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<概要>
 英国通商産業省(DTI)は、2003年11月27日エネルギー法案を上院に提出した。この法案の第1部は、民間原子力産業のデコミッショニングに関する条項から構成されており、この条項の作成には、従来、反対の立場をとってきた利害関係者も含めた広い合意を得て、利害関係者との双方向の対話によって、意思決定を組み立てていく方法を採用している。デコミッショニングの総コストは約480億ドルと見込まれ、100年間に亘るプロジェクトになるとしている。米国と異なる点は、国防関係のの遺産の処理が、このデコミッショニングには含まれないことである。これに伴うUKAEA及びBNFLの去就は、はっきりしていない。
<更新年月>
2004年01月   

<本文>
1.はじめに
 英国通商産業省(Department of Trade and Industry:DTI)は、2003年11月27日エネルギー法案を上院に提出した。実際には法案のタイトルは、幾つかの法案の条項を合体させたため大変長いものであるが、法案の第1部は民間原子力産業のデコミッショニングに関する条項である。第2部は再生型エネルギー源に関する条項、第3部はエネルギー規制で、電力の販売と送電、ガス及び電気それぞれの相互連結、第4部がその他となっている。法案は、また、下院の通商産業委員会でも取り上げられ、2003年10月29日付で報告された。
 DTIは2003年12月11日、エネルギー法案の提出に伴うウェブサイトに「核の遺産管理(Managing The Nuclear Legacy)」を公表した(文献1)。このウェブサイトには、クリーンアップ取極めにおける変更について記載されていて、政府がおよそどのようにこの問題の利害関係者および意見文書に対してその責任を果たすつもりかについて知らせる目的があった。エネルギー法案の原子力デコミッショニング公社(NDA:Nuclear Decommissioning Authority)に関する部分は、草案「原子力サイトと放射性物質法案」(the draft Nuclear Sites and Radioactive Substances Bill)として2003年6月に協議のために公表されている。エネルギー法案は、協議において提出されたコメントを政府が受け入れることを考慮にいれている。表1に利害関係者を示す(文献7)。
2.原子力デコミッショニング公社(NDA)設立の経緯
 これまでの経緯をたどると、2001年11月に、DTIは英国の核遺産のクリーンアップに関する現取極め(納税者によって資金を供給される)の根本的な変化を提案した。また、白書「核遺産の管理:行動戦略(Managing the Nuclear Legacy − a strategy for action)」が、2002年7月に発表されている。この中で新しい公共体「原子力デコミッショニング公社(NDA)の設立を提案している。この機関は、市民部門の原子力サイトのクリーンアップに関する戦略的な方向を提供するものである。それは、安全、安全保障、環境と資金の価値を正当に尊重するもので、開放性、透明度及び住民の信頼を保障することが、NDAの重要な役割であるとしている。表2に核の遺産サイトを示す。
 『核の遺産』の主なものは以下のとおりである:
・英国原子力公社(UKAEA)と英国核燃料社British Nuclear Fuels社(BNFL)によって現在運転されている原子力サイトと施設。それらは、政府の研究計画を支援するために1940年代、50年代及び60年代に建設された。また、廃棄物、核物質及び使用済み核燃料も含まれている。
・UKAEAのCulhamサイトで核融合研究を支えるJoint European Torus(JET)から起こる責務
・1960年代及び70年代に設計・建設され、現在政府のためにBNFLによって運転されているMagnoxタイプの原子力発電所群。また、核燃料と全ての関連した廃棄物と核物質を再処理するために使われるSellafieldのプラントと施設も含まれる。
 多くの遺産施設は、規制要件と運転の必要性が今日とは非常に異なった時代に建設され、使用された。初期の運転記録と廃棄物目録は、しばしば不完全で、このことから起こる不確実性があり、核遺産管理とクリーンアップ問題を複雑にしている。多くの設備は閉鎖中であるが、異なった技術の可能性のテスト及び商用の実現可能性を実証するために建設されており、単純な解決策はない。
 UKAEAとBNFLサイトの設備を過去に使って発生した核遺産以外の、国防プログラムから発生した核遺産にはNDAは直接関係しない。これら設備のクリーンアップの財政的責任はUKAEA、BNFLの間で現在分担されている(*1)。核弾頭プログラムと関連する責務は、国防省の国防調達庁(Defence Procurement Agency)によって直接あるいは、契約を通して、管理される。
(*1) 英国ではUKAEAの兵器部門は、1973年国防省へ移管された。1969年9月にAEA Technologyが民営化されて以来、UKAEAの主な活動は、デコミッショニング、独自の放射性廃棄物管理責任、核融合研究へ移った。
 最近、リスクのより良い説明、または人々が危険の程度を知るのを奨励するような良いコミュニケーションをとおして、公衆の原子力施設の設置受け入れに顕著な進展が達成できると信じる人は少ない。利害関係者(stakeholders)との双方向の協議が計画の透明度を高め、意思決定を組み立てていくことによって、より良い計画ができると考えている。そこで、原子力の運営者と地域レベルやコミュニティレベルで利害関係者を関与させた意思決定を率先してやる傾向がある。政府はNDAがこのような経緯で設立され、公共情報活動のチャンピオンでなることを望んでいる。
 実際、DTIは、原子力デコミッショニング公社の利害関係者の関与と透明性のための枠組草案(Draft Framework for Stakeholder Engagement and Transparency for the Nuclear Decommissioning Authority)の最初のバージョンを発表している(参考文献7)。これに続いて、NDAがその利害関係者(stakeholders)とどのように関与するかに関する19の質問をリストした文書を2003年6月に発表した。その文書に基づくコメントが、9月と10月に一連の地域ワークショップに使用された。ワークショップは、英国内の9個所で開催され、NDAと関与することに関心を持つ誰でも参加を許された(労働組合、地元の当局、緑のNGOs、非常事態サービスと経済界を含む)。
3.原子力デコミッショニング公社(NDA)の概要
 役割:
・NDAは核遺産のクリーンアップに必要な全般の管理と指導をする。
・利用できる最高の技術と資源を使用して、首尾一貫したクリーンアップ戦略を開発する。
・この達成のため、作業をする責任のある実施権者及び原子力規制者と協力して働く。
・短期、中期、長期の考慮を秤量した決定をする立場にある。
 これらは、クリーンアッププログラムが100年か、それ以上の期間にわたって維持されなければならないという事実を反映している。
 NDAの指導原理:
・仕事を高い安全性、安全確保と環境基準で実施することに重点をおく。
・これらの基準と矛盾しないよう資金を効率よく使う。
・公開性と透明性。
・クリーンアップ契約、革新を推進し、利用できる最善の技術の使用を保障する競争的市場の開発。
 BNFL及びUKAEAとの関係:
 NDAはクリーンアップを自身では実行しない。その代わりに、サイト実施権者(現在BNFLとUKAEA)との契約をし、各サイトでのクリーンアッププログラムの責任を持たせる。サイト実施権者は、関連する規制要件に対応する必要があり、能率的に、そして、効果的にクリーンアップ作業を前進させるよう契約をとおして動機付けられる。
 戦略と計画の実施との分離は、NDAがクリーンアップの戦略的管理に集中できるようにするためである。
 NDAオフィス:
 NDAは、実施権者との契約及び地域の利害関係者との関係を管理するために、多くの核遺産サイトの近くにオフィスを設置する予定である。また、本部を西カンブリアに設置すると2003年12月11日に発表した。
 NDAの主要な機能:
・指定された原子力施設の運転及びデコミッショニング開始の間、施設に責任を持つこと。
・上記の原子力施設およびその他の指定された原子力施設のデコミッショニングに責任を持つこと。
・指定された原子力サイトのクリーンアップ。
・危険な物質の取り扱い、貯蔵、輸送、処理のための施設の運営。
・指定された条件の下に、危険な物質の取り扱い、貯蔵、輸送、処理。
・NDA所轄施設に含まれる指定された施設のデコミッショニング。
・従って、UKAEAとBNFLが現在管理している以下の原子力施設のクリーンアップの責任がNDAに委ねられることになる。
・BNFL施設−セラフイールド、ドリッグ処分場、カーペンハースト、マグノックス発電所群。
・UKAEA施設−ドーンレイ、ウィンズケール、ハーウェル、ウインフリス。
 資金:
 全体の遺産クリーンアップコストは現在約480億ポンド(約100年間)と見積もられている。この数字は、現在の知識と技術に基づく最善の評価を表している。実際問題としては、特定の施設や廃棄物を扱うには不確実性がある。NDAの第一の優先事項はこれらの不確実性を減らすことになっている。作業の全体を理解することによって、NDAは全費用を下げられるようなクリーンアッププログラムを開発する。加えて、科学と技術の進歩は、コストを下げるだろう。しかし、短期間ではわからないクリーンアップの規模と性質が完全に評価されるにしたがって、責務評価が上昇する。図1にクリーンアップスケジュールを示す。
 どのように資金を得るか:
 白書は、クリーンアップの資金として2つのオプション、特別資金(segregated fund)と特別勘定(a statutory segregated account)を示している。いずれもクリーンアップの独特の特徴を反映した革新的取極めであるという。エネルギー相ブライアン・ウィルソンは最近、特別勘定の方が、NDAが金額に見合う最高の価値を達成するという白書の目的にかなうという政府の決定を発表した。
 NDAの運営費:
 運営経費は、年間2500−3000万ポンドとされている。クリーンアップの年間10億ポンドの出費に対して、年間5%の節約は5000万ポンドになる。
4.UKAEA及びBNFLの将来
 BNFLに関しては、白書によれば、新しいBNFLの創設が規定されている。NewBNFLはDTIが所有することになり、NDAに移管されない部分は同社が所有する。NewBNFLには、電力会社向けの製品・サービス事業と政府契約事業が含まれ、サイトの許認可取得者であり続け、サイトの運営と従業員の雇用に責任を持つ。しかし、NDAに移管されたサイトの運転管理は他の企業となる可能性がある。2003年12月11日のBNFL報道によると、BNFL/政府共同のレビューにより、NDA創設後の戦略が定められるので、BNFLはNDAのクリーンアップ契約獲得のため戦うということである。
 UKAEA新長官は2003年11月28日、「UKAEAは、NDA設立後はNDAの選定に応じることのできる事業者であることを実証しなくてはならない。産業の中で最高水準の能力を出すことによって、このことを現実のこととするのがUKAEAの意向である」と言っている。
 また、UKAEAの警官隊は、エネルギー法案第1部第3章に定めるように一般市民による原子力警官隊として再構成されることになっている。
5.おわりに
 NDAの設立は、順調に進んでいるように見えるが、英国が原子力を新設しない政策をとっていることが大きい問題点と思われる。また、このような状況の下で、果たして、十分な資金が得られるのであろうか。
<図/表>
表1 利害関係者(Stakeholers)
表1  利害関係者(Stakeholers)
表2 核遺産サイト
表2  核遺産サイト
図1 クリーンアップスケジュール
図1  クリーンアップスケジュール

<関連タイトル>
米国エネルギー省環境管理局が進めるサイト・クリーンアップ (14-04-01-37)
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)
イギリスのPA動向 (14-05-01-07)

<参考文献>
(1)DTI:UK DTI Managing Nuclear Legacy,
(2)UKAEA:Energy Bill sets out nuclear clean−up legislation,
(3)Energy Bill [HL],http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200304/ldbills/002/2004002.pdf
(4)DTI:The Nuclear Legacy, Nuclear Decommissioning Authority(NDA),
(5)DTI:UK AND INTERNATIONAL REVIEW OF STAKEHOLDER ENGAGEMENT,
(6)BNFL:11th December 2003 New strategic direction for BNFL agreed,
(7)DTI:Draft Framework for Stakeholder Engagement and Transparency for the Nuclear Decommissioning Authority(NDA),
(8)DTI:Developing a Framework For Stakeholder Engagement and Transparency for the Nuclear Decommissioning Authority(NDA),
(9)IEA OF JAPAN:英国の原子力債務の管理に向け「原子力サイト・放射性物質法案」ドラフトが公表される、欧州原子力情報サービス 03−08、p.23−32
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