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<概要>
 1990年4月にイギリスの電気事業は分割・民営化した。当初の計画では、原子力発電所も民間企業が運営することになっていた。しかし、原子力発電のコスト高が問題となり、民間企業にはリスクが大きすぎることなどから、原子力発電の運営は、政府所有の電力会社が行うことになった。イギリスの原子力発電のコストが高くなってしまったのは、政府が経済性を無視した原子力開発政策を進めてきたためである。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
[イギリス電気事業の民営化]
 1990年4月、イギリス電気事業は民間企業としてスタートした。サッチャー保守党政権は民営化政策の一環として、もっとも大規模かつ困難とされていた電気事業の民営化に着手、1988年12月に民営化法案を議会に提出し、翌年7月には議会を通過した。イギリスにおける電気事業民営化の体制を 図1 に示す。
 同法案によると、中央電力庁(CEGB)は2つの発電会社(CEGBの全原子力発電所を含む発電施設の約70%を所有するナショナル・パワー社と残りの約30%を所有するパワー・ジェネレーション社)と一つの送電会社(ナショナル・グリッド社)に分割民営化されることになる。したがって、運転中及び建設中・計画中の原子力発電所を運営するのは、ナショナル・パワー社ということになっていた。
 またスコットランドでは、発電配電を一貫運営する南スコットランド電気局(SSEB)と北スコットランド水力電気局(NSHEB)が、ほぼそのまま民営化される。しかし、SSEBが所有・運転していた原子力発電所の運営は、国有原子力発電会社(スコティッシュ・ニュークリア社)にまかされることになった。

[原子力発電の民営化の断念]
 しかし、民営化の具体的な作業を進めるうちに、これまで国営のために見過ごされていた、原子力発電所の割高なコストが問題となってきた。株主となる投資家にとっては、原子力発電が採算に合うかどうかが一番の関心事である。ナショナル・パワー社の負うコストのリスクは大きく、民間企業として新たに発足する同社への投資意欲を低下させることが懸念された。
 電気事業民営化法案の成立直前、当時のパーキンソン・エネルギー相は、古いマグノックス炉(GCR)を民営化後も政府の管理化におくことにすると発表した。これは、寿命を迎えるマグノックス炉の廃止措置等の費用が当初の予想よりも大幅に増大するので、民営化後の電気事業の負担を避けるためと説明された。また、同炉の運転期間の大半はCEGB時代に属しているので、その廃止にかかる費用は公的機関が支払うべきであるとの理由付けもされた。
 ところが、民営化されることになる改良型ガス炉(AGR)および加圧水型炉PWR)についても、コストが化石燃料よりも割高であることがわかり、投資家とナショナル・パワー社は原子力に対するさまざまなリスクに対して政府に保証を求めた。しかし、政府としては民営の事業に対して、保護・保証を行うことは好ましくないと判断し、最終的には全原子力の民営化を断念した。そのかわりに、新たに政府所有のニュークリア・エレクトリック社を設立し、原子力の運営をしていくことに決定した。

[イギリスにおける原子力発電の経済性]
 イギリスでは燃料の多様化を進めるために非化石燃料による発電が義務付けられている。その中心となるのが、原子力発電であるが、割高な発電コストを補うために原子力税が適用されている。
 原子力発電を民営化から外した理由は原子力の経済性の問題である。そのことについて政府声明は「イギリスの原子力発電が化石燃料よりも割高である」との認識を示しているが、具体的な数値にはふれていない。
 オブザーバー紙やファイナンシャル・タイムズ紙等の報道から、原子力発電のコスト高の事例として、マグノックス炉およびAAGR全部の廃止措置費用が1988年の30億ポンドから1989年には150億ポンドに上昇したこと、民営化後のAGRの発電コストは1kWh当たり9ペンス、PWRは8〜10ペンスであり、ともに石炭火力の3ペンスの約3倍であることなどがあげられる。また、ナショナル・パワー社のジョージPWRプロジェクト本部長は、サイズウェルB(PWR)原子力発電所の資本費が10%増大して19億ポンドになる、と具体的な金額を発表している。

[イギリスの原子力発電が割高である理由]
 イギリスの場合、国産の技術であるAGRを選択し、それが高価につくことが明らかになってからもAGRに固執し、不必要に開発費を注ぎ込んだ。このことが原子力発電のコストが高くなった理由である。しかも、そのAGRの運転実績が芳しくないことがさらにコストを高めている。 表1 に、イギリスの炉型別原子力発電設備の一覧を示す。
 ファイナンシャル・タイムズ紙は、イギリスでの原子力発電コストが高いからといって「原子力発電が本来非経済的なものであることを意味しない」として、フランス、旧西ドイツ、日本などでは原子力発電が経済的に競争力があり技術的にもすぐれていたものであると紹介している。

[今後の原子力開発]
 イギリスは、建設中のサイズウェルB原子力発電所に続くPWR発電所の建設計画は事実上凍結している。しかし、政府は1994年5月に原子力政策の見直し(原子力レビュー)に着手することを表明し、原子力発電を経済的観点から検討していくこととしている。現在凍結されている新規プラントの着工はこの見直しいかんによる。
<図/表>
表1 イギリスの炉型別原子力発電設備
表1  イギリスの炉型別原子力発電設備
図1 イギリスの電気事業体制
図1  イギリスの電気事業体制

<関連タイトル>
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
イギリスの核燃料サイクル (14-05-01-05)
原子力関係公企業の民営化と再編 (14-05-01-11)

<参考文献>
(1) 原子力資料 NO.228 1990.1 原子力産業会議
(2) 「海外主要国の原子力開発に関する情報分析」成果報告書 1990.3
(3) 日本原子力産業会議「原子力年鑑 1994年版」1994年11月
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