<本文>
表1に米国における核燃料サイクル施設の状況を示す。
1.ウラン生産・精錬
米国のウランの埋蔵量は260ドル/kgU以下の既知資源量でみると、オーストラリア、カザフスタン、ロシア連邦、カナダに次いで世界第5位、472,100tUである(NEA/IAEA「レッドブック(2009年)」)。ウランの供給及び販売・調達は民間のウラン会社により行われているが、輸入ウランの方が安価であるため、ウラン需要の約90%を輸入で賄っている。輸入ウランの5分の1はスポット価格で、残りは長期契約価格で購入されている。
米国内のウラン生産は、発電所の建設ラッシュが続いた1980年に16,800tUに達した後、減少傾向にある。1998年以降はウラン価格の低迷や米国ウラン濃縮会社(USEC)による保有ウラン売却、ロシア高濃縮ウラン(HEU)供給契約で得たウランの売却、海外ウランとの競争などでさらに減少した。しかし、2004年に38.40$/kgU
3O
8であった平均ウランスポット価格が2007年には229.44$/kgU
3O
8に上昇したことから米国内におけるウラン鉱床の探鉱、開発や製錬作業が活発化した(
図1参照)。
2008年末時点、1箇所の米国ウラン精錬所(White Mesa)と4箇所のISL生産センター(Crow Butte(ネブラスカ州)、Smith Ranch-Highland(ワイオミング州)、Alta Mesa(テキサス州)及びLa Palangana(テキサス州))でイエローケーキが生産され、合計生産能力は6,524tUであったが、有望な新鉱床の探鉱開発を行う動きは、アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、モンタナ、ネブラスカ、ネバダ、ニューメキシコ、オレゴン、サウスダコタ、テキサス、ユタ、ワイオミングの各州で起こっている。
図2に米国における主要ウラン鉱床地域マップを示す。
また、米国とロシア連邦は1992年10月16日、20年にわたる核兵器級高濃縮ウラン(HEU)500tを低濃縮ウラン(LEU)に希釈する契約(高濃縮ウラン売買契約)を結んでいる。米国ではUSEC社のみがロシア連邦からHEUの供給を受け、販売することが可能であり、天然ウラン成分は西側企業3社(Cameco、Cogema、Nukem)とロシア連邦のTechsnabexportとの間で結ばれた通商協定によって販売される。HEU契約は2013年に満了するが、2011年3月、USECはロシアTenex(Techsnabexport)との間で2013年から2022年まで2,100tSWU供給する契約に調印している。
2.転換
民生用の転換工場はイリノイ州メトロポリスのAllied-Signal and Sequoyah Fuel社のコンバーダイン(ConverDyn )工場でU
3O
8からUF
6への転換を行っており、年間生産容量は17,600tUである。2020年までに23,000tUまで拡張する予定である。
3.濃縮
米国の濃縮事業は民間会社USEC社によって行われている。USEC社は1992年10月のエネルギー政策法(NEPA)に基づき米国エネルギー省(DOE)のウラン濃縮部門を引継ぐ形で、1993年7月から合衆国濃縮公社(United States Enrichment Corporation:USEC)として事業を開始した。1998年7月には、民営化のための戦略計画の一環として政府保有株が売却された。現在、USEC社は連邦政府財産のオハイオ州ポーツマス(Portsmouth:約7,400tSWU/年、待機中)とケンタッキー州パデューカ(Paducah:約11,300tSWU/年)の2つのガス拡散濃縮工場(GDP)をDOEから借用する形で運転している。米国の濃縮技術開発は1980年代半ばまで遠心分離技術が、のちに原子蒸気
レーザー同位体分離(AVLIS)の技術開発が進められたが、USEC社が財政難に陥ったため、1999年6月にAVLIS開発を中止し、コスト削減からパデューカ工場のみを運転、ロシア核解体高濃縮ウラン(HEU)の購入コストを削減($90/kgSWU程度)することで、財政基盤を立て直した。
なお、2000年以降の活発な原子力の導入計画、開発規模の拡大から、ウラン燃料の需要拡大が予想され、濃縮工場の新規建設が進められている。
2002年6月にはUSEC社とDOEの共同で遠心分離法を採用した新型プロジェクト(ACT開発)をポーツマスで計画しており、2012年から3,800tSWU/年のフル操業を目指している。
また、欧州濃縮事業者Urenco(ウレンコ:イギリス、オランダ、ドイツ)は米国市場へ参入が許可され、2002年に米国の4企業(Westinghouse、Duke Power、Entergy、Exelon)との合弁でルイジアナ・エナジー・サービシーズ社(LES)を設立し、Urencoの遠心分離技術を用いて濃縮施設(Urenco USA)を建設した。
LES社はニューメキシコ州EuniceにNEF(National Energy Facility)を建設し、2010年6月から3,000tSWU/年で操業している。NEFはオランダAlmeloの最新型プラントSP5のデザインを採用したもので、最終的には5,900tSWU/年まで設備を拡張する予定である。
4.
再転換・成型加工
2012年1月現在、民間会社4社、フランスAREVA(アレバ)社(バージニア州リンチバーグとワシントン州リッチランド)、Westinghouse社(サウスカロライナ州コロンビア)とGE社(ノースカロライナ州ウィルミントン)、B&W社(バージニア州リンチバーグ)がペレット製造及び燃料集合体の製造を行っている。
再転換施設としては、AREVA社とDuratek、Energy Solutions、Burns & Roeの合弁企業であるUranium Disposition Services(UDS)社がオハイオ州のポーツマスとケンタッキー州のパデューカに建設する契約を、2002年にDOEと締結した。ポーツマス工場は2010年半ばから13,500t/年で、パデューカ工場は2010年12月から18,000t/年で低濃縮ウランUF
6の受入れを開始した。また、UO
2への転換作業はB&W転換サービス社が請負うことでDOEと2010年12月に合意している。
5.再処理
米国では1977年のカーター政権時代に、核不拡散上の懸念から商業的再処理を禁止する政策が決定された。しかし、2001年5月にブッシュ政権が「新国家エネルギー政策」を発表したことで、先進的核燃料サイクル技術の開発を目指す「国際原子力エネルギーパートナーシップ(GNEP)」構想が打出された。米国を中心に原子力先進諸国がコンソーシアムを結成し、濃縮・再処理技術を放棄した諸国に対して発電用の核燃料を供給するとともに、
使用済燃料の引取りを行う提案であった。しかし、政権の交代によって先進的核燃料サイクルに関連する技術開発計画は大幅に縮小され、現在は国際協力研究活動を中心に進める方針へ変更した。
6.廃棄物の処理・処分
米国における廃棄物カテゴリーは大きく分類してLLW(低レベル放射性廃棄物)とHLW(高レベル放射性廃棄物)からなる。LLWは含有核種(長寿命、短寿命の核種)と濃度によってクラスA、B、Cに分類される。放射性核種濃度はクラスA、B、Cの順に高くなる。
クラスA:雑固体廃棄物。ドラム缶、金属箱等に収納。浅
地層処分(トレンチ)。
クラスB:イオン交換樹脂等。300年間耐用の高健全性容器に収納。浅地層処分(ピット)。
クラスC:チャンネルボックス、制御棒等。5m以上の地下ピット。要侵入者防止策。
GTCC(クラスCを超える):炉心近くの炉内構造物。HLWと共にサイト内貯蔵。最終処分。
なお、廃棄物の輸送は運輸省(DOT)、原子力規制委員会(
NRC)等が関係所轄官庁である。
6.1 低レベル放射性廃棄物の処理・処分
原子力発電所から発生した低レベル放射性廃棄物は、1946年から1970年まで太平洋及び大西洋で
海洋投棄を行っていたが、現在では中止され、バーンウェル(サウスカロライナ州)(
表2及び
図3参照)、リッチランド(ワシントン州)、WCSテキサス(テキサス州)、ビーティ(ネバダ州)(1992年末受入れ停止)、及びクラスA廃棄物のみ処分可能なクライブ(ユタ州)において浅地埋設処分が実施されている。
1980年に制定された「低レベル放射性廃棄物政策法」では、地域的なコンパクト(州間協定)の設立を促しており、現在10番目のコンパクトが設立され、ほとんどの州がいずれかのコンパクトに加盟している(
図4参照)。なお、エネルギー省関係施設から発生する低レベル放射性廃棄物は、連邦政府運営の処分施設で陸地処分を行っている。
6.2 高レベル放射性廃棄物の処理・処分
米国では使用済燃料の再処理を行わない政策を採用しているため、発電用
原子炉等で発生した使用済燃料、核兵器開発・製造や再処理施設で発生した高レベル放射性廃棄物の地層処分場の準備として1982年に放射性廃棄物政策法(1987年修正)が制定された。この法律に従い、エネルギー省(DOE)は最終処分場候補地としてネバダ州ユッカマウンテン(Yucca Mountain)の特性調査を進め、2002年7月には連邦議会で立地が承認された。2020年からの操業開始を目指して、2008年9月以来、処分場の建設許可に関する安全審査が原子力規制委員会(NRC)で行われていた。しかし、地元ネバダ州の了解が得られなかったため、DOEは2010年3月に許認可申請の取下げ申請を行い、米国の長期的高レベル放射性廃棄物の管理戦略を見直すことになった。
なお、米国の典型的な商業用発電炉が1年間に発生する使用済燃料は20MT(重金属換算)、米国全土では2,000〜2,300MTに達する。2010年12月末時点、35州、80箇所、65,200MTの使用済燃料が使用済燃料プールまたは乾式貯蔵サイトで一時保管されているほか、DOE管理の使用済燃料2,500MTが研究所等で一時保管されている(
図5参照)。
6.3 TRU廃棄物の処理・処分
ニューメキシコ州カールスバッド近傍の極度に水分の少ない岩塩層に建設された廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP:Waste Isolation Pilot Plant)は、核兵器開発の過程で生じた超ウラン核種を含むTRU廃棄物(3.7GBq/t以下)を地層処分するための施設である(
図6参照)。1999年3月に最初の廃棄物の受入れを開始して以来、2010年10月までにロスアラモス、アイダホ、ロッキーフラッツ、サバンナリバー、ハンフォード研究所など17箇所のサイトから9000回以上の搬送が行われ、70,800m
3(200リットルドラム換算で35万4千本)以上の廃棄物がWIPPで処分されている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
米国のウラン鉱山 (04-03-01-06)
アメリカの再処理施設 (04-07-03-11)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(3)−アメリカ編− (05-01-03-09)
米国における放射性廃棄物処理・処分の現状 (05-01-03-27)
低レベル放射性廃棄物対策の現状(州間協定に基づく処分場開発の状況) (14-04-01-15)
米国の余剰プルトニウム処分計画 (14-04-01-26)
米国における先進的燃料サイクルイニシアティブ (14-04-01-30)
国際原子力パートナーシップ(GNEP)構想 (14-04-01-44)
<参考文献>
(1)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック 2011年版(2011年9月)、p.208-209
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2011年版(2010年10月)、p.178、182-185および2012年版(2011年10月)、p.201-202
(3)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における放射性廃棄物関連の施設・サイトについて(2011年3月)、米国、
(4)国際原子力機関(IAEA):核燃料サイクル情報システム(NFCIS)、
(5)米国原子力規制委員会(NRC):Nuclear Materials Facilities (by Location or Name)、
http://www.nrc.gov/info-finder/materials/及びLow-Level Waste Compacts 、
http://www.nrc.gov/waste/llw-disposal/licensing/compacts.html
(6)OECD/NEA:Uranium: Resources, Production and Demand 2009(2010年7月)
(7)米国原子力エネルギー協会(NEI):
(8)世界原子力協会(WNA):US Nuclear Fuel Cycle、
(9)米国エネルギー省エネルギー情報管理局(EIA):
http://www.eia.doe.gov/nuclear/、
http://www.eia.gov/uranium/production/annual/pdf/umine.pdf、
、
http://www.wipp.energy.gov/library/Information_Repository_A/Class_1_Permit_Modifications/Class_1_New_Permit_Corrections_12_27_10_Rev_15.pdf
(10)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック(1998年11月)