<本文>
1.エネルギー省(DOE)の役割および組織
アメリカ合衆国連邦政府の内閣レベルの行政機関として、大統領府および15の省がある(
表1 参照)。エネルギー省は、原子力委員会(AEC、1974年廃止)、エネルギー研究開発庁(ERDA)等を前身組織として、1977年エネルギー省法に基づいて、1977年10月1日、連邦政府内の第12番目の省として設置された。現在、DOEは以下の5分野の目標を設定して、各分野で活動を展開している。
(1)エネルギー安全保障:米国のエネルギーセキュリティを、信頼性が高く、クリーンで経済的なエネルギーによって向上させる。
(2)核セキュリティ:米国における核セキュリティの確保
(3)科学的発見と技術革新:科学的発見、経済的競争力の強化と科学技術の革新による生活の質的向上
(4)環境上の責任:核兵器生産による負の環境遺産に対して責任ある解決法を提供することによって環境を保護する。
(5)管理の改善(マネジメントエクセレンス):健全な運営によって目的を達成する。
2009年1月に就任したチュー長官は特に、科学的発見と技術革新、クリーンで確実なエネルギー、経済的繁栄、核セキュリティという形で優先度を提示している。
図1 にエネルギー省の組織図を示す。冷戦終結後、連邦政府の財政赤字から、国の原子力関係組織のスリム化が行われた。エネルギー省については冷戦時代のピークと比べ、省自体と傘下の国立研究所群の職員数は1997年には半減された。その後も緩やかであるが減少が続いた。2009会計年度におけるDOEの職員数は16,207人、契約に基づく人員(国立研究所など)は約91,300人である。
原子力関係政府機関としてあった軍備管理軍縮局(ACDA:Arms Control and Disarmament Agency)は、1999年3月末をもって国務省に統合された。一方、エネルギー省内の核兵器研究所における不充分な
保障措置 と中国スパイ事件を契機に、DOEの再編およびそのための法案が議会で審議された。その結果、DOE内に半独立機関の設置を定めた「国家核兵器安全保障管理法」が上下両院を通過して1999年10月に発効し、この法律によって、2000年3月にDOE内に国家核安全保障庁(NNSA:National Nuclear Security Administration)が新たに発足した。なお、2003年2月の国土安全保障省の発足に伴い、DOE内の原子力事故対応チーム、生物化学核兵器対策計画および環境測定研究所等は新設の省に統合された。
エネルギー省は、連邦政府の省庁のなかで最も多い24の研究所および施設を傘下に置き、また、22の現地運営事務所を持ち、エネルギー、科学技術、環境、安全保障に関する研究開発を行っている。前述したように冷戦終結後、省自体と研究所群のリストラへの関心が政治課題として年を追って高まり、省の廃止と業務の他省庁への移管、民有化等の法案が議会に提出された。しかし、業務移管に伴う障害、安全保障に係る機密保護を維持する必要などから、この法案は議会を通過することはなかった。政府はこれを契機に一層の改革に取り組むことになった。DOEの予算規模は依然として大きく、2010会計年度(FY2010:2009年10月〜2010年9月)では約267億ドルであった。DOEが所管する主要研究所の予算・要員現況を
表2 に示す。
図2 にこれら国立研究所等の所在地を示す。
2.エネルギー省の活動
2011会計年度(FY2011:2010年10月〜2011年9月)の予算要求額や予算の推移をもとに、DOEの原子力研究開発関係の主な活動について述べる。
DOE全体のFY2011予算要求は、FY2010の歳出レベルと比べると約18億ドル(6.8%)増の総額284億ドルとなっている。DOEの主要な活動である4分野(管理向上を除く)についての予算要求は、国家安全保障分野が約134億ドル(13.5%増)、エネルギー分野が約42.1億ドル(0.5%減)、科学分野が51.2億ドル(4.4%増)、環境分野が62.4億ドル(2.5%減)となっている(
表3 参照)。
これらの4分野以外では、クレジット・プログラムの予算増が顕著であり、この増加は革新的技術への融資保証への予算増による。これはチュー長官の革新的技術重視の姿勢に対応していると考えられる。
2.1 原子力科学技術局の活動
原子力科学技術局関係(
図1 参照)は、FY2010の歳出予算と比べるとFY2011は約4.8%増の約84億2400万ドルとなっている(
表4 、
表5 参照)。
原子力科学技術局の活動は原子力関連予算および国防関連予算に基づいて行われており、研究開発の分野は原子力発電、セキュリティ、材料、システム、安全、廃棄物管理技術等広範である。これらの分野における活動の目的は、国家のエネルギー、気候変動、核不拡散に関する目標を達成し、また原子力インフラを安全に運営することである。
FY2011の主要な活動項目を以下に示す。(
表5 参照)
原子炉概念RD&D(研究開発および実証)は、FY2011の新たな要求予算である。これはGen IV原子力システム計画(NGNP、次世代原子力プラントプロジェクトを含む)を引き継ぐとともに、他の先進的原子炉概念の研究開発を行うための予算である。この項目には、既存軽水炉の寿命延長や小型モジュラー炉に関する研究開発も含まれる。
燃料サイクルR&Dは、燃料サイクルに関する手法と技術について、科学に基づく、結果重視の研究開発を行う予算で、例えば、高燃焼度・不活性マトリックス燃料等の先進型燃料の開発等が含まれる。使用済み燃料の長期の管理に不可欠の廃棄物管理に関する技術とオプションについての活動、またブルーリボン委員会に関連した活動も本項目の中で行われる。
NEET(原子力有効技術)計画は、最先端の応用可能な技術を開発するもので、上記の原子炉概念R&Dと燃料サイクルR&Dを支援・補完する。この予算では、DOEの指示に基づく研究開発のほか、競争方式の研究者の提案による研究開発も行われる。研究者の提案分野は、原子力発電、エネルギー転換、濃縮、燃料・燃料管理、廃棄物処分、核不拡散等の原子力に関するあらゆる分野を対象としている。
放射線施設管理予算はDOE傘下の重要施設を環境に適合しつつ、安全かつ低コストで運転するための費用である。特に、本予算にはNASAと共同で開発する
238 Puの生産能力を再確立するための予算(1500万ドル)が含まれている。
RE-ENERGYSE計画は、クリーン・エネルギー関連分野の学生を支援するもので、学部学生に対する1年間の奨学金、修士および博士課程の大学院生に対する3年間の奨学金である。なお、DOEはR&D予算の20%までを大学あるいは他の高等教育機関における研究に配算する方針を継続する。
国際原子力協力予算は、研究結果を国際的に共有するとともに、公的に承認された国際協定や民間原子力に係る事項について米国の関与を強化するものである。これらの活動はNNSA(国家核安全保障管理庁)および国際問題政策局と整合を取りつつ行われる。
アイダホ施設管理予算は、アイダホ国立研究所のサイト全体にわたる基盤を整備し、優先度の高い研究開発を支援する施設の保守・運転を確実にするための予算である。アイダホサイト核管理セキュリティ予算はアイダホサイトの施設、職員、公衆の安全の保持、核セキュリティの保障のための予算で、国防予算に仕分けされている。
2.2
放射性廃棄物 に関する予算
民間放射性廃棄物管理局の核廃棄物処分予算および国防核廃棄物処分予算はともにFY2011要求はゼロである。これはオバマ大統領が2009年5月にFY2010予算要求をヤッカマウンテン計画の終了のためと位置づけて要求したことによる。それ以降、DOEは同計画を整然と収束させるべくオプションを検討している。FY2010の予算残分は同計画の収束のために使用される。民間放射性廃棄物管理局はヤッカマウンテン・サイトの管理と修復の準備を進める。
2.3 科学局
核融合 エネルギー科学の予算
この予算は核融合エネルギー源の開発に必要な科学的基盤と超高温高密度の物質の基本的理解を確立するためのものである。科学局は高温磁気拘束プラズマについて世界的な研究計画を可能にする施設を運転するとともに、
ITER の設計・建設計画に参加している。FY2011予算にはITERの重要コンポーネントの開発、長期調達、人員およびITER組織への寄与分などが含まれる。また、ITER計画における優先事項の解決とITER設計・建設の物理的基盤を提供するため、DIII-D
トカマク 、Alcater C-Modeトカマク、NSTX(Natinal Spherical Torus Experiment)などの施設は継続して運転される。
(前回更新:2004年3月)
<図/表>
表1 アメリカ合衆国連邦政府行政機関
表2 エネルギー省主要9研究所の予算・要員現況
表3 エネルギー省の各事業分野予算要求
表4 エネルギー省資源エネルギー放射性廃棄物分野予算要求
表5 原子力科学技術関連の主要研究開発項目に係る予算
図1 米国エネルギー省(DOE)組織図
図2 米国国立研究所等の所在地
<関連タイトル>
アメリカの原子力発電開発 (14-04-01-02)
アメリカの原子力開発体制 (14-04-01-03)
アメリカの原子力安全規制体制 (14-04-01-04)
アメリカの核燃料サイクル (14-04-01-05)
米国DOEのNERI関連研究計画 (07-02-01-09)
<参考文献>
(1)米国政府公式ウェブポータル:
(2)2011会計年度DOE予算要求書:DOEホームページ
(3)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑2010年版、2009年10月、p.193-203
(4) 米国エネルギー省ホームページ(
http://www.energy.gov/ )および(
(5)米国国土安全保障省ホームページ(
http://www.dhs.gov/