<概要>
国際原子力エネルギーパートナーシップ(Global Nuclear Energy Partnership:GNEP)は、世界的なエネルギー需要が高まる中、米国が大統領主導で2006年2月に打ち出した包括的な原子力構想であり、米国がとってきた従前のワンススルー路線から再処理路線へと政策転換した画期的な構想である。その主な目的は、(1)米国の海外の化石燃料への依存度を下げ、経済成長を促進する、(2)
核拡散抵抗性を高める先進的技術を活用して
核燃料リサイクルを行い、より多くのエネルギーを再生産するとともに廃棄物を低減する、(3)世界の成長と繁栄、クリーンな開発を奨励する、(4)世界の核拡散の
リスクを減らすため、最新の技術を利用する、などである。日本原子力研究開発機構は、GNEP構想の下、EOIおよびFOA等の産業界主導のプログラムを協力・支援するとともに、日米原子力共同行動計画(United States−Japan Joint Nuclear Energy Action Plan)の下で、(1)
高速炉技術、(2)燃料サイクル技術、(3)シミュレーションおよびモデリング、(4)
保障措置と
核物質防護、(5)廃棄物管理等の個別分野における研究開発協力を行っている。
<更新年月>
2007年08月
<本文>
GNEP構想は、(1)米国における
原子力発電の拡大、(2)核拡散抵抗性の高いリサイクル技術の実証、(3)放射性廃棄物量の最小化、(4)
先進燃焼炉(ABR:Advanced Burner Reactor)の開発、(5)信頼性の高い燃料供給サービスの確立、(6)小型炉の建設・開発、(7)先進的保障措置技術の開発の7つの開発要素で構成され、次に示す国際枠組みにより、そのミッションの達成が図られる。(1)燃料供給国は、先進的再処理、高速炉を開発・利用する、(2)燃料供給国以外の国は、濃縮・再処理技術を放棄する代わりに、
核燃料を燃料供給国から適正価格にて供給を受け、
使用済燃料を返還する、(3)燃料供給国以外の国のニーズに応じて、小型原子炉の研究開発・導入を行う(
図1)。なお、燃料供給国として挙げられている国は、米国、日本、フランス、英国、ロシア、中国の6か国である。2006年8月3日、当初のGNEP構想に対する大きな変更が
米国エネルギー省(DOE)より発表された。DOEは、GNEP構想の加速化を図るため、「2トラックアプローチ」を公表し(
図2)、併せて、有用な先進的技術に関する情報を産業界より収集することとし、国内外の産業界からの関心の表明(Expressions of Interest:EOI)を募集した。「2トラックアプローチ」は、トラック1とトラック2の二本立てで並行的に進められ、トラック1は既存の技術を多用して短期的な立ち上げを目指す産業界主導のものであり、トラック2は長期的な研究開発を中心とするものである。トラック1では核燃料サイクル施設である統合核燃料取扱センター(Consolidated Fuel Treatment Center:CFTC)とABRの2つの商業規模施設の導入が検討され、トラック2では、先進サイクル技術(MAを分離回収して燃料に使用する技術)を用いた研究の実施と、高速炉の使用済み燃料再処理とMAを燃焼するための燃料を製造する先進的燃料サイクル施設の建設(AFCF:Advanced Fuel Cycle Facility)の建設が検討されている。EOIはこれらのうち、トラック1に主眼をおいたものと言える。2006年9月8日、日本原子力研究開発機構は、国内関連各社と連名で、CFTCとABRの設計に係るEOIに対して、技術提案とともに関心がある旨を表明した。2007年5月9日、DOEは産業界からのEOIを踏まえて、国内外の産業界を対象とした公募プログラム(Funding Opportunity Announcement:FOA)を発表した。その内容は、ABR(FOAにおいては、Advanced Recycling Reactor:ARR)およびCFTC等のGNEP施設に係るビジネスプラン、技術開発ロードマップ、概念設計研究、広報計画の4項目についての提案を公募するものであり、DOEが採用する提案は3〜6件とされている。2007年6月21日、わが国としては、三菱重工業(株)が仏国AREVA社と共同でFOAに応募し、2007年7月30日、本FOAが採用され、ARRについては、三菱重工業(株)が、CFTCについては、AREVA社が主体的な役割を担うことが予定されている。日本原子力研究開発機構は、本FOAに対して、仏国原子力庁(CEA)と共同で技術的な支援を行うことにしており、ARRの概念としては、日本原子力研究開発機構が実用化戦略調査研究(Feasibility Study:FS)およびFBRサイクル実用化研究開発(Fast Reactor Cycle Technology Development:FaCT)プロジェクトで開発中のループ型ナトリウム冷却炉JSFR(Japan Sodium−cooled fast reactor)を提案している(
図3)。
このように、日本原子力研究開発機構は、EOIおよびFOA等の産業界主導のプログラムの中で、協力・支援しているが、他方、機構本来の研究開発分野に関しては、日米原子力共同行動計画(United States−Japan Joint Nuclear Energy Action Plan)の下で研究開発協力を行っている。日米原子力共同行動計画は、米国側がDOE長官、日本側が関係省庁(経産省、文科省、外務省)の各大臣が2007年4月に署名した日米原子力分野の包括的な行動計画である。本行動計画は、日米両国間で(1)「
国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)」構想に基づく原子力エネルギー研究開発協力(2)
原子力発電所の新規建設を支援するための政策協調(3)核燃料供給保証メカニズムの構築(4)
核不拡散を確保しつつ、原子力エネルギーに関心を有する国における安全かつセキュリティの確保された原子力エネルギーの拡大を支援するための協調について、4つの協力を促進することを目的としている。日本原子力研究開発機構としては、本行動計画の中で前述の「GNEP構想に基づく原子力エネルギー研究開発協力」で明記されている、(1)高速炉技術ワーキング・グループ、(2)燃料サイクル技術ワーキング・グループ、(3)シミュレーションおよびモデリングワーキング・グループ、(4)保障措置と核物質防護ワーキング・グループ、(5)廃棄物管理ワーキング・グループにおける二国間の研究開発協力を実施している。本行動計画における研究開発フェーズは3つに分けられ、2007年からDOE長官がGNEP構想の方向性について判断を下す2008年6月までの直近の課題に取り組むステージをフェーズI、2008年7月から2011年6月までのフェーズIでの進展を基に、より複雑な課題に取り組むステージをフェーズII、2011年7月以降の実証開発のステージをフェーズIIIとしている。2007年6月21日に第1回目の合同WG、その翌日の22日に全体を統括する運営委員会がワシントンDCで開催され、各ワーキング・グループのフェーズIの協力計画が承認された。
<図/表>
<関連タイトル>
米国における先進的燃料サイクルイニシアティブ (14-04-01-30)
国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想 (14-04-01-44)
<参考文献>
(1)米国エネルギー省ホームページ:
(2)佐賀山 豊:海外における高速増殖炉サイクル技術開発の動向−グローバル原子力エネルギー・パートナーシップの行方、原子力eye、Vol.53、No.3(平成19年3月)
(3)外務省ホームページ:
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/j_u_kyodo.html
(4)佐賀山 豊:日本原子力研究開発機構のGNEP構想への取組み、日本原子力学会誌、Vol.49、No.3(2007)、p.172−178