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<概要>
 先進的燃料サイクルイニシアチブ(AFCI)は、使用済み燃料の発生量を減らし、高い核拡散抵抗性をもつ核燃料サイクル技術および使用済み燃料の長期にわたる放射能毒性と熱負荷を大幅に削減できる核燃料サイクル技術の開発プログラムである。ここに米国の核燃料サイクル技術に関する研究開発の内容が体系的に明らかにされている。
 この新たな施策の目指しているものは、(1)使用済み燃料の容量の削減、(2)使用済み燃料中に含まれる長寿命・高毒性核種の分離・核変換、(3)使用済み燃料中の有効エネルギーの回収、である。開発プログラムは、これまでDOEで実施してきた加速器を用いた核変換技術開発(AAA)および使用済み燃料の乾式再処理のPYROX技術開発を引き継ぎ、拡大改組したものである。2004年度の予算要求額は、前年度実績から4,480万ドル増額され、6,300万ドルが計上されている。
 カーター政権以来続いていた米国の世界における核不拡散政策の流れである、再処理、燃料サイクル路線の否定からの脱却という観点で注目されている。
<更新年月>
2003年09月   

<本文>
 はじめに
 2001年5月にブッシュ大統領は、「国家エネルギー政策(NEP)」を発表し、この中で温室効果ガスを排出しない原子力エネルギーの利用拡大を支持し、核燃料サイクル技術や次世代原子力技術の発展促進に言及した。この報告書での勧告を反映して、2003年1月22日にDOEが議会に「先進的燃料サイクルイニシアチブ(Advanced Fuel Cycle Initiative:AFCI)に関する議会への報告書:先進的な使用済み燃料処理と核変換研究の将来的道筋」を提出した。この中で、米国の核燃料サイクル技術に関する研究開発の内容が体系的に明らかにされた。同報告書は、6項目からなる「2002年エネルギー水資源歳出法」(下院報告107−258)に添付された両院協議会報告の要請に応える形をとっている。
 DOEは、この報告書の中でつぎのような提案している。(1)使用済み燃料の量の減少、また使用済み燃料中のプルトニウムを含むアクチノイドを分離・核変換させて、未燃焼のウランを利用するとともに核不拡散抵抗性を高めるための新たなウラン抽出処理と核変換処理を含む先進的な核燃料サイクル技術に関する中期的研究開発、(2)使用済み燃料の管理、とくに地層処分場に埋設される高レベル放射性廃棄物の長期にわたる放射能毒性と熱負荷の大幅な低減を可能とする経済的かつ核不拡散抵抗性をもつ技術に関する長期的研究開発、これらを並行して実施する。
1.報告書の概要
 前述したように、報告書は議会の指示に対するDOEの回答であり、ノーベル賞受賞者のBurton Richter博士が座長を務める原子力研究諮問委員会(Nuclear Energy Research Advisory Committee:NERAC)の先進的核変換技術小委員会(Subcommittee on Advanced Nuclear Transformation Technology)の提言・意見をもとにまとめられた戦略とプログラムである。
 本報告書には、つぎのような断り書がある。「使用済み燃料の分離と核変換技術に関する研究開発の最新の知見を反映したものであるが、議会が提示した疑問点に対して、適切な回答を示すには余りにも研究が初期の段階にあるということが分かった。とくにライフサイクル・コストに関する基礎情報は僅かしか得られなかった。現時点では、予備的な回答あるいは粗く見積もった見通ししか示すことができなかったことに留意して欲しい。先進的な核燃料サイクル技術に対する疑問点に完璧に答えられるようなるまでには、一層の研究が必要である」。つぎに、6つの疑問点(論点)に対する回答を記す。
論点1:各種の処理法による廃棄物の流れと量の全容を明らかにし、化学処理法および高温処理法、加速器駆動を用いた核変換、高速炉を用いた核変換などの比較:
 各種の方法を概念的に比較するのであれば、これらの技術面については十分熟知しているが、コストや廃棄物の流れ(waste stream)といった問題点については細部まで熟知している訳ではない。後述するように、「ウラン抽出プラス」(Uranium Extraction Plus:UREX+)と呼ばれる使用済み燃料の化学処理法は、未だ概念形成の段階にある。DOEが進めている第4世代原子力システム開発活動(GEN−IV)の1つの分野である核変換システムについても、同じように開発は初期段階にある。
論点2:必要なすべての施設を建設、操業、解体除染するためのライフサイクル・コストの予測:
 必要な施設に関するコストについて正確な情報は現時点ではもっていない。確度の高いコスト予測が、今後の研究において重要な課題になるとみられる。
論点3:各種技術の核拡散抵抗性の比較:
 核拡散低抗性について意味のある比較ができるような測定基準は今のところ存在しない。DOEは現在、核拡散を測る基準の枠組みを国際社会との合意のもとで作成しようとしているが、少なくてもあと1年ほどかかると見られている。しかし、本報告書(II−6ページ)では、使用済み燃料の処分に関連した核拡散問題について言及している。(省略)
論点4:各種の再処理・核変換法で必要になる新しい処理・処分施設のサイト選定にあたっての戦略:
 計画している処理技術が選定され、必要な環境影響調査が実施されるまでは、回答することはできない。本報告書では、立地問題は扱っていない。
論点5:すべての比較にあたっての基準としては、米国で現在採用されているワンススルー核燃料サイクルおよび地層処分場に処分される予定の使用済み燃料の量を採用すること:
 本報告書の中では、その方法を採用している。たとえば、現在のワンススルー核燃料サイクルで発生する使用済み燃料は、放射能毒性がウラン鉱石のレベルまで崩壊するのに約30万年を要する。もし、本報告書で提示されている研究が成功すれば、先進的な核燃料サイクル技術の利用によって、わずか1000年程度で同じ毒性レベルまで崩壊するような性質をもった廃棄物に変換できる。
論点6:現在、地層処分が計画されている使用済み燃料を処理するのに十分な設備容量を前提として、各種の再処理、核変換法で必要とされる新しい処理・処分施設のサイト選定に向けたDOEの戦略:
 本報告書で明らかにされているように、研究は未だ初期段階にあり、施設の具体的サイトを選定するのは時期尚早と言える。しかし、DOEとしては、米国内で建設される先進的核燃料サイクル施設はすべて、民間企業によって建設、運転されるものと考えている。また、これらの企業に対しては、放射性廃棄物管理技術を実施するという、国家的利益を反映した優遇措置が適用される。
 使用済み燃料の管理に関する研究を継続することは、米国や他の国々が原子力利用を継続・拡大していくために重要である。多くの国がこの分野で先進的な研究開発を実施しているが、核拡散抵抗性をもつ先進的技術を確実に、使用済み燃料管理の不可欠な部分として組み込んでいくためにも、米国が指導的役割を果たすことが重要である。これらの技術によって、放射性廃棄物の処分コストを削減できるだけでなく、商業運転によって発生する使用済み燃料中のプルトニウムのインベントリーを大幅に削減することにより、国家安全保障が強化されるという利益がもたらされる。
 本報告書の本文でも論じられている通り、これまで並行して行われてきた先進的燃料サイクルイニシアチブ(AFCI)を構成する2つの開発要素に研究が向けらている。すなわち、「AFCIシリーズ1」と呼ばれる現行の核燃料サイクル・システムへの先進的技術の応用を重視する中期的技術開発と、「AFCIシリーズ2」と呼ばれる放射性廃棄物の長期にわたる放射能毒性と熱負荷の問題を完全解決する長期的技術開発である。報告書の本文の内容については紙面の関係で割愛する(参考文献1〜3参照)。
2.先進的燃料サイクルイニシアチブ(AFCI)
2.1 AFCIシリーズ1
 ここで扱われのは、使用済み燃料に関連した中期的視点(2015〜2040年)に立った開発である。具体的には、(1)ウラン(使用済み燃料の成分の96%を占める)を抽出することによって地層処分する廃棄物の量を削減すること(図1)、(2)使用済み燃料中に含まれる相当量のプルトニウムを破壊(核変換)することによって核拡散のリスクを減らすことである。このため、処理技術の開発では;
・使用済み燃料の成分を分離する処理技術の採用が必要になる。
・DOEによって、ここ数年処理技術が大きく進歩し、PUREX法に比べて環境面と核拡散抵抗性の面で大きな利点をもつ新しい処理技術UREX+法が開発された。
・この新処理技術に関して、(1)放射性物質を用いたUREX+法の実験室での実証、(2)UREX+法のエンジニアリング規模での実証、(3)PYROX(高温化学乾式処理)技術の実験室での実証、(4)PYROXを用いたアクチニド回収の実証、(5)放射性物質を用いたPYROXのエンジニアリング規模での実証、(6)金属廃棄物技術の大規模な実証、(7)処理施設の要件、コスト、設計調査などの研究項目が組み込まれている。
 燃料技術の開発では;
・UREX処理技術と別の処理工程を組み合わせることにより、軽水炉ガス冷却炉で使用する核拡散抵抗性をもつ核変換した燃料を製造することができる。これらの技術を成功させるには、遠隔操作を必要とする超プルトニウム元素を含んだ燃料の製造・試験などのいくつかの問題と取り組む必要がある。
・核変換燃料の研究にあたっては、核拡散抵抗性をもつ燃料の開発や燃料の予備的な照射試験、それらの結果としてもたらされる核変換システムの分析(廃棄物の動きを含む)に研究の焦点が絞られる。この課題に取り組むためには一層の研究が必要であり、具体的には核拡散抵抗性をもつ燃科の開発、オークリッジ国立研究所のHFIR(High Flux Isotope Reactor)やアイダホ国立工学環境研究所のATR(Advanced Test Reactor)を用いた燃料の照射試験、ガス冷却炉燃料を用いた場合の核変換システムのパフォーマンス分析などを行う必要がある。
 これらの技術は、現在のインフラの一部として導入され、米国内で稼働する軽水炉だけでなく将来の軽水炉と協調しながら利用されることになり、ヤッカマウンテンに計画されている地層処分場への使用済み燃料の搬入を見据えながら導入される(図2)。
2.2 AFCIシリーズ2
 ここで扱われのは、使用済み燃料に関連した長期的視点(2040年以降)に立った開発である。具体的には、地層処分場に送られる高レベル放射性廃棄物の長期にわたる放射能毒性と熱負荷を大幅に削減できる核燃料サイクル技術の開発である。これらの技術の実証にあたっては、第4世代原子力システムの導入が前提になるため、長期的な選択肢として検討する必要がある。
 シリーズ2の目的を達成するために必要な研究開発活動は、3つのフェーズで構成されており、各フェーズの終了時点でそれぞれ判断が下される。具体的には、以下の通り。
・フェーズ1:基礎的な技術評価(2000〜2002会計年度で実施)
・フェーズ2:原理実証
・フェーズ3:パフオーマンス実証
 フェーズ1は、技術の初期評価で2002年度末に終了した。廃棄物の量と放射能毒性、発熱量、そして核拡散リスクなどを低減させるという計画の目的を達成可能な技術およびシステムが明らかにされた。この活動には、この数年間にAAA(Advanced Accelerator Application)計画のもとで実施された研究活動が寄与している。フェーズ2では、さらに焦点を絞った研究が行われることになっており、最も有望な技術が明らかにされる。フェーズ2ではオプションを明らかにし、フェーズ3のパフォーマンス実証へ進む方針を定めるため、実験室並びにこれより大きい規模での試験、分析が実施される。
 もし成功すれば、これらの技術によって地層に処分される商業用放射性廃棄物の毒性を約1000年後には天然のウラン鉱石と同等のレベルにまで下げることができ(図3)、高レベル放射性廃棄物の地層処分場の収容能力を現在の水準以上に増大することができる。さらに、原子力発電利用の拡大に向け、数百年という超長期にわたって燃料の供給が持続可能になるとみられる。
 これら2つのシリーズの研究は相互補完関係にあり、先進的燃料サイクル研究の目標は、AFCIシリーズ2の技術開発と別途DOEが推進している第4世代原子力システムの開発が相まって達成されることである。また、AFCIシリーズ2は、AFCIシリーズ1の技術が使用済み燃料中の大量の放射性物質を処理できるという実用レベルまでに到達することを前提としている。
 2003年2月に発表された2004年度予算要求では、6,300万ドル(前年度当初予算比で246%増)を要求している。ただし、2月13日に成立した2003年度歳出予算では「先進的燃料サイクルイニシアチブ」という項目で5,821万ドルが認可されている。
 最後に、欧州・日本型燃料サイクルと核拡散抵抗性を備えた先進的燃料サイクル(AFCIシリーズ1、2)の比較を図4に、第4世代原子力システム、先進的燃料サイクルイニシアチブなどを含む米国の統合原子力研究プログラムの組織を図5に示す。
<図/表>
図1 使用済み燃料の構成要素
図1  使用済み燃料の構成要素
図2 使用済み燃料の量の削減
図2  使用済み燃料の量の削減
図3 核変換による効果的な放射能毒性の低減
図3  核変換による効果的な放射能毒性の低減
図4 先進的燃料サイクルイニシアチブ
図4  先進的燃料サイクルイニシアチブ
図5 米国の統合原子力研究プログラム組織図
図5  米国の統合原子力研究プログラム組織図

<関連タイトル>
第4世代原子炉の概念 (07-02-01-11)
米国エネルギー省(DOE) (13-01-02-08)
アメリカの核燃料サイクル (14-04-01-05)
アメリカの原子力政策および計画(2001年、ブッシュ政権) (14-04-01-28)

<参考文献>
(1)US DOE: Report to Congress on Advanced Fuel Cycle Initiative: The Future Path for Advanced Spent Fuel Treatment and Transmutation Research, AFCI_CongRpt2003.pdf
(2)日本原子力産業会議:先進的燃料サイクル・イニシアチブ:「先進的な使用済み燃料処理と核変換研究に向けた将来の方針」に関する議会への報告書、原産マンスリー、2003年6月号、p.15−46
(3)日本原子力産業会議:先進核燃料サイクル構想(AFCI)の概要、原子力産業新聞、2003年4月10日、p.4−5
(4)米国エネルギー省原子力・科学・技術局(ONEST):新型燃料サイクル・イニシアチブ抄録、先進使用済燃料処理および変換研究のた将来の進路に関する連邦議会への報告書、原子力eye、Vol.49, No.6, p.14−24,(2003)
(5)W.D. Magwood: The Nuclear Energy Future, ANS Annual Meeting, June 2, 2003, ANS2003anuMagwood.pdf
(6)原子力委員会:原子力委員会第2回国際関係専門部会(2003,4,10)、配付資料第2−4−1号、核燃料サイクルに関する主要国の動向について
(7)松井一秋、波多野守:米国エネルギー省(DOE)レポートの読み方、原子力eye、Vol.49, No.6, p.12−13,(2003)
(8)日本原子力産業会議(編集発行):世界の原子力発電の動向 2002年次報告(2003年5月31日), p.32−34
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