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<概要>
 (独)日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」)は、2001年の特殊法人等整理合理化計画により2005年に日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構を統合して発足した。原子力機構の事業の目的は、原子力や放射線に関する基礎研究及び応用研究、核燃料サイクル技術、核燃料技術と使用済燃料再処理技術、高レベル放射性廃棄物の処理・処分の技術開発等とともに、その成果の普及を図り社会の福祉及び国民生活の向上に寄与することである。これらの目的の達成のため、2010〜2014年度(平成22年〜26年度)の第二期中期計画では、1)エネルギーの安定供給と地球温暖化対策を目指す高速増殖炉サイクル技術、核融合エネルギー、高レベル放射性廃棄物の処分等の研究開発、2)量子ビーム(放射線)の科学・技術と利用、3)原子力の安全と核不拡散、4)研究施設の廃止とその放射性廃棄物の処理処分、5)原子力機構が保有する技術と約2000件の特許等の活用を図る「知財活用」、「施設利用」及び「共同研究」を含む産学連携を進めている。2011年(平成23年)の東北地方太平洋沖地震により事業計画を一部変更したものがある。また、この地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故に対応して、新たに福島技術本部を設け情報・技術支援を開始した。また、原子力緊急時支援・研修センターは、健康相談、放射線モニタリング、一次立入、資機材の提供、研修・講演等で被災地を支援している。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
1.設立の経緯
 日本の原子力研究と技術開発及び利用は、大きく二つの流れに分かれる。第一は研究と技術開発が目的の流れであり、旧文部省と旧総理府の外局であった旧科学技術庁が担った。第二の流れは旧通産省と電力業界の流れである。
 表1に主に旧科学技術庁の原子力研究開発の経緯を示す。1951年のサンフランシスコ講和条約の締結から、日本は自主、民主、公開の三原則の下に平和目的の原子力利用を進めることになり、1955年原子力基本法が制定され1956年に原子力委員会が発足した。(特)日本原子力研究所(以下「原研」)は原子力基本法の制定を受けて1956年に発足した。同年、原子燃料公社が、1955年に発見された人形峠のウラン鉱精錬のため発足した。
 1967年に、原子燃料公社が改組され(特)動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃事業団」)が発足し、核燃料サイクル関連の技術開発を中心的に進めた。一方、原研は、科学・技術的研究開発、原子力の安全・規制、放射線利用、核融合研究等を分担した。1985年に原研は日本原子力船研究開発事業団を統合し、動燃事業団は、1998年に組織改正を経て(特)核燃料サイクル開発機構に改称した。
 2001年(平成13年)の中央省庁再編に伴い、旧文部省と旧科学技術庁は統合され文部科学省となった。旧科学技術庁の傘下にあった(特)日本原子力研究所と(特)核燃料サイクル開発機構は、2001年の特殊法人等整理合理化計画により2005年に統合され、(独)日本原子力研究開発機構(Japan Atomic Energy Agency;JAEA)が発足した。
2.目的と組織
2.1 方針と目的
 (独)日本原子力研究開発機構の基本方針は、平和目的に限り、安全を確保しながら、民主的な運営の下に、自主的に原子力の科学研究及び利用技術開発を進め、その成果を公開し、国際協力に資する事である(原子力基本法 第2条)。
 業務の目的は、原子力に関する基礎研究及び応用研究、核燃料サイクルを確立するため高速増殖炉、その核燃料と使用済核燃料の再処理技術、高レベル放射性廃棄物の処理・処分等に関する技術開発とともに、その成果の普及を図り人類社会の福祉及び国民生活の水準向上に寄与することである(日本原子力研究開発機構法:原子力機構法、第4条)。
2.2 組織
 図1に組織を示す。理事会は理事長、副理事長及び7人の理事で構成される。職員数は3,950人で、研究開発は、8分野の「研究開発部門」及び13の「研究開発拠点」のマトリックス構造になっている。研究開発に共通する業務は13の「事業推進部門」にまとめられている。このうち、福島技術本部は、2011年3月11日の震災に続く福島第一原子力発電所の事故に対応するため設けられた。図2に研究開発拠点等を示す。原子力機構の本部は茨城県東海村にある。
3.研究開発の概要
 平成22〜26年度の5年間の第二期中期計画が公表されている。原子力機構の研究開発分野は、原子力委員会が策定した「原子力政策大綱」、原子力安全委員会が策定した「原子力の重点安全研究計画」等に基づいて、基礎・基盤研究からプロジェクト研究開発までを包含している。また、原子力の安全、核物質の防護や核不拡散のための技術開発、人材の育成等にも取り組む。
3.1 エネルギーの安定供給と地球温暖化対策を目指す原子力システムの研究開発
(1)高速増殖炉サイクル技術の確立に向けた研究開発
 ウラン資源の大幅な有効活用が期待される高速増殖炉サイクルを確立するため、2025年(平成37年)頃までに実証炉を実現し、2050年(平成62年)頃からの商業化に向けた研究開発を進める。高速増殖原型炉「もんじゅ」について、本格運転を開始し、その信頼性を実証しナトリウム取扱技術の確立を図る。
(2)高レベル放射性廃棄物の処分技術に関する研究開発
 高レベル放射性廃棄物の地層処分の実現に向け、超深地層研究所計画と幌延深地層研究計画に基づき、処分関連の調査研究を進め、技術の信頼性の向上を図り、処分事業と国による安全規制を支える技術基盤を整える。
(3)核融合エネルギーを取り出す技術システムの研究開発
 国際熱核融合実験炉(ITER)計画を進めるため、ITER機構への人材提供、ITER関連機器の調達、ITER建設活動等に取り組む。また、ITER計画を補完する研究開発、原型炉に向けた最先端研究等を進める。
3.2 量子ビームの科学技術と産業利用の研究開発
 量子ビーム(放射線)施設の整備とビーム技術の研究開発では、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と協力して大強度陽子加速器(J-PARC)の開発・利用を進める。また、研究炉による中性子利用技術、荷電粒子・RI利用技術、光量子・放射光利用技術等の高度化を図る。量子ビームを応用した先端的な研究開発では、環境・エネルギー、物質・材料科学、生命科学等の分野における利用促進のため、利用技術の開発、技術の普及と応用領域の拡大を目指す。
3.3 エネルギー利用に関する技術の高度化
 原子力エネルギーの利用技術について、再処理、原子炉を利用する水素製造技術、核工学、炉工学、照射材料科学、アクチノイド・放射化学、環境科学、放射線防護、計算科学技術、分離変換技術等の分野の研究開発を進める。
3.4 原子力の安全と核不拡散に関する貢献
(1)原子力の安全規制に対する技術的支援
 原子力安全規制行政を技術的に支援する。このため、原子力安全委員会の「原子力の重点安全研究計画(第2期)」に貢献する安全研究を進める。あわせて、原子力施設等の事故・故障の原因の究明等、安全の確保に貢献する。
(2)原子力防災等に対する技術的支援
 原子力災害対策に貢献するため、地方公共団体が設置したオフサイトセンターの活動に協力する。原子力緊急時支援・研修センターを運営する。
(3)核不拡散政策に関する支援活動
 核物質管理技術の向上と核不拡散政策を支援するため、我が国の核不拡散政策の支援、保障措置技術開発、包括的核実験禁止条約(CTBT)の検証技術の開発、放射性核種に関するCTBT国際監視観測所、公認実験施設及び国内データセンターの整備・運用等を継続する。
3.5 原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物の処理処分の技術開発
 原子力機構の研究目的を終了した原子力施設を廃止し、放射性廃棄物を独自に処理処分する必要がある。このための技術開発を進め将来のコストの低減を図る。
4.産学連携
 国は、国立研究所や大学に多額の資金と人材を投入し、民間では実施が困難な基礎的研究や技術開発を進めている。その成果の実用化を図ることは、投下された資金の回収、世界的技術競争での優位性確保、社会の要求拡大に応えその急速な発展を促す基にもなる。
 原子力機構では、その窓口となる産学連携推進部を設置し、企業との新製品開発や大学との「共同研究開発」、原子力機構が保有する技術と約2000件の特許等の活用を図る「知財活用」、及び外部の研究開発者が17の先端的大型研究施設を利用する「施設供用」の3事業を進めている。
5.東北地方太平洋沖地震の影響と被災地支援
 平成23年度の研究開発計画には、震災による施設設備の被災状況が明らかとなり、事業計画を一部変更したものがある。また、補正予算の成立により被災地の復旧及び安全対策等の業務が年度計画に織り込まれた。
 高速増殖炉サイクル実用化研究開発については、震災復旧・復興事業に充てる財源確保のため、予定していた高速増殖炉サイクル実用化研究開発(「FACTプロジェクト」)のフェーズIIへの移行は見送られた。また、損壊したITER関連機器の復旧を進める。大型研究施設J-PARC の施設・設備は復旧を急遽進め、平成24年1月24日から供用可能となった。そのほか、RI・核燃料施設は、放射性物質等の閉じこめ機能の確認と回復が進められている。
 福島第一原子力発電所の事故に対応して、情報提供と解説、放射能汚染の調査と除染支援、放射性廃棄物と事故原子炉の燃料の処理・処分に関する検討等のため福島技術本部が設けられた。また、原子力緊急時支援・研修センターは、平成23年12月末までに、放射線モニタリングに延べ5,841人で対応、「健康相談ホットライン」では延べ4,266人で約3万件の問い合わせに対応、一時立入プロジェクトには延べ4,331人を派遣した。その他、モニタリング車、移動式全身計測車、サーベイメータ、個人被ばく測定器等の資機材の提供、放射線防護に関する研修・講演等の活動が行われた。
<図/表>
表1 (独)日本原子力研究開発機構の創設までの経緯
表1  (独)日本原子力研究開発機構の創設までの経緯
図1 組織
図1  組織
図2 研究開発などの拠点
図2  研究開発などの拠点

<関連タイトル>
日本の原子力エネルギー政策 (01-09-06-02)
日本における高速増殖炉開発の経緯 (03-01-06-01)
原子力船「むつ」開発の概要 (07-04-01-01)
核融合炉開発の展望 (07-05-01-04)
日本における原子力行政の新体制(2001年) (10-04-01-01)
動力炉・核燃料開発事業団(PNC) (13-02-01-12)
高エネルギー加速器研究機構 (13-02-01-31)
日本の主な原子力関連機関一覧 (13-02-02-01)
日本の原子力発電開発の歴史 (16-03-04-01)
日本の再処理開発の歴史 (16-03-04-03)

<参考文献>
(1)日本原子力研究開発機構、ホームページ、機構の紹介、法令等
独立行政法人 日本原子力研究開発機構法
(2)日本原子力研究開発機構、ホームページ、機構の紹介、中期目標‐事業計画
第二期中期目標:「独立行政法人日本原子力研究開発機構が達成すべき業務運営に関する目標」、http://www.jaea.go.jp/01/pdf/mokuhyou22.pdf
(3)日本原子力研究開発機構、ホームページ、機構の紹介、中期目標‐事業計画
第二期中期計画:「独立行政法人日本原子力研究開発機構の中期目標を達成するための計画」、http://www.jaea.go.jp/01/pdf/keikaku22.pdf
(4)日本原子力研究開発機構、ホームページ、機構の紹介、沿革
http://www.jaea.go.jp/01/1_4.shtml


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