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<概要>
 原子力船の研究開発は、内閣総理大臣及び運輸大臣が定めた「日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の原子力船の開発のために必要な研究に関する基本計画」に沿って進められている。
 昭和49年、太平洋上で行われた出力上昇試験において放射線漏れが発生、以来研究開発が大きく遅れた。その後、遮へい[遮蔽]改修工事並びに安全性総点検及びそれに基づく補修工事を行い、 新定係港の建設、「むつ」に対する所要の整備、点検、試験等の実施を経て、平成2年3月から12月にかけて出力試験・海上試運転を実施し平成3年2月、我が国初の原子力船として完成した。平成3年度には種々の海象条件における実験航海を実施し、これらの条件が原子炉に与える影響に関する多くのデータを得た。その後、平成8年度までに、「むつ」を解役し、使用済燃料を陸揚げした後、原子炉室を一括撤去した。船体は海洋科学技術センター(当時)に引き渡され、同センターにより大型海洋観測船に改造された。使用済燃料は東海研究所に輸送され、平成17年3月現在、再処理を行うための燃料集合体解体再組立作業中である。
<更新年月>
2005年04月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子力船「むつ」研究開発の目的と意義
 原子力船「むつ」の研究開発は、昭和60年3月に内閣総理大臣及び運輸大臣によって定められた「日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の原子力船の開発のために必要な研究に関する基本計画」に沿って進められている。研究開発スケジュールを図1に示す。
 その基本方針は、我が国における原子力船に関する技術、知見、経験等の蓄積、涵養を図るため段階的かつ着実に原子力船の研究開発を進めることであり、この一環として、原子力船「むつ」により、海上における実験データ、知見を得ることとされている。これは(1) 原子力船が、在来船では困難と見込まれる船舶の大出力化、高速化、長期連続運航、水中航行等を実現できるという特長を有しており、将来、砕氷船、深海潜水調査船等、原子力船の長所を活かせる分野において、海上輸送の高度化や、深海調査・開発の発展に大きく貢献する可能性があると考えられること(図2参照)、
(2) 四方を海に囲まれ、海外との貿易に大きく依存しつつ、国民生活、経済活動を支えていかなければならない我が国としては、原子力船について、将来必要が生じた時点に適切な対応ができる程度にまで技術、知見、経験等の蓄積・涵養を図る必要があること、
(3) また、一方で、原子力船の研究開発は、小規模な発電、熱供給等を目的とする小型動力炉あるいは海上原子力発電プラントに関する技術と共通する課題を有していることから、これらの研究開発に貢献することが期待されること、
によるものであり、このため、「むつ」を使って、陸上では得難いデータ、経験を蓄積し、将来に備えることとしている。
2.「むつ」研究開発の経過
 研究開発の主要経過を表1−1表1−2および表1−3に示す。また図3に原子力船「むつ」配置説明図を示す。この原子力船の研究開発において重要な位置を占める原子力船「むつ」は、昭和44年に進水した後、核燃料の装荷等を経て、昭和49年、洋上にて初臨界を達成したが、原子炉出力約1.4 %で放射線漏れが発生、その後、昭和53年から57年にかけて、長崎県佐世保において遮へい改修工事等を実施した。一方、昭和59年より青森県下北半島の関根浜に放射性廃液処理設備をもたせた新定係港(図4参照)の建設を開始し、昭和63年「むつ」は大湊港から関根浜港に回航され、同港において原子炉容器蓋開放点検、船体点検、起動前機能試験、岸壁係留状態での原子炉出力約20%以下の低出力での出力上昇試験を順次実施した。引続き洋上における出力上昇試験及び海上試運転を実施し、「むつ」原子炉及び船舶としての「むつ」の機能及び性能が確認され、その結果平成3年2月14日、使用前検査合格証、船舶検査証書が交付され、「むつ」は我が国の技術で設計・建造された初の原子力船として竣工した。
3.出力上昇試験・海上試運転
 平成2年度の3月から12月にかけて行われた出力上昇試験は、原子炉出力が20%までは港岸壁で実施し、それ以上の高出力では西太平洋で4回の洋上試験を実施した。海上試運転は出力上昇試験とともに実施した。
 出力上昇試験では、主として、ゼロ出力から定格出力までにおける、遮蔽改修および安全性総点検に関する安全性確認を含む原子炉の機能・性能、すなわち、炉物理特性、遮蔽特性、定常運転特性、負荷追従特性などの確認試験を実施した。また、実験航海に備え、操船操舵に伴う原子炉および船体への影響を測定した。
 海上試運転では、主として、操舵操船の性能、すなわち、最高速力、旋回運動、前後進切換(急停船までの距離・時間)、惰力特性、低速舵効き特性などの確認試験を実施した。また効率よく試運転を行うため、我が国で初めて、海上試運転において人工衛星による全地球測位法GPSを適用した。
 出力上昇試験・海上試運転の結果、平成3年2月14日、「原子炉等規制法」に基づく使用前検査合格証、「船舶安全法」に基づく船舶検査証書が交付され、「むつ」は我が国の技術で初めて設計建造された原子力船(用途:原子動力実験船)となった。
4.実験航海
 実験航海では、遠洋航海を行うとともに、各種の操船操舵を行う測定実験を行った。一次航海では、まず基準となるデータ取得のため、日本の南方の静穏海域において測定実験をした。二次航海では、ハワイ南方まで航海し、運転員等への影響を含む測定実験をした。三次航海では、主として赤道付近の高温海域(最高海水温32度)で測定実験をした。四次航海では、主として冬季の北洋荒海海域(最大波高約11m、最大傾斜約30度を)で測定実験をした。
5.「むつ」の解役
 実験航海の後、平成4年4月1日に「むつ」の解役計画を策定し、全工程を3段階に区分して行うこととした。第1段階の燃料体等の取出し作業は4年9月から5年11月に実施した。第2段階の原子炉補機室内機器の撤去作業は5年11月から6年12月に実施した。第3段階の原子炉室一括撤去工事は7年2月から6月に実施した。「むつ」の船首及び船尾部は海洋科学技術センター(当時)に譲渡され、同センターで大型海洋観測船「みらい」として改造された。また、一括撤去された原子炉室はむつ科学技術館で一般公開されている。「むつ」から取出された燃料体は、サイクル機構(現日本原子力研究開発機構核燃料サイクル工学研究所)において再処理することとし、平成13年6月から11月にかけて、原研東海研(現日本原子力研究開発機構原子力科学研究所)に輸送され、平成17年3月現在、東海再処理工場の受入れ条件に適合するよう、解体・再組み立て作業を実施している。
6.得られた成果
 1)実験航海に先立つ約25年前に、我が国として初めての国産原子力船の設計を行ったが、遮蔽設計に不備があったものの、船舶推進用動力源としての原子炉が設計どおりであったことは、設計当時の国産技術の確かさを示す。なお、遮蔽改修および安全性総点検の成果も確認できた。
 2)出力上昇試験および実験航海の各航海の原子炉運転・運航の実績を表2に示す。ウラン235約4.2kgを燃焼し、合計約82,000km(地球2周以上)を原子動力で航行した。
 3)設計・建造、種々の海象条件下での航海などによって、今後の原子力船の設計・運航に有益なデータを取得できた。原子動力で出入港も経験した。これらの経験は「むつ」が十分舶用炉としての役割を果たしたことを示している。
 4)放射性廃液処理施設を付設した原子力船母港(定係港;図4参照)の建設経験および運用経験ができた。
 5)原子力船に関する法体系の整備に寄与し、その運用経験ができた。
 6)原子力船および定係港の建造建設・運航運用に際しては、地元民の理解を得ることの重要性を認識できた。
<図/表>
表1−1 「むつ」開発の主要経緯(1/3)
表1−1  「むつ」開発の主要経緯(1/3)
表1−2 「むつ」開発の主要経緯(2/3)
表1−2  「むつ」開発の主要経緯(2/3)
表1−3 「むつ」開発の主要経緯(3/3)
表1−3  「むつ」開発の主要経緯(3/3)
表2 出力上昇試験および実験航海の原子炉運転・運航の実績
表2  出力上昇試験および実験航海の原子炉運転・運航の実績
図1 原子力船「むつ」による研究開発スケジュール
図1  原子力船「むつ」による研究開発スケジュール
図2 船舶の動力源としての原子力船の特徴と用途
図2  船舶の動力源としての原子力船の特徴と用途
図3 原子力船「むつ」の配置説明図
図3  原子力船「むつ」の配置説明図
図4 原子力船「むつ」の母港、関根浜港
図4  原子力船「むつ」の母港、関根浜港

<関連タイトル>
原子力船「むつ」の概要 (07-04-01-02)
原子力船「むつ」の安全性 (07-04-02-01)
原子力船「むつ」実験航海の成果 (07-04-02-02)
原子力船「むつ」の解役と後利用計画 (07-04-03-01)
原子力船の法体系 (11-02-02-04)

<参考文献>
(1) 日本原子力研究所原子力船部門(編):原子力船「むつ」の軌跡−研究開発の現状と今後の展開−、原子力工業、Vol.38,No.4(1992)
(2) 日本原子力研究所:原子力船「むつ」開発のあゆみ、平成4年2月
(3) 日本原子力研究所:原子力船「むつ」の成果、平成4年2月
(4) 日本原子力研究所:原子力船研究開発の現状1992、平成4年2月
(5) 日本原子力研究所:原子力船「むつ」の解役の概要と安全性、平成4年3月
(6) 日本原子力研究所:原子力船研究開発の現状1993、平成5年3月
(7) 日本原子力研究所:原子力船「むつ」の成果<補遺>、平成5年3月
(8) 日本原子力研究所:日本原子力研究所史(日本原子力研究所史245-248を要約。文責:落合)、平成17年3月
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