連邦政府により保証された。
 旧東ドイツで安全性が問題となった原子炉は、ノルト原子力発電所のVVER-440型炉およびグライフスバルト原子力発電所のVVER-230型炉である。これら原子炉の廃止措置の第1次許可は1995年に発給され、それ以降、解体作業が続けられている。なお、ノルト原子力発電所とラインスベルグ原子力発電所は、東西ドイツが統一される1990年まで旧東ドイツの電力需要の11%を供給していた。
 EWNは、KGRとKKRの廃止措置に伴って発生する大量の放射性廃棄物と使用済燃料を集中的に管理できる中間貯蔵施設として、ノルト原子力発電所に近接したノルト中間貯蔵施設(ZLN)を建設した。この施設は、湿式使用済燃料中間貯蔵施設(ZAB)および放射性廃棄物を処理・貯蔵するために増築した建屋などで構成している。
2.2 原子炉廃止措置における中間貯蔵施設の役割
 KGRとKKRが施設の廃止および施設部分の解体許可を受けたのは、KKRが1995年4月、KGRが1995年6月であった。これら両発電所は、1995年10月以降解体作業が進められている。KGRとKKRの廃止措置で、10万トン以上の汚染あるいは放射化された解体廃棄物および処分の必要な相当数の燃料集合体(5,000体以上)が発生することが解っていた。また、ドイツの最終処分場問題が未解決であるため、原子力発電所の廃止措置で大型の中間貯蔵施設が必要なことも明らかになっていた。こうしたことから、KGR(ノルト原子力発電所)の北側に近接して放射性廃棄物と使用済燃料を貯蔵するための中間貯蔵施設と処理施設、すなわちノルト中間貯蔵施設(ZLN)が建設された。
 ZLNは、処理施設、一時貯蔵施設および中間貯蔵施設としての機能を持っている。また、ドイツにおける最終処分の方法が明確になるまで、ZLNは中間貯蔵施設として、カストール式乾式貯蔵キャスクを使用した使用済燃料の貯蔵および処理を必要としない放射性廃棄物を貯蔵する予定である。
 大型の一次系機器は、経済性を考慮しながら迅速に解体した後、ZLNの一次貯蔵施設に搬入される。その後、必要に応じて放射能を減衰させた後、貯蔵するために切断、梱包される。この方法は、放射化された原子炉圧力容器やその内部機器にも適用される。ZLNは、処理施設として核燃料を除くあらゆるタイプの放射性廃棄物を処理するように設計されている。ZLNには、1999年12月に最初の使用済燃料が搬入されている。
2.3 ノルト中間貯蔵施設(ZLN)の概要
 ZLNは、ノルト原子力発電所(KGR)の北東に位置しており、貯蔵建屋、管理建屋、保守業務建屋、アクセス道路、防護フェンス、地表水貯留および放出池、排水溝、駐車場で構成している。 図2 にノルト中間貯蔵施設(ZLN)の概観を示した。 図3 にノルト中間貯蔵施設の建屋内部の写真を示した。

 VVERの本来の意味は以下の通りである(Nucl.Europe Worldscan,11-12,8(1997)および5-6,10(1997))。
 VODO-VODYANOI ENERGETICHESKY REAKTOR(VVER)、英訳するとWATER-WATER POWER REACTOR(WWER)、水(冷却)−水(減速)型原子炉。
<図/表>
図1 旧東ドイツの原子炉VVER-440(旧ソ連製)の主要コンポーネント配置図
図1  旧東ドイツの原子炉VVER-440(旧ソ連製)の主要コンポーネント配置図
図2 ノルト中間貯蔵施設(ZLN)の概略図
図2  ノルト中間貯蔵施設(ZLN)の概略図
図3 ノルト中間貯蔵施設(ZLN)の建家内部
図3  ノルト中間貯蔵施設(ZLN)の建家内部

<関連タイトル>
旧西独の原子力発電の現状および統一ドイツの原子力政策 (14-05-03-01)
ドイツの核燃料サイクル (14-05-03-06)

<参考文献>
(1) 藤井晴雄:詳細原子力プラントデータブック、日本原子力情報センター、(1994年)p.376、383、757
(2) 日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向 2000年次報告、(2001年6月)p.106-106
(3) Nuclear Engineering International、2001 World Nuclear Industry Handbook、p.154,155
(4) アイ・イー・エー・ジャパン:欧州原子力情報サービス、No.209(2000年8月号)、(株)アイ・イー・エー・ジャパン p.28
(5) 原子力工業 第36巻(第12号)、日刊工業新聞社(1990)
(6) 下川純一:(旧)東独の原子炉と安全性、日本原子力産業会議
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