<本文>
イギリスでは19基、1096.2万kW(ネット出力)の原子力発電所が稼働中であり、その内訳はマグノックス炉(GCR)が4基141.1万kW、改造型
ガス冷却炉(AGR)が14基836.3万kW、米ウェスチングハウス社製のPWRが1基118.8万kWである。2011年1月現在、建設中の原子炉はないが、政府の原子力政策推進を受けて、British EnergyやEDF Energyにより4基668万kW(EPRまたは
AP1000)の建設計画が進んでいる。一方、経済性から閉鎖したマグノックス炉20基(現在運転中の4基を含む)及び高速炉等を対象に廃止措置計画も進んでいる。
イギリスの原子燃料サイクル事業は、国の機関である原子力公社(UKAEA)が原子力研究開発を、核燃料公社(BNFL)が商業ベースでの活動を担ってきた。BNFLは順調な運営で民営化構想も提示されたが、1999年のMOX燃料検査データ偽造問題、2005年セラフィールドTHORP再処理工場の放射性溶液漏えい事故、政府の原子力老朽化施設の廃止方針を受けて、2005年に原子力廃止措置機関(NDA:Nuclear Decommissioning Authority)が創設され、UKAEA及びBNFLの資産は全て移管された。BNFLはNDAから委託業務を行う国営企業となり、事業の再編後、資産の売却が順次実施され、2009年5月にBNFLグループ会社の売却・整理が完了している。なお、BNFLの資産売却は、再処理、廃止措置、
除染などの事業を行うBNG(British Nuclear Group)社及びその傘下の企業にも及ぶが、セラフィールド(Sellafield)のMOX燃料成型加工工場、及び再処理工場は、米(URS)英(AMEC)仏(AREVA)合弁のセラフィールド社が引続き運転を実施している。
図1にNDAサイトの配置図を、
表1に現在のNDAサイト管理会社を示す。
1.
ウラン資源探鉱・採掘
英国を中心とする多国籍民間企業であるリオ・ティント(Rio Tinto)と中央電力庁(CEGB)の下部組織である英国民生ウラン調達機構(BCUPO)が探鉱開発活動を行っていたが、CEGBの
解体と部分的民営化に伴い、BCUPOの海外子会社はNuclear Electric(NE)及びScottish Nuclear(SN)に移管された。NE社とSN社は1996年に統合民営化されBritish Energy(BE)社となったが、BEも2009年2月にフランスEDFに買収されている。ウラン調達を行っていたBCUPOは1991年3月に解消し、現在はEDF等、民間電気事業者が独自に海外からウラン調達を行っている。
なお、英国多国籍民間企業であるRio TintoとBHP Billitonはナミビア、オーストラリア等海外において探鉱開発を実施している。Rio Tintoはオーストラリア鉱山企業と合併した企業で、2000年からEnergy Resources of Australia(ERA)の株式の68.4%を所有して、オーストラリアのレンジャー(Ranger)鉱山で生産を行っている。ナミビアではロッシング・ウラニウム(Rossing Uranium)の株式の68.6%を所有して生産を行っている。Rio Tintoの2009年の年間ウラン生産量は約7,963トンUで世界第3位である。また、BHP Billiton(BHPビリトン)社も2001年にオーストラリアのBHP(ブロークンヒル・プロプライエタリー)と英国のBilliton(ビリトン)の合併により成立した企業で、WMC Resouces(WMCリソーシズ)を買収することで、オーストラリアのOlympic Dam(オリンピック・ダム)鉱山からの権益を保持している。2009年の生産量は約2,955tUで世界第6位である。
2.転換
ウラン精鉱の
六フッ化ウランへの転換プラントがスプリングフィールド(Springfields)で運転されている。年間生産能力は5,000tU(設計値:6,000tU)で、米国ウェスティングハウス(WH)社がNDAから長期リース契約している。なお、カメコ社はカナダのブラインドリバーで産出されるウラニウムの転換サービスを、2006年から10年間、5000tU/年で生産を契約している。
3.濃縮
濃縮事業は、英国、オランダ、ドイツ(RWEとE.ON.)の3ヵ国共同出資のウレンコ社(Urenco)が、カペンハースト濃縮工場(Capenhurst、生産能力1500トン/年)で 1976年から運転している。遠心分離法を採用している。
4.燃料成型加工
スプリングスフィールズにある燃料工場で、AGR用燃料(設備容量:290tHM/年)やPWR用燃料(設備容量:200tHM/年)の製造や中間製品の製造を行っている。マグノックス炉用燃料製造(設備容量:1,000tHM/年)も行われていたが、2008年5月に生産を終了した。ウランと
プルトニウムの混合酸化物(MOX)燃料は、2001年10月に本格操業を開始したセラフィールドMOX加工工場(SMP、設備容量:120tHM/年)で製造されている。SMPは、同じサイト内にある酸化物燃料再処理工場(THORP)で抽出されたウランとプルトニウムを主原料として、MOX燃料を製造している。
5.再処理
カンブリア州セラフィールドにある2つの再処理工場をNDAに代わって米英仏合弁のセラフィールド社が操業している。1つはマグノックス炉使用済燃料用の再処理施設(設備容量:1,500t/年)で、1964年から運転を開始したが、マグノックス炉の閉鎖に伴い2016年には運転を終了する予定である。もう1つは混合酸化物燃料再処理工場(THORP)で、1994年に商業再処理工場として操業を開始し、2010年までに国内AGRの使用済燃料2,300tを含み、国内外の
軽水炉の使用済燃料6,000トンの再処理を行っている。今後、国内AGRの使用済燃料再処理6,600トンと海外顧客用再処理700トンの再処理が見込まれ、経営方針を検討しながら、2020年頃まで運転を続ける予定である。またドーンレイにある原子力公社(UKAEA)のサイトでは、ドーンレイ材料試験炉(MTR)の使用済燃料の再処理(設備容量:0.1tU/年、1958年〜1996年)及びドーンレイ高速増殖原型炉(PFR)からの使用済燃料の再処理(設備容量:6tU/年、1981年〜1998年)が行われた。英国再処理の歴史は古く、1952年に軍事用プルトニウム生産炉からプルトニウムを回収する目的でウィンズケール第一再処理工場(B204)で操業を開始したのが初めである。その後、1964年にはマグノックス炉用使用済燃料の再処理を行うウィンズケール第二再処理工場(B205)が操業を開始した(ATOMICA <04-07-03-09>イギリスの再処理施設、参照のこと)。
6.
放射性廃棄物
英国のバックエンド政策は、1995年7月に発表された「放射性廃棄物管理政策の検討−最終結果」と題する白書の中に定められており、放射性廃棄物が政府で発生したものか、民間で発生したものかに関係なく、現在及び将来的に、国民の健康と環境に甚大な
リスクを与えることが無いように適切に管理することが打ち出されている。この管理政策は、国際原子力機関(IAEA)の「各国が放射性廃棄物管理制度を構築するにあたっての安全基準」の原則に準拠している。
政府は低レベル放射性廃棄物は浅地中処分、中・高レベル放射性廃棄物は
深地層処分する方針である。従来、放射性廃棄物の処理・処分の実施主体は、NIREX社(BNFL、UKAEA、BEなどが出資する民間会社)であったが、2007年4月にNDAと統合されている。また、NDA内に放射性廃棄物管理局(RWMD)を設置させ、放射性廃棄物の管理及び処分方針は、エネルギー・気候変動省(DECC)、環境・食糧・農村地域省(DEFRA)等が策定し、放射性廃棄物の安全規制については、保健安全執行部(HSE)が実施している。HSEは安全規制政策の枠組みの策定や規制の実施、原子力施設に関する許認可発給も実施している。
図2に放射性廃棄物処理・処分の管理体制を示す。
低レベル放射性廃棄物については、既にカンブリア州のドリッグ・サイトとUKAEAのドーンレイ処分場で浅地中処分を行っているが、将来的な容量不足を踏まえて新規施設の建設が検討されている。アルファ核種を含む低・中レベル放射性廃棄物は、現在各発電所サイトで貯蔵されている。
また、使用済燃料の再処理に伴って発生する高レベル廃棄物は、液体のままステンレス鋼製のタンクで貯蔵され、
ガラス固化後、冷却のため最低でも50年間は貯蔵される。高レベル放射性廃棄物については、2001年にDEFRAが協議文書「放射性廃棄物の安全な管理」を発表し、2003年に高レベル放射性廃棄物の管理方法を検討する独立組織として、放射性廃棄物管理委員会(CoRWM)を設置。管理オプションなどを検討の上、2008 年6 月には「放射性廃棄物の安全な管理−地層処分の実施に向けた枠組み」を公表するとともに、将来の処分場の受け入れ可能性のある自治体などの募集を開始した。その結果、2つの自治体から応募があり、適性調査を重ねている。現在、ガラス固化廃棄物はセラフィールドの再処理施設サイト内に貯蔵されるているが、処分場の最終サイト選定は2025年頃、操業開始は2040年頃と予想されるため、中間貯蔵施設の建設も考慮されている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
イギリスの再処理施設 (04-07-03-09)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分の概要(1)−仏、英編− (05-01-03-07)
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)
マグノックス炉の廃炉計画 (14-05-01-12)
英国エネルギー法案と原子力デコミッショニング公社の設立 (14-05-01-13)
セラフィールド再処理工場の技術開発と現状 (14-05-01-17)
<参考文献>
(1)世界原子力協会(WNA):Nuclear Power in the United Kingdom、
http://www.world-nuclear.org/info/inf84.html、
http://www.world-nuclear.org/info/inf23.html
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2011、(2010年10月)、p.200-203
(3)公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2010年2月)、
http://www2.rwmc.or.jp/overseas/pub/For_web/uk_gaiyo.pdf、
http://www2.rwmc.or.jp/overseas/pub/For_web/uk_siryo.pdf及び
(4)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2010年版(2010年9月)、第6、12章
(5)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業第1編、(2008年10月)、イギリス
(6)OECD・NEA/IAEA:Uranium 2009:Resources, Production and Demand、(2010年7月)、United Kingdom
(7)(社)日本原子力産業会議:原子力資料 No.299「OECD/NEA加盟国の放射性廃棄物管理計画」
(8)Sellafield Ltd.:
http://www.sellafieldsites.com/
(9)原子力廃止措置機関(NDA):NDA Business Plan 2010-2013(ISBN 978-1-905985-16-6)