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WAGR(Windscale Advanced Gas-Cooled Reactor)は、英国原子力公社(
UKAEA)のウィンズケール原子力研究所が所有する、グロス出力36MWeの改良ガス冷却(AGR型)原型炉で、1962年から1981年まで運転された。この運転でAGR型原子炉の商業化の使命を達成した。その後、WAGRデコミッショニング・プロジェクトは、将来の商業用発電炉の廃止措置に備え、解体技術の開発と経験の蓄積を目的として、
EUの
EC委員会から解体実地試験施設に指定され、解体技術開発を含め解体撤去が進められている。
WAGRの解体計画は、1979年から1980年にかけて、そのフィジビリティスタディ(実行可能性の研究)とコストスタディ(経費評価の研究)が行われ、1981年にUKAEAの管理委員会によりステージ3(IAEA定義:解体撤去)までの
デコミッショニングが承認された。解体作業等は、1983年に開始し、1998年までに終了する予定であったが、予算不足、技術開発の遅れ、中レベル
放射性廃棄物の処分場が確保できないなどの理由から大幅に遅れた。その後、計画が変更され、2011年までに炉心部、原子炉圧力容器等の解体が終了した。これまでのWAGR解体の主な経過を
表1に示す。
WAGRの解体は、燃料の搬出から始められ、制御棒等の処置、燃料交換装置の解体撤去等の順で進められた。タ−ビンホ−ルの解体は非放射性であるため、従来の解体工法により約9ヶ月かけて行われ、1984年12月に終了した。初期段階で用いられた解体適用技術を
表2に示す。
(1)
熱交換器の撤去
4基の熱交換器SG(190トン/基)は、
燃料破損による
核分裂生成物によりかなり汚染しているため、まず
除染を行い、その後、原子炉格納容器の屋根部分に穴をあけ、大型クレーンを用いて一括撤去し(
図1参照)、1995年10月にドリッグ処分場に埋設した。
(2)炉心部の解体搬出ルート及び保管建屋
WAGRの解体作業時の格納容器断面、炉心部等の解体物搬出ルート及び廃棄物保管建屋を
図2に示す。遠隔解体装置で解体された廃棄物は、遠隔操作で新設の廃棄物処理建家に搬送し、遮へい容器に収納されて廃棄物保管建屋内に保管される。この保管建屋は、原子炉格納容器に接続して新設された。また、2基の熱交換器のあったその下部スペースは、解体廃棄物の搬送ルート及び搬送装置の保守、点検室として利用されている。
(3)炉心部等の遠隔解体装置による解体方法
炉心部等の構造概念図を
図3に示す。炉内構造物(約280トンのグラファイトを含む)、原子炉圧力容器(直径6.5m、高さ13m、厚さ44mmから111mm)などは放射化し、放射能レベルが比較的高い。このため遠隔解体装置を開発し、原子炉圧力容器の上部に設置した(
図4参照)。装置は、回転式床遮蔽、マスト、マニピュレータ、3トンホイスト、視覚操作システム等で構成されている。また、新たに開発されたマスト型遠隔装置は、プラットフォームがありマニピュレータを取付けることができる。この装置とループチューブ吊り上げ装置による撤去の様子を
図5に示す。マニピュレータは、腕の最大到達長さ約2m、6自由関節を持ち、容量は油圧式で120kgまで操作できるように改良されている(
図6参照)。その先端には、ガス切断トーチ等を取り付けて解体にも用いられており、解体対象物によっては
表3に示す切断冶具類が使われる。
(4)放射能
インベントリ、廃棄物量等
WAGRの停止12年後の放射能インベントリは、テラ・
ベクレル(TBq)と評価されている。各材料の放射能の占める割合は、ステンレススチ−ルが最も多く、次に軟鋼、グラファイト及びコンクリ−トの順になっている。
解体廃棄物の発生量は、計画段階での評価によると全体で約16,000トンであり、放射性廃棄物が約2,700トン、非放射性廃棄物が約13,300トンと推定されている。放射性廃棄物は
低レベル廃棄物と中レベル廃棄物に分けられ、重量はそれぞれ1,100トン及び1,600トンである。低レベル廃棄物は、ドリッグ処分場に送られ、埋設される。しかし、WAGRの炉心部にあるグラファイト・ブロック等は、中レベル放射性廃棄物に相当し、イギリスには、この廃棄物を処分することができる処分場の建設計画が進展していないため、処分場が確保されるまで少なくとも2020年まではサイト内に保管貯蔵する計画である。
WAGRの中レベル放射性廃棄物(ILW)は、廃棄物処理建家でコンクリート製(約2.4m×2.2m×2.2m高さ)のほぼ立方体のボックス型遮へい容器(
図7参照)に遠隔操作で収納した後、セメントを充填、
固化し、保管される。このボックス型遮へい容器は、設計寿命50年以上、列車で運べること及び取り扱い上から50トン以下に設計されている。ILWの廃棄体の保管庫への収納作業の様子を
図8に、廃棄体の保管状況を
図9に示す。1999年から2011年までの12年間で発生した廃棄物量は、炉内のグラファイト、熱遮蔽板、原子炉圧力容器等で約460m
3である。廃棄体にした総量は、約2,500m
3である。その内訳は、廃棄体にしてILW110体、低レベル廃棄物(LLW)75体及びISOコンテナ(LLW)20体である。
なお、タービン建家などの非放射性部分は、解体物をスクラップとして売却されている。
(5)今後の計画
2011年以降の計画は、明確でない。
生体遮へいの解体撤去を、次の工事として実施するか、放射能の減衰を待って、後で実施するかどうか不明である。生体遮へい及び原子炉格納容器は、約30年間安全貯蔵し、2040年頃完全解体される見込みである。
WAGR廃止措置予算は、1997年報告によると£80億であったが、これまでの総デコミコストは、2013年情報によると約£110億である。
(前回更新:2004年12月)
<図/表>
<関連タイトル>
ロボットによる遠隔解体技術 (05-02-02-03)
英国における原子力発電所廃止措置計画 (05-02-03-05)
イタリア・ガリリアーノ発電所の廃止措置 (05-02-03-12)
<参考文献>
(1)石川広範、ウインズケール改良型ガス冷却炉(WAGR)の解体、デコミッショニング技報 第12号(7/1995),p.32-41
(2)Windscale : core decommissioning goes active,Nucl. Eng. Inter. Feb. 2000,p.14-17
(3)F.Bazerque & J.Halladay,Dismantling the Windscale Advaced Gas Cooled Reactor Pressure Vessel and Insulation-Design and Development,WM’99 Conf.(1999).
(4)Windscale : getting down to the core,Nucl. Eng. Inter. Nov. 1997,p.26-27
(5)Proceedings of the UKAEA/JAERI Decommissioning Workshop. Windscale,12-16 May 1987
(6)OECD/NEA協力協定に基ずき入手した資料
(7)Windscale-core decommissioning goes active,Nucl. Eng. Inter. Feb. 2000,p.14-17
(8)G J Walters, Windscale advanced gas-cooled reactor decommissioning-hot gas manifold dismantling strategy and tooling, C596/015/2001, ImechE 2001
(9)Core of the campaign,Nucl. Eng. Inter. Dec. 2002,p.34-35
(10)宮坂靖彦、英国の放射性廃棄物管理政策の動向と低・中レベル廃棄物処分の概況、デコミッショニング技報 第28号(10/2003),p.10-22
(11)Terry Benest , Taking up arms for decommissioning, Nuclear Engineering International、13 july 2004、
http://www.neimagazine.com/features/featuretaking-up-arms-for-decommissioning/
(12)Chris Halliwell , The Windscale Advanced Gas Cooled Reactor (WAGR) Decommissioning Project , A Close Out Report for WAGR Decommissioning Campaigns 1 to 10 - 12474 , WM2012 (2012)