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<概要>
 2001年に中央省庁の再編成が行われ、原子力行政も再編成された。1999年に起きたJCO燃料加工施設臨界事故に鑑み、特に安全行政の強化が図られた。原子力発電所とこれにかかわる一連の核燃料サイクル施設については経済産業省が安全規制に責任を持つことになり、このため経済産業省に「原子力安全・保安院」が設置された。試験研究用の原子炉・研究段階にある原子炉(発電用は除く)は文部科学省が責任を持つことになった。このように各省の設置法が改正され、また「原子炉等規制法」も改正されて、一貫した統合的な原子力行政が行われることになった。原子力安全行政を中心に2001年1月6日以降の原子力行政の新体制について述べる。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている原子力安全規制行政の考え方や具体的な指針についても見直しや追加が行われる可能性がある。なお、原子力安全・保安院および原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2004年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 2001年1月6日に行政改革にともなう中央省庁再編成が行われ、原子力行政も再編成された。その際、1999年に起きたJCO燃料加工施設臨界事故に鑑み、特に安全行政の強化が図られた。原子力発電所とこれにかかわる一連の核燃料サイクル施設については経済産業省が安全規制に責任を持つことになり、このため経済産業省に「原子力安全・保安院」が設置された。。(注:原子力安全・保安院は原子力安全委員会とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足し、事務局の原子力規制庁がその役割を継承している。)また試験研究用の原子炉・研究段階にある原子炉(発電用は除く)ついては文部科学省が責任を持つことになった。各省の設置法が改正され「原子炉等規制法」も改正されて、一貫した統合的な原子力行政が行われるようになった。以下では原子力安全行政を中心に2001年1月6日以降の行政の所掌について述べる。
 図1に省庁再編成後の原子力行政体制を示す。表1に文部科学省の所掌を、図2に文部科学省の原子力関係組織を示す。表2に資源エネルギー庁の所掌を、図3に省庁再編後の原子力規制体制を、図4に経済産業省資源エネルギー庁と原子力安全・保安院の組織を示す。図5に実用発電用原子炉施設の規制の流れを、図6に研究開発段階の発電用原子炉施設の規制の流れを、図7再処理事業の事業申請から運転までの規制の流れを、図8に試験研究用および研究開発段階の原子炉施設(発電用を除く)の規制の流れを示す。
1.原子力委員会と原子力安全委員会
 原子力委員会と原子力安全委員会は内閣府に移管された(図1)。とくに原子力安全委員会は事務局機能が強化され、総務課、審査指針課、管理環境課及び規制調査課が設置された(図3)。
2.経済産業省と原子力行政
 資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課の所掌は(表2)、エネルギーに関する原子力政策、エネルギーとしての利用に関する原子力の技術開発(核燃料サイクル産業課の所掌に属するものを除く)、経済産業省所掌の原子力に係る廃棄の事業の発達、改善及び調整、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)の組織及び運営一般、である。核燃料サイクル産業課の所掌は、核原料物質及び核燃料物質の安定的かつ効率的な供給の確保、核原料物質及び核燃料物質に関すること(原子力政策課の所掌に属するものを除く)、エネルギーとしての利用に関する核原料物質及び核燃料物質に係る技術開発、である。
 経済産業省設置法(平成11年7月16日法律第99号)第4章第2節第3款によると、原子力安全・保安院は(図4)、原子力その他のエネルギーに係る安全及び産業保安の確保を図るための機関である。所掌は、原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに発電用原子力施設に関する規制、これら事業及び施設の安全確保、エネルギーとしての利用に関する原子力の安全の確保、これら所掌に係る国際協力である。
3.文部科学省と原子力行政
 文部科学省設置法(平成11年7月16日法律第96号)で所掌が定められている。新たに発足した文部科学省は9局と外局の文化庁から成る。原子力に関係する所掌は、科学技術・学術政策局、研究振興局、研究開発局の三局が担当している。科学技術・学術政策局の原子力安全課の所掌は、国際的合意に基づく保障措置の実施のための規制、試験研究の用に供する原子炉及び研究開発段階にある原子炉並びに核原料物質及び核燃料物質の使用に関する規制、原子力の安全の確保のうち科学技術に関するもの、放射線による障害の防止に関すること、放射能水準の把握のための監視及び測定に関すること、放射線審議会の庶務に関すること、である。
 研究振興局の量子放射線研究課の所掌は、原子力に関する科学技術(量子の研究に係るものに限る)及び放射線発生装置に係るもの、放射線の利用に関する研究開発、放射性同位元素の利用の推進、放射線による障害の防止に関する研究開発、文部科学省の所掌に係る原子力関連施設の廃止措置並びに当該施設から発生する放射性廃棄物の処理及び処分に関すること、高エネルギー加速器研究機構における教育及び研究、放射線医学総合研究所の組織及び運営一般、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の組織及び運営一般、である。
 研究開発局の原子力課の所掌は、原子力科学技術に関する基本的な政策の企画及び立案並びに推進、原子力科学技術研究開発に関する計画の作成及び推進、原子力科学技術に関する関係行政機関の事務の調整、原子力科学技術に関する関係行政機関の経費の見積りの方針の調整、基盤的研究開発に関する事務のうち原子力科学技術に係るもの(研究振興局及び核燃料サイクル研究開発課の所掌に属するものを除く)、原子力技術開発で科学技術の水準の向上を図るためのものに関すること、原子力政策のうち科学技術に関するもの(研究振興局及び核燃料サイクル研究開発課の所掌に属するものを除く)、原子力に関する関係行政機関の試験及び研究に係る経費その他これに類する経費の配分計画、原子力損害の賠償、原子力に関する研究者の養成及び資質の向上、原子力技術者の養成及び資質の向上に関すること(文部科学省に置かれる試験研究機関及び文部科学大臣が所管する法人において行うものに限る)、文部科学省の所掌事務に係る原子力の平和的利用の確保に関する事務の総括、文部科学省の所掌事務に係る国際協力に関する事務のうち原子力に係るもの、核融含科学研究所における教育及び研究に関すること(予算案の準備に関することを除く)、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)及び核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)の業務の検査に関すること、である。
 核燃料サイクル研究開発課の所掌は、基盤的研究開発に関する事務のうち核燃料サイクルに係るもの、原子力技術閉発で科学技術の水準の向上を図るためのもののうち核燃料サイクルに係るもの、原子力政策に関する事務のうち、核燃料サイクルに係るもの、である。
4.原子力安全規制行政
 原子力安全規制に係る所掌は「原子炉等規制法」に規定されている。また、各省庁の設置法でも原子力関係の所掌が具体的に定められている。省庁再編に伴い、原子炉等規制法の規定に基づく安全規制を担当する行政庁(省)が次のとおりとなった。
 製錬事業については、原子炉等規制法の第2章の規定により、一貫して経済産業大臣(事業の指定)が規制する。加工事業については、第3章の規定より、経済産業大臣(事業の許可)になった。原子炉の設置、運転等については、第4章の規定により、発電の用に供する原子炉(実用発電用原子炉)については、経済産業大臣(設置の許可)になった。また、実用舶用原子炉については、国土交通大臣(設置の許可)になった。試験研究の用に供する原子炉は、文部科学大臣(設置の許可)になった。発電の用に供する原子炉で研究開発段階にあるもの(研究開発段階炉)については、経済産業大臣(設置の許可)になった。発電以外の用に供する原子炉で研究開発段階にある原子炉については、文部科学大臣(設置の許可)になった。使用済燃料の貯蔵事業については、第4章の2の規定により、経済産業大臣(事業の許可)になった。
 再処理事業については、第5章の規定により、経済産業大臣(事業の指定)になった。ただし、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)及び核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)については「事業の承認」となっている。廃棄事業(廃棄の種類:廃棄物埋設、廃棄物管理)については、第5章2の規定により、経済産業大臣(事業の許可)になった。製錬、加工、再処理の各事業者及び原子炉の設置者以外の核燃料物質等の使用については、第6章の規定により、文部科学大臣(使用の許可)になった。ただし、放射能濃度及び数量が限度を超える核原料物質の使用については、「使用の届出」となっている。放射性物質の運搬については、第6章の規定により、運搬物については主務大臣(輸送物設計と容器の承認)が規制し、輸送方法については国土交通大臣(方法が基準に適合することの確認)が規制する。「放射性同位元素」(RI)又は「放射線発生装置」の使用、RIの販売業、賃貸業、RIまたはRIによって汚染された物の廃棄業については、「放射性同位元素等による放射線障害防止に関する法律」(放射線障害防止法)の規定により、一貫して文部科学大臣(使用及び販売等の業の許可)が規制する。
 なお、主務大臣がどの原子力施設を規制するかは以下の観点からである。
○文部科学大臣:試験研究炉、研究開発段階炉(発電用以外)、RI等施設。
○経済産業大臣:実用発電炉、研究開発段階炉(発電用)、製錬・加工・貯蔵・再処理の各施設。
○国土交通大臣:実用舶用原子炉。
5.原子力安全規制体制の強化
 図9に原子力安全規制の見直しを、図10に原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構の役割分担を示す。2002年8月ごろから電力会社による原子力発電所の自主点検の不正等の発覚が続いたため、原子力安全規制の見直しが行われ、法令も整備された(電気事業法と原子炉規制法の一部改正、2003年10月1日から)。原子力安全委員会の機能が強化され(四半期ごとの報告受領、調査権限の拡大等、2003年4月から)、経済産業大臣(実質は「原子力安全・保安院」)による安全規制のルール強化・品質保証の確立、組織的不正への罰則強化、申告制度の運用改善が実施されることになった。また自主検査実施体制の審査のため(独)原子力安全基盤機構が設立された。
<図/表>
表1 文部科学省の所掌
表1  文部科学省の所掌
表2 資源エネルギー庁の所掌
表2  資源エネルギー庁の所掌
図1 省庁再編後の原子力行政体制
図1  省庁再編後の原子力行政体制
図2 文部科学省の原子力関係組織
図2  文部科学省の原子力関係組織
図3 省庁再編後の原子力規制体制
図3  省庁再編後の原子力規制体制
図4 経済産業省資源エネルギー庁と原子力安全・保安院の組織
図4  経済産業省資源エネルギー庁と原子力安全・保安院の組織
図5 実用発電用原子炉施設の規制の流れ
図5  実用発電用原子炉施設の規制の流れ
図6 研究開発段階の発電用原子炉施設の規制の流れ
図6  研究開発段階の発電用原子炉施設の規制の流れ
図7 再処理事業の事業申請から運転までの規制の流れ
図7  再処理事業の事業申請から運転までの規制の流れ
図8 試験研究用および研究開発段階の原子炉施設(発電用を除く)の規制の流れ
図8  試験研究用および研究開発段階の原子炉施設(発電用を除く)の規制の流れ
図9 原子力安全規制の見直し
図9  原子力安全規制の見直し
図10 原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構の役割分担
図10  原子力安全・保安院と原子力安全基盤機構の役割分担

<関連タイトル>
原子力安全委員会 (10-04-03-01)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)
文部科学省と原子力行政 (10-04-05-01)
経済産業省と原子力行政 (10-04-06-01)
国土交通省と原子力行政 (10-04-07-01)

<参考文献>
(1)北岸達郎:新しい原子力行政体制と展開、原子力eye4月号、日刊工業出版プロダクション、p.15-19
(2)原子力安全委員会(編・発行):第3編第1章「原子力施設等に対する安全規制体制」、原子力安全白書平成12年版(平成13年3月)p.117-158
(3)科学技術庁原子力安全局(監修):「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」、原子力規制関係法令2000年版、(株)大成出版社(2000年6月8月)、p.27-161
(4)内閣中央省庁等改革推進本部事務局(編):新府省庁ガイドブック 中央省庁の仕事と組織、財務省印刷局(2001年2月5日)、p.39、p.56
(5)中央省庁改革研究会(編):中央省庁再編ガイドブック−新旧両引き−、(株)ぎょうせい(2000年10月25日)、p.94-111、p.154-171
(6)経済産業省:機構・組織、資源エネルギー庁
(7)法庫のホームページ:「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」
(8)ホームページRONの六法全書:「文部科学省設置法」(http://www.ron.gr.jp/law/law/monbusyo.htm
(9)首相官邸:「経済産業省設置法」(http://www.kantei.go.jp/jp/cyuo-syocho/990427honbu/sankei-h.html
(10)原子力安全・保安院:原子力発電所の検査・点検等の不正問題への対応に係る法律改正案について、p.3
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