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<概要>
 イギリスは国産技術により、1950〜60年代にマグノックス炉(黒鉛ガス冷却炉、GCR)、1960〜70年代にAGR(改良型ガス冷却炉)、1970年代終りには軽水炉開発を行い、また再処理など原子燃料サイクル施設の開発を行った。これらの施設は、英国原子力公社(UKAEA)が研究開発を進め、多くの原子炉メーカーにより建設が行われてきた。1989年の電力法施行により、国営企業の民営化及び電力市場に競争原理が導入されると、建設コストの高い原子力発電所は敬遠され、1995年9月に営業運転を開始したイギリス初のPWRサイズウェルB発電所を最後におよそ20年間、新規原子力発電所の建設はない。
 この間、イギリスの原子力部門では民営化が進み、ブリティッシュ・エナジー(BE)社やマグノックス・エレクトリック(ME)社が新設され、経済性の低いマグノックス炉は英国核燃料公社(BNFL)へ移管されて閉鎖計画が進んだ。BNFLは廃炉費用等で債務額が膨れ上がり、それを軽減するため、2005年4月、「原子力廃止措置機関」(NDA)が創設された。
 また、イギリスの電気事業は、市場競争の進展と共に海外資本を導入し、イギリス企業の合併や買収も盛んに行われた。現在ではRWE系(ドイツ)、E.ON系(ドイツ)、EDF系(フランス)、SSE系(英国)、イベルドローラ系(スペイン)及び旧国有ガス事業者(ブリティッシュ・ガス社)の6大グループに集約されている。
<更新年月>
2014年02月   

<本文>
1.はじめに
 イギリスは、1956年、西カンブリア州セラフィールドにおいて、世界最初の商業用原子炉であるコールダーホール1号炉(出力6万kWe)の営業運転を開始した。もともとプルトニウム生産用に作られたこの原子炉は−天然ウラン/黒鉛減速/炭酸ガス冷却方式−のマグノックス炉(GCR)で、1960年代にかけて26基が建設された。1970年〜1980年代には低濃縮ウランを使う改良型ガス炉(AGR)が14基建設された。これらは全て国産技術で、英国原子力公社(UKAEA)などいくつかの国内企業により開発製造されたが、1973年以降、原子力産業の一本化政策で統合されたナショナル・ニュークリア・コーポレーション(NNC)社によって設計・建設されている。
 1980年代になると、原子炉タイプの方向転換によってPWR 4基の建設が計画されたが、実際に建設されたのはサイズウェルB発電所1基(1995年9月営業運転開始)のみである。このイギリス初のPWRはそれまでと異なり、所有者であるニュークリア・エレクトリック(NE)社が建設主体となって、一次系統を米国のウェスチングハウス(WH)、原子炉容器をフランスのフラマトム、安全注入ポンプやパイプの設計・供給をバブコック・パワー、PED、アイトンによるジョイントベンチャー企業など複数のベンダーへ直接発注した。NNC社はNE社のプロジェクトチームに技術者を派遣し、設計評価等の技術サービスを行った。
 1989年7月、電気事業の民営化法案が議会を通過すると、原子力発電所も民営化の具体的検討が行われた。ただし、GCRについては廃炉作業(設計寿命40年)が近いため、民営化の対象からはずされ、また、AGR及びPWRについても他の電源に比べてコスト高(石炭火力の3倍)であることから、何らかの助成措置なしには競争力を保てないと判断された。このため、サイズウェルB発電所を最後におよそ20年間、イギリスでは原子力発電所の新規建設を行っていない。表1にイギリスのエネルギー関連年表を示す。
2.イギリスにおける電気事業の変遷
 イギリスでは1957年の電気法制定以来、電気事業は独占的に発電・送電を担う国営の中央電力発電局(CEGB:Central Electricity Generating Board、中央電力公社)と、地域ごとに分けられた12の配電局によって運営されてきた。しかし、発電設備の過剰投資や割高な国内炭の使用等から経営効率は低く、問題視されていた。1987年にサッチャー政権が成立すると、経済の活性化を目指し、国営企業の民営化が図られた(図1参照)。
 1989年、電力法の施行を受けて1990年に電気事業が分割・民営化され、イングランド・ウェールズでは、発電局(CEGB)の発電部門が2つの発電会社(パワージェン、ナショナル・パワー)と1つの原子力発電会社(ニュークリア・エレクトリック(NE))に分割された。また、送電部門はナショナル・グリッド1社に、12の配電局はそのまま12の地域配電会社にそれぞれ分割され、発電分野に強制プール制(発電されたすべての電力を強制的に電力プールと呼ばれる卸電力市場に集め、それを各企業の小売部門が購入し、それぞれ需要家に配電する方式を言う。)による競争原理が導入された。しかし、強制プール制下では市場取引が活発化せず、2002年に相対契約を基本とする新電力取引制度(NETA:New Electricity Trading Arrangements)へ移行、2005年には卸電力取引制度(BETTA:British Electricity Trading Arrangements)へと変遷した。
 BETTAに関連して2013年12月にエネルギー法改正があり、開発コストが高い再生可能エネルギー等の低炭素電源開発支援を考慮した電力市場改革(EMR:Electricity Market Reform)が進んでいる。
 また、市場競争の進展と共に海外資本も導入され、イギリス企業の合併や買収も盛んに行われるようになった。パワージェンはドイツのE.ONの傘下となり、E.ON UKと社名を変更した。ナショナル・パワーは国内部門のイノジー(Innogy)と国際部門のインターナショナル・パワー(International Power)に分かれ、イノジーもドイツのRWE傘下に入り、NPOWERに社名を変更した。また、スコティッシュ・パワーはスペインのイベルドローラに、さらに、原子力発電会社NE社が民営化されたブリティッシュ・エナジー(BE)はフランスEDFに買収された。現在では(1)RWE系(ドイツ)、(2)E.ON系(ドイツ)、(3)EDF系(フランス)、(4)SSE系(英国)及び(5)イベルドローラ系(スペイン)の5大グループに集約されている。これに電力市場でシェアを伸ばしている旧国有ガス事業者(ブリティッシュ・ガス社)が加わり、英国の電力市場(小売)は、これら6大グループが95%のシェアを占めている。なお、12の配電会社(小売事業)も、これらエネルギー会社の傘下に入った。
 送電設備は、イングランド・ウェールズにおいてはガス導管網会社と合併したナショナル・グリッドの送電会社(NGET)が、スコットランドにおいてはスコティッシュ・パワーの送電会社(SPT)とスコティッシュ・サザン・エナジーの送電会社(SHET)が所有している。これら3社の送電系統の運用は、NGET社の系統運用部門が「単一系統運用者」(SO)として実施している。
3.イギリスにおける原子力産業の変遷
 1990年の電気事業の分割・民営化により、CEGBが所有していた全原子力設備はニュークリア・エレクトリック(NE)社に引継がれ、南スコットランド電力局(SSEB、旧電気局)が所有していた原子力発電所は新設のスコティッシュ・ニュークリア(SNL)社に移管された。この他、1971年に原子力発電公社(UKAEA)の核燃料部門から分割独立した英国原子燃料公社(BNFL)が8基のGCRを所有していた。
 1995年には、NE、SNL両社の民営化を柱とした原子力政策白書が策定され、1996年に両社を子会社とする持株会社、ブリティッシュ・エナジー(BE)社が設立された。ただし、NE社が所有していた12基のGCRについては、国営会社として新設されたマグノックス・エレクトリック(ME)社に移管された。政府はこれを機に、原子力発電所の新規建設計画に関与せず、民間会社の判断に委ねることとなる。BE社は設立と同時に、ヒンクレーポイントCとサイズウェルCの両建設計画を経済的な理由で撤回した。1999年1月には、合理化の一環として子会社のNE、SNL両社をそれぞれブリティッシュ・エナジー・ジェネレーション社とブリティッシュ・エナジー・ジェネレーション・UK社とに改組し、原子力発電所の運転専門会社とした。なお、GCRを持つME社は1998年1月、BNFLに吸収合併された。
 一方、BNFLは世界の原子力産業再編の動きに呼応し、1999年3月には米モリソン・クヌーセン社とともに米ウェスチングハウスの原子力部門を、2000年5月にはABB社の原子力部門を買収し、ウラン濃縮施設、燃料加工、発電、再処理、エンジニアリング、輸送、廃棄物管理、除染デコミッショニングなどの部門を擁する世界最大の総合原子力企業となった(図2参照)。しかし、イギリス国内の全GCRを掌握したBNFLの将来の廃炉費用等を考慮した“債務額”は16億ポンド(96/97年度)から101億ポンド(97/98年度)に膨れ上がった。政府はBNFLの経営改善策として、2005年4月に「原子力廃止措置機関(NDA:Nuclear Decommissioning Authority)」を設立し、BNFLの資産・債務・資金全てと、UKAEAの研究開発施設、ドーンレイ、ウィンズケール、ハウェル、ウィンフリス等をNDAに移管した(図3参照)。BNFLは原子力施設を運転・管理するだけの国有企業に変更され、事業再編と売却を重ね、2009年5月にグループ会社全ての売却・整理を完了した。なお、再処理とMOX施設が立地するセラフィールドサイトの運転・管理に関しては、米国URS社、英国AMEC社、仏アレバ社のコンソーシアムを親会社とするセラフィールド社に移管した。
4.新規原子力発電所建設への政策転換と原子力産業の動向
 イギリスは2003年のエネルギー白書で、2050年までに地球温暖化ガスの排出量を、1990年レベルの60%まで低減するためのエネルギー政策として、エネルギー効率の改善と再生可能エネルギーの開発促進を挙げていたが、北海油田の枯渇から、将来化石燃料の多くを輸入に頼ることが想定され、低炭素経済の創造とエネルギーの安定供給を目指すようになった。また、化石燃料の高騰から原子力発電の経済性が好転し、原子力発電所の新規建設が検討されるようになった。2008年1月に発表された原子力白書では、新規原子力発電所の建設が国のエネルギー戦略の一つとされた。また、発電所建設促進のために、新たな許認可システムが構築され、原子炉の安全審査と立地場所の安全・環境・地域社会への影響など総合的な評価を並行して実施することになった。原子炉については型式承認方式が取り入れられ、加圧水型原子炉EPRとAP1000がHSE(Health and Safety Executive)と環境庁(EA: Environmental Agency)の審査対象となった。
 立地事前調査では、2025年までに建設可能な場所として、2010年10月に既存原子炉に隣接する8か所(ブラッドウェル(Bradwell)、ハートルプール(Hartlepool)、ヘイシャム(Heysham)、ヒンクリー・ポイント(Hinkley Point)、オールドベリー(Oldbury)、サイズウェル(Sizewell)、セラフィールド(Sellafield)及びウィルファ(Wylfa))が選定された(図4参照)。新規原子力発電所建設計画の促進のため、電力市場改革(EMR:Electricity Market Reform)が2011年7月に公表され、2014年から低炭素発電への固定価格買取制度(FiT:Feed-in Tariff)が導入される見通しである。
 原子力発電所の新規建設の動きのなか、(1)フランス系のEDFエナジー、(2)ドイツ系のホライズン(Horizon、ドイツのE.on社とRWE社のジョイントベンチャー企業)及び(3)フランスGDF・スエズとスペイン・イベルドローラのニュージェネレーション(NuGen)の3グループが5サイト・1600万kWの新規原子力発電所の建設を計画した。
 EDFエナジーのプロジェクトは、2012年12月にヒンクリー・ポイントでサイトライセンスを取得、2013年3月のEPR型式認可の発給を受け、2013年12月にエネルギー・気候変動省(DECC)から建設認可を取得した。EDFエナジーは、ヒンクリー・ポイントとサイズウェルに、EPRを2基ずつ建設することとしている。なお、バブコック&ウィルコック(Babcock & Wilcox)社はイギリス原子力発電所のほとんど全ての蒸気系統を担当してきたが、2006年に韓国の斗山重工業(Doosan)に買収され、Doosan Babcockとなった。Doosan BabcockはEPRの経験を持つ仏Endel社とコンソーシアムを作り、EDFエナジーのヒンクリー・ポイント建設に参加している。
 ホライズンはウィルファとオールドベリーでプロジェクトを進めているが、2012年に日立GEが企業を買収、2016年末まで改良型沸騰水型原子炉(ABWR)の包括的設計審査(GDA)を進めている。
 ニュージェネレーションはセラフィールドでAP1000を3基建設する予定である。2014年1月、東芝はスペイン・イベルドローラの株式50%とGDF・スエズの株式10%、合わせて60%を取得した。
 図5にイギリスの原子力産業構成図を示す。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
表1 イギリスのエネルギー関連年表
表1  イギリスのエネルギー関連年表
図1 イギリスの原子力発電事業者の変遷
図1  イギリスの原子力発電事業者の変遷
図2 世界の原子力産業界の再編
図2  世界の原子力産業界の再編
図3 英国原子力廃止措置機関(NDA)サイトの配置図
図3  英国原子力廃止措置機関(NDA)サイトの配置図
図4 英国における新規原子力発電所建設候補地
図4  英国における新規原子力発電所建設候補地
図5 イギリスの原子力産業構成図
図5  イギリスの原子力産業構成図

<関連タイトル>
改良型ガス冷却炉(AGR) (02-01-01-07)
英国WAGRの解体 (05-02-03-10)
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
英国の電気事業の民営化と原子力発電の非民営化問題 (14-05-01-08)
原子力関係公企業の民営化と再編 (14-05-01-11)

<参考文献>
(1)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向2013年次報告(2013年5月)
(2)日本原子力産業協会:原子力年鑑2014年版、(2013年10月)、イギリス
(3)日刊工業出版プロダクション:原子力eye 2000、vol.46、No.7
(4)資源エネルギー庁:世界における原子力発電の位置づけ、2013年8月、
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kaigi/dai3/siryou1.pdf
(5)(社)海外電力調査会:各国の電気事業(英国)、2014年1月、

(6)UK Nuclear Industry Association:英国の原子力産業の動向、2013年3月、

(7)UK Nuclear Industry Association:SC@nuclear Industry Map、2014年1月、
http://www.nuclearsupplychain.com/new-industry-map?view=industrymap
(8)原子力廃止措置機関(NDA):NDA Business Plan 2010-2013(ISBN 978-1-905985-16-6)
(9)英国放送協会(BBC):Go-ahead for 10 nuclear stations(2009年11月9日)、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8349715.stm
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