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<概要>
 米国の原子力発電開発において、連邦政府は、政権が策定する基本的な政策に基づいて法案や予算の立案、基礎的な研究開発を行うことなどによって、間接的に民間の事業を誘導する重要な役割を担っている。原子力に関する基本政策は歴代政権の姿勢によって変遷を遂げてきたが、最近では地球温暖化防止対策や非化石燃料への転換の見地から原子力の位置付けが見直されてきている。他方、原子力の推進に当たっては、高レベル放射性廃棄物使用済燃料)処分、核不拡散、環境回復等が当面の重要課題となっている。米国では、エネルギー省及びその傘下の国立研究所が研究開発、各種エネルギー関連施策の遂行を、また、原子力規制委員会が安全規制全般を担当している。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
 米国では、地球温暖化防止対策や石油・石炭などの化石燃料への依存の軽減に向けて原子力の位置付けが見直され、新規原子力発電所の建設の動きが活発化している。同時に、約半世紀にわたって100基を超える規模の原子力発電所を運転してきていることから、稼働中の原子力発電所の安全運転の確保、高経年化による不測の事態の発生を回避するための研究開発、原子力技術者、科学者の活力を促すための研究開発、放射性廃棄物管理に関する研究開発、国際的な場で米国が主導権を維持するための研究開発に関わる原子力界の体制作りが進められている。特に2001年9月11日の同時多発テロ以降、原子力規制委員会(NRC)による防護対策の改善指令、DOE国家安全保障庁(NNSA)によるテロリズム対策技術開発プロジェクト(新マンハッタン計画)などが進行している。また、2011年3月の福島第一原子力発電所の全電源喪失事故を受け、より一層の安全性の確保が課題となっている。
1.政権による原子力開発の位置づけ
1.1 クリントン政権における原子力開発の位置付け(1993〜1997年、1997〜2001年)
 政権の発足当時、旧ソ連核兵器施設からの広範囲な放射能汚染の実態が明らかにされ、膨大な余剰核兵器から出てくる核物質の処理が問題となった。米国でもハンフォードなどで汚染が明らかにされ、環境放射能汚染を除去する「環境回復」が課題となった。TMI事故(スリーマイル島原子力発電所事故)及びチェルノブイリ事故の後遺症も重なり、市民に反原子力感情が浸透した。そのため、エネルギー政策においては原子力開発を推進せず、「再生可能エネルギー」の開発、「核不拡散対策の強化」、「環境回復」、「高レベル放射性廃棄物の処分」に力が入れられた。しかし、政権の2期目には、地球温暖化防止や石油依存度の低下が国家の重要課題となり、「原子力をエネルギー源の選択肢として残す」という方向へ政策が変わった。
1.2 ブッシュ政権における原子力開発の位置付け(2001〜2005年、2005〜2009年)
 続くブッシュ政権では、1999〜2000年におけるエネルギー価格の高騰、カリフォルニア州の電力危機、エネルギー輸入依存度の上昇を背景に、エネルギー供給リスクの低減に重点が置かれた。2001年5月の「国家エネルギー政策(NEP)」は、温室効果ガスを排出しない原子力エネルギーの利用拡大の支持と、核燃料サイクル技術や次世代原子力技術の開発促進に言及した。2002年2月の「原子力2010計画」では新規原子力発電所の建設を促すため、認可システムの見直しが進められたほか、先進的燃料サイクルイニシアティブ、国際的なイニシアティブとして国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想が打出された。詳しくは末尾のATOMICA関連タイトルを参照。
1.3 オバマ政権における原子力開発の位置付け(2009〜2012年)
 オバマ大統領は2010年の一般教書演説で「米国内の景気回復」を最重要課題と位置づけた。その中で (1)エネルギー資源の安定確保(中東の石油への依存からの脱却)、(2)省エネの推進による石油利用の削減、(3)2035年までに全電力の80%をクリーンエネルギーで賄うことを3つの柱とした。原子力発電に関しては2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を受け、一層の安全性を確保しつつ、地球温暖化防止対策として開発を進める方針である。
2.原子力政策と原子力開発・規制体制
 米国の原子力開発・規制体制は1954年の「原子力法」、1974年の「エネルギー行政機構再編成法」、1977年の「エネルギー省設置法」などを根拠として、エネルギー省(DOE:Department of Energy)が研究開発・エネルギー政策実施機関を、原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)が規制分野を担当している。そのほかの原子力関係政府機関として、従来軍備管理軍縮局ACDA(Arms Control and Disarmament Agency)があったが、1999年3月末をもって国務省に統合された。これに伴い同局の5局と国務省の関係局は削減され、軍縮局(Bureau of Arms Control)、不拡散局(Bureau of Nonproliferation)、政治軍事局(Bureau of Political Military Affairs)の3つに集約された。2000年3月には有事の際に備えた軍による米国内の核兵器の安全性、信頼性、機能性の確保を目的にDOEの下に国家原子力安全保障庁NNSA(National Nuclear Security Administration)が設置された。図1にエネルギー省(DOE)の組織図を、図2に原子力規制委員会(NRC)の組織図を、図3に国家原子力安全保障庁(NNSA)の組織図を示す。
2.1 エネルギー省の役割
 エネルギー省(DOE)は米国のエネルギー供給保障と核安全保障を担当する官庁である。その役割は核兵器の製造と管理、平和利用としての原子力技術の開発、エネルギー供給の安定的確保、及びこれらに関連した先端技術の開発と多岐にわたり、連邦政府の省庁のなかで最も多い研究所を持つ。エネルギー省の部局は、安全保障、エネルギー資源、科学、環境の4つの重点分野に基づいて編成されている。安全保障には情報技術とエネルギー関連施設の安全性、核不拡散、備蓄管理が含まれる。エネルギー資源は、石油・ガス、石炭、原子力と再生可能エネルギーについて、需給や価格などを管理している。科学技術は、主に研究開発に関わる部門であり、環境は大気・水質・地質汚染対策のほかに代替燃料車の普及を含む。エネルギー省の下部機関として、連邦エネルギー規制委員会FERC(Federal Energy Regulatory Commission)がある。FERCは、石油、天然ガス、電力の州際取引を規制するほか、石油、ガス、電力などのプロジェクトの環境面に関する監視を行う。なお、DOEの所管であったウラン濃縮部門は、1993年に設立されたウラン濃縮公社USEC(United States Enrichment Corporation)に移管された。
 なお、エネルギー省の予算はエネルギー戦略に即した予算配分で、核・軍事関係の核エネルギー防衛活動、環境保全活動が約60%を占める。また、原子力エネルギー開発関連に限ると(1)グローバル原子力パートナーシップ(GNEP)、(2)第4世代原子力システム(Generation-IV)、(3)原子力発電2010計画、(4)ユッカマウンテン計画に関して予算変動がある。このうち、核拡散抵抗性を高めた核燃料サイクルの導入により、高レベル放射性廃棄物の削減を目指した再処理施設及び高速燃焼炉の建設計画、開発途上国等への中小型炉の提供、国際的な燃料の供給保障体制の構築を目指すグローバル原子力パートナーシップ(GNEP)への予算配分は増加傾向にある。第4世代原子力システム(Generation-IV)に関しては、超高温ガス炉次世代原子力プラント(NGNP)の建設をアイダホ国立研究所で進めている。NRCとの協力で許認可プロセスの円滑化を図る原子力発電2010計画は、2010年会計年度で収束した。ユッカマウンテン計画に関しては、科学的根拠に基づく安全な長期的処分方策を見つけるまではサイト内貯蔵を行うため、2012会計年度の予算要求はゼロとなった。ユッカマウンテン計画は1978年からDOEによりネバダ州ユッカマウンテンにおいて使用済燃料・高レベル廃棄物の処分場としての適性の調査が進められ、2008年6月には処分場建設の許認可申請がNRCへ提出されていた。しかし、2010年1月にバックエンド政策の包括的な検討を行うブルーリボン委員会が設置され、2010年3月にはDOEにより許認可申請の取下げが申請されている。
2.2 エネルギー省(DOE)傘下の研究所の役割
 図4にエネルギー省(DOE)傘下の主要国立研究所を示すが、米国の国立研究所には軍事用と民生用の2つの原子力研究開発の流れがある。1つは純粋なエネルギー開発であり、他の1つは核不拡散など他国の原子力開発を監視することを目的とする研究開発で、ローレンスバークレー研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory)、 ローレンスリバモア研究所(Lawrence Livermore National Laboratory)とロスアラモス研究所(Los Alamos National Laboratory)が中心である。国立研究所は冷戦後の研究所の合理化議論もあって、事業内容、予算ともに1990年代初頭から大きな変化を受けて現在に至っている。主要研究所の概要を表1に示す。
2.3 原子力規制委員会(NRC)の役割
 原子力規制委員会(NRC)は政府の独立機関の一つであり、原子炉の安全、原子炉の設置許可及びその更新、放射性物質の保安及び認可、放射性廃棄物管理(貯蔵と廃棄)について監督を行っている。NRCは、事業者の申請に基づき運転ライセンス認可の更新(通例は40年の運転期間を60年に延長)する作業と各発電所の出力増強プログラムの認可作業、及び原子力発電所の早期建設を支援する新規炉型の設計認証DC(Design Certification)の審査、事前サイト許可ESP(Early Site Permit)申請の認可作業、合理的な許認可プロセスとして建設・運転一括認可COL(Combined License)の認可作業を進めている。なお、これらの認可作業に伴う設置者等からの手数料はNRCの予算総額のうち回収可能な金額であり、政府拠出金(廃棄物基金等)を除いた額の約90%に相当する(表2参照)。2010会計年度のNRC予算総額は10億6,690万ドルである。これから政府拠出金(放射性廃棄物基金:2,900万ドル、国家セキュリティ活動:2,230万ドル、廃棄物再処理の予備活動:210万ドル)を除いた額の約90%に相当する9億1,220万ドルは、許認可、検査等の手数料及び認可ごとの年間手数料による回収対象となる。
2.4 国家原子力安全保障庁(NNSA)の役割
 国家原子力安全保障庁(NNSA)は米国エネルギー省(DOE)に属し、軍による核エネルギーの使用を通して国家の安全を確保する組織で、局長はエネルギー省の核安全保障担当次官が兼務する。NNSAの部局には、国際的な核の安全性と核拡散防止を目的とした国防核不拡散局、米国海軍の原子力推進プラントの提供と信頼性の向上を目的とした海軍原子炉局、核備蓄管理プログラムや先進科学技術支援を行う国防計画局、テロ対策や大量破壊兵器による危険を予防するテロ対策・拡散対抗措置局、核関連の物質船舶輸送時の核専門家チームである緊急時対応局で編成されている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
表1 エネルギー省(DOE)傘下の主要国立研究所の概要
表1  エネルギー省(DOE)傘下の主要国立研究所の概要
表2 原子力規制委員会(NRC)の予算の内訳
表2  原子力規制委員会(NRC)の予算の内訳
図1 エネルギー省(DOE)組織図
図1  エネルギー省(DOE)組織図
図2 原子力規制委員会(NRC)組織図
図2  原子力規制委員会(NRC)組織図
図3 国家原子力安全保障庁(NNSA)組織図
図3  国家原子力安全保障庁(NNSA)組織図
図4 エネルギー省(DOE)傘下の主要国立研究所
図4  エネルギー省(DOE)傘下の主要国立研究所

<関連タイトル>
アメリカの原子力発電開発 (14-04-01-02)
アメリカの原子力安全規制体制 (14-04-01-04)
アメリカの核燃料サイクル (14-04-01-05)
米国の余剰プルトニウム処分計画 (14-04-01-26)
アメリカの原子力政策および計画(2001年、ブッシュ政権) (14-04-01-28)
米国における先進的燃料サイクルイニシアティブ (14-04-01-30)
米国原子力規制委員会の許認可プロセスとその適用状況 (14-04-01-35)
国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想 (14-04-01-44)

<参考文献>
(1)電気新聞社:原子力ポケットブック2011年版(2011年9月)、p.495-497
(2)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑1999/2000年版(1999年10月)、p.334-360
(3)米国エネルギー省(DOE):http://energy.gov/about-us/organization-chart(2011年12月6日)
(4)米国原子力規制委員会(NRC):http://www.nrc.gov/about-nrc/organization/nrcorg.pdf(2012年1月)
(5)米国国家原子力安全保障庁(NNSA):(2011年11月)
(6)米国エネルギー省(DOE):STRATEGIC PLAN. MAY 2011、http://energy.gov/sites/prod/files/2011_DOE_Strategic_Plan_.pdf(2011年5月)
(7)米国原子力規制委員会(NRC):FY 2012 Budget Slides(http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/nuregs/staff/sr1100/v27/fy2012-press-briefing.pdf(2011年2月))及びFY 2011 Budget Slides(http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/nuregs/staff/sr1100/v26/fy2011-press-briefing.pdf(2010年2月))
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