<概要>
国際原子力パートナーシップ(Global Nuclear Energy Partnership:GNEP)は、アメリカのブッシュ政権が2006年2月に発表した、原子力平和利用の促進と
核不拡散を両立させるための新たな構想である。構想の概要は大きく以下の2つにまとめられる。(1)
ウラン濃縮・
再処理技術や施設の獲得を放棄した国に対し、パートナーシップ(米国を中心とするコンソーシアム)は燃料供給を保証するとともに、使用済み燃料・
高レベル廃棄物の引き取りも行う。(2)パートナーシップは、
核拡散抵抗性が高く、廃棄物処理・処分の負担を軽減することが可能な「先進リサイクル技術」を開発し、回収した有用物質・有毒物質を燃焼できる「
高速炉(
先進燃焼炉)」で燃焼させるシステムを実用化する。これ以外にも、米国内の
原子力発電の推進、途上国向けの小型原子炉の開発、先進保障措置技術の開発、などの提案も含まれている。
<更新年月>
2007年01月
<本文>
まず「濃縮・再処理技術・施設の放棄」とそれを条件とした「燃料供給保証」は、2004年にブッシュ大統領が発表した核不拡散政策(新規の濃縮・再処理施設を認めない)や、国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務総長が提案した「(濃縮・再処理施設の)多国間アプローチ(Multilateral Nuclear Fuel Cycle Approach:MNA)」と類似の提案といってよい。言い換えれば、その目的は「これ以上、核兵器製造に直接転用可能な機微な技術・施設の新たな国への拡散を防止する」という核不拡散政策を具体化したものである。ブッシュ政権は2005年9月にも、IAEA総会で「燃料バンク構想」を提案している。これも、「濃縮・再処理を放棄した国に優先的に備蓄ウラン燃料を供給する」という構想で、機微な技術・施設を新たな国に拡大させない、という同様の意図を持つものである。
一方で、GNEP構想はMNA構想と根本的に異なる点も存在する。それは、エルバラダイ構想は、常に「普遍的」なレジームを原則としており、メンバー国の間でできるだけ不平等が無いことが、大きな条件である。それは
核不拡散条約(NPT)の番人として、非核保有国メンバーはすべて平等に扱う必要があり、原子力平和利用の権利を犯してはならないというNPT第4条にのっとった方針である。MNAでは、新規の施設や技術を「所有」することを禁止しているわけではなく、一国で単独に所有するのではなく、多国間で共有(または管理)することにより、透明性を高め、核拡散の
リスクを減少させようという目的である。言い換えれば、この構想の下では、再処理・濃縮施設や技術について「持ってよい国(核燃料サイクル国)」と「持ってはいけない国(原子力発電国)」に色分けしようという考え方であり、これはNPTにおける「非核保有国」がもつ「原子力平和利用」の権限を侵しかねない。
「核拡散抵抗性の高い先進リサイクル技術」の開発は、「
プルトニウム分離に反対」というこれまでの核不拡散政策の延長上にあることをまず確認しておく必要がある。先進再処理技術として、GNEPが上げているのは、UREX+法、または乾式再処理技術であり、ともにプルトニウムを単体で分離せず、
超ウラン元素とともに回収することにより、放射能レベルが高く、テロリストが扱うことも困難であり、核兵器製造も困難であるとしている。ただ、この技術であっても、あらたな国への技術移転を禁止していることから考えると、やはりこの技術も
核拡散リスクはゼロではない、ということになる。
先進リサイクル技術開発はまた「
放射性廃棄物処理・処分」のための新たな技術開発構想と考えることできる。長半減期元素とプルトニウムをリサイクル(高速炉で燃焼)することで、廃棄物処分場の負担を軽減したい、という考え方である。これは、ブッシュ政権になって開始された「
先進的燃料サイクルイニシアチブ(AFCI)」を加速させた技術開発プロジェクトと考えられる。この背景には、米国唯一の放射性廃棄物処分計画(ユッカマウンテン処分場)が遅れており、将来の廃棄物処分に不透明な国内事情もあると言われている。
先進リサイクル技術の開発スケジュールは、当初2011年までに先進工学システム実証(ESD)リサイクル・プラントを完成し、2016年に先進燃料サイクル施設(AFCF)の運転開始、さらに、超ウラン元素を燃焼する「先進燃焼炉(Advanced Burner Reactor:ABR)」開発も提唱しており、2014年に試験炉、2023年には標準炉の運転開始となっていた。しかしながら、現実に差し迫った問題となっている膨大な使用済み燃料の処理と産業界の知見を活用する観点から、2006年8月になって新たに2段階のアプローチ(2トラックアプローチ)に変更することを表明した。トラック1(2020年頃)では、(1)既存の技術を極力活用して、軽水炉
使用済燃料を処理するサイクル施設および高速炉の
実証炉を開発する、(2)このための技術情報や提案を広く内外の産業界から募集する、という方法が採用されることとなった。第2段階(Track 2)では、従来の計画どおり、先進サイクル技術(MAを分離回収して燃料に使用する技術)を用いた研究の実施と、高速炉の使用済み燃料再処理とMAを燃焼するための燃料を製造する先進的燃料サイクル施設の建設(AFCF:Advanced Fuel Cycle Facility)の建設を目指すことになった。
だが、問題は、そのコストと商業化の見通しである。米国の原子力産業団体である米原子力協会(NEI)は、基本的にGNEP構想を支持しているものの、先進リサイクルによる再処理プラントの建設やABRの建設などが、廃棄物処分のコストを引き上げるのではないか、との懸念を表しており、さらにユッカマウンテン計画の引き伸ばしに繋がることには強く反対の意を表明している。また、米国物理学会も「再処理は現時点では必要ではなく、リスクも高い。性急な再処理へのコミットメントは再検討すべきである」旨の報告書を発表している。
こういった構想に対し、日本は当初から肯定的な対応を示してきている。2006年2月7日に「米国が、原子力発電の世界的な発展拡大を許容しつつ核不拡散を確保するための構想を提案したことを評価する。(中略)。また、使用済燃料のリサイクルを進める方向を明示したことは、米国の新たなイニシアティブとして注目される。」という政府見解を発表している。そして、2006年9月には具体的な貢献策として、「IAEA核燃料供給登録システム(IAEA Standby Arrangements System for Nuclear Fuel Supply)」を提案している。
<関連タイトル>
日本原子力研究開発機構のGNEP構想への取組み (13-03-03-03)
アメリカの原子力政策および計画 (14-04-01-01)
アメリカの原子力開発体制 (14-04-01-03)
米国における先進的燃料サイクルイニシアティブ (14-04-01-30)
一般教書の水素燃料イニシアティブ(ブッシュ大統領) (14-04-01-32)
<参考文献>
(1)米国エネルギー省ホームページ:
(2)The White Houseホームページ:Fact Sheet,Strengthening International Efforts against WMD Proliferation(Feb 2004),
(3)Expert Group Report to the Director General of IAEA:Multilateral Approach to the Nuclear Fuel Cycle(2005),
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/mna-2005_web.pdf
(4)A Report by the Nuclear Energy Study Group of the American Physical Society Panel on Public Affairs:Nuclear Power and Proliferation Resistance:Securing Benefits,Limiting Risk(May 2005),
http://www.aps.org/policy/reports/popa-reports/proliferation-resistance/upload/proliferation.pdf
(5)経済産業省資源エネルギー庁:世界の原子力平和利用と核不拡散に関するレジームの動きと日本の対応(2006年9月)